よく聞け、いいか、ここをローマ帝国とする! 作:とくめいのネロ
知らんのか?
前説が始まる。
帝都ペンドラゴンの夜空を埋める空中戦艦『グランド・ローマ』。
そして圧倒的力のKMFの部隊が帝都を蹂躙する。
サザーランド隊を瞬く間に無力化し、防衛網を完膚なきまでに叩き潰す我が軍の凄まじい咆哮が、はるか上空から轟いていた。
近衛兵どもは逃げ惑い、貴族どもは腰を抜かして怯えていることだろう。
だが——ふふん、甘いぞ凡夫ども!
帝都の制圧は、余にとっては当然の成果であり、同時に”巨大な陽動”に過ぎんのだ!
ルキウスやマルクスには「帝都を血を流さずに制圧せよ」と命じてある。
我が優秀な配下たちは、余の美学通りに華々しく派手に暴れてくれているはずだ。帝都中の視線と戦力が上空の「真紅の軍団」に釘付けになっているこの瞬間にこそ、余の真の目的が果たされる。
……余は一人、真紅のドレスを翻し、混乱に陥る皇城の敷地内を生身で歩いていた。
戦火の光と警報音が遠く聞こえる中、余の足取りに迷いはない。
目指すは、皇帝シャルルが座す豪華絢爛な玉座の間でもなければ、重臣たちの寝室がある豪奢な本殿でもない。
皇城の北端——近未来的な高層建築が立ち並ぶ帝都ペンドラゴンにおいて、不自然なほどにポツンと取り残された、古びた寂れた神殿。
誰もが「なぜこんな古い建造物が壊されずに残っているのか」と首をかしげ、使い道すら与えられずに放置されてきた謎の遺構だ。
余は幼少の刻(とき)から、この建造物の異質な存在感を知っていた。
なぜ、ここにこれがあるのか。
答えは、あの灼熱の地・ジルクスタンでシャムナと深夜に交わした密談の中にあった。
ジルクスタンの大監獄地下に眠る『アラムの門』。
Cの世界へと繋がるというあの古代遺跡の構造、そして空間に満ちていた異質な気配……それらは、このペンドラゴンの打ち捨てられた神殿が纏う空気と、驚くほど酷似していたのだ。
皇帝特権による世界に与えられた知識など関係ない。
これは、ローマブリタニアの皇帝たる余の直感! 王としての理だ!
……シャルル・ジ・ブリタニアが、単なる軍事国家の君主ではなく「ギアス」という異能の深淵に関わる者であると、余は確信していた。
そして何より——
ドックン……! ドックン……!
余の『両目』が、激しく疼いていた。
余を至高の存在たらしめる力の源、朱色の鳥の紋様が両瞳で燃えるように輝き、叫んでいた。
——この地には、この皇帝特権(ギアス)の源たる地に繋がるなにかがあると。
静まり返る神殿の境内へと足を踏み入れる。
中は風化が進み、静寂と埃に包まれたただの空洞に見えた。
——その時だ。
ヒュッ……!
背後、入口の死角となった柱の影から、気配もなく滑り出してきた影があった。
全身を黒い装束で包んだ男。人間離れした無音の跳躍、毒を塗った漆黒の短剣——、その凶刃が余の身体を狙う。
だが、余を誰だと思っている!
「甘いわ、痴れ者が!」
振り返りもせず、余は左足のヒールを軸に一蹴り。
余の華奢な脚から放たれた目にも留まらぬ後ろ回し蹴りが、暗殺者の胸板を正確に捉えた。
「ガハッ!?」と蛙が潰れたような声を上げ、刺客の体は神殿の石柱へと叩きつけられ、短剣を手放してその場に崩れ落ちた。
命までは奪っておらん。脱力させて一瞬で無力化したまでだ。
「フン、余の散策を邪魔するなど、不敬であるぞ。……ほう?」
刺客を倒した瞬間、余の『両目のギアス』がさらに激しく鼓動した。
朱色の光が神殿奥の崩れかけた石壁を照らし出すと、空間そのものが歪み、ゴゴゴ……と地鳴りのような音を立てて、隠されていた漆黒の地下階段がその姿を現したのだ。
「ふははは! 余の力に共鳴して扉が開いたか! やはり余はどこまでも劇的(ドラマチック)な主役よ!」
余は躊躇することなく、真紅のドレスの裾を軽く持ち上げ、闇へと続く地下階段を下り始めた。
ひんやりとした冷気が肌を刺す。
どれほど深く下りただろうか。地上で響いていたKMFの駆動音や爆発音は完全に途絶え、静寂だけが支配する地下深くへ到達した。
そこには——圧倒されるほど巨大な、異彩を放つ「門」が聳え立っていた。
門の表面には見たこともない古代文字と禍々しい彫刻が刻まれ、全体が怪しく、禍々しい「赤」の光を放って明滅している。
神聖にして不可侵の気配。
だが、余の視線は門の反対側……巨大な空間の奥に設置された「もう一つの階段」へと注がれた。
位置関係からして、地上でシャルルが居住する後殿(後宮)へと直結している階段に間違いない。
「なるほど……シャルルめ、ここでコソコソと何やら企んでいたというわけか」
余は不敵な笑みを浮かべ、両目の力を燦然と輝かせた。
門から漏れ出る赤き異能の光が、余の金髪と真紅のドレスを鮮やかに照らし出す。
未知の領域、世界を揺るがす禁忌の扉。凡夫であれば恐怖に足がすくむ場面であろう。
だが、余は——ネロだ!
「余を誘うか、異界の門よ。……よかろう! 余の威光にひれ伏す準備をしておくが良い!」
余は胸を張り、ドヤ顔で両手をその巨大な赤き扉へと押し当てた。
ギィィィ……という重厚な音とともに、世界を分かつ『扉』が、いまゆっくりと開き始めた。
○
扉をくぐり抜けた瞬間、静寂な地下空間の空気は一変した。
視界を埋め尽くしたのは、地平線の彼方まで果てしなく広がる黄金色の黄昏。その果てしない空の只中に、古代ローマの遺構を思わせる巨大な石造りの遺跡群が、まるで重力を無視したかのように静かに浮遊していた。
ネロは足を止め、思わず振り返る。
つい先ほどまで背後にあったはずの地下の扉も、石造りの壁も、跡形もなく消え去っていた。
「ほう……なるほどな。これがシャムナの言っていた『Cの世界』というやつか。空間そのものを飛び越えるとは、なかなか劇的な演出ではないか」
驚きに目を見張ることもなく、ネロは己の金髪を指先で軽く払うと、眼前にそびえる天へと続く巨大な大理石の階段を見上げた。
何百段、いや千段近くあろうかという果てしない長階。だが、至高の王たる足取りに迷いも衰えもない。真紅のドレスの裾を優雅にはためかせ、ネロは一歩一歩、確かな踏み込みで階段を上り始めた。
階段を上りきり、神殿の最奥へと足を踏み入れたネロの視界に、この場には異質な、否、ある意味ではふさわしき者たちの姿が飛び込んできた。
中央に佇むのは、神聖ブリタニア帝国皇帝ーーシャルル・ジ・ブリタニア。
その傍らには、さらにシャルルの護衛として、ブリタニア帝国が誇るナイトオブラウンズ、さらにその中でも最強の騎士『ナイトオブワン』ビスマルク・ヴァルトシュタインが重厚な圧を放って立っていた。
「久しいな、父上……いや、シャルルよ。こんな演出家が感涙する大舞台でコソコソとしているとは、なんともったいない。一体何のごっこ遊びであるか?」
ネロは不敵な笑みを浮かべ、両目のギアスを燦然と輝かせながら言い放った。
ビスマルクの威圧にも欠片ほどの揺らぎも見せない。
シャルルは厳格な面持ちのまま、ネロを見下ろし、地響きのような重厚な声を開いた。
「久しいな、ネロよ。……貴様が出来のいい玩具供を引き連れ、ブリタニアが喉元に刃を突き立てたかと思えば、迷わずここへ至るとはな。貴様がこれほどまでに『その力』を読み違えておらんとは、ワシも見誤っておったか」
「ふふん、当然だ! 余は至高の存在、ネロであるからな! 凡夫の貴様に余の真価が測れるはずもなかろう!……して、シャルルよ。貴様はこの泥臭くも美しい世界を捨て、このような虚無の空で何をしている? 一国の皇帝たる者が、正々堂々と世界を統べずして何が王か!」
ネロは宝剣『原初の火』の柄に手を当て、堂々と自らの美学を語りかける。
「よいか! 皇帝とは、民の欲望と情熱をすべて背負い、圧倒的な美と武をもって世界を魅了する絶対の主役! 人々を導き、その愛と喝采を一身に受けて輝く太陽のことだ! 陰でコソコソと世界をこねくり回すなど、皇帝の面汚しもいいところだぞ!」
シャルルはネロの言葉を鼻で笑い捨てた。
「ふん……愚かな。人間とは弱き存在だ。弱者は己を偽り、嘘をつき、争いを生む。この世界は嘘で満ち満ちている! 争い、奪い合い、傷つけ合う……それが『弱さ』の産物だ。力なき者が騙し合いを繰り広げる世界など、無価値な泥沼に過ぎん!」
シャルルは両腕を広げ、圧倒的な威圧感とともに自らの意思を叩きつける。
「強さこそが真理! 強者のみが世界を形作り、弱者を従わせる! 争いの根本である『人間の嘘』を打ち砕くことこそが、真の平穏をもたらす唯一の道なのだ!」
「……はっ、反吐が出るわ」
ネロは吐き捨てるようにシャルルを睨みつけた。
「弱さだと? 嘘だと? くだらん! 人が迷い、偽り、それでも何かを求めて蠢くからこそ、ドラマが生まれ、至高の美が宿るのだ! 弱さを排除し、争いを恐れて逃げ込むなど……貴様が語っておるのは『強さ』ではない! 単なる恐怖からの逃避だ!」
ネロの容赦のない断罪。
しかし、シャルルは腹の底から響くような太い笑い声を上げた。
「ハハハハハ! 痛快、痛快なりネロ!」
「……何が可笑しい、シャルルよ」
ネロは不快そうに眉をひそめ、訝しげにシャルルを見つめる。
笑いを収めると、どこか満足げな、だが冷徹な瞳でネロを見つめ返した。
「貴様は我が自慢の娘よ、ネロ。
誰1人味方のいない、ブリタニアの僻地にその身を置いてなお、我がブリタニアを欺き、富を携え、民衆を巻き込み、国を動かし、圧倒的な武力を用い、千の兵器を率いて我が帝都を蹂躙している、その圧巻の腕前……そして自我を一切曲げぬその傲慢なまでの強さ。それこそがワシが築き上げた『神聖ブリタニア帝国』そのものの体現ではないか」
シャルルは一歩踏み出し、重厚な声を響かせる。
「オリンポスでの貴様の動き、ワシが見抜いておらぬとでも思ったか? シュナイゼルや、オーガスタ(ユーロブリタニア大公)は欺けても、ワシを欺けてはおらん!
道化を演じながらその実、この反逆を企てていたこと、中東で小細工をしていることも、戦力を整えておること、このワシは把握しておったのだ」
広げられたシャルルの手に、力強い誇望が宿る。
「我が娘ネロよ。貴様がいつその牙を研ぎ澄まし、爪を剥き出しにしてこのブリタニアの元へ戻るか……ワシは心底待っておったぞ」
「……ちっ」
ネロはあからさまにイラッとした表情を浮かべ、真紅の靴底で荒々しく石畳を鳴らした。完全に掌の上で躍らされていたかのような物言いは、至高の王たるネロの自尊心を大いに逆撫でした。
「いい気はせんな……! くだらん。すべて知っていたのであれば、なぜ余を放っておいた!? 芽のうちに摘み取ろうとすることすら、不発に終わらせてやるつもりであったが、最初から放置とは……どういうつもりだ、応えよ! シャルル!」
ネロの鋭い詰問に対し、シャルルは微動だにせず、当然の真理であるかのように吐き捨てた。
「言ったはずだ、ネロ! 『強さこそが正義』であるとな! 己の力で知謀を巡らせ、圧倒的な強さを身につけ、このワシに牙を剥いて向かってくる……それこそが我が望む強者の姿! 摘み取る理由などどこにあろうか!」
「ハッ! 呆れた言い草だな!」
ネロは不快感を隠そうともせず、鼻で笑い飛ばした。
「ならば問うぞ、シャルル! いまや余の『ローマ』によって、貴様の誇るブリタニア帝都ペンドラゴンは完全なる危機に瀕しておる! 防衛網は崩壊し、都は既に、ほとんどが余の足元に屈したのだぞ!? 皇帝である貴様が、己の都が蹂躙されるのを黙って見過ごして良いのか!?」
「俗事よ」
シャルルは切って捨てた。一瞬の迷いすらなく、冷酷なまでに言い放つ。
「帝都の崩壊も、国家の興亡も、すべては些末な俗事に過ぎん。我が悲願
が成就すれば、そのような古き遺物など……すべて過去の幻影となるのだからな」
「悲願、だと?」
ネロの疑念に、待ってたと言わんばかりに、シャルルは口角を上げる。
「我らが目指すのは『ラグナレクの接続』——神を殺し、人と人との精神を一つに繋ぎ合わせる儀式。これにより、世界からすべての『嘘』が消え去る。誰もが互いを隠し事なく理解し合える、平穏なる『神のいない世界』が訪れるのだ」
「貴様、急に何を……」
困惑するネロに、シャルル・ジ・ブリタニアは怒るでもなく、ただ哀れむかのように、はるか遠くを見つめる瞳となった。
黄昏の空に浮かぶ無数の古代遺跡。雲もなく、風も吹かず、刻が永遠に停止したかのような『Cの世界』の静寂の中、シャルルはゆっくりと両腕を広げた。その巨大な体躯が投げかける影が、ネロの足元を深く覆う。
「人は、己を護るために嘘をつく。他人を欺き、己を偽り、やがてその嘘を守るために新たな嘘を重ね、傷つけ合い、争いを生む。それがこの世界の理だ」
シャルルは一歩踏み出し、天を仰いだ。その声は地底から響く地鳴りのように重厚で、空間そのものを震わせる。
「仮面を被り、名を偽り、嘘の『正義』や『理想』を掲げて人を踊らせる。だが……その結果どうなる。嘘はさらなる嘘を生み、憎悪の連鎖を編み上げ、世界を絶え間ない悲劇へと追いやる! 争いとは、人間が『己と他者を分かつ壁(嘘)』を持ち続ける限り、絶対に終わらぬ不治の病なのだ!」
シャルルが太い腕を振り払うと、空間にゆらりと巨大な波紋が広がった。
黄昏の空の奥底に、巨大な『集合無意識』の脈動——人類全体の記憶と精神が溶け合う黄金の光の渦が、不気味に、しかし神々しく蠢き始める。周囲の浮遊遺跡がその絶対的なエネルギーに呼応して微かに鳴動した。
「だからこその『ラグナレクの接続』——神を殺し、人と人との精神を一つに繋ぎ合わせ、個という孤独な殻を打ち破り、すべての精神をこの集合無意識へと溶かし合わせる!」
シャルルの瞳に、狂信的とも言える凄絶な光が宿る。
「これにより、世界からすべての『嘘』が消え去る! 隠し事も、欺瞞も、仮面も届かぬ場所で、誰もが互いを偽りなく理解し合えるのだ! 過去も、現在も、未来すらも一つに溶け合い、悲劇も流血も二度と生まれぬ……平穏なる『神のいない世界』が訪れるのだ!!」
広大なCの世界の果てまで届かんばかりの熱量で語り終えたシャルルは、静かに視線をネロへと戻した。
「すべてが一つになる世界。これこそが、争いに満ちたこの惨めな世界への唯一の救済」
シャルルはネロへ向けて手を差し伸べた。
「ネロよ、我が方へつけ。貴様のその圧倒的な強さと異能、ラグナレクの成就のために使え。……案ずることはない。ラグナレクが繋がり、嘘のない世界が完成した暁には、この世界を貴様の好きなようにするがいい。貴様が望む『ローマ』とやらを築くことも、ワシが赦そう」
破格の誘い。
世界を統べる皇帝からの、事実上の共闘と世界譲渡の提案であった。
静寂が神殿を包み込む。
ビスマルクが、ネロの答えを息を呑んで見守る。
——次の瞬間。
「……ふはっ」
ネロの口から、小さな笑い声が漏れた。
それは次第に大きくなり、黄昏の空に高く響き渡る高笑いへと変わった。
「ふはははは! くははははははッ!!」
ネロはドヤ顔で腰に手を当て、顎を跳ね上げてシャルルを正面から見据えた。両目のギアスが、朱色の鳥のごとく凶暴なまでに輝く。
「断る!! 愚か者が! 嘘のない世界だと!? 隠し事のない世界だと!?」
ネロは宝剣『原初の火』を鞘から抜き放ち、真っ直ぐにシャルルへと突きつけた。
「そんな何の変化もない、誰もがペラペラの自己主張しかせん退屈な世界……うつくしくないではないか!!!」
「美しくない……だと?」
ネロの言い放った破天荒な断絶に、シャルルは思わず眉をひそめた。世界を覆う「嘘」を暴き、神すら殺そうとする壮大な計画に対し、目の前の少女が出した拒絶の理由——それが「美しくない」という感覚的な一言であったからだ。
「そうだ! うつくしくない!!」
ネロは胸を張り、眩いばかりのドヤ顔で言い切った。
「人は己の内に秘密を持ち、見栄を張り、時に見苦しく惑い、それでも至高の輝きを求めて葛藤するからこそ美しいのだ! 隠し事もなく心が丸裸にされ、全てが平坦に伝わる世界など……まるで味のないスープのようなもの! 変化も絶望も、そして劇的な勝利の喜びすら存在せぬ泥沼の平和など、余の『ローマ』には微塵も必要ない!」
「愚か者が……」
シャルルの太い声が、低く、地響きのように神殿の回廊を揺らした。
「人間が偽り、隠し持つからこそ悲劇が生まれるのだ! 争いが、死が、別れが繰り返される! 貴様が語る美など、その血の海の上に咲く毒花に過ぎん! この愚かしい輪廻を絶つことこそが、真の救済であると何故わからん!!」
「解からぬのは貴様の方だ、シャルル!!」
ネロは一歩も引かず、鋭く宝剣の刃先を突きつけた。
「死や別れを恐れ、悲劇を生まぬために世界のすべてを均一に塗り潰すだと? それは救済ではない! 単なる『生の放棄』だ! 悲劇があるならば、それを己の力と美学で喜劇へと塗り替えて見せるのが……真の王の、真の皇帝の果たすべき義務ではないか!!」
両者の視線が交錯する。
一方は、人間の弱さを否定し、全てを一つに繋ぐことで完璧な平穏を求めようとする絶対者。
一方は、人間の醜さも過ちも抱えたまま、圧倒的な美と情熱で世界を包み込もうとする絶対者。
相容れぬ理(ことわり)。交わることのない互いの「皇帝」としての誇りが、黄昏の空に目に見えるほどの火花を散らす。
静寂が、神殿を重く支配した。
シャルルはネロをじっと見つめていたが、やがてその瞳から感情の光が完全に消え失せ、冷徹な無関心へと変わっていった。
「よかろう……交渉は決裂であるか、所詮、貴様もまたこの嘘の世界にとらわれた只人であったということか」
深々と溜め息をついたシャルルは、静かに背を向けた。
「惜しいな、ネロ。貴様の強さ、貴様の輝き……嘘のない世界の礎と成すには最高の逸材であったが、理を解さぬのであれば致し方ない」
シャルルは一歩、二歩と歩みを進めながら、その背後で重厚な声を響かせた。
「ビスマルク」
「はっ」
シャルルの呼びかけに応じ、それまで静寂の石像のごとく控えていた男——ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインが重々しく前に進み出た。腰に刺した巨大な剣に手をかけ、その身から放たれるのは、数多の修羅場を潜り抜けてきた人類最強の騎士としての圧倒的な威圧感。
「我が娘、ネロをワシの前に引き立てよ。……手足を折っても構わん、片目さえ無事であればそれでいい」
「イエス・ユア・マジェスティ!」
ビスマルクは深々と頭を下げると、ゆっくりとネロへと向き直った。その左目を覆う封印の下で、異能の気配が蠢く。
「ネロ殿下……いや、愚かなる叛逆者よ。皇帝陛下の御心を受け入れぬ愚かさ、その身をもって知るが良い」
チャリ……と、ビスマルクが剣を抜く金属音が、静まり返るCの世界に冷たく響き渡る。
「ふははは! 言ってくれるではないか!」
迫り来る人類最強の騎士を前にしても、ネロは怯むどころか、爛々と両目のギアスを輝かせ、不敵な笑みを深めた。
「余を力で屈服させようとは良い度胸だ! 愚か者の一の騎士よ、余の至高のローマの前に、己の無力を知るが良い!!」
黄昏の神殿にて、帝国の叛逆者と最強の騎士による、世界を賭けた死闘の火蓋が切って落とされた。
誤字報告誠に助かります。ありがとうございます。