もし過去に戻れるとしたらどの時代に行きたい?
考古学を専門にしているとそんな事を聞かれることがままある。あの事件に立ち会いたい。あの人物と話をしてみたい。そんな答えを期待されているのだろうが私の答えは決まっている。
考古学という学問の誕生に立ち会いたい。
出会う物全てが新発見の未知に溢れた時代、まっさらなパズルを衝動が許すままに埋めていく事を想像しない日はなかったと言っていい。
今の研究に不満があるわけではない。僅かな文献から歴史に開いた穴を埋めるのは素晴らしい体験なのは間違いない。ただそれでもこう思ってしまう。「重箱の隅を突くだけでこれほど楽しい学問を、一から始められたらどれほどの喜びがあるのか」と。
だから私は未知の世界(ゲーム)に目を向けた。
作られたばかりでありながら歴史が存在するファンタジーの世界ならもしかしたら…と。
VRゲームという分野で精巧に作られた全てが未知の図書館に足を運んだ時は気分が高揚したものだ。しかし現実は(現実と言っていいものかは謎だが)甘くなかった。辞書のような厚さの書籍に僅か数ページのテキスト、それもゲーム的な情報を記したものでしかなく、言ってしまえば期待に足るものではなかったのだ。いくつかのゲームを体験し、興味を惹くものは確かにあった。それでも、それでもこの渇望を満たすには…
もういいかと諦めに入った頃、妻が楽しそうに自分のやっているゲームの話をしてくれた。曰く、「なりたい自分で思う存分暴れられるのだ」と「まったく新しい仲間たちと協力して敵を吹き飛ばすのは素晴らしい快感なのだ」と。あまりに楽しそうに話すものだから興味が湧いてしまった。そうだ、純粋にゲームそのものに打ち込んだことはないかもしれない。だったらこれを最後に思いっきり楽しんでみようじゃないか。
年甲斐もない話だがきっと大丈夫。愛する妻と一緒なら。
そうして「シャングリラ・フロンティア」の世界に足を踏み入れた。「せっかくだから正反対の自分にならないと!大丈夫、私が筋肉で守ってあげるから」なんて口車に乗せられてかわいらしい少女の姿で。
これは確かにすごい。凄まじく作り込まれた感触を確かめながらチュートリアルを進め、自分と同じようにまったく違う姿の妻に呆然とし、ゲームを楽しもうと決めたはずなのに世界の質感に期待せずにはいられなくなり足は自然と図書館へ。
これは本だ。インクの匂い、指に残る紙のざらつき、本が、歴史がある。
そして私(キョージュ)は解き明かすべき世界に出会った。
ここなら、この世界なら、一から歴史を紐解く事が出来る。これは確信に近い。となれば人を集めねばならない。学問にはマンパワーがいる。生徒達にもゲームに明るいものはいるだろう。いくつものゲームを経て情報を集めることに喜びを覚えるプレイヤーも幾らでもいる事は知っている。
素晴らしきかな未知との遭遇よ。私は君達を解き明かしてみせる。この歳になって若き日の夢に想いを馳せるなど大人気ない事だが構わない。ここでは私は魔法少女なのだから。
一緒にゲームをすると約束した妻に謝りながらもやりたい事ができたと告げれば嬉しそうに微笑んでくれる。
私の幸運の女神は楽しそうに筋肉を輝かせてポーズを決めていた。