洞窟カフェの夜。
奥の水辺に小さな姿が見える。
ちゃぷ…。
…。
「けろ。」
…カエルさん。
水辺の石に座ってる。
水面を。
じー…。
…。
たまに。
ぴょん。
別の石へ。
その様子を見ながら、あなたはコーヒーを手に取る。
ギデオンも。
カエルさんを眺めている。
その間にも。
ぴょん。
また。
隣の石へ。
「……新しいところに行くのが怖いって」
ギデオンがぽつり。
「知らないからだけじゃないのかも」
カップを持ち上げる。
けれど。
飲まずに、また置いた。
「ぼくもここに座ってもいいかなって」
「もう誰かが座っているところに」
「入っていくことだから……。」
少し黙る。
「綺麗な石を見ていると」
「ぼく、たまに思う…。」
「みんなみたいに輝いていないのに。」
「隣に並んでもいいのかなって。」
自分の手を。
静かに見つめる。
「資格って言葉。」
「何かができるって。」
「認めてもらう言葉でもあるけど…。」
「同時に」
少し間
「持ってないと。」
「だめって、言われてるみたいで…」
水面を見る。
「これをする資格があるのかな。」
「こんなこと。」
「望んでいいのかな。」
「ここにいてもいいのかな……。」
……。
「ぼくは」
「こっちの方が苦しいかも…」
その時。
ぴょん。
…ぺた。
「けろ。」
「…この子なら」
「たぶん」
「特別な資格なんて持ってないのに」
カエルさんは。
こっちの石へ。
ぴょん。
あっちのコーヒーカップへ。
ぴょん。
それから。
床を転がってきた毛糸玉へ。
ぴょん。
「……ふふ。」
「気になったところに。」
「どんどん乗り換えるね。」
「けろ。」
「今日のカエルさん。」
「誰かに行先を教えるんじゃなくて。」
「『こっちはどうかな』」
「って」
「自分の席を探しているみたい。」
ぴょん。
…ぽす。
「…あ」
ギデオンが目を丸くする。
「乗った…」
「ちょこん、って」
カエルさんは。
ギデオンのしっぽのうえ。
「けろ。」
「…軽いね。」
少しだけ。
しっぽが揺れる。
「でも。」
「ちゃんといる感じする。」
「けろ。」
ギデオンは。
自分のしっぽを見る。
「…落ちない。」
「むしろ。」
「楽しんでるみたい。」
その向こうで。
クラゲガヴィアが。
こちらも見ている。
「…ぷ?」
もち…。
…。
ギデオンが少し身構える。
「…あなたまで乗ろうとしないでね。」
「君まで来たら…。」
「ボクのしっぽ。」
「たぶん沈むから。」
もち。
「……。」
ギデオンは。
しっぽに乗ったカエルさんを見る。
「…この子が」
「ここに座るのも」
「たぶん。」
「資格はいらない。」
少しして。
あなたの椅子を見る。
「あなたが。」
「ここに来るのにも。」
「いらないよ。」
椅子の横には。
少しだけ土をかぶった毛糸玉。
洞窟の床を。
ずいぶん旅してきたみたい。
「あ」
「毛糸玉…。」
その時。
「けろ。」
ぴょん。
カエルさんが。
ギデオンのしっぽから。
毛糸玉に移る。
ギデオンは。
少しだけ洞窟の外を見る。
「…資格って」
「これがないと、そっちへ行っちゃだめ。」
「じゃなくて。」
少し考える。
「ここまで来たら…。」
「あっちも見えるよって。」
「道を増やしてくれるものだったら。」
「すこしだけ」
「ワクワクするね…」
カエルさんが。
砂の分かれ道へ。
「けろ。」
ぴょん。
右の道へ。
ぴょん。
戻ってきて。
今度は左へ。
「…ふふ」
「やっぱり」
「こういう資格がいい。」
「カエルさんみたいな資格」
右へ。
左へ。
戻って。
また別のところへ。
「気に入らなかったら」
「戻ってきていい…」
「また。」
「別の道へ乗り換えてもいい…」
ギデオンが。
少しだけ笑う。
「それくらいなら…」
「怖くないかも。」
その時。
クラゲガヴィアが。
右にも。
左にも行かず。
分かれ道の真ん中に。
もち。
と座った。
「……あ。」
「それもありなんだね」
「……ぷ。」
クラゲガヴィアは真ん中で。
もちもち、としている。
「…ふふ」
ギデオンは。
しばらく二匹を眺める。
「…資格も。」
「こういうものだったらいいな」
「門番じゃなくて…」
少し間。
「案内係。」
「こっちにも」
「席、空いてるよって。」
「教えてくれるもの」
「…ぼくなら。」
「その方が。」
「少し先まで歩いてみられそう。」
少しして。
ぴょん。
カエルさんがまた乗り換える。
今度は。
洞窟の外へ続く道。
ギデオンも。
釣られて外を見る。
夜の風が。
洞窟の中まで入り込んで。
頬を。
そっと撫でる。
手元のコーヒーは。
いつの間にか。
飲みやすい温度になっていた。
あの風の向こう側に。
細い夜道が続いている。
ずっと。
そこにあったはずの道。
ギデオンは。
しばらくそれを見ている。
……。
今は。
ほんのすこしだけ。
行ってもいい道に見えた。