勇者パーティーに憧れてこっそり後を付けたらなぜか魔王にラストアタックを決めてしまい「魔王殺し」として魔王軍のナンバー2から言い寄られているんですが 作:雑巾とナマステ
『――っ! ――――っ!!』
俺は誰かの腕に抱かれるような、心地よい感覚に身を預ける。
ぼんやりと彼らの声が遠のいていくのが聞こえる。
「…………ぁ」
この声、ハカマダのだ。良かった、石化は解けたのか。
これで勇者は生き残って、きっとこれからも彼と仲間たちによる英雄譚は続く。
世界の敵はなにも魔王だけってわけじゃない。国民に圧政を敷く悪辣国王から路地裏のカツアゲ犯まで。この世界から悪は無くならない。
それでも世界は大丈夫。なぜなら勇者は生き続けるから。
だからその代わりに、俺は死ぬ。
魔族の血は人間に有害だ。低級魔族程度の血なら皮膚が焼ける程度だが、上級魔族なら立派な殺人級の毒といえる。
それが最上位種の魔人で加えて魔王とくれば、もはや生き残る可能性はない。
…………決して、満足いく人生じゃなかった。
でも、最後に自慢できるエピソードが出来て良かったな。
勇者を復活させるために死ぬって、なんか最高にクールじゃないか。
もしハカマダが魔王討伐記念の取材で「彼のおかげで」なんて言ってくれたら、もしかして吟遊詩人の歌の登場人物に入れて貰えるかも。
…………………………。
「…………かあさん」
誤魔化していた思いが、いよいよまろび出そうになる。
その時だった。
「――すぐに会えるわ」
どこか素っ気ない声を、ギリギリ残っていた聴覚がかろうじて拾う。
そういえば身体が死んでもちょっとの間は耳が聞こえてる、なんてのを本で読んだことあるような気がする。
なんて、そんな場違いなことを思いながら、俺の意識はそこで途切――
◇ ◇ ◇
「おいガキテメェっ! 人様の手柄横取り勝手に取ってんじゃねえ!!」
どこからともなく現れた
石化中も意識はあったし眼も見えていたので何が起こったのかは分かっている。
――少年が魔王を殺した。
ハカマダ達勇者パーティーが編成された最初の目的にして最後の目標である魔王は、ラストアタックのみとはいえ、彼らではなくあの少年によって殺されたわけだ。
屈辱だ。
あんな見るからに弱っちそうな子供にあっさりとどめを許して、魔王があんなに弱いとは思わなかった。
問題は事前情報で術者が死んでも効果が継続する魔王の『メデューサの眼』だったが、それは少年が魔王の血を浴びたと同時に段階的に解けていった。
事前情報に間違いはない。ということはつまり、あの少年が『そう願った』ということだろう。
魔王を殺したものに授けられる、願いの権限を使って。
余計だ。あの子供はあまりに余計なことをし過ぎてる。
効果が継続するとはいえ、しばらく戻らなければ中央都市に救援を寄こすように話はつけてある。呪術系の専門家さえいれば数日で解呪できる。一生あのままってわけはない。
ハカマダに用があったのは、『魔王を殺した者は一つ願いをかなえられる』という討伐報酬のほうだ。
使い道はただ一つ。
「じゃあこれから先、俺はどうやって元の世界に帰ればいいんだよ……っ! それをアテにしてやって来たんだぞ!!」
思わず声を荒げると、
ああ、鬱陶しい。
元の世界、具体的には太陽系第三惑星のユーラシア大陸、その南部に位置する日本国の首都、東京都新宿区。
ハカマダはいわゆるこの世界に
本名は袴田轟助《ハカマダゴースケ》。
トラックに轢かれたとかいうのではなく、アホの女神が「この世界を救えるのは貴方しかいません」とかアホな理由で、チート級の能力を与えたうえでハカマダをこの世界にぶち込んだのだ。
こんな世界もうゴメンだった。
いくら金を使ってもメシはまずいしベッドも硬いし、なによりバカばっかだ。
エレノアやマクベスの他にも隣国の女王とか、ダンジョン攻略で立ち寄った街一番のご令嬢とか、顔が良くて色々高スペックな女は近くに居るが、根本の考え方がバカなので話にならない。
この世界の基本ルールは弱肉強食だ。腕っぷしの強さこそが尊ばれる。そこに男も女も関係ない。もうバカっぽい。
君たちに分かるだろうか。
読んで字の如く寝首を搔きに来た女から、数分後ちょっと血が滴るナイフ片手に愛の告白を受ける恐怖が。
ムリだ。ムリに決ってる。ハカマダは基本的に純愛らぶらぶモノが好きなので、ヤンデレとか地雷系とか完全に守備範囲外なのだった。
「はあ……」
しかしそれは置いておくとして、なんにせよ今の問題は別にある。
――元の世界に帰る手段がなくなってしまったのだ。
案外この世界も悪くないしなぁ、なんて感慨はない。切実に帰りたい。
「……畜生あのガキ、せっかく逃げるように言ってやったのに突撃しやがって……」
「は、ハカマダ様、先程からどうしたのですか……?」
「そ、そうよハカマダっ! そんな言葉遣い、似合わ、ないわよ……」
と、まだまだ言い足りない恨み節をこぼすと、エレノアとマクベスが動揺を孕んだ声を上げた。
ふうん。似合わない、ね。
そういう割に、二人とも別に引いてるとか幻滅してるとか言った様子はない。むしろハァハァして頬を赤らめてもっと言って欲しそうにしてる。
「……………………ほんと、あり得ねえ」
「えーとハカマダ様、なにかご不満な点が?」
「ち、ちゃんと言いなさいって! 声が小さいから良く聞こえなかったわよ!」
と何か期待するような目で見てくる二人に、「気にしないでよ」とだけ返しておく。するとなぜかちょっと喜ばれた。なんなんだよ、とハカマダは思う。
この世界の女、みーんなこんな感じだ。
死ぬ気で鍛錬を積んで自信とプライドを丁寧積み上げたうえで、ひねりつぶしてくる男に惚れる、みたいな。そんな性癖ねじ曲がった女しかいない。
むしろ甘々純愛幼馴染モノとかが異常性癖に成り下がる世界だ。
もう元の世界に帰してくれ!
幼馴染同士のいちゃいちゃとか、先輩女子への後輩男子の健気なアピールとか!
もっとそういう、甘酸っぱくてエモい感じのがハカマダは好みだった。
「なあハカマダ! そんなことより、今の魔人族はどうするんだよ!」
スクルドのいつも通りいちいち「!」が付くような話し方に耳を傷めながら、言われた内容を思い出す。
――今の魔人族……あぁそうか、さっきのガキ連れてったやつがいたか。
完全に失念していた。
ハカマダが用があったのは魔王ただ一人。それ以外の魔族は魔王対策に必要な術式に用いる素材集めにすぎない。しかしなんにせよ終わったことだ。
「そうだな、魔人族の方はスクルドに任せるよ。オレはちょっと、女神サマにお伝えしなきゃいけないことが出来たから一刻も早く街の祭壇に戻りたい」
「祭壇に戻りたいだと! あの魔族は‼ あの子供は⁉」
「あのガキ……じゃなくて子供は魔王の血を全身から浴びてしまっていたし、もう助からないよ。残念だけど、仕方ないことじゃないかな」
「ハカマダ、さっきから様子おかしいぞ! お前いつも魔族の打ち漏らしなんかがいたら真っ先に飛びついてただろ! もしかして戦闘飽きたのか!?」
「飽きないよ。ハマりもしないけどね」
日本では自分のことを「サイコパスかも」なんて思っていたが、こっちに来て実際に魔獣相手に「殺す」という行為をして気付いたのは、自分は別に普通ってことだ。
もう慣れたけど。
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「いや、やっぱりオレも行こうか」
「む! そうだ、それがいい!」
ハカマダの参戦宣言にスクルドは城を揺らすような大声を上げた。
――まあ、別にあんなガキに興味はない。興味はないが……。
色々とカオスなこの世界で、一つ分かっているルールがあるとすれば、それは世界に『勇者』に選ばれる人間はたった一人しかいないということだ。
そして逆に、『魔王』もまた必ず一人。
――つまり今、誰かに暫定的に魔王の権利が与えられている可能性が考えられる。
したがって、
誓って、決して興味はないが、
「…………あのガキを殺せば、魔王の権能で願いを叶えられるかもしれない」
絶対ではないが、やる価値はある。こんな場面で殺人を起こしたところで後でなんていくらでも言い訳できる。
なんならこの世界の連中なら「攻撃を回避できなかった側が弱かっただけ」とかぬかしそうまである。
なんて言い訳を考えてみるが、実際のところはシンプルに。
あのバカな子供に八つ当たりするってだけのはなしだ。
閑話休題。途端、アホ女神にこの世界に召喚される直前「これさえあればだいじょうVっ!」と渡されたチートアイテム『聖剣フォルテ』が太陽のように光輝いた。
それを片手に携え、ハカマダは魔人族が逃走していった隠し通路に駆け出した!