二シン合体の魔法少女! 作:ももはね
魔法少女、それは魔獣と戦うことができるチカラを持った特別な存在。
ただの一般人で、男の癖に危険な魔獣から女の子の一人に守ってもらわないと死んでしまう。自分で自分が情けないと、ついさっき今思ったばかりだ。
「──信じるぞ! やれるんだな!?」
「た、多分……」
「っそ、そこは自信持って欲しかったな!? 君のチカラだろ!?」
「だ、だって初めてなんですよ!?」
でも、もしも──その、
横に居る少女を手を握る。強く、強く強く、決して離れないように。
視界の隅で少女が片手で『杖』を握り締めているのが見えた。
「い、いきますよ!」
「ああ!」
刹那──杖の先端が輝いた。
そして、
「……こういう感じね」
<じゃ、じゃあ後は良い感じにお願いします……!>
俺と少女は
+ + + + +
およそ30年ほど前。世界に『魔獣』が現れた。
魔獣のチカラは凄まじく、瞬く間に各国は致命的な損害を受けに受けた。軍隊や警察などの現実的な戦力は魔獣という新種への対抗策とはならなかったのだ。
しかし、そんな危機的状況に現れたのが『魔法少女』である。
魔獣と同じ『魔力』というチカラを持ち、魔力によって超人的な身体能力を発現。そして何より、彼女たちの身に『魔法』が宿った。
魔法とは、魔力を消費して発生する超常現象のこと。
魔法少女たちには、魔法少女ごとに違う固有の魔法が宿っており、今や魔獣への対策は勿論、芸能や産業など様々な分野で魔法少女たちは活躍するようになっていた!
+ + +
日本のとある街、とある住宅街にある家の一室に一人の少女がいた。
彼女は布団の上に座り込み、膝前には様々な物を、脇に鞄を置き、遠出するかのような荷造りをしていた。
その物々の一つを少女は手に取った。
「……魔法の杖」
杖は長さが三十センチほどで、太さは細身のペットボトルほど。先端がぶっくらと膨らみ閉じた蕾のような形状。
少女はそれを鞄へ雑に押し込むと、加えて寝巻きや下着、歯ブラシやハンカチなどなど……をさらに詰め込む。
それから、少女は着替えを始めた。
地味なジーパンに地味なパーカー。当然、どちらも単色でそれぞれ青と灰色だ。さらに帽子を被ると、何処にでも居そうな旅行客の様相となる。
「よし……家出だ」
少女は家出した。
少女はよくあると言えばよくある。そう珍しくない不幸な環境で生まれ育った。
所謂、毒親。シンママ。
一人娘が居ながら平然と彼氏を家に連れ込み、その彼氏も取っ替え引っ替えで回転寿司みたいに姿形に性格も違うのが増えたり減ったりしていた。中には、まだ幼い少女へ欲情する変態もいた。
そんな変態に襲われた時、少女の才能が開花した。
魔法少女である。
恐怖から魔力を暴走させた彼女は、その母の彼氏を殴り頭蓋骨を砕いて病院送りにした。状況が状況だったのでかなり怒られはしたが、情状酌量の余地アリと大事にはならなかったのは魔法少女による犯罪の当たりが強い現代においては数少ない幸運であった。
だが、そんな魔法少女としての才能に目をつけたのが母親である。
魔獣による被害が未だ絶えない現代において、魔法少女による魔獣の討伐には報酬──金が出る。
母親は少女にそれを要求し、しかし失敗した。
それに激怒した母親は少女に体を売れと要求し──ついに家出に至ったのである。
トボトボと行く宛もなく、少女は歩き続けた。
頼れる親戚はいない。仲の良い友人はいない。
一日目の夜、24時間営業のチェーン店で一番安いポテトだけを頼みうつらうつらしながら過ごす。
二日目の夜、昼間の公園でたっぷり昼寝したので歩き続けて夜明けを超えた。
三日目の今日──。
「……死ぬ」
充血した眼球、真っ黒に染まった隈、時々震える指先に今にも倒れそうな足。
それらの原因について端的に言うならば、金がない。
家庭が家庭ゆえに、お小遣いはなく、つい先日高校生になったばかりの彼女ではバイトする余裕もなく、お年玉をくれるような存在もいないので、やはり金がない。
金がないので、ホテルは勿論、ネカフェなどに泊まることもできず、ホームレスは不可避。
ならばせめて、足を止めて公園などで一日中座ったりするのが最善かもしれないが、何もしないでいるとどうしようもない現状に絶望してしまうので、気を紛らわす為にも歩く他なかったのである。
少女が自嘲する。
多分、何もしないで居たら泣きながら実家に帰っていたか自殺してただろうな、と。
そうは言っても、実家に帰れば母の彼氏の肉奴隷という最悪の結末が待っているし、それを断れば家を追い出されて、今の状況に逆戻り。
施設に相談しようにも、まだ直接的な暴力を受けている訳ではないから、むしろ施設の職員に
ビビリ、怖がり、暴力とかマジ無理。そんな性格なのだ。
そんな性格だからこそ。
「……やるしか、ないのかなぁ」
公園のベンチ、杖を眺めながら少女は呟いた。
魔法少女による魔獣討伐には報酬が出る。
しかも、それは保護者とか通さず魔法少女本人に与えられ、しかも何より非課税。倒せば倒すだけ金になる。無論、そんな雑な制度が成り立つくらいには魔獣被害に国が困っているのだ。
だからこそ、魔獣を討伐すればこんな少女でもお金が稼げるのだ。
だが、問題は一つ。何より大き過ぎる問題が。
「でも私……魔法使えないし」
である。
魔法少女は『魔力』と『魔法』のチカラを使って戦う。
魔力によって魔法少女の身体能力を底上げし、そこに魔法を織り交ぜて魔獣を討伐するのだ。
その魔法は魔法少女によって異なっており、戦闘向けの物からそうじゃない物まである。その点、少女の魔法は比較的戦闘向けの物であった。
その魔法は『合体魔法』。
他の誰かと合体することで心身を一つにすることができる魔法。当然、合体した相手の魔法少女の魔法も使うことができる。
だが、幾つか欠点が存在していた。
まず、合体魔法は誰かと合体することしかできないので、直接的には何もできない。
次に、相手からすれば合体する理由がないこと。
だって相手の魔法少女は合体せずとも普通に戦えるし強いのだから、態々他人と合体する理由がないのだ。強いてあげれば、強い魔法少女が魔力切れした際に合体し魔力を供給するモバイルバッテリーになれるくらいか。
そして、そもそも合体できないこと。
『協会』にて何度か検証したのが、てんで合体できなかったのだ。
協会の職員曰く、
『あー、ほら、魔力は魂と深い関わりがあるって聞いたことない? え、ない? まあいいや。とにかくそうなんだよ。だからね、こう言う他者に直接干渉する魔法は心理的な距離が近くないと発動できないことが多いのよ。陳腐な言い方すれば、絆が必要ってことさ。まあ、君みたいな陰キャはムズそうだね(笑)』
とのこと。少女は泣いた。
『魔法の杖』には魔法の発動を感知して、所有者に特別な戦装束である『魔法服』を纏わせる機能がある。魔法少女たちは基本的にそれを纏って戦うのだが、魔法が発動できない以上はそれも使えず。
そのせいで彼女は魔法少女であるにも関わらず、ちょっと力が強いだけの一般人擬きなのだ。
「……お腹空いた」
お腹からはグルグルきゅーきゅーと合唱が。
指先は震え、足は重くて動かせない。
眠くって頭痛がするし、視界は台風の時の窓みたいに霞んでいた。
そうして、全てを諦め、実家に帰ろうかと立ち上がった直後──サイレンが鳴り響いた。
「これ……魔獣出現の……!」
咄嗟に周囲を見回し、状況を確認。
つい先ほどまで遊び回っていた子供たちは外へと駆け出し、親たちは赤子が乗った乳母車を押して駆けている。
少女の頭の中に『戦う』という選択肢はなかった。
自分も早く逃げようと足を踏み出し──世界が揺れたような錯覚を覚えた。
「な、なにっ!?」
自分が転んだのか、その考えをすぐに否定した。だって、遠くに見えたから。
魔獣が。
蜘蛛のような姿だった。
太い節足が複数生え、大きな目玉が黒光している。高さは2メートル、幅もそれくらいはあるだろうか。
そんな怪物が、公園に生えていた大きな木の一つをへし折ったのだ。先ほどの揺れはその衝撃であった。
「っおい! その人、魔法少女だろ! おい! そこのパーカーのやつ!」
「っあ、え、私……?」
「お前以外いねぇよ!」
話しかけて来たのは何処からか走って来た一人の青年であった。
黒髪黒目、ジャージ。特に特徴のないような顔を、疲れと焦りに染めていた。
返事をしながら少女は困惑していた。どうして自分が魔法少女だとバレたのだろうか、と。
「だって杖持ってんじゃねぇか」
「あ」
忘れてた、とばかりに少女は手元にある杖を見る。
そんな少女に、青年は大きく頭を下げた。
「頼む戦ってくれ! あっちで子供が一人逃げ遅れてる。トイレから出られなくなっちまってるんだ」
「……い、いや、すいません。私」
「頼む! 俺じゃあ魔獣とは戦えないんだ!」
必死に頭を下げる青年に心を痛めながら、少女は一息吐いて心を落ち着かせ、なんとか答えた。
「ご、ごめん、なさい……私、無理なんです」
少女は目を瞑り、俯きながら答えた。
時折、思い出す。
── 『そ、じゃあいいわ。ところで、今度お医者様の先生が来るの。その体で、先生に気に入られなさい』
戦えない、稼げない。そうわかった時の失望した母の顔を。
元より好きだった訳ではないが、肉親から向けられるその目は酷く心を傷つけた。
また、あの目を向けられるのか。
「……悪い。それ、オモチャだったか?」
恐れに反し、青年は申し訳なさそうに目尻を下げるだけだった。
少女は否定も肯定もせず、ただ一歩後退りした。
「……」
期待を裏切ったのに。嘘をしたのに。
少女を責めない。青年はむしろ、バツが悪そうに小さく頭を下げた。
「……じゃあ、君も早く逃げろよ。他の人が通報はしてくれるから。できれば、魔法少女が早く来てくれるように祈っといてくれ」
そう言うと、なんと青年は魔獣の方へと駆け出して行くではないか。
呆気に取られながらも、咄嗟に少女は声を上げた。
「あ、あなたは!? 逃げないんですか!?」
「ああ! 俺でも気を引いて
遠くなっていく黒い背を見つめながら、少女は杖を握り締めて、胸に抱いた。
「……どうして」
どうして、無力なヒトでありながら魔獣へと向かえるのか。
どうして、魔法少女の自分はここで立ち止まっているのか。
いや、そもそも。
どうして、今自分はこんなところにいるのか。
気がつけば、少女はあの黒い背中を追っていた。その手には、『魔法の杖』が握られていた。
辿り着いた先では、青年と蜘蛛型の魔獣。魔獣の目先には公衆便所があった。そして、よく見れば便所の壁の裏に小さな少年と少女が頭を抱えて隠れているのが見えた。
「おい! こっちだデカブツ! 蜘蛛なのにデカくてキモいんだよ!」
叫びがら青年が石を投げ蜘蛛の体にぶつける。だが、その巨体が故に小石一粒を歯牙にも掛けない。体毛に埋もれ消えていき、何事もなかったように
そして、次に青年は蜘蛛へと走って向かっていくではないか。
少女はぎょっとしながらもそれを眺めていた。
「私が……私が……」
戦えたら。ちゃんとした魔法少女だったら。
あの青年が蜘蛛へと殴りかかったら、どうなる。
蜘蛛はきっと獲物を青年へと変えるだろう。だが、あの怯え切った子供たちがその隙に逃げられるだろうか。いや、二人は抱き合って目を瞑っている。青年に気付いてもいない。だから、ただ死ぬ人間の数が一つ増えるだけの徒労……無駄死にになるのではないか。
それは、すごく嫌だった。
『私、魔法少女になりたい!』
まだまだ幼い頃、そう言ったのを少女は思い出した。
自分がまだ、魔法少女だとわかるずっと前の話だ。
『無理に決まってるでしょ。あの鈍臭い男の娘なんだもの』
まだ幼い頃、母にそう言われたことをまだ憶えている。
自分がまだ、自分には自由に羽ばたける翼があると信じられていた頃の話だ。
『あー
数年前、魔法少女協会の職員からそう言われたことを憶えている。
元々期待していなかった……嘘。
密かに期待していたそれが、ばっさり裏切られた時の話だ。畢竟、どこまでも自分は
もしも将来、美しい蝶のように成れたらと何度夢見ただろうか。
気が付けば、少女は空腹や疲労なんて頭から吹っ飛んでいた。
「うおぉー!」
雄叫びを上げながら蜘蛛に殴り掛かり、軽く吹き飛ばされた男を少女は見る。その顔は、目を見開き何かを思いついた表情をしていた。
「このまま……生きてても」
実家に帰れば、母は自分を碌な扱いはしないだろう。
このまま生きていこうにも、頼れる物が何もない自分は結局、女としての体を売るしかないだろう。
「なら……死んでも、変わんない……?」
あの青年のように、子供を助けて死ねたなら。
──『私、魔法少女になりたい!』
「あはっ」
──見ててね、小さかった頃の私。お前は最期に
少女は、青年の真似をするように蜘蛛へと殴りかかっていた。
蜘蛛は吹っ飛んだ青年へと歩いていたから、少女は魔法少女として少しばかり身体能力が高かったから、蜘蛛が反応することもなく足へと拳を届かせた。
「──っ!」
蜘蛛型の魔獣の節足の一つが、小さく震えた。
それだけだった。
折れてはない。巨体は一センチもズレていない。ただ、当たっただけ。それが、決死の結果だった。
だが、少女は驚きも喜びも、悲しみも怒りもせず、無表情のまま淡々と魔獣を見つめていた。その程度が自分の限界なのだとわかっていたからだ。
「ぎゃっ……」
反応する間もなく、少女は魔獣に叩き返されていた。
衝撃で地面を転がり杖が手から零れ落ちる。それが何の意味もなさない
「おまっ、何で逃げてないんだよ!?」
いつの間にか立ち上がっていた青年が、少女へと駆け寄って怒声を浴びせる。
少女はそれに怯えも謝意も見せず、暗い顔で呟いた。
「……あなただって、そうじゃないですか」
「っ俺が、居るからいいだろ。君まで死ぬ必要は「やっぱり!」……あ?」
「死ぬ気、だったんですか」
その言葉に、青年は顔を引き攣らせた。だが、直後に魔獣が近づいて来ていることに気がつくと、慌てて少女の体を起こし、腕を引いて子供達の居る公衆便所から反対へと駆け出した。
「っくそ! 来るぞ!」
「……」
「いいから君は逃げろ! 俺が後は引きつけるから!」
「……いいんですよ。私、どうせ生きる意味も、方法も……死んだ方が、いいんです」
走る二人を追いかけ、蜘蛛が小さな針状の体毛を吐き飛ばす。
咄嗟に青年は少女の腕を引きながら横に飛び込み、針を回避。だが、一本だけは彼の皮膚を擦り血を滴らせた。
「っ
「あなたこそ、私を置いて逃げてくださいよ」
「……っ嫌だ!」
続けて、蜘蛛は針を飛ばした。二本、三本、四本と続けて。
それを躱す為、青年は少女の体を抱き締めながら地面を転がり続ける。
「ぁあもう! お前重いんだよ! 自分でも避けるよう頑張れ!」
「っひ、酷い……だから、早く逃げてくださいよ! どうして私を守ろうとするんですか!?」
「……さっき俺が叩き飛ばされた後! 君が居なかったら俺はもう食い殺されてたかもしれない! だから君は俺の命の恩人だ! 見殺しにしたくない!」
「っそれを言うなら、命の恩人の前でその命を捨てるなんてどういうつもりですか!?」
「っんん! それはそう!」
叫びながら二人は勢いよく立ち上がり、走る。木々を遮蔽物にして針を躱しながら走って逃げる。だが、あまりの体格差にその距離は目に見えて縮んで行っている。もう数秒で追いつかれるだろう。
「っああもう! 下心だよ! 昨日彼女に振られて傷心中! 君みたいな可愛い女の子を庇って死ねたらもういいやって思ったの! やけくそぉ!」
「あ、その、なんか、ごめんなさい!」
「告ってないよ!? ていうか君よく見たらガリッガリだね! あんま可愛くないかも!?」
「酷い!」
機器的状況が過ぎて、逆に余裕があるのだかないのだが。二人は意味不明なことを叫びながら走り続け、ついに針が一つ青年の腿を貫いた。
「──あ」
少女を庇っての一撃だった。
同時に、青年がもう逃げられない致命打であった。
「どうして庇って……」
「い、言ったじゃん……早く、逃げろよ」
「……っ」
「カッコつけさせてくれ。俺に、守らせてくれよ」
──『私、魔法少女になりたい!』
いつの日か、テレビで見た魔法少女は格好良かった。
仲間と協力して、敵を倒す。武闘派の魔法少女たち
仲間と一緒に練習して、客を魅せる。芸人の魔法少女たち。
魔法を使って物を運んだり、作ったり。産業系の魔法少女たち。
そもそも、それに興味を持ったきっかけは日曜の朝にやっていたとあるアニメだったか。
女の子たちが運命的な出会いによってチカラを得て、人々を守る為に戦うお話。綺麗だった。可愛かった。格好良かった。いいな、って思った。
それに一番近しいこの世界に存在するモノが魔法少女だった。だから憧れた。
でも、自分にはそんなことはできない。自分はあんなにキラキラすることはできないと悟って。
次に憧れたのは、マスコットだった気がする。
特別な人たちにチカラを与え、見守る。時々助言を与え成長を促したり、戦う少女たちを励ましたりする。そんな妖精とか精霊とか、そんな感じの。
魔法少女になれないのなら、その踏み台くらいにはなりたかった。それに一番近い存在になりたかった。スポットライトが浴びれなくても、照らす側になら……そんな卑屈な憧れ。
ふと、少女には、蜘蛛型の魔獣が妙にゆっくりした動きで近づいて来るように見えた。
いや、違う。
走馬灯みたいに今までの人生が流れ、周囲の世界が遅延しているのだと思い至った。
──魔力は魂と深い関わりがある。
協会の職員に言われて、自分なりに調べてわかったことがあった。
魔法少女の魔力や魔法、それらは本人の心身の状況に影響を受けることがある……らしい、と。
炎系の魔法少女が火災でトラウマを持ったことをきっかけに魔法が一切使えなくなった、と。
獣化系の魔法少女が動物への知見を深めるとより獣化の深度が増した、と。
魔法少女の魂によって魔法を使えなくなったり変化させることがあるのだと、知った。
それを思い出した。
「わたし、は」
──何に成りたい?
少女が考えるより先に、その体は青年の手を握り締めていた。
「私の魔法は『合体魔法』。誰かと一つになることで私の体や魔力を預けることができる魔法です」
「え、は?」
唐突な告白に青年は困惑を浮かべるしかない。だが、時間がないので少女は無視して話を進めた。
「私と……契約してください」
「けい、やく……?」
少女は青年の目だけを見つめた。
黒い眼。出血と疲労と絶望で昏い色を宿した瞳。だけど、
気付きを得た今、不思議と異様なほどの安心感を感じる瞳だと少女は思った。
「あなたにチカラをあげます。だから、私を守ってください。私と一緒に、戦ってください。私だけの、魔法少女になってください」
青年の目が逸らされる。もう数メートルまで迫った魔獣へと向けられた。だがすぐに少女へと向け直される。
「それがあれば、君は死なないのか」
「はい」
「君は俺を信じられるのか」
「助けてくれました。信じています」
青年の目が閉ざされた。青年は思う。
少女はさっき自分が魔法少女ではないと示した。だが、今は魔法少女かのように振る舞っている。嘘だったのか。
そもそも『合体魔法』ってなんだよ。
戦うなんて俺にできるのか。
葛藤が頭を過ぎる。
だが、それ以上に少し前のことが思い返された。
──『頼む戦ってくれ!あっちで子供が一人逃げ遅れてる』
そう頼んだ時の少女の顔は、酷く辛そうだった。
──『ご、ごめん、なさい……私、無理なんです』
そう答えた少女は、まるで絞り出したような悲痛な声だった。
自分は弱い。だからこそ、目に見えた
わかっている。
魔獣とヒトとの間には隔絶した差がある。だから、魔法少女に助けを求めるのは自然なことだし、国もそれを推奨している。
わかっている。
だが、一応は成人している自分が年下の子供に助けを乞い『戦ってくれ』と命懸けをせがむことの、なんと情けないことか。
チカラがあって戦えることと、恐怖を感じないことは別の話だ。
わかっている。
だから、チカラを隠した彼女をこと責める気はないし、悪いとも思わない。むしろ、正しいとさえ思う。
だからこそ、そんな
それを今、覚悟した。
少女の握る青年の手に力が籠る。互いに強く繋ぎ合った瞬間だった。
「──信じるぞ! やれるんだな!?」
その言葉に少女は思わず目を逸らしてしまった。
「た、多分……」
「っそ、そこは自信持って欲しかったな!? 君のチカラだろ!?」
「だ、だって初めてなんですよ!?」
青年の口が引き攣った。言外に『マジかよ!?』と叫んでいた。
だが、やるしかないのだ。
青年は改めて少女の手を強く握った。
少女は改めて青年の手を強く握った。
強く、強く強く、決して離れないように。
青年は少女を守る為、自分が死なない為。
少女は青年を守る為、人生で初めて自分を守ると言行で示してくれた青年に報いる為。
少女は片手で『杖』を握り締め、チカラを籠めた。
こうするの初めてじゃない。でも、ここまで信じられる
ふと、少女は腹の奥底で何かが花開くような感覚を覚えた。
「い、いきますよ!」
『魔法の杖』の先端が重い。こんな感覚は初めてだった。だが、同時に確信もあった。
──いける気がする!
「ああ!」
刹那──杖の先端が輝き、その蕾を開花させた。
杖の花から光が溢れ出し二人を包み込む。
それは光の糸のようで、包み込んだそれは繭……いや、それよりも美しい純白の卵のようであった。
そしてついに繭が解けるように、卵が割れるように、光は薄れ霧散し、消え去った。
青年の姿はない。
白鳥が翼を広げるように、周囲に魔力を撒き散らしながら姿を現したのは一人の少女だけだった。
その顔や姿は、合体前の少女そのもの。だが、髪は長く鮮やかな桜色に、瞳もまた同様に煌めいていた。
そして何より服が変わっていた。合体魔法の発動を検知し、魔法の杖が『魔法服』を展開したのだ。
童話の魔女のような黒いトンガリ帽子。
これまた魔女染みた黒い外套。
外套の下には黒いセーラー服があった。
そして足元にはこれまた黒いブーツ。
外套に隠れた腰ベルトの左側には『魔法の杖』を提げられる袋があった。
「……こういう感じね」
まだ何もわかっていないけれど、とにかく全身からチカラが湧き上がっているのだけは感じていた。つまり、魔獣と戦えるとわかったのだ。それだけで一先ずは十分だった。
<じゃ、じゃあ後は良い感じにお願いします……!>
少女の声が脳内に響く不思議な感覚に青年は目を遠くしながら──跳躍。
眼前では振り下ろされた大きな節足が先ほどまで二人がいた場所を大きく抉っていた。
そんな攻撃を回避する為にした
さっそく体験した信じられないほどに大きく跳んだ身体能力に、青年は戸惑いながらもさらに魔獣から距離を取り、改めて蜘蛛型の魔獣を眺めた。
チカラを手に入れたとはいえ、こんな化け物と戦うのか? 勝てるのか?
いや、戦わねばならない。
何故なら、自分たちが逃げれば魔獣はまた子供達へ向かうだろうから。子供達が既に逃げられている確証が何処にもない以上、逃げる選択肢は存在しない。
此処で彼奴を倒す。
「殺す、でいいんだよな?」
<……っはい! お願いします! 私の魔法少女さん!>
今、戦いの火蓋が切られた。
。以下作者の独り言 。
ももはね(作者)は幼少期に仮面ラ○ダーwを見て育ちました。
緑の方って普通の人間じゃないし性転換とかできそうだよなー、って思いながら見てました。実際設定的にはできるのだろうか
そんな考えから今作が始まりました
。