二シン合体の魔法少女! 作:ももはね
二人が元気におにぎりを拵え終わった頃……少し離れた住宅街の一軒家の前で二つの暖色な人影が立っていた。
「ここがあの女の家ね」
「
赤い魔法少女、ヒバナ。黄の魔法少女、ヒナタ。
魔法少女協会に所属する二人の魔法少女であった。彼女たちはサキの最低限の個人情報が書かれた書類を片手にその実家に押し掛けて来ていたのだ。
「今の時間なら居るのよね?」
「おそらくは。彼女の学校の始業時刻を考えればまだ登校前だと思われます。また、母親は夜職のようですから、本人が不在でも保護者へ話を伺うことはできるかと」
「……ちょっと緊張するわね」
「他人の家に調査とは言え押しかけるのは初めてですからね。なんなら、『魔法服』でも展開しておきます?」
冗談めいて顔でヒナタは『魔法の杖』を取り出し、ヒバナに頭へチョップを入れられる。
「お馬鹿。臨戦体制で押し掛けなんていきなり攻撃されてもおかしくないわよ」
「冗談ですよ。緊張を解す愉快な一発芸です」
「面白くない」
ヒバナは「ふぅ」と一息入れると意を決し玄関のインターホンへ手を伸ばした。
「っよし。行くわよ!」
「どうぞ」
カチ、ピンポーン、と。機械音声が小さく響く。暫くして『……はい』と声が流れてくる。
「どうも、魔法少女協会所属の者ですが。芹須さんでお間違いないですね?」
『ま、魔法少女協会の方が……何の用ですか?』
機械越しながら僅かに動揺と恐れの混じった声が流れる。
「
『……帰って! あんな化け物私の子供じゃないわ! さっさと帰って!』
女の乱暴な声が聞こえたかと思えば『ブツッ』そんな通話が切られた音が無情にも響く。
一瞬理解できず、ヒバナはぽかーんと目と口を丸くした。ヒナタも笑顔が固まった。
「あ、え、ちょ……切られた……?」
「切られましたね」
「……もう一度押していいと思う?」
指先をインターホンに添えながら問うヒバナに、ヒナタは眉を顰める。
「……やってみましょうか」
ピンポーン……………………返事はない。
「……諦めましょうか」
「……そうね」
とぼとぼと家を後にする二人。これ以上の挑戦は無意味だと悟った。
だが、それは収穫がなかったことを意味しない。少なくとも、サキと家族の間に何かしらが起きたことを意味していた。それが何なのかはわからないけど。
「一体どうしたのかしら。なんか尋常じゃない感じだったわね」
「はい。化け物だ、私の子供じゃない、なんて言ってましたから。しかも、錯乱状態のようでした。少なくとも、サキさん本人がもう家に居ない可能性が高いですし、話も聞けなさそうですね」
「調査が最悪な形で振り出しになったわね……」
気を取り直して、二人は歩きながら相談を始めた。
「うーん、ヒトの魔法少女差別は珍しいけど在りはするし……でも、高校生まで育てておいて、それは考え難いんだけどなぁ」
話ながら親子喧嘩や犯罪などと考えてみるヒバナ。だが、例え犯罪者だろうが、例え化け物のチカラを使えようが、自分で産んで十五年も育てた我が子に変わりはないのだ。そんな親がたった数ヶ月で態度を急変させるとは考え難かった。
「ですねぇ……魔法少女としての自覚、魔法の使用困難、ですが唐突に魔法が使えるようになったかと思えば魔獣の討伐。何か家庭で大きな出来事があった可能性が高いですね。最悪の場合、『魔女』として対応する必要があるかもしれません」
「……魔女」
魔女、それは罪を犯した魔法少女に与えられる蔑称。
魔法少女協会は魔法少女の為の組織だ。故に、それらに風評被害を与えかねない『魔女』に対しては下手な反魔法少女団体よりも厳しく対応することもある。特に、ヒトへの暴力や人殺しを行った魔女に対しては遠慮なく武力行使することだって珍しくない。
「犯罪者の魔法少女ね……でも、魔獣は倒してるのよね」
「魔石は換金できますから。お金稼ぎかもしれませんし、人助けとは一概に言えません」
「それもそうね……」
ヒバナは溜息を溢すと、サキについての情報が書かれた書類を鞄へと乱暴に叩き込む。
「学校は割れてるのよね。行くの?」
「はい。私立だと少々面倒でしたが、公立ですので。協会の方で問題なく許可が取れています。早速向かいましょうか」
「はぁ……また移動なのね……」
「億劫ですが我慢してください」
「魔力強化して走っちゃ駄目なの?」
「駄目ですよ。ヒトを轢いたらどうするんですか。それに、この制服を着ている間は清く正しい協会の魔法少女として、配慮と余裕に溢れた毅然な姿を見せなくては」
「わかってるわよ。私たちが慌てたら、市民に余計な憶測をさせちゃうものね」
理解はしているが納得はできない、と言わんばかりに肩を落とすヒバナ。魔力強化すれば数分で到着できるのに、三十分ほどかけて歩かないといけないのだから酷く面倒臭いのだ。
そんな訳で、重い足取りながらも何とか到着した二人は恐る恐るその敷地へと足を踏み入れた。
「うわ、本当に人でいっぱいね。魔法少女学校とは大違い」
「ウチは生徒数が少ないですからね。ここはなんだか観光地みたいで面白いです」
二人が生まれ育ち通った魔法少女学校とは大きく違う人口量。目は回りそうだし浮き足も立ってしまう。二人は次第に視線を地面へと向け始めた。
「……制服違うから当然だけど、ちょっと目立ってるわね。職員室まで急ぐわよ」
「そうですね」
流石のヒナタも洪水のように次々と向けられる視線に居心地の悪さを感じ、早足で職員室へと向かう。幸いにも職員玄関からすぐ横にそれはあったので迷いはしなかった。
「失礼します」
扉を開けると、近くにいた職員が見慣れぬ制服に不審な目を向けてくる。それにヒバナは僅かな身じろぎしながらも話しかけた。
「あの、魔法少女協会の者です。事前に話が通っているはずですが、この学校に通う
「は、はぁ……? えっと、その子の学年とかはわかる?」
「一年のはずです。組まではわかりませんが」
「そう。じゃあ、一年の主任を呼んでくるから、ちょっと待ってて」
ヒナバが会釈で返すと、職員が大きな声で主任の物であろう名前を呼ぶ。そうすると、少し離れたところからはジャージを着た初老の男が歩いてくる。
「あー、はいはい、協会の人ね。話は聞いてるよ」
男は白黒の制服を見て協会の者だと判断し、うんうんと頷く。それを見た二人はとりあえず話に進展がありそうだと確信し、密かに胸を撫で下ろした。今までの苦労は無駄足ではなかったのだと。
「それで、芹須が魔法少女で、最近になって活動を始めたから話を聞きたいんだっけ」
「はい、そうです」
「てっきり放課後に来るのかと思ってよ。いやぁ、わかってると思うんだけど、これから始業だからさ。話が長くなるんなら、流石に生徒に授業を抜けさせる訳にはいかないし、待ってもらうしかないんだけど?」
男はちょっと迷惑そうに語った。
二人は初手からのその態度に少しイラッとしながらも、教職としては間違ったことを言っていないので反論するわけにもいかず。それを堪え、事前に決めていた通りの筋道へ話を流すことにした。
「いえ、最悪、放課後にでも彼女と予定を組ませてもらえれば構いませんので。その約束を取り付ける為にも、可能であれば朝礼の後にでも呼び出してはもらえませんか? 十分もあれば余裕を持って終わらせます」
「ああ、それでいいのね。わかったよ。んじゃあ……あー、一年の教室の横に空き教室があるから、そこで待っててもらっていい? 多分……九時過ぎくらいにはホームルーム終わるから、向かわせるように担任に言っとくよ」
「わかりした。では、それでお願いします」
「あいあい。じゃあ、一年の教室はこの棟の東側にあって、空き教室はその端にあるから。お二人は先に待っててもらって構わないから。では、そういうことで」
主任の男を見送って、二人は一息吐いた。
「とりあえず、やっとご対面できそうね」
「はい……まあ、早く行って待ってましょうか。ここでは目立ちます」
「そうね」
そうして、二人は移動を始めた。
異なる学校の制服、そして鮮やかな赤と黄の髪色。目立つ要素しかない二人は非常に人目を惹く。居心地の悪さから、二人の歩幅が大きくなるのは自然なことだった。
「……私も、魔法少女じゃなかったらこんな風に普通の生活を送ってたのかしら」
ふと、ヒバナが呟いた。ヒナタはそれに目を丸くし、微笑んだ。
「さあ。たらればのことなんて誰にもわかりませんよ」
「ヒナタだって、魔法少女に産まれてなかったら裁判官でも目指してたんじゃないの? 結構大きく人生変わってそうだけど」
「まあ、それはそうかもしれません。父のことは誇りに思っていますから。ですが……」
ヒナタの目が窓越しに、校庭で部活動の朝練に励む生徒たちへと向けられた。
「魔法少女として、人々の平穏を守る現状にも誇りを持っています。どちらも平和の為であると考えれば、そう大差ないかと」
迷いない一言に、ヒバナは感心の目を向けるしかなかった。
「なるほどねぇ……やっぱ、ヒナタってば軸がブレなくてすごいわね」
「そうでしょうか? 一応、将来は魔法少女を続けるか、法律家を目指すかは迷っているんですよ」
「ええっ……普段から忙しそうだとは思ってたけど、もしかして受験勉強してたりする?」
「もちろん。父の母校が志望校ですので」
「……確か、結構いいとこだったわよね」
「ええ。だからこそ、努力のしがいがあるという物です」
「私なんて多分これからも惰性で魔法少女よ」
「否定はしませんが、少しくらいは考えた方がいいと思いますよ。将来について」
「むぅ、わかってはいるのよ……」
そんなこんなで、二人は空き教室に到着した。
中に入った二人は後ろに詰めて整列させられていた適当な椅子と机を取ると、それに腰掛ける。
「さて、どんな子かしらね」
「悪い子じゃなければいいのですが」
そうして、二人は中で待機するのだった。
待つこと二十分ほど。ついに、部屋の戸が開かれた。
目を向ければ、ボロボロの制服を着た一人の女生徒いた。背を丸め、前髪で目元を隠し、おどおどした足取りで入ってくる。まるで怯える子鹿のような印象。
ヒバナとヒナタは、それが本人だと一瞬思えなかった。だって、魔獣を二体も単独で倒した魔法少女だとは思えなかったから。魔獣とは危険で恐ろしい生物だ。それをまだ高校生の身でありながら独りで討伐したのだから、さぞ自信満々なのが来ると想定していた。
「えーっと、
「は、はい。そうです。どうも、その、初めまして……」
聞いてみれば想像外にも想定内の返答が来る。その声音は弱くて細くて、やっぱり弱そう。二人は密かに目配せし、ちょっとした不安を共有しながらも、とりあえず話を進めることにした。
「はい、初めまして本日日はお時間を頂きありがとうございます。私は魔法少女協会所属の
「私は
「は、はい……」
そうして二人は事前に並べておいた席へとサキを誘導する。
おどおど、びくびく、そわそわ、と。明らかにビビっているサキに、二人は不信感が募ってくる。
「まず、一昨日と昨日に蜘蛛と蜥蜴の魔獣を、魔法少女として討伐したのは貴女で間違いありませんか?」
「あ、えっとその……はい」
少し悩む様子を見せてしまったサキ。不審がさらに高まる。
よくよく見れば、サキの体がそれはもう細いことが目についた。手は骨張り、首は細く、制服越しからでもその胸が板のように薄いことがわかる。幾ら魔法少女が魔力強化できると言っても、土台となる肉体が貧弱過ぎれば当然のこと限界だって低くなる。こんな薄く細い体の少女が戦えるのだろうか。
「……そうですか。色々とお話ししたいことがあるのですが、流石に休憩時間だけでは足りませんね。放課後、何かご予定はありますか?」
「その、ないです……」
「では、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「えっと……何を、話すんですか?」
サキが申し訳なさそうに首を傾げた。
「それは……」
ヒバナは横に座るヒナタへと目配せし、彼女が頷いたのを確認すると口を開いた。
「協会は魔法少女の保護や支援をしています。芹須さんは最近まで魔法が使えなかったと記録に残っていますが、魔獣を倒したということは使えるようになったということですよね?」
「まあ、はい……」
「魔法が使えない方は珍しくて解決した事例は少ないんです。貴重な記録ですので、今後の為にもお話を聞きたいのと。次に、協会には所属していらっしゃらないようですので、その勧誘。あとは……一般家庭で生活する魔法少女は珍しいですから。困ったことはないか、なんて世間話ですよ」
「……はい」
「それで、どうでしょうか。放課後にお時間頂けますか?」
ニコッと明るい笑みを浮かべてお誘いをするヒバナ。彼女としては、我ながら良い笑顔だと自信の
しかし、サキはそれを見ているのかいないのか。いや、おそらく机しか視界に入っていないと思われるほどに俯いたままだ。思わずヒバナは笑顔が引き攣った。ヒナタは人を見もしない失礼なサキに不快感を募らせた、笑顔のままで。
「…………」
サキは暫し黙り込むと、首を横に振るった。
「その、すいません。用事が、あって」
「では、いつならいいでしょうか?」
「いや、暫くは忙しくて……」
サキはそう呟くと、右手で腹部を撫でる。薄い腹だ。しかし、手の圧力で制服が撓み、僅かに棒状の影を作った。
それを見たヒナタは、これまで話していたヒバナが動き出すよりも前に机に両手を組んだ拳を置いて姿勢を前のめりに出した。
「それでは、冊子をお渡ししますので……もし、時間ができた際や、魔法少女に関することで困ったことがあれば、その連絡先にご遠慮なく連絡ください。相談には乗れますし、場合によっては解決の協力をさせて頂きますので」
「は、はい……」
ヒバナが少し慌てながら協会の冊子を取り出し、サキへ差し出した。その表紙にはでかでかと『いつでもご自由にご相談ください』という文字と共に電話番号やホームページのQRコードが載せられていた。
「では、以上です。お時間を頂きありがとうございました」
「い、いえ……では」
冊子を取ったサキはおどおどした雰囲気のまま部屋を去っていく。
暫くの間。
二人はサキが消え、戸が閉められた後も、その誰もいない先を見つめ続けるのだった。
。 以下作者の独り言 。
「ここが、あの女の家ね」
これを言わせたかった為の前半部分ではある。
???「ここが、あの女のハウスね(ねっとり)」
。