二シン合体の魔法少女! 作:ももはね
サキは自分の教室の中でガクガクと震えていた。
「(やばいやばいやばい……!)」
教室の端、壁と壁に挟まれて、不思議と天井と床も近くに感じる隅の角。角を線で結べば全てが集中する点だ。だが今はそれだけではなく、教室中の視線までもがサキへ集まっていた。
「芹須、戦ってくれよ!」
「ねぇ! お願い!」
「俺たちを守ってくれ!」
そんな声を掛けられ、しどろもどろになりながらもサキは怨みを籠めた目を壇上の教師へ向けた。教師は後ろめたさを感じているのか、何も言わず静かに目を逸らす。
こうなった原因はほんの数分前のことである。
『ま、魔獣だ!』『え、嘘……』『ホントだ……』『ちょ、早く逃げないとヤバいんじゃね?』
などと生徒たちが騒ぎ始めた時、教師が言ってしまったのである。
『せ、芹須! お前確か魔法少女だったよな!? 戦ってくれ!』
サキは魔法少女であることをなるべく隠していたのだ。校長含め教師陣には手続き上どうしてもバレてしまうが、同級生含め生徒たちには黙っていた。大人たちに口止めはしていなかったが、友人もいないし、誰にも言っていないからバレる心配はないと……高を括っていたのだ。
その理由は言うまでもなく、戦えないし目立ちたくないから。
なのに、あろうことか教師はその気持ちに気づけず配慮もせず真実を曝け出して助けを求めてしまったのである。もっとも、襲われている生徒のことを考えればチカラを持つ者に助けを乞うことは間違いではないのかもしれないが。少なくとも、サキにとっては恨むに十分なきっかけであった。
だが、どうやって助けを求められたとしても、どうしょうもない理由がサキにはある。
「(へ、変身できないんだってぇ……!)」
サキはアキトが居なければ合体魔法が使えず、魔法が使えなくては魔法服の展開も困難で。その補助が無ければ魔力強化の効率は著しく悪くなるし、敵の攻撃から身を守る防御力だって無い。剣も鎧もないしに戦うなんて無謀そのものだ。
多くの視線を向けられて、多くの要求を浴びせられ、サキは口籠もりながら弱々しく首を横に振ることしかできない。
「……まさか……戦わないのか……?」
一人の男子生徒がそう言った。
「魔法少女なんだろ。戦えよ」
「い、今まで私たちのこと、騙してたんでしょ。戦いなさいよ!」
「え……?」
二人の生徒がサキに詰め寄る。その瞳には歪な正義と不安でギラつく光が宿っていた。
「あ、あそこで倒れてるやつ友達なんだ! 戦ってくれよ!」
また一人がサキへ近寄る。サキが後退りする。
更に一人が詰め寄った。だが、彼だけは様子が違う。他の誰よりも必死さがあった。
「あ、で、でも、その……」
「魔法が使える化け物なんだろ!? だったら化け物をなんとかしろよ!?」
「……っ」
そう叫んだ男子生徒は、実は校庭で襲われている女子生徒の一人の恋人であった。幼馴染でもある彼女は誰よりも大切な存在で。
「頼むよぉ!」
でも、チカラを持たない彼は必死に縋るしかない弱者でしかなくて。
「わ、わた……わたし、は……」
サキは懐を撫でる。ここ最近、魔法の杖は触れるだけで心が温まる希望だった。それがアキトと自分を繋ぎ止める鎖のように感じられたから。
でも、今は違った。自分を絶望に留め続ける碇のようだった。
「むり、で……」
母から解放され、人生は夜明けを迎えたはずだった。長い長い夜を越え、皆みたいに明るい昼間の学校へ通える時が来たのだ。
高校だって楽しくはないかもしれないけれど、平和な日常の象徴になるはずだった。でも、もう駄目だ。ここで戦えない自分は残りの三年間を針の筵で過ごすしかないだろう。いや、多分、もう二度と学校には来れない。
だって、
鉄蜥蜴の時とは違う。油断して人を守りきれなかったあの時とは全く違う。自分の正体を皆が知っているし、自分が戦わない選択をしたと知られている。
まるで嵐の海に取り残されたような絶望。夜が明けたかと思えば、そこにあったのは曇天の嵐であった。
「…………アキトさんっ」
願った。夜明けを。救いの青空を。
「──────!!!」
その時、遠く遠く、すごく遠くから小さな声が聞こえた。
「────キぃ!!!」
聞き覚えのある声。聞き馴染み始めてきた暖かい声。でも、ありえない。絶対に空耳のはずで。
「──サァキぃ!!!」
「いや、うそ、そんな……」
願った。祈った。きっと居れば縋りついた。
「サキ!」
考えるより先にサキは廊下へ走った。背後から自分を呼ぶ声が聞こえるけれど耳に留まらない。頭蓋骨を通り抜けて何処かへ行ってしまった。
廊下の窓、僅かに開かれたそれ。誰が開けたのだろう。閉め忘れたのだろう。いや、意味なんて無くって、偶然と運命が明けたのかもしれない。
外を見た。学校の敷地の外、校舎から一番近い壁のすぐ外。そこにあった人影。壁に手を着いて息を荒げながら、見覚えのある弁当袋を掲げる彼を。
「
暁は確かに、未来を照らしていた。
サキは脇目も振らず窓からアキトに向かって飛び出した。
「あっ」「芹須!」「どこに行くんだ!」「待っ──」
聞こえない。何も聞こえない。ただ見えるだけ。
サキは無心で手を伸ばした。暁を掴む為に腕を伸ばした。
それに向かってアキトも手を伸ばし──サキは懐から杖を取り出し──指先が触れ合って────
「変身」
────ひとつに成った。
二人──否、一人は大きく息を吐いた。
「とりあえず、気づけてもらえてよかったよ」
<は、はい! で、でもどうして学校に……?>
サキは思わず聞いた。アキトは今朝、とてもよく寝てたはずだ。自分が起きて、着替えて、家を出ても全く気が付かないほどに。
「いや、俺が寝坊したせいでサキがお弁当持っていけなかっただろ? だから、急いで作って昼前に間に合わせたんだけど、そう言えばサキの連絡先知らないなーって」
<あ、その、私スマホ持ってませんので>
「……とりあえず、そんで途方に暮れてたら魔獣警報がなってさ。必死に校舎周りの壁沿いを走って叫びながら気づいてくれるの祈ってた」
<……っ>
嬉しく嬉しくってサキは胸が張り裂けそうだった。
でも、パンパンッ、という頬を叩く音と痛みにその喜びごと目覚めさせられた。
<痛っ>
「あ、ごめん。気合い入れようと思って、つい」
<い、いいです──急ぎましょう。魔獣がいます!>
「ああ!」
アキトは跳躍する。廊下の窓からサキの同級生たちが驚きの目を向けてくるが無視して、高く跳ぶ。そうして屋上に立ったアキトはひとっ飛びで反対側まで行くと、屋上の縁に立って校庭を見下ろした。
そこにあったのは、魔獣を閉じ込める黄色の結界に赤い煙が充満している光景であった。
「……なんだあれ」
<……なんでしょうか?>
「見る感じ……結界と煙は魔法少女のか。もしかして俺たち必要なかったか……?」
結界に魔獣は囚われ、煙に包まれて。魔法少女の策によって魔獣が追い詰められている、そんな印象を持った。
今すぐ行くべきか、様子を見るべきか。
少し悩んだが、考える必要はないか、とアキトは拳を握り締める。そしてサキに
「サキ、出してくれ」
<え、も、持って来たんですか……? なんで……?>
「いや、いるだろ。常在戦場だよ」
<え、ええ……?>
困惑しながらもサキは小さく唸ってアキトの持ち物を取り出した。
それは『突っ張り棒』であった。100円均一ショップでも買えるとても簡単な作りの、クルクル回すと伸びたり縮んだりする、アレ。
「さあ!」
<う、うぅ……えい!>
『魔法の杖』から突っ張り棒へ光が溢れ出す!
それが晴れた後、その手には黒く染まった長い棒が握られていた。そう、鉄蜥蜴との戦いで用いた鉄パイプ──その代わりとして、突っ張り棒が選ばれたのである。
「どうせ魔力強化するんだから、元の道具なんて持ち運びに特化した物でいいもんな。パイプとか重いしデカいし」
<いえ、その……多分、元の素材が丈夫な方が良いとは思いますが……>
「使ってみなきゃわかんね────
その時、
────ドッッッカーン!!!!!
という轟音が鳴り響いた!
語るまでもなく、ヒバナの粉塵爆発の音である。
アキトは姿勢を屈め耳を押さえながら慌てて音の方向、校庭を見遣る。
「っな、何の音だ!?」
<ば、爆発……?>
校庭に広がっているのは茶と赤と黄の煙の奔流。土煙、赤い火花、結界の破片だ。魔法少女や校庭の生徒たちに何かあったのなら今すぐにでも飛び込まなければ行けないが、如何せんこうも視界が悪いと難しい。同士打ちや誤射は避けなければならない。
逸る気持ちを抑え、様子を見守る二人。
煙が鎮まり、まず見えたのは暖色の魔法少女が二人。
「かなり消耗してるな……」
<ですね……もう行きますか?>
「……いや、もう少し。魔獣が生きてるなら、奇襲した方が致命を与えやすい。あの爆発で生きてるとは思えないが…………」
そうして完全に砂煙はなくなって。
ぼろぼろの飛蝗が消耗し切ったボロボロの姿を露わにした。
「っマジか!? あれで生きてんのかよ! キッショ!」
<……アキトさん、待って>
「んっえ!? いや、早く行かないと二人が」
<いえ、倉庫の方が……>
飛び立とうとしたアキト。しかし、先んじてサキが体を止める。そうして倉庫の方を見て、他にも学校の数カ所の物陰も見て、それらから小さな飛蝗が大きな飛蝗へと集って行くのを見届ける。その度に、傷が塞がって行くのも見届けた。
「なるどほ……小さいのに分離、いや逆かもだが。そういうね」
<はい……ですが、多分もうあれで全部かと>
「余裕はない。切羽詰まってそうな面してっからな。つまり、あれを潰せば全部死ぬってことか」
<おそらく>
「じゃあ」
全身から桜色の魔力が溢れ出す。
アキトは全身にチカラが満ち満ちて行くのがわかった。黒衣が揺れ、髪が揺れ、黒棒が流れ込むチカラに震え出す。
「大技いくぞ!」
<はい!>
二人は屋上を飛び出し、黒棒を振りかぶって────
「潰れろ!」
────飛蝗を叩き潰した!
黒棒で叩きつけながら、更に飛蝗を踏み潰すように着地した二人。
飛蝗の、せっかく再生した全身はもっとグシャグシャになっていた。それを見て二人は、どうやら分裂前に破壊されるとどうしようもないことを把握した。
胴体から頭部にかけては酷くへこみ、足も衝撃で数本が千切れている。翅なんて原型がわからないほど。加えて、露出した外骨格の下には焦げた組織が見える。どうやら、先ほどの爆発の損傷は外見よりも遥かに響き、治癒は想像以下だったようだ。
アキトは軽く周囲を見回し、本体飛蝗も小さい飛蝗も、何処にも動いている姿がないことを確認した。
「……まだ生きてるか?」
アキトは長く黒い棒を空振りさせると冷たい声で呟いた。
<──念の為、です>
サキもまた、冷たい答えを返す。
「……ああ、そうだな。念の為だ。もう繰り返さない」
続けて呟くと、握る棒を何度も何度も飛蝗へ振り下ろす。確実に、その命を絶つ為に。十回、二十回、まだ止まらない。
そして、三十回に至る頃。
棒の先端に固いナニカが触れた。
「……これ」
<魔石、でしょうか>
「じゃあ、それ引っこ抜いちまえば魔法も魔力もなくなるのか?」
<た、多分、そうなります>
「んじゃ、確実なトドメといくか」
大きく黒棒を振りかぶり、一閃。胴体を大きく抉ったそれはの奥に隠されていた黒光りする石──魔石を露出させた。アキトはそれを回収すると、改めて飛蝗を強く叩く。そして、体の端から消滅し始めたのを視認すると死骸から降りて、地面に足を付けた。
「これで、もう確実なはずだ」
<はい……>
一息吐く
アキトは消えゆく飛蝗へ視線を送りながら呟いた。
「終わったみたいだな」
その言葉にヒバナは安堵の生きを零しながら答えた。
「そう、ね。協力、感謝するわ」
「一応聞いておきたいんだけど、本体を倒したら小さいのも消える、でいいのか?」
「ん、ええ。そのはずよ。魔法はあくまでも身体機能の一種だから。本体が死ねば末端も……すぐには消えないかもだけど、魔力が尽きればそのまま消える。まあ、周囲には見えないし、多分いないと思うのだけど」
<サキ、いるか?>
<いえ……私にも見えません>
<……一応、叫び声が聞こえたらいつでも行けるよう心構えだけしとこう>
じゃり、じゃり、と。
ゆっくりと、しかし必死に。二人へ近づく影があった。黄色い魔法服を土煙と血、汗に汚し、全身に疲弊を感じさせる魔法少女だ。
それを見たヒバナは、そっと後ろへ退いた。ヒナタの顔を、暗い顔を見てしまったから。多分、彼女が言わなかったら自分も一言くらいは言っていただろうって、共感してから。だからこそ、もっと気持ちが強いはずの彼女に譲った。
「……どうして、到着が遅れたのですか?」
ヒナタが呟いた。
「……」
何も答えられず。しかし、二人はその怨嗟を確かに受け止める為に体と目を真っ直ぐにそちらへ向けた。
「貴女はここの生徒でしょう!? しかも強かった! さっきの飛蝗の魔獣は私たち二人でも苦戦するほどの魔獣です。なのに、貴女はたったの一撃で……」
「……」
「どうしてっ……」
怪我をした生徒がいる。もう取り返しのつかない命もあった。
「──見殺しにしたんですか!?」
慟哭が校庭に染み渡る。決して大きな叫びではなかった。そんな元気は全霊を尽くしたヒナタにはないからだ。だが、だからこその心から溢れた言葉はサキの心に深く滲みた。
「っまさかこの場に来ておいて、今日は学校を休んでました、とか言いませんよね?」
「…………」
暫し、黒衣は黙り込んだ。
それを言い訳を考えていると思ったヒナタは目尻を釣り上げる。彼奴に、救えたはずのヒトを見殺しにした『人殺し』になんと言ってやろうかと。
だが、そう思った直後である。
<……アキトさん。私が、出ます>
<あ……サキがやりたいことなら、頑張れよ>
<はい……>
二人の目の前で、黒衣の魔法少女は雰囲気を変えた。オドオドと、ビクビクと、あの面談の日を思い出させる臆病な少女の物へと。先ほどまでの冷酷な戦意を全く感じさせない弱気な少女へと。
訝しむが、それ以上に目の前の者が何を言うのかヒナタとヒバナは睨んで待った。
「……ひ、否定は、しません。学校にも、来ていました」
「は……?」
急な変貌とよくわからない言葉にヒナタは呆けた。
「わ、私には……戦えるほどのチカラはなかったけど、時間を稼げるくらいのチカラは、あったから」
「なにを、言って……」
サキはアキトが居ないと魔法が使えない。魔法が使えないと魔法服の展開は困難で。魔法服の有無で魔力強化の効果は大きく変わって。でも、それでも、サキが『魔法少女』であることに変わりはない。他のヒトと比べれば魔力強化された肉体の強度は遥かに高くなるから。
だから、サキに勇気があれば。自分の命を賭けてでも時間を稼ぐ行動ができていれば。命は幾つ助かっただろうか。あるいは、何一つ失わずに済んだかもしれなくて。
「……だから、私が……臆病な私が、悪いんです。独りじゃ戦えない弱い私が、悪いんです」
「あなた、は……なにを、言ってるんですか?」
ヒナタはもう訳がわからなかった。黒衣の魔法少女が話すことが何一つ理解できない。言い訳というには自責で、謝罪というよりは懺悔で。まるで古の呪文でも聞かされている気分だった。
「謝って済むことじゃないし、謝れない人もいます」
死んだ者。守ってくれなかった
「だから、何が──「っでも!」……っ」
「わたし、だって……頑張ってるんです……」
「…………」
「見殺しなんて、したくて……してないんですよ……」
その時、遠くから警察や救急に協会の車両が鳴らす警報の音が近づいてくる。それにヒバナとヒナタが気づいた直後、再び黒衣の魔法少女の雰囲気が変わった。否、戻った。見た目が変わったのではない。目付きとか、表情とか、ヒナタたちが疲弊し切って妙に精神が研ぎ澄まされた状態だから気づけたような、微妙な変化だ。
二人は咄嗟に魔力を、もう殆どないそれを、強引に練り上げた。まさか、黒衣の魔法少女が自分たちと戦うつもりなのか、と警戒したのだ。
だが、最悪の想定とは外れて。
アキトは崩れ落ちるように心の世界へ戻って来たサキに代わり、表に出た。
当然、アキトはサキの味方だ。だが、それはそれとして、守りきれず人が死んでしまったのであろう二人の魔法少女の気持ちも少しは理解ができる。できたから、強くは言えなかった。言いたくなかった。
「……一つ覚えて欲しいのは、全力は尽くしたんだ」
「な、何を、どの口で!?」
ヒナタは膝を震わせる。もう立つことすらままならないのに義憤に燃えるその姿は、まさに正義の味方というにうってつけだろう。理想的な魔法少女なのかもしれない。
強い子だ、アキトはそう思った。
「……皆が皆、君みたいに強い訳じゃないんだ。心とか、体とか。戦うのに、勇気の準備が必要な奴だっている。俺だってそうだ」
「っわ、わかりません! 戦うのは守る為! 勇気なんて必要ない! それが当たり前じゃないですか!?」
「ああ。君が正しいよ。チカラのない俺が悪いし、怯える女の子一人に勇気を与えきれない俺が悪い。君は魔法少女として、間違いなく正しい存在だ。そして、強い」
淡々と、粛々と。拳を握り締め、自責するように告白する黒衣の魔法少女。
それが余計に、ヒナタを混乱させる。
「は、だ、だから、何の話を……してるんですか……!」
「ちょ、ちょっとヒナタそれくらいに」
「ですがっ」
ヒナタの義憤は更に燃え上がる。横からヒバナが止めるほどに。
ヒバナとてサキに思う所がないでもない。だが、それでもヒナタが言い過ぎていることくらいはわかるし、友人のそんな姿を見たくなかったのだ。
「その子は協会の魔法少女じゃないのよ。私たちみたいに訓練をして来た訳じゃない。チカラを持っただけの一般人なのよ」
「それ、は……わかってます」
ヒナタは消沈しながら不貞腐れた顔で膝を折った。
「わかってない。私だってもっと早く手伝ってくれたらよかったのに、とかは思ってるわよ。でも、魔獣と戦うのは命懸けなの。それを強要して、しなかったら責めるのは間違ってると思うわ」
「……ですが、魔法少女で」
「皆が皆、私たちみたいに強い訳じゃないのよ」
ヒバナが申し訳なさそうに、しかし瞳の奥には確かな怒気を含めてサキを睨みつけた。必死に取り繕ってはいるが、しかし隠しきれていない。それが、サキにはわかってしまった。
<…………>
アキトは全身からチカラが抜けて行くのがわかった。
サキの心が、酷く沈んでいる。魔法少女として弱体化してしまうほどに。
アキトは少し視界を移した。緊急車両が校門から校庭へ侵入しているのが見えた。
<サキ、どうする。今日はもう、家に帰るか?>
<……っ。はい>
「ん、わかった」
「っ何を言って」
アキトは黒衣を翻し校庭の外へと飛び出していった。
「ま、待て! 待ちなさい! 話をっ」
「あ、ヒナタ!」
手を伸ばし追いかけようと、しかし力の入らない足に転んでしまうヒナタ。咄嗟にヒバナがそれを支えたが、それでも尚、ヒナタは手を伸ばし続け、怨嗟の籠った瞳を黒衣に差し向けていた。
「私は、貴女を──────」
言葉の最後を聞き逃しながら、黒衣の魔法少女は適当な物陰に入るとそこで顔を虚ろにした。
心の世界、アキトはそこでサキと向かい合った。
<……変身、解除するか>
<……>
<でも、合体はそのままで。俺が家まで帰るから、サキはここで休んでてくれ>
<っ……はい>
日差しが眩しい。アキトはボロボロの制服の裾を整えながら、漠然とそう思った。
眩しくて眩しくて。地面しか見ていられない。それで俯きながら歩いていると、まるで自分が何か大きな失敗でもしたような心地になった。
「……ままならねぇな」
腕を前に伸ばし、手を閉じる。そして開く。何も掴めない掌だけがそこにあった。
。以下作者の独り言 。
もっと爽やかな展開にしたいのに、気づけば毎回毎回似たようなジメっとした終わり方してる。多分、癖になってんだろうな……。
。