二シン合体の魔法少女!   作:ももはね

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3話 かいじょう

 

 

 

「ごめんなさいぃ!」

 

 そんな情けない声に、青年は窓から離れると小さな布団にぼすんとお尻を落とした。胡座をかいて、出れないものは出れないのだから運命を受け入れることにしたのだ。

 このまま餓死しないかな、催したらトイレどうすればいいんだ、合体前の足の怪我はどうなっているんだろうか、なんて不安を覚えながら。

 

<はぁ、もういいよ。いやよくはないけども! 別に急ぎの用事もないし、魔法って、あー、イメージが大事なんだろ。俺が便意を催す前になんとかしてくれたらそれでいい>

「あっ……ち、ちなみに、それって我慢できなくなったら……?」

<君の心の世界に排泄物が撒き散らされることになるな>

「っが、頑張ります!」

<おう>

 

 今までで一番の純粋な『頑張ります』に青年は腕を組み頷いて返す。

 

<……まあ、あれだな。こうなっちゃ仕方ないし、(はなし)……聞かせてくれないか>

「話って……」

<どうしてさっき逃げたんだ>

「……っ」

 

 少女はベンチに座ったまま、目線だけをさっきまで居たこことは別の公園へ向けた。

 

「私は、その……えっと……なんて、話せばいいんでしょうか……」

<……まあ、ゆっくりしろよ。この後に用事とかあんのか?>

「……いえ。学校も、もう行くつもりもありませんし」

<……そうか>

 

 心の世界、青年の目が部屋の壁に掛けられていた制服へと向けられた。

 それはセーラー服で、今になって気がついたことだが、さっきまで着ていた『魔法服』に雰囲気が似ている気がした。だが、決して同じモノだとは思えなかった。何故なら、『魔法服』には戦う勇気や希望を感じさせる不思議な雰囲気(チカラ)があったが──汚され、切断され、瑕疵だらけの制服からは悪意しか感じ取れなかったからだった。

 

「その、私は、お母さんと仲が悪くって、ですね。魔法少女ってわかった時に、そのチカラでお金を稼げって言われたんです。でも、その……さっきお兄さんと合体するまでずっと、私、魔法が使えなくて、戦えなくって……もっと、お母さんと仲が悪くなりました」

<……>

「それで、その、四日……いや先週だったっけ。お母さんに、体を売れって言われて……じゃあ、もう……なんかいいやって思っちゃって、家出……したんです」

<……それで、親から何かあったのか?>

「何も。だけど、魔獣を倒したら、私が倒したってバレたら、『魔法少女協会』は未成年の私が戦ったら、保護者に連絡しなきゃいけないんです……戦えるって、稼げるって、バレちゃったら……お母さんは、どうするんだろって」

 

 少女は胸を握り締めながら、溢した。

 

「そう思ったら、逃げちゃいました」

<…………なるほどなぁ>

 

──やっぱヤバいじゃねぇか!?

 

 青年は思わず叫びそうになった。

 心の世界、明らかに尋常でない様相のそれを見て、厄介ごとの気配は肌で感じ取っていた。だが、話を聞くに想像を超えていた。

 学校でイジメを受けている……かは知らないが、百歩譲って、一億歩譲って、それならば転校するとかできるかもしれない。

 だが、よりによって母親から虐待染みたことを受けているのだ。父親がどうなっているのかはわからないが、それが話に出てこない以上はもういない(・・・・・)か、母親に同調していると考えるべきだろう。

 

<その、なんだ……家出して、行く宛はあるのか? 祖父母とか>

「いえ。お母さんは、お母さんのお母さんに絶縁されてるらしいので。父方は会ったこともありません。行く宛も、ありません」

<……あー、うん>

 

 つまり、逃げ場がない。

 

<施設、とか?>

「私、スマホ持ってないですし、何処に施設があるかもわからなくて……そもそも、お母さんはただのヒトなので、魔法少女の私相手に、そう言うのが成立するかも怪しいって……その、中学で、先生が言ってました」

<……あー、うん>

 

──どうすんのこれ。

 

 考えるのが面倒になった青年は小さな布団に転がった。腰辺りから下が完全にはみ出しているがそれを気にも留めない。

 

<…………あー、いや……あー、でも……なぁ……>

 

 一つ案が浮かんだ青年は歯切れの悪い声を溢した。思い浮かんだそれが、非常に馬鹿らしい物で、提案していい物か踏み切れなかったのだ。

 だが、その躊躇いを感じ取った少女は申し訳ない気持ちになって、先んじてそれを拒絶した。

 

「……大丈夫、です。きっと。今日、私は戦えました。お兄さんが居なくても、多分、戦えます。自分一人でも稼いで、生きていけます」

<でも、合体魔法って一人じゃ使えないんだろ>

「それも、平気です。使えなくても……今日、初めて発動させて、なんとなく感覚は掴めたと、思います。『魔法服』の展開くらいは、きっとできるはずです」

 

 

──『私と……契約してください』

 

──『あなたにチカラをあげます。だから、私を守ってください。私と一緒に、戦ってください。私だけの、魔法少女になってください』

 

<……何やってんだか、だっせぇ>

 

 青年は己の顔を掌で覆い隠すと吐き捨てた。それにはこれ以上ないほどの自己嫌悪が含まれており、しかし吐き出した顔には覚悟だけが溢さず残っていた。

 

<言ったもんな、信じるって。君の魔法少女になるって。契約するって>

「……それは、忘れてください。あんな、その、命が掛かった場所で、ズルい取引です。あれは」

<だとしても、君が恩人で、君が居たから俺は助かったし……あの逃げ遅れた子供たちもきっと助けられたはずなのは、間違いない事実だ>

「……はい」

 

 青年は壁際、ハンガーで吊り下げられたボロボロの制服を撫でた。

 

<言っただろ。一応、大人の男なんだぜ。子供が迷ってたら力になりたいんだ。俺に君を助けさせてくれ>

 

 力になってやりたい(・・・・)──なんて言われたら、上から目線の言い方が気に障って拒絶していたかもしれない。

 助けたいんだ──なんて言われても、申し訳なさと、どうして私にそこまで入れ込むんだと不審になって拒絶していたかもしれない。

 

 なのに、なのになのに……力になりたい、助けさせてくれ、なんて言われたら。

 

「……ずるいです。その言い方」

<俺は君と一緒に戦う魔法少女だ。君がそう言ったんだぜ?>

「……はい」

<だから……これから、君の家に行こう。それで、母親がめんどくせぇこと言いやがったら……まあ、あれだな。変身して家を飛び出してやろうぜ>

「へんしん?」

<あ……いや、あれだよ。合体魔法で『魔法服』出すやつ。こういうのはお約束の言い方があるんだよ>

 

 へんしん。変身、あるいは変心か。

 

「ふふっ」

 

 青年のまるで言い訳でもするかのような口調に不安が薄れ、その隙間に少女は『へんしん』する勇気が生まれたのを感じていた。

 

「……でも、どうして私の家に?」

<あー……あれだ。母親が、あまりにもあんまりだったら……よければ、俺の家に来るか? ウチは親が居ないから二人になっちゃうけど、魔法少女なら(おとこ)一人くらいは簡単に捩じ伏せられるし。いや、別に変なことするって訳じゃないからな!?>

「わ、わかってますって」

<だから、その前に三者面談じゃねぇけどさ……流石に、詳しい事情を確認もせず人を家に連れ込みたくはないし……>

 

 青年は口籠もりながら、意を決して呟いた。

 

<こういうのは言いたくないし、言うべきじゃないのはわかってて、その上で言うけど。やっぱり、できれば子供は親と過ごすべきだと俺は思ってる。だから、話が通じそうなら説得くらいはしてみたい>

「……それは」

 

 虐待されている子供に対して、その親と一緒に暮らすべきだ。なんて宣うのは救世主願望のある偽善者の傲慢だ。

 青年はそれがわかった上で、しかし自分が偽善者だとわかっているからこそ、偽善者なりの『責任』を背負うべきだと、少女だけではなく自分にも言い聞かせるように言葉を続けた。

 

<わかってる。娘に体売れなんて、現代日本じゃあとんでもねぇことくらいはわかってる。でも、君はまだ子供だ。それを俺の身勝手な助けたいって気持ちで家に連れ込むんなら、やっぱり現状は確認しときたい。それが、責任ってことだと思うし> 

「……はい」

<だから……気に食わねぇやつだったら出てくって一方的に吐き捨てて飛び出そうぜ>

 

 青年は努めて傲慢に明るく言い切った。

 それに少女は小さく頷く。今は勇気が己の中にある。だからこそ、今のうちにせめて最後くらは何かしら母に対して見返してやりたいという、まだ未熟で可愛らしい復讐心が芽生えたのだ。

 こうして、青年による少女の現状を確認したい気持ちと、少女による母親へ罵倒したい気持ちが重なり合って、急遽青年と少女とその母親による三者面談が決行されることになった。

 

<じゃ、早速行くか>

「はい……っあ!」

<どした?>

「に、荷物……あっちの公園に置いたままでした……」

 

 少女は変身状態の為に所持していた『魔法の杖』を除き、それ以外の荷物の全てをあっちに忘れていたのだ。突発的に逃げ出したせいである。

 

<あー……俺は身に付けてたので全部だから平気だけど、取りに行く? 急ぎじゃないしな>

「は、はい……」

 

 なんともまあ決まり切らない出だしではあったが、とりあえず二人は出発した。変身はせず、少女は地味の格好のままであった。

 

<せっかくだし、自己紹介くらいしとくか>

「あ、は、はい!」

<俺は秋山(あきやま) 暁人(あきと)。近くの大学通ってる学生だ。そっちは?>

「せ、芹須(せりす) 咲来(さき)です。高一です。よろしくお願いします」

 

 少女の緊張が手に取るようにわかる硬い態度に青年──アキトは苦笑を溢した。

 

<ああ、よろしく>

 

 それから数十分後。

 一人(ふたり)の姿はとある住宅街の一軒家の前にあった。小綺麗だが、事前情報のせいか何処となく暗い雰囲気の家であった。

 

<一軒家かよ。アパートかと思ったわ>

「あ、あはは。私の部屋、一番小さいとこでしたから。それじゃあ、行きますよ」

 

 少女──サキは鞄から鍵を取り出すと、それを扉へと挿し込む。

 

──ガチャリ。

 

 開錠の音が、夕焼け空へと静かに響き渡る。

 それはアキトによる状況を把握する面談場への入場を意味し、サキによる母への小さな復讐劇の幕開けでもあった。

 

 

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