二シン合体の魔法少女! 作:ももはね
家に入り、手洗いうがいを済ませたアキトは洗面所の鏡に映るサキの姿を眺めた。
第一印象、小さい。
まず、背が低い。成育環境が酷かったせいか、栄養失調が続いていたのだろう。140から150cmあたりに見える。胸や尻も小さく、小学生か中学生に混じっても違和感がないほど。
髪も短い。肩より上ほどの長さで、先っぽは一部バラけており整っているとは言えない。やはり環境の悪さを感じさせた。
<あ、あの……そんなに見つめられると、恥ずかしいんですけど……>
「ああ、ごめん」
それと、服が汚かった。元々小汚い物だったのはわかるが、それに加えて魔獣と遭遇して逃げる際に何回も地面を転がったから各所に泥や砂が染み込んでいたのだ。
「いや、汚いなって」
<そう、ですね>
「お風呂とか浴びて欲しいんだけど……」
〈……ふぇ?〉
「んんっ変な意味じゃなくて! 家汚れちゃうし、サキも汚いままは嫌じゃないか?」
〈いえ、そこまでは……シャワーも冷たいから、好きじゃなので……〉
「っぐ、また重い話を……」
暖かいシャワーを知らない──それを思わせる発言をしたサキに、思わず口籠もる。既に女子高生に風呂を勧める成人男性というとんでもないことになっているが、決してそこに性欲は存在していないし、事情を知った今はより一層その気持ちが強まっていた。
「あ、心の中ってサキの世界なんだよな。カーテン閉めたりして、俺を外から完全に閉ざすことってできないか?」
〈え……や、やってみます、か? 本当に良いんですか?〉
「ああ」
既にアキトは肉体を奪われるという悍ましいはずの状況であるにも関わらず、更に自ら外界との接続を完全に切り離すことを提案する彼に、思わずサキは引いた。
ドン引きしながら従ったサキはアキトを自身の世界に完全に閉じ込めるイメージを浮かべた。
直後、心の世界の中心にアキトの姿は現れた。同時にその手足には天井から伸びた枷が着けられた。また、出現と同時に窓のカーテンは閉められ、アキトは完全な監禁状態となった。
〈できちゃいました、ね〉
〈な。つーか、俺たち二人とも中に居るけど、体の方どうなってんだ?〉
〈あ、えっと……ぼーっとしてますね。でも、動かそうと思えば動かせるみたいです。えい!〉
外の世界では虚な瞳のサキが
〈なんかしてるみたいだけど、俺からは見えないからね?〉
〈あ、そっか。アキトさんは窓がないと外見れませんもんね〉
〈そっちは窓無しで見れるのかよ〉
心の世界にて、アキトには様々な制限が掛けられている。簡単に言えば、サキの許可がない又は制限を掛けられると凡そ全ての行動が不可能になると言っていいだろう。現状、手足を拘束された上に外の世界の五感とは切り離されているのだから、もはや人間と言っていいか怪しいレベルで尊厳が存在していない。
逆に、サキには制限が一切存在しない。それもそのはず、言うなれば彼女が心の世界の主、神なのだから。ルールを作り縛ることはあっても、縛られることはないのだ。
<シャンプーとか安い奴しかないけど適当に使ってくれていいから。じゃ、風呂上がったら教えてくれ>
<わ、わかりました>
+ + +
およそ10分後。
風呂を上がったサキは心の世界で待っていたアキトへ声を掛け、同時に監禁も解いた。部屋のカーテンが開き、手錠が天井へと消えていく。
<あ、上がりました。ありがとうございます>
<おっけー。台所まで行って冷蔵庫適当に漁ってくれ。なんでもいいから>
最後に母が給湯機の電源を消し忘れたのはいつだったか、サキは思い返す。おそらく5年以上は前だろう。すごく久しぶりにお湯を浴びたサキはほかほかした顔で洗面所を出た。それから、初めての他人の家なのでおぼつかない足取りで台所に向かうと、恐る恐る冷蔵庫の引き出しを幾つか開いた。
<菓子パンでも冷凍でもいいぞ。悪いけど、料理は時間掛かるから無理だけど>
<は、はい……じゃあ、その、これで>
そう言ってサキが手に取ったのは冷凍のオムライスだった。
<オムライスか>
<学校の給食で、好きだったんです>
<そっか。ケチャップもあるし足していいからな>
<ありがとうございます>
サキは辿々しい手付きで包装を破くと、電子レンジを前に固まった。
<あ、あの、これどうやって使えばいいんですか?>
<あー、温度と時間がそれだから、とりあえず入れてもらって、それからそのボタンを押して……よし、できたはず>
それからグルグルと音を立てて加熱する電子レンジを見つめながら、完成を待つ時間が始まった。
一分、二分、何も話すことはなかった。動くこともない。
ぐるぐる、ぐるぐる。
その間、サキは何も話さない。動かない。
流石に言動がなさすぎてアキトが不審に思っていると、ガクンッと世界が揺れた。
<うおっ!?>
「っひゃ!?」
<ど、どした?>
アキト以上に動揺しているサキは、瞼を擦ると申し訳なさそうに頭を下げた。
<す、すいません……寝ちゃってました>
<あー、そういえば昨日とか寝てないっつってたな。ていうか、サキが寝たら俺ってどうなるんだ?>
母との関係に区切りが付き、時間が経って、シャワーを浴びた。体の緊張が途切れ、サキの体は過労と睡眠不足の影響を強く受け始めていたのだ。この調子ではまた遠くない内に気絶するだろう。
ちょうどその時、電子レンジがピーピーと完成を知らせた。
<とりあえず、ご飯にするか。食べ終わったらもう寝よう。詳しいことは、また明日話そうか>
<すいません……>
<謝らなくていいよ。冷める前に食おうぜ>
アキトに従うままに、サキは熱くなったオムライスとその容器を指先で摘むように持ち歩いて席に着いた。
<い、いただきます>
サキは冷凍の、インスタントのオムライスをジッと見つめた。
卵が黄色く光りケチャップが赤を彩る。その下からはチキンライスが顔を覗かせていた。立ち昇る白い湯気を僅かに吸うだけで旨味が喉を伝った。そんなほかほかのオムライスに不恰好な持ち方のスプーンが突き立てられる。
<お、おいしい……>
<インスタントも最近は美味いのばっかだからな。急いで火傷すんなよ?>
<ひゃつっ……ふぁいぃ>
それから、黙々と一心不乱に食べ進めたサキ。
だが、残り僅かのところで再びガクンッと姿勢を崩した。
<サキ?>
返事がない。
数秒ほどすると、心の世界に目を瞑って横になったサキがふわりと出現したではないか。
寝ている。
どう考えても寝ている。
起こそうか、そう考えてアキトはすぐに否定した。
仕方なく心の世界を出て、体の制御を獲得した彼は残りのオムライスを掻き込んだ。
「ふぅ……
意外そうな顔で手の開閉を繰り返しながらアキトは呟いた。それから、懐にある『魔法の杖』を触った。
「変身は……いや、やんないけどさ」
虚空に向かって言い訳をしながら食器を持ち上げ、台所へ。素早く洗い物を済ませると、洗面所の棚から替えの歯ブラシと歯磨き粉を取り出して歯磨きを済ませる。
「寝る前にトイレしとかないと落ち着かない質なんだけど……流石になぁ」
お漏らししないか、又はされないか。
とりあえずそれは忘れることにしたアキトに、次なる悩みが浮かぶ。
何処で寝ようか問題である。
いつもなら自分のベッドで寝るのが普通だ。だが、この体は現役女子高生の物。それも親戚などではなく今日会ったばかりの他人のだ。成人男性が普段使いしているそれを使わせて良いものだろうか。
「あ」
ふと思いついた。
この家には現在アキトしか住んでいない。だが、数年前までは祖父母も一緒に暮らしていたこと、そして彼らのベッドが残っていることを思い出した。最後がいつかは覚えていないが、とにかく一度は洗ってあるはず。なので、自分の使用済みよりかは遥かに清潔だろう。それに祖母も次にいつ帰ってくるか、帰って来ても使うかは怪しいので特に遠慮も要らないだろう。
アキトは祖父母の寝室へ移動した。
そして、改めてサキの体を見てみると、着替えて別の物ではあるがパーカーとジーパンのままで、とても寝巻きとは思えない格好。少し悩んだが、勝手に着替えるのはよくないだろう。仕方ないのでそのままの格好で、祖母の布団に体を横たえた。
魔法の杖を枕の横に置き、部屋の電気を消し、寒くないように毛布も被り、これで完璧だと鼻を鳴らす。
「目が覚めたら分離できるようになってますように、っと。おやすみ」
目を閉じると、すぐに意識は遠のいて行った。
。
書き溜めの次次回では戦闘に入れた……やった!