二シン合体の魔法少女! 作:ももはね
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親が喫煙家だと子供はちょっと苦労しそう(小並感)
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臭み、激痛、不快感の三重苦にアキトは意識が浮上した。
「……っ、痛……んだ、これ……?」
まずは臭み。
煙草と薄ら香水の臭い。電車で隣に来るとかなり不快に感じる類のそれ。
次に激痛。
腿の辺りに何かが貫いたような痛みだ。
そして不快感。
ドロリとした液体が下半身を濡らし、全身からは冷や汗が吹き出していた。
あまりの辛さに目を開き、そして見開いた。
「……わ、別れてる?」
目の前にあったのは見慣れぬ少女──いや、サキの顔であった。
あどけない寝顔を晒す彼女はむにゃむにゃしながら小さく丸まって寝ていた。まるでダンゴムシ。
だが、そんな可愛らしい寝相はすぐに思考の外へと放り投げる。
分離、元の体。
もしや──アキトは激痛を堪えながらなんとか体を起こすと、自分の足を見た。そこには彼の想像通り、指一つ分ほどの穴が空いていた。忘れもしない、蜘蛛型の魔獣の体毛針で貫かれた箇所。
「はぁっ……くっそ……今更、こんな……」
家に救急箱は常備してある。それを取りに行かなければ、そう思い立ち上がった直後、寝起きと多量出血の貧血で脱力し、ばたんっと音を立てて転んでしまう。
「ぐはっ……」
足からの出血が止まらない。大きな血管でも傷ついているのだろうか。そう言えば腿と言えば、怪我したら不味いところランキングでも上位入賞しているっけ……なんて、取り留めなくどうでもいい考えが加速し、次第に意識がぼんやりとしてくる。
「……ぁれ……あきと、さん……?」
すんすん、と。鼻を鳴らしながらサキが体を起こす。臭いと音に目が覚めたのだ。そして、
「……っ!」
床に倒れ込み、血溜まりを作ろうとしているアキトの姿に目を見開いた。
「え……いや、なんで……どうし──違う」
サキは咄嗟に懐へ手を遣り、『魔法の杖』がないことに動揺。だが、すぐに周囲を見回し枕のすぐ横にそれがあることを発見。素早く手に取ると、背と腕を精一杯伸ばして跳び上がるようにアキトの体へ手で触れた。
「変身!」
直後、二人の体を光の繭が包み込む。そして、一人の黒い魔法少女が姿を現した。
それは目を開けることなく、ぼんやりした様子でベッドに転がったまま動かなかった。
心の世界、そこへ飛び込んだサキはアキトの姿を探し、部屋の中央で蹲っている姿を見つけると慌てて近づいた。
<あ、アキトさん! 大丈夫ですか!?>
<……た、多分……その、変身してくれたんだよな。ありがと。助かったよ>
脂汗を拭いながらアキトは自分の足を見た。どうやら、心の世界にまで怪我は影響を及ばさないようで特に出血は見当たらなかった。昨日がそうだったのだからそれもそうか、と息をつく。
<い、いえ……でも、その、何があったんですか?>
<わかんないけど……とりあえず、いつの間にか分離してたらしい。それで合体前に俺って足に怪我してただろ。そのせいで多分死にかけてた>
<な、なるほど……ごめんなさい。私が、その、合体を維持できなくて……>
<態とじゃないんだし、しょうがないだろ>
自責の念に駆られ俯くサキを、アキトは慰めながら近くの壁に凭れかかった。
<ちなみに、分離って意識してできそう?>
<……はい。なんとなく、できそうだなって感じました。どうしてだろ……?>
できなかった
<まあいいよ。魔法なんて、できるからできるしできないからできないってもんじゃないのか? よく知らないけど>
それはそうと一応アキトも軽く考えてみるが、やはり分離ができるようになった条件がわからない。だが、考えてもどうせわからないと、その思考を丸ごと放り捨てた。
<じゃ、救急車呼ぶか。近くに来たら分離して、そのまま病院行ってくるわ>
<は、はい>
<とりあえず、体の制御と、また合体しちゃったから俺のスマホ出してもらえる?>
<わかりました……えいっ>
言葉と同時に、ベッドに転がっていた体にアキトの意識が宿り、手元には彼のスマホが出現した。
「……あ、すいません。ちょっと足を怪我してしまって……あ、いえ、この体、じゃない、同居人がです。はい。意識はありますので────。」
+ + +
それから数時間後。
検査の結果、幸いにも骨折や細菌感染などはなく、ただ出血量だけが少し遅れていたら大変なことになっていた程度であった。以上とのことで、病院にて適切な治療を受けたアキトは何とか命に別状はなかったから包帯などで処置された上で退院していた。
「いやー、とりあえず問題ないみたいでよかったわー」
「ほ、本当によかったです……死んじゃうかと、思いました」
「いやいや、サキのお陰だよ。咄嗟に合体してくんなきゃ、あのまま死んでたかもだし」
死んでたかも、その言葉にサキの胸元で握られていた拳がぎゅっと音を鳴らす。
片足を庇いながらの遅く不恰好な歩き方のアキト、その横を歩調を合わせるサキが並んで歩く。
「……早く、お家に帰って休んでくださいね」
「ああ……あとさ」
口籠るアキトに、サキが首を傾げる。
すんすん、と鼻を鳴らしたアキトは気まずそうに呟いた。
「……合体してたから気づかなかったんだけど、ちょっと臭くね。煙草と香水混じった感じ」
その言葉に、サキは泣きそうな顔を誤魔化す笑みを浮かべた。
「あ、あはは、ごめんなさい。学校でも言われてました。その、家に帰ったら、着替えますね」
「いや、多分あの家から持って来たやつ全部臭いんじゃね」
「……っ」
「洗濯物どうやって干してたのか気になるくらい。もしかしなくても、部屋干しで、そこで煙草吸ってたんじゃない?」
「わ、私は吸ってませんよ……?」
「母親がだよ」
「うぅ……」
あまりにも直球で放たれた言葉がサキの心を抉り、涙がぽろりと溢れ出た。
「だから、帰ったら一旦全部洗濯するとして……必要な物とかないか? サキからすれば引っ越しだし、色々と買い揃えなきゃいけない物もあるだろ」
アキトは「服とか食器とか、あとまあ色々と」とぶっきらぼうに付け足した。だが、サキは自身の金銭事情に首を横へ振る
「でも、その、お金が……」
「魔石は?」
「あっ」
サキは持っていた鞄から小さな黒光りする石を取り出した。昨日、魔獣から採りたてほやほやの『魔石』だ。
「一緒に暮らすって言ったのは俺だ。生活費は出すけど、流石に全部ってのはキツイから。悪いけど、それで貰える金使って少しは揃えてくれ」
「……お金」
今までお小遣いなんで貰ったことのないサキにとって、初めての自分だけのお金。自分が自由に使えるお金。そう考えると、この石がとても輝いて見えた。
実際、弱々しくも発光しているのだが。
「そう言えば、学校はどうするんだ? 今日は日曜だけど、明日から平日だろ。制服はあるのか?」
「が、がっこう……」
サキは俯いた。
イジメられていた訳ではないが、同級生たちに距離は置かれていたのであまり居心地はよくなかった。加えて、少し前に制服を母の手で破損させられて以来、不登校になっていた。そのせいで個人理由で長期間休んでしまうと強烈に行き辛くなるアノ現象が発生していた。
「まあ、無理には言わないけど。通信高校ってのもあるらしいし。でも……せっかく自由になったんだから、未来の選択肢を増やす為にも学校は行っといた方が良いとは思うぜ」
「未来の、選択肢……」
今の高校すら、無職よりも高校生の方が都合が良いという理由で母に命じられ入った物だ。今までは
だが、答えは本人すら驚くほど早く口に出ていた。
「わかり、ました。学校には行きます。制服は……ボロボロですけど、まだ使えるので平気です」
「そっか。これからも、頑張れそうか?」
「はいっ」
サキは昨晩食べたオムライスの味がまだ頭から離れていなかった。
「将来も、おいしいご飯を食べたいので。なら、学校くらいは頑張らないと」
「ははっ、食い意地かよ」
「だ、駄目でしょうか?」
「いや、いいんじゃね。大事だぜ食事は。心身の糧となる健康の基本だからな。俺も、体に良いもん食って足治さないと」
その時、遠く離れた場所からけたたましい警報の音が鳴り響いた。
周囲の人々も驚いた顔で音の方向へと意識を向けていた。
「っこれ、魔獣の?」
「また出たんでしょうか……?」
二人は目を見合わせた。
サキは不安気に瞳を揺らし、アキトは確固たる意志の宿る瞳で貫くように。
「サキはどうしたい?」
「私は……」
サキは懐から『魔法の杖』を取り出した。
「戦いたいです。きっと魔獣に襲われている人がいます。助けを求めている人がいます。それに……」
「……?」
気まずそうに、気恥ずかしそうに、サキは呟いた。
「……その、お金も欲しいので」
「っはは、素直でよろしい。じゃあ、あっちの物陰で変身して行こうぜ。目立ちたくないし」
「……」
片足を引き摺りながら裏路地へ向かうアキト、だがサキは動かず悲痛な顔で彼の足を見つめた。
「……いえ、アキトさんは来ないでください」
「は?」
「足、怪我してるじゃないですか」
「平気だって。医者も一ヶ月くらい安静にしてれば治るって言ってたし」
「安静に、ですよね。戦っちゃ駄目じゃないですか」
アキトは『それはそう』と思いつつも手を振って否を示す。
「でも、合体してれば平気だろ? むしろ、サキは自分の体を心配すべきだ。戦うのはそっちの体なんだから」
サキは首を振ると駆け足でアキトを追い越し、路地の物陰で杖を握り締めた。
「変身っ」
杖の先端、蕾が淡く光り──何も起こらない。
「え……変身、変身、変身っ。なんで……!?」
魔力は杖に送っている。戦う意志もある。だのに、『魔法の杖』は
「サキ」
「……あきと、さん」
涙ぐみながら振り返ったサキ、その手をアキトは包むように握った。
「契約しただろ。俺は君の魔法少女だ。君が困っているなら、君が誰かを助ける為に戦いたいなら、俺にも一緒に戦わせてくれ。俺に、君のチカラを与えてくれ」
「……でも、今朝のことが……心配で」
サキにとって、アキトは初めて明確に味方となった存在。それがたった一晩の内に失いかけていたという恐怖がトラウマになりつつあったのだ。
「それも助けてくれたのはサキだろ。だから、今度は俺がサキの助けになる番だ」
「……はい」
「不安かもしれないけど、信じてくれ。俺はもうサキを信じてるから」
──『君は俺を信じられるのか』
──『助けてくれました。信じています』
昨日、魔獣を前に紡がれた誓いがサキの心を押し流す。
杖を握る力が弱まり、それと反比例してサキから握り返すアキトの手に加わる力が強まった。
「変身」
光と共に黒衣の魔法少女が姿を現す。
「じゃあ、行くか」
桜色の髪を揺らし、それは路地を飛び出した。