二シン合体の魔法少女!   作:ももはね

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8話 暖色の魔法少女

 

 

 魔法少女協会、それは魔獣の脅威から人類を守る為に立ち上げられた魔法少女たちを中心に始まった組織。一応、非政府組織ではあるが、公共機関との提携を行う場面は多く、市民からは半官半民のような扱いを受けている。

 そんな魔法少女協会が行っていることは主に以下の通り。

 魔法少女の管理、支援、保護、及び魔獣発生時における魔法少女戦力の派遣及び魔獣又は魔力災害を受けた地域の復興活動。端的に言えば、魔法少女の養成所及び派遣会社である。

 

 今日、そんな協会に所属する二人の魔法少女が日本の某所へと派遣された。

 まだまだ陽の浅い早朝。とある車両がレールを鳴らしながら凄まじい速度で走行しており、そこには二つの暖色な影があった。

 

 片や、赤髪に赤い瞳の少女。

 片や、黄色の髪と瞳の少女。

 揃って上が白で下が黒のセーラー服を着ており、胸には『魔法少女協会』の所属を示す花弁の描かれた胸章が付けられている。

 その側には大きな鞄が二つ置かれており、泊まり掛けなことが伺えた。

 

 走る電車の中、赤い髪の小柄な少女が不機嫌そうに呟いた。

 

「なんか蜻蛉返りしてるみたいで嫌になるわね」

 

 横に座る黄色の髪の少女が、腰ほどまで伸びる髪を胸の前で撫でながら答える。

 

「しょうがないですよ。立て続けに魔獣が出たのですから」

「だとしてもよ。どうせ連続して出現するのはわかってたんだから、最初から私たちは滞在でよかったじゃない」

 

 その言葉に黄色髪の少女が目くじらを立てる。

 

「ちょっと、それは協会で秘匿されていることですよ」

「他にお客さんが居ないんだから別にいいじゃない」

「そう言う油断が慢心を産むんです」

「わかったわよ。私が悪かったわ。とにかく、今度こそ滞在が決まったんだから。色々と頑張らないとだけど、それにさえ集中すれば良いから気が楽だわ」

 

 赤髪の少女が「んっー!」と腕と背を伸ばし大きな胸を反らしながら言うと、黄髪の少女は呆れたように息を吐く。

 

「……まあいいです。ヒバナさんのそう言うところは嫌いですが、やるべきことをしっかりやると信頼はしてるので」

「ヒナタは硬すぎるのよ。ちょっとくらい気を抜いてもいいじゃない」

「駄目です。私は裁判官の父のような厳格さ大切にしていますので」

 

 赤髪の少女──ヒバナは肩を竦めながら外を眺めた。

 黄髪の少女──ヒナタは鼻を鳴らすと改めて背筋を伸ばし電車内の電光掲示板を見遣る。

 

「……そう言えば、これから行くとこに居るのよね、魔法少女が」

「わかってたことじゃないですか。一昨日、昨日と私たちが向かい、しかし既に倒されていたのですから」

 

 不機嫌そうに答えたヒナタに、ヒバナは笑みを浮かべた。

 

「なによ、気に入らない?」

「ええ。件の魔法少女は魔獣を倒した後、魔石だけを回収して姿を消しましたから。本来ならば、協会職員の到着を待ち、魔獣の詳細を報告、そして迅速に魔石を提出すべきです。なのに、それを怠った。好む要素がありません」

 

 ヒナタは澄まし顔だ。なのに声音から心底気に食わない気持ちがありありと伝わってくる。それが何だか面白くて、ヒバナは話を続けることにした。

 

「でも、法律とかルールを破ってる訳じゃないわよね?」

「それは認めます。ですが、規則でないからと何をしても言い訳ではありませんし、何をしなくても良いという訳でもありません。魔獣の死骸は危険であり、犯罪に悪用できます。それを放置だなんて言語道断に過ぎますから」

「それもそうね。じゃあ、見つけたら叱るの?」

「当然です」

「……ていうか」

 

 ヒバナは顎に手を遣ると珍しいことのように呟く。

 

「その子、協会の所属じゃないんだってね。最近じゃ珍しいわよね」

「らしいですね。より正確には、『杖』を受け取った際に所属はしたけれど、上手く魔法が扱えず、活動実績の空白や講習の未受講などから除籍されたそうです」

 

 淡々と話すヒナタに、ヒバナは困惑気に首を傾げた。

 

「……ん? なんかおかしくない?」

「何かとは?」

「いや、普通魔法少女なら産まれた時から協会所属でしょ。『杖』を受けとった際に所属っておかしいじゃない。それに、魔法が使えないなんて魔法少女としては大き過ぎる欠陥よ。てっきり、引退したけど戦ったとか、別の組織に入ったんだと思ってたんだけど」

「ああ、それですか」

 

 合点がいったとばかりにヒナタは手を叩き合わせ、とても長い自分の髪を纏めながら答える。

 

「それについて。調べた所、どうやらそもそも特殊な事例の方のようでした」

「特殊?」

「ええ。魔法少女は産まれた時から魔法少女です。ヒバナさんも、それ故に産まれてすぐ協会へ預けられ、そこで育ったでしょう?」

「まあね。ウチはお母さんが魔法少女じゃないし。成人男性並みに力が強い赤ん坊なんて、一般家庭じゃ面倒見れないもの」

 

 魔法少女は産まれながらに魔法少女であり、産まれながらに非魔法少女のヒトとは生物としての格が違う。それ故に、協会は魔法少女の赤子を引き取る保育所としての側面もあった。

 

「でも、極稀に居るらしいですよ。普通の家庭で育つ魔法少女が」

「それってあれでしょ。病院の検査がザル過ぎて気づけなくって、家で赤子を抱いた親が骨折られて発覚するやつ。田舎だとままあるらしいわね」

「ですね。ですが、今回は全く違います」

「じゃあ思春期になって魔力が成長して初めて発覚したってやつ?」

「どちらかと言えば、違います」

「じゃあ何よ」

 

 目を外からヒナタへと向けたヒバナ。

 ヒナタは微笑みながら答える。

 

「無意識の内に魔力を抑え、身体能力をヒト並みにまで下げてしまう方が居るのだとか」

「……いや、それなら私だって少しくらいできるけど」

「産まれた時から、ですよ」

 

 ヒナタの言葉に、ヒバナは目を瞬かせる。

 

「新生児が、魔力操作を? それも、かなり高度な」

「はい。天才ですね」

 

 淡々と語るヒナタ。ヒバナは慎重に問いかけた。

 

「……居るの?」

「極稀に。ええ、まあ、勿論、才能がなさ過ぎて弱かったから、魔法少女なのに気づけなかった、なんて可能性もあります。こっちの方が大多数ですし」

 

 ヒバナは自身の赤い髪を摘んだ。

 

「そりゃあね。去年も何人か中等部に新しい子が入ったらしいけど、あれもそれよね。思春期特有の強い感情で魔力が刺激されて、色彩が変化して初めて気づいたー、ってやつ」

 

 まずもって魔法少女は産まれてすぐにその膂力から判明するし、そうでなくても大手の病院であれば検査に掛けられて判明する。そのどちらもすり抜けたとなれば、才能が無さ過ぎて見過ごされた上に田舎過ぎて検査がザルだった二重の噛み合わせが必要だ。

 それがまだ現実的な考えである。

 まさか、手練の魔法少女ですら困難な魔力強化を極限まで抑え込む芸当を、新生児の赤子がやっているだなんて馬鹿げた話である、とヒバナは腕を組んで話半分に聞き入れる。

 

「ですが、今回の場合は魔獣を倒していますから。それも、おそらくは単独で。迅速に」

「……天才の可能性が高いってことね。どうしてそんな常識からはみ出した奴がこんな田舎に居るのよ」

 

 なんて吐き捨てたヒバナは「んん?」と顔を顰める。

 

「……その子、魔法が使えなくって除籍されたのよね」

「ええ」

「別の組織に入るとか一般人として進学とか就職するために引退したとかじゃなくて、才能がないから除籍されたのよね」

「あまり人を悪く言うものではありませんよ」

「……魔法が使えないと『魔法服』の展開もままならないはずだけど。どうやってそれが魔獣を倒したのよ」

 

 理解できませんとばかりに眉を困らせるヒバナ。それにはヒナタも困ったように腕を組む。

 

「さあ、何かあったのでしょう」

「そりゃ何かあったから戦えるようになったんでしょうけど」

「魔法少女は、良くも悪くも精神状態に大きく左右されますから。きっと、魔法の妨げになっていた悩みが解決したのではないでしょうか」

「……それで納得すると思ってるの?」

「ですが、水魔法使いが洪水で溺れたことをきっかけに魔法が使えなくなった話は有名でしょう? その逆もですよ」

「えぇ……?」

 

 納得していないヒバナを他所に、電車は動きを止めた。それに合わせてヒナタは立ち上がると荷物を持ち上げた。

 

「さ、着きましたよ。行きましょうか」

「……わかったわよ。まあ、詳しいことは本人に聞くしかないものね」

「それが確実でしょう」

「じゃあ、最初は支部に行って泊まるとこの確保、荷物置いてちょっと休憩したら、また移動よね?」

「はい」

 

 二人は電車を降りた。

 ヒバナが背を伸ばして体を解している横で、ヒナタはスマホを取り出すとそこに協会から渡されていた電子書類のデータを展開し、ヒバナへと見せた。

 

「芹須(せりす)咲来(さき)、桜色の魔力光の魔法少女」

「それがターゲットね」

 

 ヒナタはスマホを仕舞うとカードを取り出して改札を通り抜け、続くようにヒバナも通る。

 

「別に倒すとかじゃないんですから、その言い方はおかしくありませんか?」

「調査対象って意味。何よ、物騒な考えね」

「あら、失礼しました」

 

 歩く度に二人の履くブーツが床を鳴らす。

 近くで会社員が歩くとカツカツと革靴が鳴らす。近くを学生が通るとスタスタと運動靴が鳴らす。老人が去っていくとミニミニとサンダルが鳴る。

 

「彼女の調査はあくまでも、可能なら、です。魔法少女としてのチカラを悪用している訳ではありませんからね。暴力などもっての他です」

「わかってるわよ。ヒナタこそ、今回の目的はちゃんと覚えてるんでしょうね?」

 

 早朝のまだ人気の少ない構内に、しかし小さくはない雑踏が響き渡る。人々が何処からともなく現れては何処かへ去っていく音だ。それは確かに、静かな二人の会話を周囲の空気へと紛らわせる。

 

「頻出期に入ったこの町に滞在し、出現する魔獣を全て倒すことが第一」

 

 二人の視界に、構内からでも外の光が見えてきた。

 

「例の魔法少女を調査し、合体魔法の詳細や素行の確認が第二」

 

 構内の籠った空気の中に新鮮な外の空気が混じりだす。

 

「そして、彼女を勧誘し可能であれば協会への再所属を願い出るのが第三」

 

 日差しが二人を照らし、しかし木陰がヒナタを暗くする。

 

「しかし、もしも……その魔法少女が────

 

 ヒナタの脳裏に思い返されるのは、昨日見たばかりの死体。鉄を纏う蜥蜴の魔獣との戦場にて、死亡した唯一の死傷者のこと。そして、戦闘を映していた監視カメラの映像記録。

 

 彼女(・・)はそれを見殺したのか、助けるのが間に合わなかったのか。それは遅れて到着した自分にはわからないし、助けられなかった自分には責める権利がないと、ヒナタは思っている。

 でも、そうだとしても。

 魔法少女がヒトを──強者が弱者を──大いなる力を持つ者がその責任を果たせずに死者を出し、その上、死者に対して手をあわせるだとか、頭を下げるだとか、償いを見せなかったことがヒナタは非常に気に食わなかった。

 

────罪を犯す『魔女』であったのなら、倒すこと」

 

 今日、サキとアキトの暮らす町に二人の魔法少女が到着した。

 




 
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