二シン合体の魔法少女!   作:ももはね

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9話 おにぎり

 

 朝、スマホのアラームで目を覚ましたアキトは足の痛みに顔を顰めた。貫かれた傷はまだ治っておらず、鎮痛剤がなければ悶えること必至。土日が終わり、今日から大学の授業があるのだが、この痛みはそれを強く億劫にさせた。今まで真面目に励んでいたので、今日くらいは……いや、一週間くらいは休んでもいいか、と。とても真面目とは思えない結論が脳裏を過ぎる。

 

「二度寝するか……」

 

 そんな彼の部屋に、遠慮がちなノックがされた。

 痛む足を庇いながら扉の錠を解き、扉を開くと、ボロボロの制服を着たサキが申し訳なさそうに立っていた。

 

「あの、その……」

「おはよ」

「あ、は、はい! おはようございます!」

 

 眠気を堪えがら挨拶を終えたアキトは改めてサキの姿を見る。

 黒髪黒目の小柄な女の子。髪は肩より少し上まで伸びていて、前髪だけは目にかかりそうなほど伸びている。高校の制服はボロボロで、思い切り引っ張ればその瞬間にただの布切れになってしまいそうなほど。

 本当ならば制服も新しい物を買い与えるべきなのだろうが、アキトとしてはそれは過干渉ではないか、高価な物を買い与えるのはやりすぎじゃないか、そもそもすべきことなのか、と悩み中であった。

 

「それで、どうかした?」

「その、これから家を出るんですけど、鍵を持ってないから、鍵を閉められなくって……」

「ああ、そういう」

 

 予備の鍵を渡そうと部屋を出て──アキトは足を止めた。

 

「あー、そういや、昼ご飯はどうするつもり? 学校だよな」

「……あ、えっと……水道のお水を飲もうかと」

 

 その言葉を聞いて、アキトは己の失態を悟った。

 知っていたはずだ。サキが自分から言い出せないことくらい。ただでさえ遠慮がちな性格なのに、アキトの家のお世話になり始めたことや足の怪我のことなど、幾つもの要因からアキトに対してはそれが悪化している。だから、お弁当が欲しいです、それを買うか、作る為の食材を買わせてください、なんて言える訳がなかったのだ。

 寝起きの今ですら直感的にそれを気づけたのだから、ちゃんと考えていれば事前に察せれたはずだ。強引に引き取っておいてちゃんと面倒を見れないなんて、どの口であの母親を悪く言えようか。

 

「……登校しなきゃいけない時間までもう余裕はない感じ?」

「い、いえ。まだ一時間くらいはありますけど……?」

「おにぎり、作ったら持ってく?」

「お、おにぎり、ですか?」

「ああ。お弁当代わりにな。冷蔵庫に昨日の残りの白飯あるし……具材は簡単なのになるけど」

「……い、いいんですか?」

 

 サキは申し訳なさそうに上目遣いで、でもしっかりと期待の籠った瞳をアキトへ向けた。

 

「ここで嘘ってどんな鬼畜だよ」

「っあ、じゃあ、その……」

 

 わずかな逡巡の後、サキは嬉しそうに答えた。

 

「お願い、しますっ」

「……せっかくだし、一緒に作るか?」

 

 サキの性格を考慮すれば、ただ作って渡すよりも一緒に作って苦労した方がむしろ安心して受け取るだろうと思いアキトは提案した。実際、サキは作って貰うだけでは申し訳なく、だからと言って自分から手伝いに行って足を引っ張らないか不安だったので、その考慮は正解であった。

 

「あ、はい!」

「作れるだけ作ろうぜ。余りは俺が食うわ」

 

 こうして、二人は同じ台所で並んでおにぎりを作ることになった。

 

 アキトは冷蔵庫から昨晩の残りの白飯を取り出した。それはサキがどれだけ食べるかわからず、とりあえず五合炊いたのだが彼女が非常に少食だったことが判明。半分近くが余ることになった物であった。結果として、今から有効活用することになったのでむしろ好都合。それを電子レンジに入れてボタンを押し、温めを開始。

 続けて冷蔵庫に戻ったアキトは右往左往しているサキに声を掛ける。

 

「とりあえず、手洗っといてくれ。それと具材なんだけど……冷凍のからあげ、ミートボール。もしくは、ツナマヨかふりかけだな。どれがいい?」

「えっと、じゃあ、その……か、からあげで」

 

 少し迷ったサキは、意を決して注文する。

 

「……それだけで十分?」

「じゃあ……み、ミートボールもお願いします……!」

「ああ、りょーかい」

 

 アキトは彼女が遠慮せず好みで選んでくれたことに微笑みを浮かべながら、冷凍のからあげとミートボールを取り出す。あと、自分用にマヨネーズとツナ缶も棚から取り出した。

 

「よし、じゃあご飯は温まったから冷凍入れて……サキ、そこの棚からラップ取り出してくれ」

「これですか?」

「ああ、それにご飯乗せて丸めるから、ちょっと大きめに切り取って」

 

 サキが台を使ってラップを広げ、横に容器を置いたアキトはしゃもじも取り出して適量を移す。それから、ツナ缶を開くとそこにマヨネーズを入れてスプーンで適当にかき混ぜる。そうしてできたツナマヨをラップご飯の中央へと乗せた。

 

「……」

 

 それをサキはじっと見つめていた。

 

「……やっぱり、ツナマヨも持ってくか?」

 

 どう見ても物欲しそうな瞳のサキはそう言われて、誤魔化すように首を振った。

 

「っあ、いや、その、い、いいです!」

「遠慮すんなって。代わりに、二つのおにぎりは小さめに作ろうぜ。味はいっぱいあった方が楽しいしな」

「……はい」

 

 サキは顔を赤くしながらも目はツナマヨから逸らさない。ピカピカと光って見えるそれはマヨネーズとツナの油が混ざり合って実際に光沢を帯びている。だが、それは見た目だけの話ではなく、独特の油っぽい匂いも漂わせておりとても食欲をそそった。

 

「んじゃ、後は……じゃんけんするぞ」

「……じゃ、じゃんけん?」

「ああ」

 

 不思議そうなサキに、アキトは胸を張る。

 

「温めご飯はな、すごく熱い」

「で、ですね……?」

「だから、丸めるのが辛い。熱いから。だから、じゃんけんで負けた方が握る。いいな!?」

「ふぇ、は、はい!」

 

 いきなり声を大きくしたアキトに、サキも釣られて大声で返す。別に怒鳴った訳ではないので怖くはなかったが、とりあえず驚いたのだ。

 

「それじゃあ、じゃんけんぽんで行くぞ」

「っはい」

「じゃん、けん、ぽん!」

 

 アキト、グー。

 サキ、パー。

 

「っ負けたー!」

「……いや、やっぱり私は魔法少女で、魔力強化すれば熱いのも平気ですし、やりますよ……?」

 

 そう言いながらサキはラップのご飯へと手を伸ばす、が。アキトは先んじてラップに手を伸ばし、手と顔を赤くし悶絶しながらもそれを握って形作っていく。

 

「い、いや、負けたのは俺だから。熱っ」

「で、ですけど……」

「あちっ……とりあえず、新しくラップ引いてご飯よそって、ツナマヨ乗せといてくれ」

 

 申し訳なさそうにしながらもサキは辿々しい手付きで作業を進めていく。それで、アキトがちょうど握り終わった頃に準備が完了した。

 

「んじゃ、この白団子に海苔を巻いて……完成!」

「お、おぉー!」

「じゃあ次だ。もっかいじゃんけんするぞ」

「あの、ですから、私がやりますよ……?」

「いいや、もう一回だ! いくぞ、じゃんけん────

 

 刹那、サキの瞳が桜色に煌めいた。

 

────ぽん!」

 

 アキト、グー。

 サキ、チョキ。

 

「よっしゃ勝ちぃ!」

「じゃ、じゃあ次は私がやりますね」

「おう!」

 

 サキの違和感に気づけもしないヒト雑魚のアキトを他所に、サキは軽く手を魔力強化すると躊躇うことなくラップご飯を手に取り、悶えることなく平然とそれを丸め始める。すると、横ではアキトが少々驚いた顔で眺めていた。それに気づいたサキは、もしかして、と思いつつ聴くことにした。

 

「その……もしかして、私が我慢しちゃうかもって、心配してくれたんですか……?」

 

 その言葉に、アキトは見抜かれたことを受け入れた。

 

「……あー、そう。熱いの我慢しながら握っちゃうかなって。でも、マジで魔力強化で平気になるんだな。魔法少女すげー」

「あ、あはは……」

 

 笑いつつ、サキは一言くらいは言ってやることにした。

 

「でも、アキトさん。私は平気だって、言いましたよ」

「……お、おう?」

「信じて、くれなかったんですか?」

「…………」

 

 ぎゅっ、と。アキトの何倍も速く形を作り終えたそれを置きながらサキは問いかけた。その視線はおにぎりではなく、アキトだけに向けられていた。

 

「……」

「……あー、うん。ごめん!」

「わっ」

 

 アキトは素直に頭を下げた。めちゃくちゃ真っ直ぐに謝罪して見せた。

 

「サキ、ずっと遠慮がちだったろ。だから、また我慢させちまうかもって思ったんだ。でも……そうだよな。言ってくれたんだから、信じないと駄目だよな」

「あ、謝らないでください!」

「いやでも、やっぱり俺たちの関係ってさ、信じる信じないってめっちゃ重要だろ。こう言うのはちゃんとケリつけときたい」

「……うぅ」

 

 サキはもっと申し訳なくなった。

 だって、信じる信じないの話をするのなら、ついさっきのじゃんけん勝負において、魔力強化で目と脳を活性化させてアキトの出す『手』を視認してから後の先を用いた自分がみっともなくなってしまう。

 

「そ、そのっ、ごめんなさい!」

「……な、何に?」

 

 アキトからすればそんな事情を知らず、唐突に誤って来たサキに困惑する他ない。

 

「さ、さっきのじゃんけん、実は後出し、してました……魔力強化使って、その、反射速度を上げてですね……」

「それで、わざと負けたってことか」

「……はい」

「…………はぁ」

「っ……」

 

 溜息。それに、過去のトラウマが蘇ったサキは心臓が跳ね上がった。

 そんなことを知る由も無いアキトは台所の蛇口を捻ると、その水を掌一杯に溜めて、己の顔面に叩きつけた。二度、三度、叩きつけた。

 何度も顔を水で濡らすアキトに、流石のサキも心配の声を上げた。

 

「あ、アキトさん……?」

「ぷはっ。ふぅ、すっきりした……サキ」

 

 アキトは冷えた頭の清々しい顔でサキを見つめた。

 

「今まで俺は君を可哀想な子供として見てた。いや、間違いじゃないとは今でも思ってる。でも、それだけじゃなかった。俺と君は、対等な契約した魔法少女の相棒だった……はず、だよな。そうだよね?」

 

 ちょっと不安になって聞いてしまうアキトに、サキは頷いて返す。

 

「なんつーか。大事なことがわかってなかったな」

 

 アキトは自分の頭を叩きながら呟いた。馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、想像以上に馬鹿だった自分を罰する気持ちも込めて。

 サキは可哀想な子供だ。それは間違いない。だが、それと同時に、人を守る勇気とチカラを持ったすごい子供なのだ。それは決して侮れる存在ではないし、ただ庇護すればいいだけでもなかった。

 真にすべきは、相棒としての対応。それに、思い返せばそう言う契約だった。

 

「サキ、俺はもう変な配慮とかはしない。対等な相棒に相応しい……ありのままの気持ちで接するよ。だから、サキも変な遠慮はしないで、欲しい物とかしたいことがあったら言ってくれ。手伝えることなら手伝うから。お返しとか考えてんなら、今じゃなくたって未来でもいいんだから」

 

 サキはアキトに対して恩を感じているし、信じられる他者として、おそらくは最大級の好意を持っている。だが、それと同時に、自分と彼の関係についてどう定義すべきか迷ってもいた。

 

 魔法少女と契約者──どちらがどちらなのだ?

 庇護者と守護者──どちらがどちらなのだ?

 家主と居候──ならば、自分は寄生虫のようなモノで。

 

 魔法少女としてのチカラはサキにあるのに、その引金がアキトにある。歪な契約が作り出した命名困難な二人の関係を、まさに今『相棒』と定義した。

 

 それは半人前で一人じゃ立てないサキにとって、とてもしっくりくるモノだった。助けられた分も、将来は立派になってアキトに返せばいいのだと思えたから。

 

「──はい!」

「じゃあ早速、ラップにご飯と具材をよそうのは俺がやるから、握るのは任せていいか?」

「ま、任せてください!」

 

 ふんす、と。鼻を鳴らしてサキは握り始めるのだった。

 





 
 。 以下作者の独り言 。


 正直迷走してる感は否めないけど、とりあえずこれでサキとアキトの関係は一区切りってことで。
 相棒物の絆や信頼を積み重ねる過程を描くのがスゴクムズイ。「クドいかな?」と思いつつも、でも何度か書かないとハリボテな絆になってしまいそうで不安なのよー!!!!

 そんな訳で。これからは相棒として互いに互いを支え合い、高めあい、どんどこ戦ってもらいます

 戦え! ニシンの魔法少女! (昭和ヒーローによくあるナレーター風)

 。


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