視界は暗黒に閉ざされたまま、光の一筋さえ透過させない。
背後の男は、私がこの場での抵抗を切り上げたことを察したのだろう。
首元を圧迫していた腕が緩み、足が地面に降りる。
代わりに後ろ手に拘束しなおされたが、逃げ出せるような隙は微塵もなかった。
(随分手慣れているな…)
「さて、場所を移そう」
背後の男は何も言わないまま、私を歩かせた。
相当な技術があるのだろう。無駄な力みがない。
歩き始めても、手首にかかる力も拘束の位置もほとんどぶれなかった。
すぐ後ろから聞こえる呼吸にも、乱れはない。
最初の一歩だけ、私には少し大きかった。
その後は私に合わせるように歩幅が狭まる。
(戦闘が強い。拘束にも慣れている)
(……訓練を受けている?)
私の能力にまで対策していた。
これだけの準備を、この2人だけで整えられるだろうか?
警察、軍、諜報機関、特殊捜査部門――
(……いや、)
私を危険な存在だと認識しているなら、能力への警戒や移送時の注意事項を確認してもおかしくない。
でも、そんな会話は一切ない。
会話を主導していたのは声を掛けてきた男だった。それだけなら別に不自然ではない。
だが、後ろの男は一切確認しない。能力への警戒も、移送手順も。
まるでその判断を疑う必要がないかのように。
声を掛けてきた男の方は…研究職だろうか。なら…後ろの男は個人的に雇われた傭兵の可能性もあるな。
(問題はこの連中が個人で動いているのか、組織的に動いているのか……)
個人で動いているなら、対処範囲は限定出来るが。
もし、これが組織的なものなら―――
(仲間を危険にさらすわけには…)
組織だったらどうしようか…その場合は逃げ出すだけでは不十分だな…
…それにしても、2人の関係がよく分からないな。
後ろの男は指示を仰がない。
研究職っぽい男も、細かな指示を出さない。
それなのに、互いの動きに迷いがないように感じる。
思考が纏まらないうちに歩みが止まった。
扉が開く音。
空気の流れが少し変わった。
そして狭い空間に身体を押し込まれる。
…車両か?どの程度の大きさの――
「やっと見つけたぜ、Darling」
急に囁かれたその言葉に、一瞬思考が止まる。
今まで一言も声を出さなかった男が、いきなり声を出したことも。
言葉の意味も。
何も分からなかった。
見つけた?
私を探していた?
何故?
この男が発端か?
いや、それなら辻褄が合わない。
こんな男に心当たりはないし、声にも覚えはない。
研究職のような男は恐らく長い間私を調べ、ここ数日観察していたはずだ。
なのに見つけたと言ったのは後ろの男。
そもそも「見つけた」の意味もわからない。
Darlingは?何故私をそう呼んだ?
恋人への愛称だったと記憶しているが…
からかわれている?何かの隠語?
…何故今それを言う必要があった?
今までずっと無言だったのに、何故声を出した?
私に聞かせるため?何故?遊ばれている?何のために?
なにも、わからない。
混乱したことで思考が全てそちらに割かれていたようだ。
身体が揺れる。
いつの間にか、移動が始まっていたようだった。
なんとか思考を引き戻し、現在地を脳内でマッピングしていく。
身体にかかる遠心力と、体感の走行時間をもとにすればある程度は現在地を絞れるはずだった。
少なくとも最初のうちは出来ていた。
そのうち…意図的に経路を複雑化されているように感じた。
脳内の地図では、同じ辺りを何度も回っている。
だが、曲がる方向と走行時間を重ねるほど、推定した位置とのズレが大きくなっていく。
目的地を悟らせないつもりか?
脳内マッピングによる逃走経路の把握は諦めたほうが無難だな…
車内に居るのは…恐らくあの2人。
他の人間の気配は感じない。
随分長く走行してから、どこかでゆっくり停止した。
車から降ろされ、また歩かされる。
…静かだな。周囲に人里の気配は無い。
車の音も、人の声も聞こえないな…
私は小さく息を吐いた。
分からないことだらけだ。
だからこそ、考えよう。
ここから先。
―――生き残るために。
キェェェェェアアアアアアアアシャベッタァァァァァァァ!!!!
ところで君、第一声本当にそれでよかった?
pixivでは女一人車に乗せるのに六話かけました。
ハーメルン版では五話になりました。
一話縮んだね!!!!
※尚文章量は変わっておりません。構成上の都合です。