夢魔観察計画   作:黑ヱ

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隔離観察編
隠されたもの


連れてこられた場所は、とても静かだった。

外だけじゃない、中もだ。

 

何処かの建物内に入ったのは分かるのに、人の気配が無い。

私が感じ取れていないだけ?

いや、それにしても…近くに居る2人と、私以外の音がしない。

正確には、何かの機械音は薄っすら聞こえる。

でも、それだけ。

 

少し歩いて、どこかの部屋に入ったらしい。

電子ロックの音が背中から、嫌に響いて聞こえた。

 

固い椅子のようなものに、改めて拘束された。

椅子の肘掛けに腕を完全に固定される。

指すら満足に動かせない…が、指の一本だけひやりとする。

何かの機材につなげられている…?

足も腰も、完全に固定されたが特に痛みはない。

少し身体を動かしてみるが、

(身動きは出来ないか…)

相手が私の事をどこまで知っているのかは知らないが、少なくともただの女に対する拘束じゃない。

納得できるかは置いておくとして、"悪魔"、またはそれに類するものを捕えるための拘束であると思えば、まあ妥当…

 

今の私にわかるのは…何かの機械の音と…新しそうな革の匂い…

先ほどまで歩いていたところは比較的古そうな匂いがしていたのに、この部屋はなんだか新しそうな――

 

ジュッ

 

…煙草の匂いか。

どちらかが吸い始めたのだろう。

匂いで周囲を探るのは諦めるか…

 

「――さて、待たせて悪かったね」

「準備が整ったよ」

微塵も悪びれているように聞こえない声が響いた。

 

「はじめようか」

 

「まずは――」

「おお、僕としたことが。自己紹介がまだだったね!」

 

「僕はゼノ」

「君の名前は?」

「……」

(知っているくせに、何故わざわざ聞く…?)

「…ふむ」

「こちらで把握している名前は、シャロン・スコット」

「それと――」

 

「ステラ・セクレトゥム」

「ラテン語だね」

「ステラ自体は珍しい名前じゃない。ラテン語の stella――"星"が由来だ」

「セクレトゥム。こっちはずいぶん珍しい姓だね」

「secretum――"秘密"、あるいは"隠されたもの"」

「文法的な直訳ではないが、二つを並べれば――"秘密の星"とでも読める」

 

ずいぶん楽しそうな声だ。

私の名前のなにが、そんなに面白いのか。

 

「いい名前だと思うよ」

 

(……なに、こいつ)

 

「年齢は?」

 

「……」

「種族は?」

「シャロン・スコットの戸籍を作ったきっかけは?」

「君は夢を見るかい?」

「好きな食べ物は?」

「何故シャロンの戸籍が必要だった?」

「ピアノを弾くのは好きかい?」

「いつから弾いてる?」

「利き手は?」

「人間社会での―――」

 

あれから、ゼノと名乗った男は、

私が沈黙しているにも関わらず、多くの事を聞いてきた。

時折「…ふむ」「なるほど」などとつぶやきながら。

知っているであろう事も聞いてくるし、私の名前に至ってはラテン語の解説までしていた。

一見すると関係なさそうな事も聞かれている気がするが…

本当になんなんだ…?

…いや、そうか。こちらの反応を見ているんだ。

そういえば指になにかはめられていたな…

こういうのは詳しくないが…バイタル…いや、脈を計られている…?

その反応も見られている可能性があるか…?

何が確認で、何が本当に知りたいことなのか分からないな…

質問されたというだけで、何を知らないのか判断するのは危険か。

反応しないよう、私から情報が漏れないよう気を付けなければ…

 

「苦手なものは?」

「出身地は?」

「毒ガス吸引の趣味は?」

…?毒ガス?いくら人外と思われていてもそんな趣味があると思われるのは心外だし、善意で毒ガスを持ってこられるのも困る――

「おいゼノ。そんじゃ伝わんねえよ」

「タバコな、タバコ」

「…おお、まあそうとも言うね。煙草の有害性はニコチンだけじゃない。燃焼によって一酸化炭素や微粒子、発がん性物質を含む煙が生じて――」

「あー、わかったゼノ。それ以上いい」

…煙草の事を毒ガスと呼んでいるのか?

いや本当にこいつらなんなんだ…?

「大体君ってやつは―――」

 

私の事を放置して、その後も2人は少し話していた。

放っておかれること自体は構わないが…

こうなってくると、私は何のために連れてこられたんだ…?

 

 

 

 

「――と、悪いね。続けようか」

 

「君が客から得ていたエネルギー」

「それが得られない時」

「君は…もしかして」

「理性を失ってしまったり、するんじゃないかな?」

 

この男は本当に

何を

何処まで

知っている…?

 

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