「こら、君たち、早く非難しないか」
駅員に諭されるように、ぎちぎちに混みあった階段を下りていく二人。
あまりの人数に、押しつぶされそうになる。やっとのことで階段を降り切ると、休む間もないまま人の波に押されるように改札口へと身を運んだ。
気づくと、大吾は健斗からはぐれていた。
回りを見渡しても、人が多すぎて姿が見当たらない。友の身を案じながら人の間を縫って彼を探すが、やはり健斗の姿はどこにも見当たらなかった。
どんっ。
誰かと肩がぶつかる。
バランスが崩れ、大吾は後ろへ倒れこんだ。無意識に体に力を入れ、落下の衝撃に備える。
......痛くない。
妙な浮遊感が、身体を駆け抜ける。
まるでジェットコースターが落下するような感覚。床に座り込むはずだった体は、そのまま地面をすり抜けるように落下を続けた。
頭の中が真っ白になる。
床のタイルが透き通り、上を通る人々の靴裏が見える。
一体、何が―――
理解する暇も与えられず、大吾の身体は落ちていく。地上からの光が、点となって消えていく。
彼の叫びすら、暗闇は容赦なく呑み込んでいった。
まだ落ちているのか、それとも浮いているだけなのか、それすら大吾にはわからなかった。
その時だった。
一筋の光が、大吾の視界を満たす。
暗闇になれかけていた眼を、大吾は咄嗟にそらした。
かすかに瞼を開くと、闇の中に大きな影が光をまとって立っていた。
不思議と、巨人からは敵意を感じなかった。
銀色の双眼が、こちらを見守るように静かに輝いている。
巨人は、そっと大吾に手をかざした。
自然と、右手が動く。
大吾は手を伸ばし、巨人の指に触れる。
温かい。
指先の感覚に気を取られていると、脳裏に覚えのない景色が流れ込んでくる。
炎の大地。
そこに雨が降りそそぐ。
地を満たす、溢れんばかりの緑。
どこかで、赤子が鳴き声を上げる。
そびえ立っていく、石造りの建物。
そこに、巨大な影がかかる。
再び、炎に包まれた大地。
流れる血。
病に侵される人々。
そして、波。
全ては、水の下へと―――
咄嗟に指を離す大吾。
「.....今のは?」
巨人は何も言わず、ただこちらを見つめている。
「.....ティガ?」
口から漏れ出たその言葉の意味を、大吾は知らなかった。巨人の目を覗き込んだ時、なぜかこの言葉が脳裏に浮かんだのだ。
「それが.....お前の名前?」
巨人はゆっくりと頷いた。
その時だった。闇の奥から、うっすらと声が聞こえてくる。耳覚えのない、男の声だった。
「し....!だ....すか?」
巨人の光が、次第に強くなっていく。あまりの眩しさに目が眩むほどだった。
光は大吾を包み、次第に意識は薄れ―――