0時0分0秒   作:おじさん。

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午後11時58分

 ダニエルは時計を見る。

 午後11時58分。

 ホテルのロビーには人が集まっていた。

 誰かがテレビを見ている。

 誰かがスマートフォンを見ている。

 誰も、大きな声では話さない。

 世界中が同じ時刻を待っていた。

 ダニエルは時計を見る。

 

 23:59:41。

 

 マークは目を閉じていた。

 ジェームズは何度もスマートフォンを確認している。

 エミリーは母親とメッセージを続けていた。

 サラは泣いていた。

 

 ダニエルは時計を見る。

 23:59:55。

 

 秒の変化を見続ける。

 ダニエルは息を止めていることに気づいて息をする。

 

 0時0分0秒。

 

 何も起きなかった。

 誰も消えない。

 誰も叫ばない。

 外でも、何も起きない。

 時計だけが進んでいく。

 0時0分1秒。

 2秒。

 3秒。

 

「……何もない」

 

 誰かが言った。

 ロビーの空気が少しだけ変わった。

 誰かが泣き始めた。

 今度は恐怖ではなかった。

 安堵だった。

 

「何も起きなかった」

 

 ジェームズが言った。

 

「当たり前だろ」

 

 マークが答えた。

 しかし、その声にも力がなかった。

 ダニエルはスマートフォンを見た。

 SNSが一斉に更新されている。

 

> NOTHING HAPPENED.

> IT'S OVER.

> Nobody disappeared.

> We are safe.

 

 その言葉が、世界中から流れてくる。

 ダニエルはスマートフォンを置いた。

 もう眠りたかった。

 一日が長すぎた。

 日本人が消えた。

 東京が燃えた。

 帰る方法がなくなった。

 港も空港も閉鎖された。

 そして一日中、

 次は誰が消えるのかと考え続けた。

 もう終わりにしてほしかった。

 

 午前一時。

 ホテルのロビーにいた人間は、半分ほどが眠っていた。

 ダニエルもソファで目を閉じていた。

 スマートフォンが震えた。

 一度。

 二度。

 三度。

 何度も。

 彼は目を開けた。

 午前0時59分58秒。

 

「何だよ……」

 

 誰かの声がした。

 

 0時59分59秒。

 

 ダニエルは画面を見た。

 新しい投稿。

 次の瞬間。

 投稿が続く。

 さらに別の投稿。

 動画。

 ライブ配信。

 ソウルの街だった。

 配信者が何かを話している。

 画面の中に時計が映る。

 00:00:00 SGT

 画面の中で、男が消えた。

 椅子から服だけが崩れ落ちる。

 ダニエルは立ち上がった。

 

「……嘘だ」

 

 次の通知。

 ソウル。

 釜山。

 仁川。

 済州。

 ロビーの奥から叫び声が聞こえた。

 一人の男性が立ち上がっていた。

 彼の目の前で、女性が消えた。

 服だけが床に落ちている。

 男は動かなかった。

 誰も近づけなかった。

 彼は床を見つめたまま、何かを呟いていた。

 ダニエルには意味が分からなかった。

 しかし、その声だけは聞こえた。

 

「……なぜ」

 

 またスマートフォンが震えた。

 世界中のSNSから、新しい言葉が消え始めていた。

 

 WHO'S NEXT?

 

 ではない。

 もう誰も、質問していなかった。

 時計を見る。

 午前1時0分12秒。

 ダニエルは静かに目をつぶった。

 

 彼は自分でも不思議に思うほど落ち着いていた。

 世界の終わりに立ち会っているのに。

 

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