時は過ぎて、二月二十六日。
私と
広い講堂みたいな説明会場に私たちは並んで座り、先に配布された実技試験の説明用紙を読む。
「……ロボットが、四種類。要するに、戦っていっぱい倒せばいい……のかな?」
「多分、そうみたい」
私は、原作の知識で入試の構造を知っている。
1~3ポイントのロボット——仮想
同時に、人を助ける
ロボットは四種類だけど、うちひとつは超巨大な0ポイントのお邪魔虫ギミック。基本、戦ってもメリットはない。
とはいえ全部ベラベラ喋るわけにはいかない。
なんでそんなこと知ってるんだ、なんて聞かれたら答えられないからだ。
入試自体の邪魔にもなってしまうかも。
なんて考えていると、会場の照明がゆっくりと暗くなっていく。
時間らしい。
薄暗くなった会場の正面、壇上だけが明るく照らされる。
そして光を浴びるように現れたのは、プロヒーローにして雄英教師。ボイスヒーロー『プレゼント・マイク』。
「今日は俺のライヴにようこそー!!!」
金髪をトサカのように逆立てたパンクな姿。
アニメではナレーション役でもあったまさしく物語の進行役。
「エヴィバディセイヘイ!!」
プレゼント・マイクが歓声を期待するように耳に手を当てる。
……シーーーン!!
誰一人「ヘイ」なんて返事はしない。
当たり前だ。唐突すぎる。
でも受験生たちが緊張と戸惑いに包まれているなか、私のテンションはひとり最高潮に達していた。
雄英の校舎を見たときも盛り上がったが、これは落ち着いてなどいられようか!
原作で、アニメで、何度も目にしたあのシーン!
プレゼント・マイクのあの声!
なんて、原作通りなんだろう!
「コイツはシヴィー! ……受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクっとプレゼンするぜ!」
受験生から応答が無いのは、もしかすると例年いつもだったりするのだろうか。
プレゼント・マイクは特にこたえた様子もなく説明に移る。
あるいは、単純に場慣れしているだけかもしれない。なんでも、毎週ラジオを放送しているらしいし。
「アーユーレディ!? YEAHHHHH!」
……シーーーン!!
やっぱり、応答は無かった。
プレゼント・マイクが演習の内容を説明する。
「——プレゼン後は、各自指定の演習会場へ向かってくれよな!」
手元の受験票を見る。
私の試験場所は……演習会場B。
「オーケー!?」
演習会場B……。
これは、大当たりを引いたのではなかったか。
私の記憶が確かなら、演習会場Bは
「ふーちゃん、会場どこ?」
隣の葉ちゃんが自分の受験票と私のを比べるように聞いてくる。
「私、Bだって」
私も葉ちゃんの受験票を見る。
葉ちゃんは演習会場Cのようだ。
「一緒じゃないんだ。まぁ、そうだよね。協力とかできたら良くないもんね」
葉ちゃんの言う通り、協力を防ぐ意図だろう。
原作でも緑谷出久と
プレゼント・マイクが三種の仮想
各々の個性を使って行動不能にすればいい、と。
行動不能というのがミソだ。破壊とかだったら、
「質問よろしいでしょうか!?」
会場の中央あたりで受験生が一人立ち上がり、ビッと手を伸ばして質問を願う。
「プリントには、四種の
来た!
会場のどこにいるかまでは覚えていなかったが、ほとんど真ん中のあたりだったようだ。
相手のミスを決めつけるような姿勢はどうかと思うが、彼も成長していく。ある意味助走みたいなものだろう。
「ついでにそこの
ついでに言葉をぶつけられたのは、緑谷出久!
私の位置からだと良く見えないが、まさしく原作一巻のやりとり!
みんなに見られながら叱られて大変かわいそうだが、どんまいだ。
「オーケーオーケー。受験番号7111くん、ナイスなお便りサンキューな!」
プレゼント・マイクが飯田天哉の質問に答える。
四種目の敵は0ポイントでギミックであると。
周りからは「まるでゲームだ」なんて声が漏れている。
確かにゲームっぽい、というか原作ではしれっと『スーパーマリオブラザーズ』のシルエットが描かれていたような記憶がうっすらある。
飯田天哉が礼を述べて座った。
あぁ、本当に私はヒロアカの世界に生まれ変わったのだと今更ながら実感する。
受験の緊張も消え去って、私のテンションは最高潮だ。
初めてこの目で見た、A組メンバー!
ちょっと遠かったが、そんなことは些細なことだ。
直接話せたらもっと嬉しいに違いない。
ちなみに、入試会場入り口で緑谷出久と麗日お茶子の初遭遇は見られなかった。
運良くタイミングが合えば良かったのだが、流石にそうもいかず。まさか張り込んでもいられない。
という訳で私の初A組は飯田天哉だ!
テンションが上がる!
そんなことを考えていると、プレゼント・マイクが説明を終わろうとしていた。
「最後にリスナーへわが校”校訓”をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! 『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と! ”
”
ちなみにラテン語らしい。ナポレオンの名前が出たからフランス語かなぁと思ったこともあった。全然違った。
”更に向こうへ”。そうだ、私も越えていかねば。
原作に存在しないという受難を越えて、A組のみんなを最高の観客席で見るのだ。
「がんばろ、ふーちゃん!」
「うん、葉ちゃんも!」
超広い。
演習会場のことだ。
もはや一つの街みたい。
こんなのがいくつも敷地内にあるのだから、雄英ってすごい。目の前にするとその途方も無さにしみじみ驚愕だ。
そして、会場Bは大当たりで間違いなかった。
緑谷出久がいるのだ!
しっかり飯田天哉に詰められている!
私も『ラッキー!』と思っていそうな背景の一人に紛れ込むことができた。嬉しい。
麗日お茶子と、すっかり忘れていたが青山優雅もBにいた。
そういえば実技試験でしれっと緑谷出久と接触していたような気がする。
「ハイスタートー!」
来た。
遠くからプレゼント・マイクの声が響く。
この実技試験はカウントなどもなくぬるっと始まるのだ。
「どうしたあ!? 実戦じゃカウントなんざねえんだよ! 走れ走れぇ! 賽は投げられてんぞ!?」
周囲の受験生が走り出すのと同じくらいに合わせて、私も走り出す。
原作知識が無ければ私も出遅れていたかもしれない。危なかった。
走る、走る。
集団と一緒にいては仮想
そして十分離れたと思った辺りで、タイミング良く1ポイントの仮想
チャンス!
私は”個性”を使って
CRASHHH!
1ポイントは脆く、素手でも壊せる程度のもの。
空気のハンマーに叩き潰された仮想
「これで、まず1!」
仮想
1ポイント、1ポイント、2ポイント!
運がいい。周りに他の受験生はいない!
”個性”を使って空気のハンマーを作り、殴る、殴る、殴る!
仮想
だから捨て身なくらいの勢いで、思いっきり!
「これで、5! 悪くない……!」
全力で個性を使えるなんて、この社会では意外と珍しい。
何だか楽しくなって、私は更に勢いを増して走る。
見えた仮想
3ポイントはちょっと硬すぎて私には壊せなかった。1ポイントと2ポイントだけを狙って壊し、どんどん稼ぐ。
8ポイントを稼いだあたりで、他の受験生とかち合った。
どうやらボーナスタイムは終わったようだ。
ここから、仮想
「うわっ!!」
急に大きな声が上がって、そっちへ振り向いた。
「くそ……あっ……!」
一人の男の子が転び、2ポイントの仮想
チャンス!
”個性”を使って空気を固め、今度はそれをおもいっきり投げるように仮装
2ポイントは大きくよろめいて男の子からズレた。
「ここ!」
すかさず追撃する。直接殴らないと2ポイントは壊しきれない。
もう一度、空気のハンマーを叩きつけて破壊する。
派手な音を立てて仮想
私は転んだままの男の子に駆け寄り、手を差し出す。
「立てる?」
男の子は一瞬固まっていたが、すぐにハッとすると私の手を取って立ち上がる。
「ありがとう!」
「うん。じゃあ、急ぐから」
怪我も無さそうと見て、私は再び走り出した。
これで
今の男の子を助けて、
「あと6分2秒~!」
遠くからプレゼント・マイクの声が時間を知らせてくれる。
もう少し稼いでおかなければいけない。
走れば、仮想
次から次へ、殴って殴って殴る!
13ポイント。
17ポイント。
25ポイント!
視界の端で、受験生同士が衝突する。お互い、戦いに必死で見えていなかったらしい。
二人は衝撃で思いっきり転んでしまい、片方の戦っていた3ポイントが彼らに迫ろうとする。
また、
私の攻撃力では3ポイントを壊しきれない。
ならばと、私は転んだ二人と3ポイントの間に
音も無く、3ポイントの伸ばした手が見えない壁にぶつかって止まる。
「立って!」
私が声を掛ければ、二人は即座に立ち上がって3ポイントに攻撃をしかける。
同時に、3ポイントのパワーで空気の壁が砕けて消える。
「おらァっ!」
転んでいた一人が、何の個性だろう、3ポイントに思いっきり殴り掛かる。
すると、3ポイントの大きな腕が根元から吹き飛んだ。
「はぁッ!」
もう一人が取れた3ポイントの腕を掴んで投げつける。
バランスを崩した3ポイントが更に殴られ、大きく破損。動きを止めた。
即興にしてはいいコンビネーションだ。
でも、これは誰のポイントになるのだろう。
二人はそのまま別々の方向に駆け出していく。
私は
ゴオ……と、地響きとともに地面が揺れる。
建物いくつかを挟んで現れたのは、見上げるよりも更に大きい0ポイント。
圧倒的脅威。
何をどう間違っても、私の”個性”では手も足も出ない巨大な怪物。
私は駆け出した。
0ポイントの正面のあたりに向かって。
何故って、絶対見逃せなかったからだ。
巨大な仮想
そして影が叫ぶ。
「
巨大な0ポイントが、ひしゃげながらぶっ飛ぶ。
たった一人の拳があり得ないほどの破壊をもたらし、仮想
その影こそが——
『僕のヒーローアカデミア』の主人公で、私のとっての最高のヒーロー。
「すごい……」
思わず、呟いていた。
なんてパワー。コミックでなく、正真正銘この目で見たからこそ信じられない、彼の力。
身体が震えた。
胸の内がゾクゾクする。
あれが、あれが……『デク』の初スマッシュ!
私が感動している間に、緑谷出久は落下を麗日お茶子に救われていた。
右腕と両脚を砕きながら、左手一本で這いずる姿が遠くに見える。
「終了~~~!!!」
プレゼント・マイクの声が、響き渡った。