私と
雄英高校は小高い山の上にある。
長い坂道を下りながら、話題は今日終えたばかりの入試について。
「はー……。ふーちゃん、どうだった?」
葉ちゃんは見るからに落ち込み気味だった。
多分、入試の手応えが良くなかったのだろう。
「私は……悪くはなかった、くらいかな。安心できない、くらい」
筆記は多分合格ラインを越えていると思う。
まだ自己採点とかはしていないけど、手応え自体は良い感じ。
実技はちょっと不安だ。大丈夫だと思いたいが、
「そっかー……。さすがふーちゃん……」
やっぱり落ち込んでいる。
なんて言ったものだろう、慰めてあげたいとは思うのに。
「葉ちゃんは……その、良くなかった……?」
口に出してから聞いてよかったのか悩む。
私はどうも、口が上手くない。
「ん……。あんまり、かなぁ……」
普段と打って変わって暗い口調の葉ちゃんに、私はひとりでもごもごしていた。
「そっか……」
結局、良い言葉が思いつかなくて、そんな相槌だけになる。
「筆記、難しかったなぁ。頑張ったけど、どうだろ。実技は、えっと、13ポイントだったと思う。周りのみんなはもっとたくさん稼いでたっぽいし……」
原作『僕のヒーローアカデミア』に触れていたのはもう十五年前だ。
流石に詳しくは覚えていないけれど、トップ10人が合計80ポイント~50ポイントくらいだった気がする。
ヒーロー科の定員は36名だから、ざっくりイメージで合計40ポイントは欲しいな、と私は考えている。
なので
私の想定に過ぎないが、
もちろん仮説の仮説ではあるけれど、葉ちゃんの実技はちょっと苦しい。
筆記が相当高いならともかく、葉ちゃんは直前の模試までC判定だった。
そうなると、やはり。
「ふーちゃんは、実技のポイントいくつだった……?」
「私は、25」
ほとんど二倍。もちろん数え間違えていなければ、だが。
でも私の方だって、決して安心できるようなポイント数じゃない。
「そっかぁ……。すごいなぁ……」
葉ちゃんは更に落ち込んでしまう。
自分のポイントなんて言わなければ良かった。いや、聞かれて答えないのも良くないから、どうしたら良かったかな。
「……」
私はやっぱり何も言えず、押し黙ったまま歩く。
「……あーあ。あたし、ふーちゃんと一緒に雄英行きたかったな」
葉ちゃんはもうすっかり不合格が決まったような口ぶりになってしまった。
「ま、まだ……決まったわけじゃないよ」
薄っぺらい慰めだ。
私だって、葉ちゃんは厳しそうだな、なんて考えてしまっているくせに。
だから、そんな浅はかさは葉ちゃんにもバレる。
「ふーちゃんも。……そんなこと、思ってないんでしょ」
直球な言葉に、私は言葉に詰まる。
「ふーちゃんのことだもん。分かるよ。あたしは厳しそうだなって、そう思ってるのに」
その通りだ。
でも、あなたは落ちるなんて言うわけもない。
「そんなんじゃ——」
「嘘つかないでよ。ふーちゃん、いつも通りだよ。安全な所から、あたしのこと慰めようとかしてる」
良くない。
私ははっきりとケンカの始まりを感じ取っていた。
「ふーちゃんは、いっつもそうだよ! 自分だけ全部知ってるみたいに、あたしのこと眺めてるの。自分だけなんにも怖くない場所から!」
「よ、葉ちゃん——」
火がつく。
私の頭は既に真っ白になっていた。
「バカにしないでよ!!」
葉ちゃんは涙をにじませていた。
二人ともとっくに足は止まって、向かい合っている。
私は、何も言えない。
何を言ったらいい? そんなことは考えられないくらいに、何故か葉ちゃんの言葉は胸に刺さった。
「……わ、わたしは、その……」
「……っ」
葉ちゃんが
こらえきれないように、涙が零れだした。
そうして私が何も言えずに困っていると、葉ちゃんは顔を背けて駆け出してしまった。
私は、その場でしばらく立ちすくんでいた。
それから、一週間後。
ちなみに私と葉ちゃんの地元は、雄英高校のある静岡県からはちょっと遠い。
なので前日は二人でホテルに泊まって、帰りは一緒に新幹線だった。
ケンカをしてしまったせいで、帰りは隣同士なのに一言も口を効かずじまい。ひたすら気まずかった。
あれから、まだ仲直りはできていない。
毎日一緒だった登校も別々で、学校でも話す機会が無いまま。
周りの友達にも仲直りしなよなんて言われるけど、どう話しかけたらいいのか分からない。
生まれ変わる前は社会人だったくらいなのに、情けないけれど。私は友達との仲直り方法を知らなかったのだ。
かつて男の子だった時は、わざわざ謝りあうなんてしなかったような気もする。気づいたら元通りに遊んでいたんじゃなかったかな。
社会人になってからは、それこそ人とケンカなんてしなかった。
もう十五年も女の子をやって葉ちゃんとはずっと一緒だったけれど、私たちはケンカなんて滅多にしなかったのだ。
そうして困りながら一週間を過ごし、雄英高校から合否通知だろう手紙が来た。
雄英の校章がついたシンプルな封筒を、自分の部屋で恐る恐る開ける。
期待と不安が半々、いや不安がちょっと勝っていた。
円形の平べったい奇妙な機械を机に置くと、立体映像が現れた。
「んっんん゛~~」
こちらの世界に生まれてから、あっちこっちで度々聞いた声がする。
「私が投影された!!!」
いきなり超アップで出てきたのは、No.1ヒーロー『オールマイト』。
ヒーロー・ビルボードチャートJP圧倒的No.1を維持し続け、ただ一人のヒーローながら”平和の象徴”として語られる、まさしく生ける伝説。
原作の頃から大好きなスーパーヒーローの姿に、私のテンションは急上昇……しない。まだ、不安が強かった。
「私はこの春から雄英に務めることになってね! 受験生たちに合否を告げるこのメッセージを撮らせてもらっているのさ!」
HAHAHA! といかにもオールマイトらしい笑い声とともに教えてくれる。
私は当然知っていたけれど、他の人はとても驚きそうだ。
ちなみに自己紹介は無かった。まぁ、このヒロアカ日本で彼を知らない人間はいないだろう。
「
不合格、の言葉に胸がきゅっと締め付けられる。
でも、まだだ。私は知っているから。
「それだけならね!」
来た!
「先の入試! 見ていたのは
そう、そうだ。私はあの実技試験中、二度の人救けをしている。
この流れはきっと……!
「空木風、30ポイント!
合格。
受かった。
……私が。
『空木風』が。
原作にはいなかったはずのキャラクターなのに。
視界が涙で歪んでいく。
じわじわと、じわじわと、歓喜が心を満たしていく。
「やった……」
嬉しい。
嬉しい、嬉しい、嬉しい!
私が、雄英に! あの場所に、あの物語に、あのキャラクターたちに!
今日はきっと、人生最高の日だ!
——あぁ、でも。
葉ちゃんは、どうだったのかな。