架空は、現実に。   作:伊空路地

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5.祝!1-A!

 春。

 それは高校生活の始まり。

 

 見事、雄英高校ヒーロー科に入学が決まった私は、登校の初日を迎えていた。

 入試の時は(よう)ちゃんと二人で歩いた道を、今日は一人で歩く。

 

 葉ちゃんは、不合格だったらしい。

 結局、仲直りはできずじまいのままだった。

 喉に小骨の刺さったような、無視しきれない後悔や反省の念は堪えないが……今日くらいは、少し忘れておく方がいいかも。

 

 広大すぎる校舎を歩き、私は目的のドアを見つけ目の前に立っていた。

 1-A。

 これほど喜ばしいことはあるだろうか、私は本当に雄英高校ヒーロー科1-Aに入ったのだ!

 緑谷出久(みどりや いずく)麗日お茶子(うららか ちゃこ)飯田天哉(いいだ てんや)、他にももちろん。

 あの大好きなキャラクターたちを最も間近で見られる場所、A組のメンバーの一人に私はなれたのだ。

 入試合格の日も思ったが、今日こそ人生最高の日かもしれない。

 

 そして、やっぱりドアは巨大だ。

 高さはどれくらいだろう、6メートルくらいありそうだ。

 高さに誤魔化されがちだけど、横幅も相当ある。三人くらいなら並んで通れそう。

 

 みんなに会える。

 言葉だって交わせる。

 どれほどこの時を待ち望んだか!

 

 私は溢れんばかりの期待を胸に、静かにドアを開いた。

 

 時間はちょっと早めに来たつもり。

 既に教室にいたのは——。

 

 特徴的なメガネと目が合う。

 

「おはよう! 俺は私立聡明中学出身の飯田天哉だ!」

 

 多分ドア前に待機して、開く度に挨拶をしているのだろう。

 四角いメガネの飯田天哉が大きな声で私に声を掛けてきた。

 

 すごい!

 あの飯田天哉が、A組の一人が、現実に目の前にいる!

 そして私を見て、挨拶してくれている!

 すごい!

 

「私、空木風(くうき ふう)。よろしく」

「空木くんか! あぁ、よろしく!」

 

 脳内で語彙を失いながら挨拶を返せば、早速「空木くん」なんて名前を呼んでもらえた。

 あぁ嬉しい。

 

「黒板に席順が張り出されている! 見てみるといい!」

「うん、ありがとう」

 

 私の名前は”くうき”なので、出席番号は切島鋭児郎(きりしま えいじろう)口田甲司(こうだ こうじ)の間。

 席は廊下から二列目、前から四番目だ。

 ちなみに、隣は先ほどの飯田天哉が右。左は瀬呂範太(せろ はんた)らしい。

 

 それと何故か、A組は全部で21人いるようだった。

 原作だと一般入試18名と推薦入試2名の一クラス計20名が定員だったように記憶していたが、勘違いだったのかもしれない。

 ともかく、私にとってはむしろ素晴らしいことだ。私が入ったことでメンバーが欠けたらどうしようと心配していたから。

 なお、席順表を見た感じではA組メンバーが変わっているようなこともなさそうだ。

 

 飯田天哉の登場で気がそれたが、既に教室にいるのは私と飯田天哉の他に八百万百(やおよろず もも)蛙吹梅雨(あすい つゆ)だけだった。

 二人とも自分の席に座っている。八百万百は21人になったせいで席がひとつ押し出されており、ぽつんとしていた。

 蛙吹梅雨の席は私の右斜め前。私が鞄を下すと、くるりと振り向いて私の顔を見てきた。

 

「おはよう。私、蛙吹梅雨。梅雨ちゃんって呼んで」

 

 いきなり梅雨ちゃん呼びのお願い!

 これはお友達になりたいと思ってくれている証拠だ!

 席も近いし、ぜひ仲良くしたい。

 

「おはよう。私、空木風」

「風ちゃんね。よろしく」

「うん、よろしく。……えっと、梅雨ちゃん」

 

 ちょっと照れつつ頑張って「梅雨ちゃん」と呼ぶと、嬉しそうにニコッと笑ってくれる。

 梅雨ちゃんの”個性”は『蛙』。蛙っぽいことが大体できる”個性”。

 異形型は時に恐ろしい見た目をしていることも少なくないが、彼女はかなりかわいらしい。ケロケロって言うし。

 原作では麗日お茶子と仲が良く、一緒にいることが多かった。そのためか、A組メンバーの中では比較的登場シーンの多かったキャラクターだ。

 

 私のイチオシは緑谷出久と麗日お茶子のペア。二人と近い距離にいるためにも、麗日お茶子と仲の良い梅雨ちゃんとは親しくしたい。

 ……なんて、下心もありつつ。

 

「風ちゃんは、地元の人かしら? それとも、遠くから来たの?」

 

 梅雨ちゃんが適当な話題を振ってくれる。

 会話に自信が無い身としてはとてもありがたい。

 

「地元は、宮城県。仙台の少し北くらい」

「あら、遠いのね。じゃあ、一人暮らしかしら?」

「うん。普通のアパート」

 

 とてもじゃないが私の実家は通える距離にない。

 雄英に入学するにあたって、最寄り駅の近くにアパートを借りた。一人暮らしだ。

 お母さんは「高校生の一人暮らしなんて心配」と言っていたが、まさか家族丸ごと引っ越してくる訳にもいかない。

 小さい頃からいい子な私は、特に揉めるようなこともなく一人暮らしを始めることになった。

 

「一人暮らし、けっこう大変よね。私もこっちに出てきて一人暮らしなの」

 

 梅雨ちゃんの地元は……どこだったか。流石に覚えていないな。

 

 初めての一人暮らしは確かに大変だろう。

 私は、こちらへ生まれる前に散々経験してきたから慣れたものだ。

 

「天気予報を見る癖がついた。洗濯物、干したいから」

「私もよ。雨は好きだけど、お洗濯には悩ましいわね」

 

 ”個性”が『蛙』だけあるのか、梅雨ちゃんは雨が好きらしい。

 私はあんまり好きじゃない。

 

 

 

 私が梅雨ちゃんと話している間に、教室はほとんどいっぱいになっていた。

 あと数人ほどで全員が揃うだろう。

 なお、ドアが開く度に飯田天哉が挨拶をしていた。既にキャラが立っている。

 

 次にドアが開いて入ってきたのは——おぉ、と思わず目を見張る。

 爆豪勝己(ばくごう かつき)だ。緑谷出久の幼馴染で、原作の主役度で言えば二番目。

 飯田天哉が他の人と挨拶している間にさっさと席に座り、思いっきり足を机に投げ出す。

 おぉ……いかにも爆豪勝己だ。

 

 それに気づいた飯田天哉がずいずいと爆豪勝己に近寄っていく。

 更にそのタイミングで、教室前のドアが開く。

 

 スイ……と静かに顔をのぞかせたのは——緑谷出久!

 つい注視してしまう。入試の時にもちょっと見たが、本物だ!

 

「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」

「思わねーよてめーどこ中だよ端役が!」

 

 早速らしさ全開で爆豪勝己が飯田天哉と言い争いを始める。

 ドア前の緑谷出久は固まりながら、内心『2トップ!」と嘆いているはずだ。

 

「ボ……俺は私立聡明中学出身。飯田天哉だ」

「聡明~~~!? くそエリートじゃねえか。ブッ殺し甲斐がありそだな」

「君ひどいな! 本当にヒーロー志望か!?」

 

 爆豪勝己のあんまりな口ぶりに飯田天哉が衝撃を受けている。見てる分には面白いな。

 すると飯田天哉はドア前の緑谷出久に気づいたようで、スス……と近づいて挨拶と会話を始めていた。

 

「あの子、知り合いかしら? 気にしているようだけど」

 

 私が緑谷出久に気を取られていることに気が付いて、梅雨ちゃんが聞いてくる。

 ちょっと注目し過ぎたかも。

 

「ううん。入試の会場が一緒だっただけ」

 

 実技試験。『デク』の初スマッシュは今でもはっきりと覚えている。

 本当に衝撃的だったし、感動した。

 もうくっきりと目に焼き付いている。

 

「あの人……すごかったから」

「そうなのね。あんまり、そんな風には見えないけれど」

 

 梅雨ちゃんストレートだ。

 思ったことは何でも言っちゃうんだっけ。

 確かに、緑谷出久は正直すごそうには見えない。どう見ても地味だ。

 

 次に開けっ放しのドアからひょこりと現れたのは——麗日お茶子!

 原作のメインヒロインで、緑谷出久を好きになる女の子!

 既にかわいい!

 

 何度でも繰り返すが、私のイチオシは緑谷出久と麗日お茶子のペアなのだ。

 この二人が一緒にいるだけで私はもう幸せ。

 

 そんな私のイチオシペアが何やら喋っている。

 いや、喋っているというには一方的だ。緑谷出久は真っ赤になるだけでほぼ言葉を発していない。

 素晴らしい。

 

 キーンコーンカーンコーン……とチャイムが鳴る。

 鳴ってる描写なんかあったか覚えていないが、ということは次に現れるのは——。

 

 

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 

 

 

 出た。

 私の席からは良く見えないが。

 

「ここは……ヒーロー科だぞ」

 

 ヂュッ!! と勢いよく10秒なゼリーを1秒で飲み干して、寝袋男が立ち上がる。

 その異様な姿に驚いたのか、ざわめいていた教室中が急速に静かになっていった。

 

「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

 ぼさぼさ伸び放題の黒髪、別に整えている訳でもないヒゲ、くたびれきった黒い男。

 ちょっと小汚い。

 

「担任の相澤消太(あいざわしょうた)だ。よろしくね」

 

 (担任!!?) とクラスメイト達の驚く声が聞こえる気がする。

 

「早速だが。体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

 

 相澤先生は寝袋から体操服を取り出して指示してきた。

 なんで学生の生徒服を寝袋の中に仕込んでいたのだろう。

 

 

 

 ともかく。

 これから私にとっては楽しみな、『個性把握テスト』が始まるのだ。

 

 まぁ、原作のイベントなら何でも楽しみなのだけど。

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