架空は、現実に。   作:伊空路地

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7.コペルニクス的転回

 そのまま、個性把握テスト全八種目が終了した。

 残っていた三種目、持久走・上体起こし・長座体前屈はいずれも目立つ記録を出せなかった。

 私——『空木風(くうき ふう)』の”個性”、便利で応用の幅は広いけど、やっぱりパワー不足だなぁ。

 個性把握テストをどう攻略しようか、なんて中学に散々妄想していたけれど、結局そんなに大した結果は出せず。残念だ。

 

「んじゃパパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」

 

 相澤先生が結果発表を始める。

 私は……何位だろう。最下位は免れたと思うんだけど。

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

 しれっと爆弾投下がされている。自由か。自由だった。

 

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

「はーーーーーーーーー!!!!??」

 

 みんなが衝撃を受けすぎて作画が狂っている。

 緑谷出久(みどりや いずく)なんかホラー映画のお化けみたいだ。

 

「あんなのウソに決まってるじゃない……。ちょっと考えればわかりますわ……」

 

 とは、八百万百(やおよろず もも)の発言。

 でも実はウソじゃなかったんだよね。

 最下位の緑谷出久に見込みアリと判断して、ウソにしただけだ。恐ろしい。

 

 みんなの順位は……。

 一位、八百万百。二位、轟焦凍(とどろき しょうと)。三位、爆豪勝己(ばくごう かつき)。そして最下位が緑谷出久。

 私は十六位だ。いやみんながすごいよ。本当に。正直もうちょっといけるかなって思ってたのに、全然だ。

 

 八百万百の”個性”は『創造』。生き物以外はなんでも創り出せる壊れ”個性”の一つだ。

 バイク出したり万力出したり、道具の力で超絶記録を叩きだしまくっていた。

 それは、一位になるだろうなといった感じ。

 

 そして謎なのは葉隠透(はがくれ とおる)だ。”個性”『透明化』でどうやって緑谷出久に勝ったんだろう。

 気になってたまに窺っていたけれど、タイミング悪く彼女の記録はほとんど見られなかった。

 原作の頃から不思議なんだよね。葉隠透、あの入試実技とか個性把握テストとか、どうやったんだろう? もうちょっと気にして見ていれば良かった。

 

 相澤先生は緑谷出久に「リカバリーガールのとこ行って治してもらえ」と指示を出しつつ、みんなは教室に戻るよう言って去っていく。

 個性把握テストはこれで終わり。

 濃い時間だったなぁ。色々と。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで初日も終了。下校時間だ。

 

 教室で解散の流れになるや否や、私は右斜め後ろの席へ振り向く。

 麗日お茶子(うららか ちゃこ)の席だ。

 

「あの」

 

 帰り支度中の彼女に、ちょっと緊張しながら話しかける。

 

「はい! なぁに?」

 

 突然話しかけられただけなのに何故か笑顔だ。かわいい。さすがメインヒロイン。

 私は表情豊かなタイプじゃないので、ちょっとうらやましい。

 

「私、空木風。その、よろしくね」

「わ! ありがとう! 私は麗日お茶子です! よろしくね! 風ちゃん!」

 

 あったかい太陽みたいな笑顔だ。

 あともう名前呼び。陽キャだ。

 

「お茶子ちゃんは、駅まで?」

 

 だいぶ照れるが、負けていられるかと名前で呼び返す。

 お茶子ちゃん、嬉しそうだ。私も名前が呼べて嬉しい。

 

「うん。風ちゃんも?」

 

 頷き返せば、自然と一緒に帰る流れになって、二人で教室を出る。

 

「お茶子ちゃん、”個性”すごかったね。無限なんて、びっくりした」

「へへ~! 無重力だからね!」

 

 お茶子ちゃんが特に記録を伸ばしていたのはボール投げと立ち幅跳び。

 ”個性”『無重力(ゼログラビティ)』で重力に引っ張られないわけだから、それはもうすごい記録だった。

 

「風ちゃんは、あれは何の”個性”なの? 立ち幅跳び、なんか変な跳び方してたよね!」

 

 私が自分のお尻を痛めたやつ。変な跳び方て。

 空気だけに見えないから、そんな感想にもなるか。

 

「私の”個性”は『空気』。空気を操れる。風を起こしたり、固めて叩いたりできる」

「おぉ~! 便利そうだね!」

 

 便利ではある。離れたリモコンを取ったり、扇風機代わりにしたり。

 

「ありがと。でも、そんなに派手なパワーは無くて」

 

 原作キャラだと誰が似てるだろう。

 轟焦凍は炎と氷を出したりするけど……全然違うか。私は空気を出したりしないし、轟焦凍は出したものを操作したりはしないはず。

 士傑高校だったかな? 他校の夜嵐(よあらし)イナサって人が竜巻起こせるんだよね。私はあんなパワー出ないから、上位互換みたいなものかも。

 

「でもかっこいいね! ヒーローっぽい!」

 

 お茶子ちゃんのキラキラな目が眩しい。

 なんて明るい子なんだ。

 

 それにしても、あぁ……。

 私、麗日お茶子ちゃんと喋ってる。

 なんて感動的なんだろう。生まれる前からファンでした。握手とか、してもらえないかなぁ。

 

 内心で感激していると、校舎を出たあたりで前の方に飯田天哉(いいだ てんや)と緑谷出久が並んでいるのを発見した。

 

「あ! あの二人、クラスの人だよね! おーい! お二人さーん!」

 

 二人を見つけたお茶子ちゃんがツッテケテーと小走りで追いかけていく。

 

「君は無限女子」

「麗日お茶子です! えっと飯田天哉くんに、緑谷……デクくん! だよね!」

「デク!?」

 

 自己紹介してる! この三人、仲が良くて一緒にいること多いんだよね。

 デク呼びに緑谷出久がびっくりしている。

 爆豪勝己が「デク」と呼んでいるのを聞いていたからだ。

 

「そちらは……空木くんだったな」

 

 歩いて追い付いた私に、飯田天哉が目を向けてくる。

 

「うん。空木風です」

 

 一応初対面の緑谷出久がいるので改めて名乗る。

 

「あ、ぼ、僕は緑谷出久! えっと、デクっていうのは、かっちゃんがバカにして……」

 「蔑称(べっしょう)か」

 「えーーそうなんだ! ごめん!!」

 

 さぁ来るぞ。

 備えろ私……!

 

 

 

「でも『デク』って……「頑張れ!」って感じで、なんか好きだ私!」

「デクです!」

 

 

 

 来たぁー!

 コペルニクス的転回だ!

 顔真っ赤だぞ緑谷出久!

 

 爆豪勝己がバカにするためにつけたあだ名『デク』が、「頑張れ!」って感じ、という全く新しい意味を与えられた瞬間。

 ここから最終決戦の「頑張れ!」に繋がっていくわけだから、これはもう超重要シーンだ。絶対に見逃すわけにはいかなかった。

 

 横から飯田天哉が「浅いぞ! 蔑称なんだろ!?」とツッコミを入れている。

 素晴らしい。原作の大好きシーンをこの目で見てしまった。私はもう満足だ。

 これを見るためにわざわざ教室でお茶子ちゃんを捕まえたくらい。ごめんね。でも仲良くしたいのも本音だから。

 

 緑谷出久、飯田天哉、お茶子ちゃん。

 三人組が並んで仲良く歩いているのを一歩引いたところから眺めて、私はとっても幸せだ。

 このために生まれてきたのだ、なんて本当に思っている。

 あぁ……この世の全てに感謝。

 

 

 

 

 

 そして翌日。

 

 超普通な授業でまず午前中を過ごす。

 拍子抜けするくらい本当に普通だ。

 

 昼は学食で緑谷くん飯田くんお茶子ちゃんと一緒に食べる。

 和食好きなお茶子ちゃんが白米に落ち着いていた。

 ちなみに、初日に仲良くなった梅雨ちゃんはお弁当派らしい。一人暮らしなのに、すごい。

 

 そして午後の授業、ヒーロー基礎学。

 担当は、オールマイト先生!

 既に初回授業の中身は知っているが、これはこれで大いに楽しみだ!

 

「わーたーしーがー!!」

 

 ()っ。

 

「普通にドアから来た!!」

 

 HAHAHAHA! とドアを開け放って現れたのは、ご存じオールマイト!

 赤を基調としたシルバーエイジのコスチューム。筋肉お化けみたいな長身。勢いよく伸びた二本の触角的な髪。

 こちらの世界に生まれ変わって、『オールマイト』を目にしなかった日などまず無い。圧倒的No.1。偉大なるスーパーヒーロー。

 雄英の合否通知では私の名前を呼んでくれたりもした。だけど、こうして実際に目にするのはこれが初めて。

 

「オールマイトだ……!」

「すげえや、本当に先生やってるんだな……!」

「画風が違い過ぎて鳥肌が……」

 

 A組のみんなもザワザワしている。

 ヒーローを志して、彼に憧れない人などいない。あと本当に画風が違う。

 

 私も生まれる前からオールマイトは大好きで憧れだ。

 生で見られる今日この時を本当に楽しみに待っていた。

 

 実際に見ると圧力すごいなぁ……!

 でも怖かったりはしない。圧倒的安心感の塊。

 これが”平和の象徴”かぁ……!

 

 確か原作者堀越先生によると、「かっこいいぜ!」と思って描いたオールマイトに「こんなおじさんじゃ憧れないですよね」なんて言われて奮起した、なんてエピソードがあったはずだ。

 私は、原作で初めて見たときどんな風に思ったんだったかな。正直そんなに「かっこいい!」とは思わなかったかも。

 どちらかというと、後の物語が進むうちに段々かっこよさが分かっていったような記憶だ。

 もちろん今は超かっこいいと思っている。ファンです。

 

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為様々な訓練を行う課目だ! 単位数も最も多いぞ! ……早速だが今日はコレ! 戦闘訓練!」

 

 教室がまたザワつく。みんなこのヒーロー基礎学を楽しみにしていたに違いない。

 しかも戦闘訓練と来たら、実にヒーローっぽいじゃないか。席から顔は見えないが、爆豪勝己なんかはめっちゃ笑顔のはずだ。

 

「そしてそいつに伴って……こちら! 入学前に送ってもらった「個性届」と「要望」に沿ってあつらえた……戦闘服(コスチューム)!!」

 

 オールマイト先生がピッとやると、壁がせり出して戦闘服(コスチューム)が入っているだろうケースが並んで現れる。

 私も当然コスチュームの要望は出した。現物はどんな感じになっているかな。わくわく。

 

「着替えたら順次グラウンドβに集まるんだ!」

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