架空は、現実に。   作:伊空路地

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8.屋内対人戦闘訓練

 ヒーローコスチュームに身を包んだA組のみんなが、ぞくぞくとグラウンドβに入っていく。

 敢えてちょっと後方を歩く私は、みんなの後ろ姿を惚れ惚れと眺めていた。

 

 みんなかっこいいなぁ……!

 

 ちなみに私のコスチュームは、髪と同じ白っぽい緑を基調とした、露出の少ないデザイン。

 腰から足元までのマントがあってかっこいい。思ったよりもかっちりしているかもしれない。

 まぁ、感情表現うすめな私には似合っているんじゃないだろうか。

 風避けにバイザーでもつけるか迷ったが、結局顔周りは晒している。人気商売なところあるし、顔は分かった方がいいのかな、なんて。

 

 私より後ろ、最後に入ってきたのは緑谷くんだ。

 彼のコスチュームは、やっぱり……かっこよくはないな。

 お茶子ちゃん曰く「地に足ついた感じ」。

 

 緑谷くんのお母さんがお手製で作ったもので、原作ではこの戦闘訓練で即ボロボロになって退場してしまったレア衣装でもある。

 次の機会、職場体験だったかな? の時には、もう大分デザインされ直した姿になっているはずだ。

 

 私の理解で言えば、高校生くらいの男の子がお母さん手製の衣装なんて、まぁ嫌がりそうなものだけど。

 緑谷くんはお母さんの気持ちを真っすぐ受け止め、何の機能も持たない素人衣装を自身のコスチュームにしたのだ。

 その心意気はやっぱりかっこいい。一見して華美でもなんでもないけれど、見た目には分からない部分でとっても立派だ。

 

 うんうん……他の誰が分からなくても、私だけはちゃんと分かってるよ緑谷くん……。

 

 なんて厄介オタクみたいな思考で遊んでいると、全員の集合を認めたオールマイト先生が口を開く。

 

「始めようか有精卵共!! 戦闘訓練のお時間だ!!」

 

 お茶子ちゃんがパツパツスーツを恥ずかしがっているのが見えた。

 私はとてもいいと思う。かっこよさとかわいさを併せ持っている。

 峰田実(みねた みのる)じゃないよ。そんな変な意味じゃなくてね。

 もう更衣室で一通り褒め終えた後だし。

 いや……似合ってるね、くらいしか言えてないけど……そんなことはいいのだ。

 

「良いじゃないか皆。カッコイイぜ!!」

 

 全員を見渡しながら褒めてくれるオールマイト先生が緑谷くんの触覚に気づいた。

 大きく飛び出た二本のそれは明らかにオールマイトの真似っこ。当人も真似っこされていることに気づいて、ぷるぷると笑いをこらえている。緑谷くん、大ファンだからなぁ。

 

 ガション! と手を挙げたのは、飯田くん。

 

「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

 

 フルアーマーで騎士鎧とSFの合体版みたいなコスチュームだ。男の子が好きなやつだね。

 飯田くんはヒーロー一家で、コスチュームも同系統のデザインに共通させていたはずだ。個人的には彼のお兄さんが着ているコスチュームの方がより好き。

 

「いいや! もう二歩先に踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ!」

 

 飯田くんの質問に答えつつ、オールマイト先生は屋内の方が凶悪敵(ヴィラン)出現率は高いと語る。

 確かに目立つのは屋外だけど、より計画的に行動する敵(ヴィラン)なら外で考え無しに暴れたりしなさそう。

 そして考えのある敵(ヴィラン)の方が、より手強い、と。

 

「君らにはこれから「敵(ヴィラン)組」と「ヒーロー組」に分かれて、2対2の屋内戦を行ってもらう!」

 

 「基礎訓練もなしに?」と質問をするのは梅雨ちゃん。

 いきなり戦えと言われても、私たちは人に”個性”を向けたことなどない。人を殴ったことすら、一度もない子だって珍しくないだろう。なにせ、ここは日本最高峰のエリート高校ヒーロー科。みんないい子ばっかりだ。

 爆豪勝己(ばくごう かつき)みたいなのは、それこそ例外的。

 

 でもオールマイト先生が答えるには「その基礎を知るための実践」とのこと。

 人間を相手にして戦うとはどういうことなのか、まずはとにかく感覚を掴んでみて欲しい。多分、そんな考えだと思う。

 戦い方だって”個性”次第だ。みんな一斉に格闘訓練とかしても意味は薄い。それこそ梅雨ちゃんとか、パンチを磨いても仕方ない部分がある。

 だから実践から、というのは頷ける話だ。

 

 みんなの続く質問ラッシュに聖徳太子しつつ、オールマイト先生はカンペを広げた。

 カンペちっちゃ。体格が良すぎてバランス悪い。

 

 コンビ及び対戦相手はくじ。

 飯田くんの「適当なのですか!?」に緑谷くんが推測で答えると、あっさり納得した飯田くんが失礼しましたと詫びている。

 ちょっとヤケっぽい「いいよ! 早くやろ!」とはオールマイト先生。

 学生たちに振り回されているオールマイト先生、面白いな。

 このおじさん、お茶目なせいもあって妙にかわいいんだよね。

 

 くじの結果、まずコンビが決まった。

 

 A:緑谷、麗日。

 B:障子(しょうじ)、轟(とどろき)。

 C:峰田、八百万(やおよろず)。

 D:飯田、爆豪。

 E:青山(あおやま)、芦戸(あしど)。

 F:口田(こうだ)、砂糖(さとう)。

 G:上鳴(かみなり)、耳郎(じろう)。

 H:蛙吹(あすい)、常闇(とこやみ)。

 I:尾白(おじろ)、葉隠(はがくれ)。

 J:切島(きりしま)、空木(くうき)、瀬呂(せろ)。

 

 Jだけ三人組だ。21人いるからね。

 原作との組み合わせは……変わってない、っぽい? 緑谷・麗日ペアと飯田・爆豪ペアは覚えてるけど……あとは、どうだったかな。覚えてないや。

 

 そして最初の対戦は、A緑谷・麗日が「ヒーロー」。D飯田・爆豪が「敵(ヴィラン)」。

 これは原作通りだ。良く覚えている。二巻の「猛れクソナード」ね。

 

 緑谷くん対爆豪勝己の因縁深い対決。

 入学早々にこんな機会が訪れるのだから、実に宿命的な二人だ。

 

 またかっこいい緑谷くんが見られると期待して、私は一人勝手にワクワクしていた。

 がんばれ、みんな。

 

 

 

 

 

 対戦するAコンビとDコンビだけが地上に。

 残りはオールマイト先生と一緒に地下のモニタールームで観戦。

 

 いまごろ緑谷くんが爆豪勝己に「負けたくない」と決意を見せているはずだ。

 そこも見たかったが、仕方ない。

 

 私の組は切島鋭児郎と瀬呂範太との三人組。

 二人ともモニターの方を見ているだけで、特に打合せとかをする様子はない。

 本気でやるなら作戦会議とかすべきだと思うが、まぁいいだろう。

 

 ちなみに、対戦は相手コンビにもう一人加わって3対3にするらしい。一人だけ二回戦うわけだ。

 

『屋内対人戦闘訓練、開始(スタート)!!』

 

 オールマイト先生が開始を告げた。

 

 モニターの向こうで、緑谷くんとお茶子ちゃんは窓の一つから潜入している。

 ドアから入った所の待ち伏せを嫌がったのだろう。

 緑谷くんは爆豪勝己の奇襲を警戒している。真っ先に自分を殴りにくると読んでいるためだ。

 

 そして、その予想はそのまま当たる。

 ビルの中を先導して進む緑谷くんに、突如曲がり角から飛び出した爆豪勝己が”個性”で爆破をしかけた。

 

 警戒していた緑谷くんは、お茶子ちゃんをかばって跳び、攻撃を避ける。

 だが、かすった。緑谷くんの頭部全体を覆っていたコスチュームの頭部分が、半分なくなっている。

 

 あぁ……。緑谷母のお手製、なんて儚い……。

 なんら特別に頑丈な素材ではなかったのだろうなぁ。

 

 更に追撃、右の大振りで殴り掛かる爆豪勝己。

 緑谷くんはそれを読んでいて、懐に入って腕を捕らえ、そのまま背負い投げで地面に叩きつける。

 あまりに華麗なカウンター、見事すぎてそういう合(・)わ(・)せ(・)にすら見えた。

 

 このモニタールームで音声が聞けないことが残念で仕方ない。

 でも聞こえる。私の記憶と重なって、緑谷くんの叫ぶ声がそのまま脳内に聞こえてくる。

 

 

 

「——いつまでも”雑魚で出来損ないのデク”じゃないぞ……。かっちゃん、僕は……! ”「頑張れ!」って感じのデク”だ!!」

 

 

 

 緑谷出久(いじめられっ子)から、爆豪勝己(勝利のイメージ)への、宣戦布告。

 

 うぁ~……! やっぱり、かっこいいなぁ……!

 

 

 

 

 

 それから、しばらくして。

 「ヒーロー」緑谷・麗日と「敵(ヴィラン)」飯田・爆豪の戦いは、ヒーローチームの勝利で終わった。

 緑谷くんと爆豪勝己の一騎打ちに見えた戦いは、緑谷くんがあくまで訓練の勝利を見据えたことでほとんど相打ちのようになり。

 緑谷くんが”個性”でフロアをぶち抜き、生まれた飯田くんの隙をお茶子ちゃんが捉えることで核を回収。

 ボロボロの勝者とほぼ無傷の敗者が決定づけられたのだった。

 

「——爆豪さんの行動は、戦闘を見た限り私怨丸出しの独断。そして先程先生も仰っていた通り、屋内での大規模攻撃は愚策。緑谷さんも同様の理由ですね。麗日さんは中盤の気の緩み、そして最後の攻撃が乱暴すぎたこと——」

 

 今は緑谷くんを除いた三人がモニタールームに戻り、オールマイト先生の講評——のはずが、八百万百が全部喋っていた。

 言うこと無くなったオールマイト先生の苦し気な笑顔よ。

 

「常に下学上達(かがくじょうたつ)! 一意専心(いちいせんしん)に励まねば、トップヒーローになどなれませんので!」

 

 胸を張って堂々と言い切ったのは同じく八百万百。

 どうでもいいけど、原作最初あたりの八百万百ってけっこうツーンとしてるね。

 もうちょっと柔らかい印象だったけど、終盤あたりのイメージだったかもしれない。

 

 私は、原作で予習済みの講評より爆豪勝己の反応と表情に気を取られていた。

 いま愕然(がくぜん)としている彼は、ついさっきの勝敗決定の直後には凄まじい恐怖を露わにしていた、と思う。

 他のみんなにどう見えたかは分からないが、私にはそう見えた。怖くて怖くて仕方がない、と。

 

 昨日の個性把握テストでも思ったが、私が記憶していた以上に爆豪勝己は緑谷くんを恐れているらしかった。

 その怖がりようは「苦手なものを見た」とか「絶叫マシンに乗った」とか、そんな浅いものではなく。

 まるで、「アイデンティティが崩壊しかけている」かのように。

 

 いや、まるでというよりは、ほとんどそのまま正解なのだろうな。

 爆豪勝己の自己理解は「おれがみんなよりすごい、デクがいっちゃんすごくない」。その現(・)実(・)が、緑谷くんのすごさに触れることで揺るがされる。

 問題がその膨らみ切った自尊心の方にあることは明らかなのだけど、本人にはなかなか認められないものに違いない。

 

 だが、彼も成長していく。

 いずれ、その過ちを認める日が来ることを知っている私は、一人無言で頷いていた。

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