架空は、現実に。   作:伊空路地

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9.初めての戦闘

 緑谷くんvs爆豪勝己(ばくごう かつき)のド派手な対決が終わって、続く第二戦は「ヒーロー」障子(しょうじ)・轟(とどろき)と「敵(ヴィラン)」尾白(おじろ)・葉隠(はがくれ)の対戦。

 ”個性”『半冷半燃』を持つ轟焦凍がビル一棟まるごと氷漬けにすることで、敵(ヴィラン)チームを無力化。そのまま核を回収して、あっさりとした決着になった。

 

 ”個性”の単純出力だと、轟焦凍は頭一つ抜けていると言っていいだろう。

 原作当初でも明らかな強キャラとして描かれていた通り、ヒーローが現場で求められる能力、その総合点では轟焦凍がA組トップで間違いない。

 彼にも色々問題はあるが、伸びしろと言い換えてしまえばこれも他クラスメイトに劣るものではなく、つまるところ優秀のひとことだ。

 

 あまりに一瞬の結末だったためにオールマイト先生もコメントに困っていたりして。

 

 

 

 そして続いて第三戦。

「ヒーロー」蛙吹(あすい)・常闇(とこやみ)・尾白と、「敵(ヴィラン)」切島(きりしま)・空木《くうき》・瀬呂(せろ)。

 

 「敵(ヴィラン)」に私たち三人組が選ばれたため、「ヒーロー」に選ばれた蛙吹・常闇コンビに尾白猿夫が追加された形だ。

 追加枠には尾白猿夫と葉隠透が「さっきは何もできなかったから」と強く立候補し、尾白猿夫がじゃんけんで勝った。

 連戦になってしまうが、何もしていないから疲れもない、だそう。

 むしろ雪辱に燃えてやる気十分な様子だった。

 

「俺ぁ切島! ”個性”は『硬化』で、分かりやすいインファイト向きだ! 五分しかねぇから、簡単に得意なこと教え合おうぜ!」

 

 「敵(ヴィラン)」として先にビル内へ入った切島・瀬呂と私。

 真っ先に口を開いて硬化を見せてくれたのは切島鋭児郎だ。

 見るからに質感が変わった彼の腕をそろっと指先でつついてみると、本当にカッチコチだ。

 

「俺は瀬呂範太。”個性”はこの通り——『テープ』が出せる。割と丈夫だから、色々使えるぜ」

 

 瀬呂範太が肘からビーッとテープを出して見せてくれる。

 テープって言われるとあっさり千切れそうだけど、触ってみると言葉通り割と丈夫だ。確かに、原作でも伸ばしたテープでワイヤー移動みたいなことしてたね。

 

「私は空木。”個性”で空気を操れる。固めれば攻撃も防御もできる」

 

 最後は私だ。

 右手を二人に差し出すように広げて、手のひらの上で空気を固める。

 興味深そうな瀬呂範太が手を伸ばしてきて、固められた空気に触れた。そのまま虚空をコツコツと叩く。

 

「本当だ。見えないのに触れるって変な感じするな」

「硬さで言えば、切島くんの方が硬いと思う」

 

 私の”個性”で固めると、せいぜい木材くらいの硬さにしかならない。

 例えば切島くんの硬化を殴りつけたら、空気側が砕けて終わりだろう。

 

「なるほどな……! じゃあ俺が真っ正面から敵を抑える! 瀬呂と空木は、俺の援護を頼む!」

 

 方針は自然とそうなるし、それがベストだと思う。

 懸念としては常闇踏陰の『黒影(ダークシャドウ)』と尾白猿夫を正面から受け止めきれるか、だろうか。

 梅雨ちゃんもそつがなく優秀だから警戒しておきたい。

 

「俺、今のうちに核の周りテープだらけにしとくわ。多少近づきづらいだろ」

「おぉ、いいな!」

「ありがと、瀬呂くん」

 

 核があるのは最上階の五階フロア一番奥。シンプルに、最も入口から遠いところにした。

 私たちの作戦は、核のある部屋に瀬呂くん、そのすぐ外で私と切島くんが男らしく待ち構えるというもの。発案者は切島くんだ。

 

『では三戦目! 開始(スタート)だ!』

 

 私たちが配置につくあたりで、小型無線からオールマイト先生の合図が聞こえた。

 

「よっしゃ! 全力でいくぜ!」

「おう!」

「うん」

 

 と、意気込んだはいいが「ヒーロー」チームは一階から警戒しつつ上って来るため、しばらく待機。

 

 そのまま待つこと五分強くらいか。

 私と切島くんが見据える正面の角から、ちらりと梅雨ちゃんが顔を出す。

 様子を見ようとしたのだろうが、待ち構える切島くんはバッチリその姿を捉えていた。

 

「よし! 来たな!」

 

 硬化した拳をぶつけ合わせて切島くんが音を鳴らせば、すかさず前に出てきたのは尾白猿夫。

 武道家スタイルのコスチューム、強靭そうな尻尾、彼は見るからに前衛タイプだ。

 

「うおおおおお!」

 

 雄たけびを上げながら切島くんが突撃し、尾白猿夫との正面勝負が始まった。

 

 硬化した拳で殴る、殴る。

 尾白猿夫がそれを受けつつ、カウンターを入れるが切島くんの硬化に有効打が入らない。

 

 私も手伝いたいが——迂闊に空気をぶつければ切島くんをまきこみそうだ。ダメージ自体は入らないだろうが邪魔になる。

 

 生まれるかに見えた膠着(こうちゃく)——やや切島くん有利——を次に動かしたのは梅雨ちゃんだ。

 壁の高いところを張りついて跳び、切島くんを越えてくる。伸ばした舌で切島くんを狙おうとするが、それを許さないのが私の役目だ。

 

 私の”個性”は、操る空気が近く少ないほど、強く速く硬くなる。

 手のひらくらいで空気を固めてボールを作り、梅雨ちゃんに向けて狙いを定め——迷う。

 

 瞬間に手が躊躇(ちゅうちょ)していた。

 他人を攻撃すること、その怖さが突然実感を持って私の手を止めようとしたのだ。

 

 だって、私の”個性”は脆いとはいえロボットを殴り壊せるようなものなのだ。

 それを人に、昨日仲良く話したばかりの梅雨ちゃんに、ぶつけるなんて。

 

 違う、これはそ(・)う(・)い(・)う(・)訓練だ。ここで躊躇っていてどうする。

 迷いを必死に振り切るように、私は空気のボールを思いっきり投げつけた。

 

 見えないボールが梅雨ちゃんに当たる。

 

「けろっ!?」

 

 痛みと衝撃に驚く声を梅雨ちゃんが上げるが、迷いが生んだ僅かな瞬間分、遅れた。

 梅雨ちゃんの舌が早かった。既に切島くんの足を捕らえている。

 

「うおぉ!?」

 

 私の攻撃で壁から飛ばされた梅雨ちゃんだったが、それでも捕らえた切島くんの足を強く引っ張った。

 それは決して大きな力ではなかったが、切島くんのバランスを崩すには十分。

 

 たたらを踏んで耐える切島くんに生まれた隙、尾白猿夫が強かに尻尾の横薙ぎで捉えた。

 

「がっ……!!」

 

 切島くんが壁に叩きつけられる。

 明らかな直撃。

 

 ——マズイ!

 

 切島くんをフォローしようと、私は思いっきりに空気を固めて尾白猿夫へ真っすぐ向ける。

 空気は目に見えない。

 だから避けられず、空気の塊は尾白猿夫を吹き飛ばした。

 

「黒影(ダークシャドウ)!」

「アイヨ!」

 

 吹き飛んだ尾白猿夫の陰から高速で飛び出してくる黒い影。

 常闇踏陰(とこやみ ふみかげ)の”個性”『黒影(ダークシャドウ)』だ。

 

 ヤバイ、と思うのも僅か、私は鷲づかみにされて地面に叩きつけられた。

 

「ぅあっ!」

 

 強い衝撃に目のまえがチカチカと瞬く。

 立ち上がろうともがくが、黒影(ダークシャドウ)はびくともしない。

 なんて力だろう。もっと幼いころ、お父さんにがっしりと抱き捕まえられた記憶が脳裏に過ぎる。

 

「確保するわ!」

 

 影の向こうから跳び出して来たのは梅雨ちゃん。

 手には巻き付けることで捕らえたことになる、確保テープ。

 

 不味いと思っても動けない。

 

『空木少女、確保だ! そこでそのまま動かないように!』

 

 オールマイト先生の声が無線から届く。

 

 轟焦凍の第二戦ほどではなかったが——割にあっさりと、私の戦闘訓練が終了した。

 

 

 

 切島くんはまだ動けたようで、ややフラつきながらも戦って、人数差を埋められず捕らえられる。

 私の確保を聞いて核の部屋から瀬呂くんも飛び出してきたが、「ヒーロー」チームの勢いは覆せず切島くんと共に捕まってしまう。

 

 「ヒーロー」チーム、梅雨ちゃん達の勝利である。

 

「今回は、敵(ヴィラン)チームがちょっともったいなかったな! 瀬呂少年が核を守るポジションなのはいいが、戦闘に参加するのが遅れてしまって2対3になってしまった!」

 

 オールマイト先生は活き活きと講評をしている。

 八百万百(やおよろず もも)に全部言われたり、戦いが一瞬過ぎて話すことがなかったり、ようやくちゃんと喋れるといった感じだ。

 

「空木少女も攻撃に躊躇(ためら)わなければ、切島少年への援護が間に合っていたはずだ! だがそういった相手の隙を逃さなかった「ヒーロー」チームが素晴らしかった! お互い良く頑張った、素晴らしかったよ!」

 

 オールマイト先生が拍手するのを横目に、私は隣の切島くんに話しかける。

 

「ごめん。……援護、迷っちゃった」

「いや、しょうがねぇって! 俺も突っ走り過ぎちまったし、これからだぜ!」

 

 切島くんは悔しそうにしながらも、堂々として励ましてくれる。

 確かに男らしい。

 

「俺も待ちすぎたし……なんなら、三人いたんだから一人くらい自由に動いたほうが良かったかもな。それこそ俺とかが」

 

 瀬呂くんの言うことも正しいかな。

 私か瀬呂くんが偵察なり遊撃なりしていたら、もっと時間を稼げたし挟み撃ちにだってできたかもしれない。

 反省点が多そうだ。後で他のみんなにも意見を聞いてみたい。

 

「さぁ次の組、どんどん行こう!」

 

 私はまだ固まっている梅雨ちゃん・尾白猿夫・常闇踏陰に近づいて声を掛ける。

 

「梅雨ちゃんと、尾白くんも。……大丈夫だった?」

 

 私の”個性”は空気を操っているわけで、それをぶつけた感触が手に伝わったりはしない。

 だけど、自分が自分の”個性”で人を攻撃した、その妙な手応えだけはしっかりと感じた。

 あんまり気持ちの良いものじゃない。

 

「いいのよ風ちゃん。訓練だもの、気にしないで」

「俺も、大丈夫だよ。あれくらいなら慣れてるしね」

 

 尾白くんは結構しっかり殴ったはずだが、頑丈だ。流石男の子。

 

「空木だったか。そちらこそ、無事か。なるべく手荒にはしなかったつもりだが……」

 

 逆に気遣ってくれたのは常闇踏陰。

 殴り飛ばしたりもできただろうに、鷲づかみで止めてくれたくらいだ。凄まじい力だったが、特にどこか傷めたりはしていない。

 

「うん。ありがとう」

 

 しかし黒影(ダークシャドウ)、受けて余計に感じたが強い”個性”だった。

 ”個性”のすごさランキングで言えばA組でもトップクラスだろう。

 光という分かりやすい弱点こそあるが、それにしても。

 さすが原作終盤でも大活躍だっただけはある。

 

「……ヒーローになるって、大変なことなんだね」

 

 しみじみ、そう思った。

 別に楽だと勘違いしたことは無いつもりだったけれど。

 改めて、ヒーローという道のり、そしてプロたちのすごさを思い知った気分だ。

 

 私は、正直そこまでヒーローになりたいと強く思っているわけではない。

 みんなには悪いが、私はヒロアカの物語を特等席で見たいだけのとっても不純な動機でここにいる。

 だからこそ、同じく改めて実感したのだ。

 

「……みんな、すごいなぁ」

 

 私は、みんなの様にはなれなさそうだ。

 せめて邪魔をしないように、私なりに頑張るとしよう。




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