肉盾にしようと買った奴隷がSSSSS級魔族だった件 作:わずみかん
問題です。パーティーを組むにはいったい何人必要でしょうか。
答えは三人。前衛、後衛、支援職。……と言いたいところだが、実は二人でも済む職業がたったひとつだけ存在する。
それがスカウトだ。
スカウト職とは万能で何でもこなせるような奴にしかできない。偵察、罠、アイテムによる支援。機転を利かせて前に出たり、逆に後ろから援護射撃したり、何でもできて何でも見通せて、一人で何でもできる奴にしかできないのである。
だから答えとしては『俺のようなスカウトがいれば二人で済む』が正解だ。
じゃあスカウトならモンスターも一人で倒せるかって? おいおい、俺にそんな危ない橋を渡らせるなよ。そういうのは命知らずな前衛が勝手にやることさ。奴らが汗まみれ傷まみれになってる最中に、俺が美味しいところだけを搔っ攫う。それが今の世の中で一番賢い方法だ。
ではもう一つ問題です。
そんな俺は現在、何人でパーティーを組んでいるでしょうか。
正解はCM……じゃなくて7行後で。
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「困ったことになったな……」
俺は街を歩きながら途方に暮れていた。
ギルドで破格の依頼を見つけ、つい飛びついたのはいいものの……。よく見たら条件に《護衛の前衛必須》と書かれていた。
「そりゃよく読まなかった俺も悪かったけどさぁ。けど隣町に物を届けるだけの依頼にどうして前衛が必要なんだよ。しかも違約金が金貨20枚って……」
金貨が20枚もあれば、この街ならひと月は豪遊できる。そんな額をみすみす渡すなんてできねぇ。
となるとこの依頼を受けるためには前衛職をしてくれる仲間が必要ってことだが、まさに俺の抱える最大の問題はそこにある。
「やぁ、エルダーじゃないか。ご無沙汰だね」
ふとそいつの声に顔を上げてみると、馴染みのあるツラが俺を見ている。
「ツィネスか……」
相変わらずキザな笑みを浮かべながら、ご自慢である白銀の甲冑を輝かせている。
「どうしたんだよ。浮かない顔してるな」
「ほっとけよ」
と、その隣にはいつもの腰巾着もご同伴か。
「聞いたぜエルダー。お前、前衛必須の依頼を受けたらしいな」
「だったらどうなんだよ」
「あの『孤高のエルダー』様がまさか仲間を探してるとはな。さては違約金が惜しくなったか?」
ノリだけで生きてる馬鹿なロン毛野郎こと、パマスはにやけながらそう言ってきやがった。
「でもお前のことだ。どうせ仲間なんて見つからないんだろ? なにせ傭兵団の裏切りもんだからなぁお前は!」
「おいパマス。そういう言い方はよくないぞ」
「はっ、お前も気にしなくていいぜツィネス。そいつの言ってることは事実なんだからな」
なにが孤高のエルダーだよ。変な二つ名つけやがって。
しかしこういうの言うとおり、まさしく俺の抱える問題の根底はそこにある。
「仲間が見つからずに困ってるんだろ。悪いな、俺が力になってやれなくて」
「そういう上から目線、いちいち腹が立つんだよ。同情ならよせ」
「そ、そういうつもりじゃ……」
「だいたい五年前、一番割を食ったのはお前じゃないか」
そう。俺は五年前まで、ある有力な傭兵団に所属していた。しかしその依頼の最中、俺は仲間を裏切り依頼を失敗させてしまった。
当然ながら俺は傭兵団を追放され、さらには裏切り者の悪評に「仲間を見捨てて逃亡した」だの、「自分の命が最優先な人でなし」だの、尾ひれまでつく始末だ。
そうこうとしているうちに、気付けば誰からもパーティーを組まれないソロの傭兵として名が広まっちまった。だから『孤高のエルダー』。響きだけならカッコよくも聞こえるが、要は誰からも相手にされないボッチってことだ。
「違うんだ。俺だってエルダーと組んでやりたいんだけどさ……。けど他の仲間が君をあまり良く思っていなくて、だから本当にごめん」
「別に構わないぜ。俺はもう何年も一人でやってきたんだからな。今更お前らの力を借りるつもりはない」
「よせよ、かつての仲間じゃないか。それに俺は君のこと、そこまで悪い奴だとは思ってない」
「詭弁はよせ。俺がお前らを裏切ったのは事実なんだぜ」
「それはそうかもしれないけど、でもエルダーにもなにか事情があったんだろ? じゃなけりゃ、君があんなことをするはずないもんな」
「うっせぇよ。もう話は済んだなら行かせてもらう」
どうせこれ以上こいつらと関わってもいい思いはしないだろう。
それにツィネスはああいうが、俺の性格を考えれば悪評だってまったくのでたらめってわけじゃない。
こんな世の中だ。傭兵をやるなら、自分の命を第一に考えたって当然じゃないか。そう俺が思って生きているのは事実だ。
つまるところ、なるべくしてなったってだけの話だ。はなから誰かと深く関わるような生き方が性に合ってなかったんだよ。
「おいエルダー様よぉ。ひとついい方法教えてやろうか?」
人が距離を置こうって時に、空気の読めないパマスがなんか言ってきやがる。これだから腰巾着は嫌いなんだ。お前も少しはツィネスを見習え。そして俺の好きにやらせろ。
「なんだよ。俺がわざわざ足を止めて聞いてやるんだ。少しは利口なアイデアなんだろうな」
まあどうせバカみたいなことしか言わないんだろうけどな。こういう時はだいたい俺への皮肉だ。
「まあそう言うな。ようはお前は前衛職さえパーティーに居ればいいわけだろ?」
「だからそう言ってんだろ」
「ならこうすればいい。まずは奴隷を買うのさ。できるだけ屈強そうなやつをな。で、その奴隷に前衛職をやらせればいい。これなら悪評塗れのお前にも前衛職の仲間ができるだろ?」
「お、お前ちょっとな!?」
俺が耳を傾けてやっていると、横からツィネスが言葉を遮った。
「それ、ようは奴隷を盾代わりにするってことだろ? いくらなんでもそんなことエルダーがするわけないだろ」
「じょ、冗談だよツィネス! ちょっとからかっただけだ」
「いくらなんでもいって良いことと悪いことがある。お前のは明らかに一線を越えているぞ!」
「わ、悪かったよ」
「すまんエルダー。こいつもそこまで嫌な奴じゃないんだ。ただお前を心配して……」
「茶番が終わったんなら、俺は行かせてもらうぞ」
「その……悪かった」
一区切りするとツィネスがこちらに手を振った。相変わらず爽やかそうな笑みを浮かべて、さもさっきまでの険悪が嘘のようだ。
「それじゃあ俺達も行くよ。また何か有ったら何時でも言えよ」
「あぁ……」
そうして俺はツィネス達と別れる。
しかし、奴隷を買うか……。
「…………」
その手は思い浮かばなかったな。
「確かに奴隷なら文句も言わない。見殺しにしても盾代わりにしても、誰かに恨まれることもないしな」
なんて、言葉で出してみると禄でもねぇ。
だがこのままじゃ違約金は金貨20枚だ。このままみすみす違約金を払うくらいなら、奴隷を買ってでも依頼を受けた方がマシまである。
「ようは前衛職が居ればいいんだろ? だったら奴隷でも立派な肉盾になる以上、前衛職ってことになるよな」
相変わらずこういう時の思い切りだけはいい。だがそこが俺の取り柄でもある。
合理的で非倫理的。だからこそ最も賢い方法を選ぶことが出来る。それが俺の性根ってやつだ。
今の世の中、偽善だけじゃ飯は食えない。このご時世に傭兵なんて職に就くなら猶の事だ。
必要なら手段は択ばない。そしてそうと決めたんなら躊躇わずにやる。それがソロで活動を続けてきた俺が身に着けた術だ。
「そうと決まれば善は急げだな」
この国じゃ奴隷の売買は別に違法じゃない。奴隷は主に自ら身売りしてきた連中や、敗戦国の捕虜なんかがなるもんで、デカい街になれば奴隷商が一人くらいは居るもんだ。
そこで適当な奴隷を見繕って依頼を受けさえすれば、ひとまず違約金は払わずに済む。
なにせ隣街に物を運ぶだけの仕事だ。前衛が必要ってのもどうせ建前か何かだろう。なら奴隷だろうが何だろうが前衛職さえ揃えりゃ、後は俺が一人でやればいい。というか最初からそのつもりだったしな。
「後は値段だけか。格安な奴隷でも居ればいいんだがな」
そうして俺はこの街にある奴隷商の店までやってくる。
その店は奴隷を売り買いしてるってのに、白昼堂々に店を構えてやがる。しかも他よりも豪華な建付けだ。よっぽど景気が良いらしい。
「おやおや、これは珍しいお客さんがおいでのようで。ようこそ、我がアズラァ商会へ」
店に入るや否や、やけに上品なスーツに身を包んだ初老の男が話しかけてくる。
「奴隷を買いに来た。つってもここには他のもんなんか無いんだろうけどな」
「それはまた、我がアズラァ商会をお引き立ていただきありがとうございます」
この男はアズラァといい、この奴隷商の支配人をしている。街ではそれなりに有名人で、俺も名前と顔くらいは知っている仲だ。
「今回はどのような奴隷をお求めで」
「できるだけ安い奴が良い。それと屈強そうであれば尚いいな」
「もしかして旅のお供をお探して?」
「ま、まぁそんなところだ。それで、そういう奴は居るのか?」
「屈強な奴隷といいますと、やはり値が張りますね。ざっと金貨200枚はかかるかと」
金貨200枚……。違約金の20枚をケチろうって時に、そんな大金なんぞ払えるか。
「ご予算はいかほどですか?」
「そうだな……」
依頼の報酬金額が金貨50枚。そして違約金が金貨20枚。
安ければ安い程いいが、いずれにしても報酬の金貨50枚ってのが天井か。そもそも手持ちがそこまであるわけでもないしな。
「金貨20枚か、30枚で買える奴隷はいないか」
「その額になりますと中々……」
アズラァはわざとらしく首を振る。
だがその後、何かを思いついたようにはっと手を叩いた。
「そうですね。もし〝訳あり〟で良ければご紹介できますが」
「訳あり?」
「はい。その奴隷ならば金貨20枚でお売りしましょう」
「本当か? 訳ありだろうが何でもいい。ならその奴隷を売ってくれ」
「かしこまりました。ではご案内しますのでこちらへ」
これは締めたな。奴隷が金貨20枚で買えるとはついてる。
普通なら安くても100枚、高ければ500枚はするってのが相場だ。訳ありだかなんだか知らないが、金貨20枚は破格中の破格といっていい。
「さあ、この奥です」
アズラァは階段を上がらせ、三階の部屋へと俺を通した。
「では連れてまいりますのでここでしばしお待ちください」
そうアズラァが言うと、俺を部屋のソファに座らせて出ていく。にしてもなんだこのソファ、やけに座り心地がいいな。
「奴隷商ってのは儲かるもんなのかね」
部屋も応接室か何かなのか、やけに調度品が高そうだ。
「お待たせしました」
そうしてアズラァが戻ってくる。
「…………」
するとその傍らには、一人の女の子がついていた。
「ほら、ご挨拶しなさい。今日から此の方が貴女のご主人様です」
「…………」
そいつはただ無言のまま、反骨的に俺を見ている。
褐色の肌に、金色の長い髪が暖簾のように垂れさがっている。
首には鉄の輪を嵌められており、
ただ何というか……。俺を見つめるそいつの瞳が、やけに深い。
まるで見ているものを縛るように、その濃い紫の瞳がこちらを離さない。
ホントに何なんだこいつは……? 褐色ってのもこの国じゃあまり見ない。遠方の国の出身か?
「では小切手をお渡ししますので、そこにエルダー様のサインを」
「あ、あぁ……」
にしても……まさかこんなガキの娘が出てくるとはな。
だが訳アリってのはどういうことだ? こいつくらい顔が良けりゃ、いくらでも高値で売れるだろうに。
「はい、確かに。ではこれで正式に奴隷の売買は成立致しました。本日よりこの娘はエルダー様の物でございます」
人を売り買いするにはやけにあっさりした取引で終わり、そのまま俺は娘と一緒に玄関まで連れられて行く。まるで厄介払いでもしようって空気だ。
「それではまたのご来店を心よりお待ちしております」
そう言って、アズラァは娘を渡すだけ渡すと店先の扉を閉めてしまいやがった。
「…………」
にしてもこいつ、さっきから何も言わねぇな。
いや言わないだけならまだいい。ずっと俺を睨んできやがる。まるで何か目の敵にされてるみたいだぜ。
「なぁお前、名前は?」
「…………」
やっぱり何も言いやがらねぇ。
まさか訳ありって、言葉が通じねぇとかそういうのじゃないだろうな。
「……お腹空いたんだけど」
「はぁ?」
「だから、お腹空いたんだけど」
そんでもって主人に対して放った第一声がこれかよ。
「お前なぁ。自分の立場ってもんを分かってるのか」
「あんたが私の世話をしてくれるんでしょ?」
「ちげぇよ。お前が俺の世話をするんだよ」
「聞いてた話と違う」
「そりゃこっちの言葉だ!」
なんだこいつ。まるで自分が奴隷だって分かってないみたいだぞ。
「おいおいアズラァさんよぉ……。奴隷商っていうんなら、そこんとこの教育はしっかりしとけっつの」
「ねぇ聞いてる? お腹空いたんだけど」
「分かった分かった! だったらもう睨むのはやめろ」
「…………うん」
するとようやく、そいつは俺から視線を放しやがった。
「それじゃあまあ、飯でも行くか」
「ホントにいいの?」
「なんだよ自分からたかっといて。まあ俺も腹は空いて来たからな」
「……そうなんだ」
何なんだよこいつ。
正直、俺だって人付き合いが上手い方じゃない。コミュ障な俺にこいつの主人は荷が重いんじゃないか? つうかどうして買った側の俺が気を使わなくちゃいけないんだよ。
「そんで、お前なにが食いたいんだ?」
「なんでも。野菜以外」
「何でもじゃねえじゃねえかよそれ」
というわけで俺はこの日、奴隷を買った。
こいつが果たして肉盾になるのかどうかは、まだ分からない。