異世界帰還者は迷宮を喰らう   作:ぽんたぬ

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第14話 笑いながら人を殺す者たち

 

「……凶行者?」

 

 【解析】で表示された【凶行者(クルーエル)】という名称をさらに調べると、次々と情報が出てきた。

 

 

「暴行、強盗、殺人……死刑囚までいるのか」

 

「犯罪者を集めていたということですの?」

 

 詩乃が黒い金属杖を手にしたまま、俺の横から表示された情報を覗き込む。

 

「いや。それだけじゃないみたいだ」

 

 窃盗や詐欺程度の前科しかない者。生活保護を受けていた者。長期間仕事に就けなかったニート。中には犯罪歴すらなく、普通の探索者を師ていた人間までいる。

 

 共通しているとすれば、家族や安定した生活基盤を持たず、突然姿を消しても大きな騒ぎになりにくいことくらいだった。

 

 

「……ひどい」

 

 依織が小さく呟いた。

 

 行われていた処置も分かってきた。

 固有能力の出力を強制的に引き上げ、それと同時に精神へ干渉する。人間を傷つけることへの恐怖や躊躇を弱め、反対に攻撃性や殺人衝動を増幅させていたみたいだ。

 

「元から危険な犯罪者もいる。でも、全員がそうだったわけじゃないな」

 

 一人の記録を開く。

 処置前には暴力歴なし。

 

 それが何度も実験を受けたあとには、命令された人間を笑いながら殺すまでに変化していた。

 

 

「私……見たことがあります」

 

 依織が自分の腕を抱く。

 

「訓練室に連れてこられて、モンスターを殺したり……人同士で戦わされたりしていました。近づいちゃ駄目だと言われていたので、詳しくは知りませんでしたけど……」

 

『ならば話は早い』

 

 アスモダイが当然のように言う。

 

『我が領域へ攻め込んできた敵であろう。皆殺しにすればよい』

「んー、その意見には半分反対かな」

 

『……何?』

「いや俺だって別に、快楽殺人者じゃないし?」

 

 いくら異世界でそういった荒事の経験があるといったって、誰が好き好んで人殺しするもんか。

 

 

「それに死人に口なしだろ。誰に命令されたのか、どこで処置されたのか、他にも施設があるのか。せっかく情報を持って来てくれたのに、全部殺したら聞けなくなる」

 

 人工的に変えられた人間なら、元へ戻せる可能性もある。

 

 だからといって全員を救うつもりもないけどさ。

 

 

「もちろん、元から人殺しを楽しんでる奴まで無理に助けるつもりはないよ。殺すしかない奴は殺す。使えそうな奴は残す。それでいいだろう」

 

「皇牙様は、人を助ける時まで損得でお考えになるのですね」

 

 詩乃が少し呆れながらも笑っている。

 

「嫌いになった?」

「まさか。わたくしは皇牙様がどのような方でも構いませんけれど」

 

「それは嬉しいな」

「生半可な気持ちで婚約者になったわけじゃないですから」

 

 詩乃がじっとこちらを見る。

 

 その横で、依織が俺たちを交互に見ていた。

 

「……本当に好きなんですね」

「当然ですわ」

 

 今度は一切迷わなかった。

 依織がなぜか少しだけ複雑そうな顔をしたが、今は敵の方が先だ。

 

 

「さて、そろそろ客を迎えようか」

 

 管理領域へ意識を広げる。

 

 侵入者は九人。

 全員が一グループになって、この施設に向かってきている。

 

「まぁ、一度に全員の相手をする必要はないよね」

 

 通路へ【虚素】を流す。

 九人の前後で石壁が動き、進路が次々と塞がった。

 

 一人。

 

 五人。

 

 三人。

 

 三つの集団へ切り離す。

 

 

『貴様……我の迷宮を随分と気軽に弄るようになったな』

 

「もう俺のダンジョンでもあるからね」

 

『まだ認めておらぬわ!』

 

 抗議は無視して、三人組のいる通路へストーンエイプを二体送り込んだ。

 

 目的は倒すことではない。

 能力を使わせて戦闘データを得ることだ。

 

 

 一人目が腕を振った瞬間、目に見えない衝撃が走り、ストーンエイプが壁へ叩きつけられた。

 

 二人目は何もなかった床から何本もの金属杭を生み出し、モンスターの身体を串刺しにする。

 

 三人目はもっと単純だった。

 自分の両拳を硬化させ、そのままストーンエイプへ殴りかかる。

 

「死ねよ! ほら、もっと鳴けよ! はははははっ!」

 

 倒れた個体の頭を何度も踏みつける。

 

 

「それぞれ【操作】系、【具現】系、【侵蝕】系か。能力自体は珍しくないけど……」

 

 出力がおかしい。

 本来なら第三、第四等級程度に収まるような能力を、無理やり上の水準まで引き上げている。

 

(希少な能力者を一人探すより、普通の能力者を十人強化する方が兵士を揃えるなら簡単か)

 

 敵側にも、敵側なりの合理性があるらしい。

 その時、硬化能力者を詳しく【解析】して違和感に気づいた。

 

 

「……この人、自分の意思で笑ってないな」

 

「どういう意味ですの?」

 

「見てるものと、身体の反応が合ってない」

 

 口では笑っている。

 ところが心拍は速く、呼吸も浅い。拳を振り下ろすたびに指先が震え、身体は明らかに恐怖を感じている。

 

 殺人を楽しんでいる人間の反応ではない。

 

 

「この人は残そう。処置を外したら話が聞けるかもしれない」

 

「では、どうやって捕らえます?」

 

 詩乃が杖を構え直した。

 

「皇牙様がお出になるのでしたら、わたくしも」

 

「いや。今回はちょっと違う方法を試したい」

 

 せっかくダンジョンそのものを手に入れた。

 俺が直接、侵入者を一人ずつ倒していては、管理者になった意味がない。

 

 

「久しぶりにあいつらを使おうか」

 

「……あいつら?」

 

 俺は自分の固有能力【データ化】へ意識を沈め、保存されている機能の一部を呼び起こした。

 

 三つの光が俺の前へ現れる。

 光が収まると、そこには手のひらより少し大きい三人の少女が浮かんでいた。

 

 

 一人目は黒髪に猫のような耳を持ち、黒い服をきっちり着込んだ少女。

 

 二人目は小さな角と尻尾を持ち、楽しそうに空中を飛び回る少女。

 

 三人目は頭に大きなゴーグルを乗せ、腰へ工具のようなものをいくつも下げている。

 

 

「……皇牙様?」

 

 詩乃が珍しく言葉を失った。

 依織はそれ以上だった。

 

「か……可愛い……」

 

「紹介するよ。α、β、γ。俺の【データ化】を補助するために作った、自律式のプログラムみたいなものだ」

 

 

α(アルファ)【保存】

解析した物質・現象・能力などの情報を、自身の保存領域へ格納する。

【操作】に相当する。

 

β(ベータ)【複写】

保存した情報を複製し、別の対象や虚素へ反映させる。

【侵蝕】に相当する。

 

γ(ガンマ)【構築】

解析済みの情報を設計図として利用し、虚素から新たな物質や現象を作り出す。

【具現】に相当する。

 

 

 黒髪のαが小さく一礼する。

 

α(アルファ)、起動完了。これまで【保存】したデータへの接続を確認しました」

 

 

 その横でβ(ベータ)が俺の肩へ飛び乗った。

 

「久しぶりー! 今日は何を複写する? いっぱい増やす?」

「必要な分だけね」

「えー」

 

 

 最後にγ(ガンマ)がゴーグルを下ろし、三人の【凶行者】を見ながら嬉しそうに両手を擦り合わせる。

 

「新しい実験台? だったらアタシに改造させてよ!!」

「ダメだよγ」

 

「まだ何も説明してないのに!」

「君が余計なものを付けるのは知ってるから」

 

 

 詩乃が頭上を飛ぶ三人を見たあと、俺へ視線を戻す。

 

「この子たちを戦わせるのですか?」

 

「少し違うよ」

 

 俺の中には、異世界で【保存】したモンスターや魔法、道具の情報が大量に残っている。

 

 そして今は、新宿ダンジョンそのものを動かせる。

 なら、この二つを別々に使う必要はない。

 

 

「α。保存してある異世界のモンスターデータから、あの三人に相性がいいものを探して」

「了解。検索を開始します」

 

「β。こっちのダンジョンにいるモンスターへ使えるよう、必要な性質だけ複写する準備」

「はーい!」

 

「γ。それを、このダンジョンの【虚素】で実際に作れる形へ組み直して」

 

 γがゴーグルを下げた。

 

「それなら任せて!」

 

 詩乃がようやく俺の意図へ気づいたらしい。

 

 

「……まさか皇牙様、新しいモンスターをお作りになるおつもりですの?」

 

「うん」

 

 三人の【凶行者】は、まだ自分たちが何を相手にすることになるのか知らない。

 

 それはこちらも同じだ。

 だからこそ試してみる価値がある。

 

 

「せっかくだから、実戦テストに付き合ってもらおうか」

 

 俺の言葉と同時に、α、β、γが一斉に動き始めた。

 

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