※この小説は『デリシャスパーティ♡プリキュア』の菓彩あまねとオリジナル主人公(男)が恋愛する二次創作です。
※主人公がヒロインと幼馴染など、オリジナル設定があります。
それは、まだ何も知らなかった幼い頃の夢。
光が溢れるおいしーなタウンの公園で、天使のように可愛らしい少女が笑っていた。
『あまねちゃん』
幼かった俺は照れくさそうに、けれど真っ直ぐに彼女の手を握り締め、胸を張って言っていたのだ。
『将来、あまねちゃんに相応しい男になるから。……俺と結婚しよう』
◇
目を覚ますとそこは、夕闇が差し込む自分の部屋だった。
床に転がったゲーム機。
机の上に放り投げられた食べかけのパンの袋。
俺は……『一文字カイト』は重い体を起こし、ぼんやりと天井を見上げた。ついさっきまで見ていた夢の余韻が、胸の奥に淡く残っている。
「ははっ……なんで今更こんな夢を見てるんだ俺は」
自嘲気味な笑いが口から漏れた。
あの頃の純粋で素直だった自分はもういない。
今の自分は学校にも行かず、薄暗い部屋でネットとゲームに逃げ、夜中に街を散歩するだけの……絵に描いたようなクズだ。
一年前の出来事が脳裏をよぎる。
それは俺がおいしーなタウンにある「私立しんせん中学校」に転校して少し経ってからのことだ。
ある日、俺に告白してきた一人の女子生徒がいた。
その女子生徒は俺が告白を断ると怒って追いかけてきて……階段でつまづき、そのまま転げ落ちるように転落。
大怪我をして入院することになるのだが……。
その女子生徒は俺に突き落とされたと、振られた腹いせに嘘をついたのだ。
自分になすりつけられた濡れ衣。
そのことを否定しても、こちらを疑い、信じようともしなかった担任教師の冷ややかな目。
クラスメイト達の冷たい視線……。
あの日から、俺の中で何かが冷たく冷え固まってしまった。
教師なんて信じない。
学校なんて行かない。
どうせ俺の言うことなんて誰も信じやしない。
その時、腹が鳴った。
「はぁ……夕飯、買って来るか」
不貞腐れたように呟き、俺はパーカーを羽織って外へ出た。
街は夕食時の買い物客や帰宅ラッシュの人々で賑わっていた。
冷ややかな夜風を頬に感じながら歩いていると、ふと商店街の路地裏近くで嫌な雰囲気が漂っていることに気づく。
「いいじゃないか、ちょっとお茶するくらい。減るもんじゃないだろ?」
「断る。私はこれから用事があると言っているだろう。しつこいぞ」
立ち止まり視線を向けると、一人の少女が男に絡まれていた。
少女の立ち振る舞いは凛としており、背筋を真っ直ぐ伸ばして毅然とした態度をとっている。
怯えた様子は微塵もない。
(……関わるな。ほっとけ)
そう自分に言い聞かせ、足を進めようとした。
だが、目に入った男の姿に足が止まる。
男はスーツを着たパパ活目的の大人だったが、その体躯が異常だった。
身長は190センチ近くあり、服の上からでもわかるほど筋肉が盛り上がっている。
あんな巨体に凄まれれば、いくら強気な少女だって限界があるはずだ。
(チッ……なんで俺はいつもこうなんだ)
自分で自分が嫌になる。
皮肉屋を気取り、世界を斜めに見ておきながら、土壇場で他人を見捨てられない自分が酷く惨めに思えた。
俺は深呼吸を一つすると、ポケットに手を突っ込んだまま、二人の間へと割り込んだ。
「おい、おっさん。女の子が嫌がってんだろ。いい加減にしろよ」
男が忌々しそうに振り返る。
見下ろす威圧感は想像以上だった。
(絶対勝てるわけねぇ……死んだな、俺)
「あぁん? ガキがなんだ。首突っ込んでんじゃねえよ!」
男の太い腕が伸びてくる。
俺は身構える間もなく胸ぐらを掴まれ、そのまま壁へと叩きつけられた。
激痛が背中を走り、拳が飛んでくる。
必死にガードするが、桁違いの腕力に視界が歪む。
ボコボコに打たれ、膝が折れかけた。
「君!!無理をするな!!」
少女の焦ったような声が聞こえる。
「へっ、うるせぇな!!」
俺は歯を食いしばり、薄れゆく意識の中で必死に好機を狙った。
男が追い打ちの拳を振り上げた一瞬、俺は全力で右足を蹴り上げた。
狙うはただ一点。
ドスッ。
「ぐっ、がぁぁぁッ!?」
狙い通り命中した金的に、190センチのマッチョ男がカエルような声を上げて崩れ落ちた。
股間を押さえて悶絶する男を横目に、俺は少女の腕を力任せに掴んだ。
「走れっ!」
「えっ、ああぁ!!」
二人は夜の街を全力で駆け抜けた。
静かな公園のベンチまで逃げ延び、俺はその場に崩れ落ちるように座り込んだ。
肩で息をし、全身の痛みに顔を歪める。
「ふぅ……はぁ……ここまで来れば、大丈夫だろ……」
息を整えていると、横から強い視線を感じた。
助けたはずの少女が、仁王立ちで俺を見下ろしている。
「まずは助けてくれたことに感謝する。ありがとう」
少女は一度丁寧に頭を下げた。
だが、すぐに凛とした表情に戻ると、眉をひそめて言葉を続けた。
「しかし……君のしたことはあまりにも無謀だ
自分の体格と相手の戦力差も考えず突っ込んでいくなど、勇敢なのではなくただの無鉄砲だ!!
もしあのまま大怪我をしていたらどうするつもりだったんだ!?」
「痛てて……。助けてやったのに、開口一番説教かよ……」
なんだこの女は、助けられた側なのに、少しも怯むことなく堂々とお説教をかましてくるとは……。
「私は菓彩あまね、これでも手当ての心得はあるから怪我を見せてみろ」
「菓彩……あまね……?」
その名を聞いた瞬間、俺の胸がどきりと跳ねた。
夕方見た夢。
幼い頃の記憶。
天使のように可愛らしかった、あの『あまねちゃん』。
俺は目の前の少女をまじまじと見つめた。
凛とした強い意志を感じさせる瞳、隙のない佇まい。
幼い頃の面影があるかと言われれば、そうかもしれないが……。
あの夢の中の守ってあげたくなるような可愛らしい少女とは、性格が丸っきり正反対だ。
「手当てなんていらねぇよ、自分でやる」
俺がそう言うと、あまねと名乗る少女は不満そうに眉を寄せる。
「それじゃあ、せめて名前くらいは教えてくれないか?」」
「……一文字カイトだ」
相手が「あまね」と名乗ったせいか、つい自分の名前を名乗ってしまう。
「一文字カイトか……よろしく、一文字」
もしかしたらと思ったが……反応を見るにどうやら「あまねちゃん」とは別人だったようだ。
「もういいだろ、じゃあな」
「あっ、待ちなさい!!」
あまねの制止を聞かずに俺は背を向け走り出した。
翌日。
起き上ろうとした瞬間、全身に激痛が走る。
「ぐっ、痛っ!!」
体の節々が痛み、右腕には痛々しい擦り傷と打撲が残っている。
いくらなんでも放置はマズいと判断し、重い足取りで近所の病院へ向かうことにした。
幸いにも骨折はしておらず、湿布と腕への包帯処置、そして鎮痛剤を出される程度で済んだ。
しかし、ただでさえ心許ない財布から、痛い医療費が飛んでいくことになってしまった。
「はぁ……災難だ」
処方箋の袋を手に病院を出て、溜息をつきながら帰り道を歩いていると――。
「あっ……君は一文字カイト!?」
聞き覚えのある凛とした声が響き、俺は足を止める。
振り返ると、昨日の少女――菓彩あまねが、3人の少女を引き連れてこちらへ駆け寄ってくるところだった。
全員、しんせん中学校の制服を着ている。
あまねの視線が、俺の右腕に巻かれた痛々しい包帯に留まった。
「その怪我……やはり昨日の……私のせいで」
あまねは申し訳なさそうに眉をひそめ、真剣な眼差しで俺を見つめた。
昨夜の堂々とした説教からは一転、本気で心配している様子が伝わってくる。
「……別に大したことねぇよ。ちょっと擦りむいたから包帯巻かれただけだ」
すると、あまねの後ろにいた元気そうな少女が不思議そうに尋ねる。
「あまねちゃん、知り合い? 昨日のって、どういうこと?」
「実は昨夜、見知らぬ男性に絡まれていた私を彼が助けてくれたんだ。だがその時に怪我を……」
あまねがそう説明すると、元気そうな少女とその隣に立つクールな見た目の少女は驚いたように目を見張った。
「えっ、助けてくれたの?すごいね!!」
「でも、怪我は大丈夫?」
そんな中、もう一人の小柄な少女が、俺の顔を見てハッとしたように目を見開いた。
「はにゃ? 一文字って……もしかして、うちのクラスの一文字カイトくん!?」
「えっ?らんちゃん、一文字くんって同じクラスなの?」
元気そうな少女が驚いて尋ねる。
「うん、確か……体調が悪くてずっと休んでるって聞いてたけど……」
「そうだったんだ……体は大丈夫?」
元気そうな少女は純粋な心配の眼差しを俺に向け、クールな見た目の少女も「体調が悪いのに、人を助けるなんて……」と素直に納得して頷いていた。
そして、あまねも俺のことを心配そうな顔で見ていた。
だが、「らん」と呼ばれた小柄な少女は、どこか引きつったような気まずそうな顔をしていた。
口にこそ出さないものの、あの一年前の噂――『女子生徒を階段から突き落として大怪我をさせた事件』を知っているのだろう。
彼女はきっと俺が学校に来ていない理由が体調不良ではないことも分かっているはずだ。
「じゃあ、俺は帰るから」
なんだか面倒になり、その場を去ろうとするが……。
突然お腹から「ぐぅぅ……」と盛大な虫の知らせが鳴り響いてしまった。
「……っ!!」
すると、元気そうな少女がパッと表情を輝かせた。
「あっ……お腹鳴った!!一文字くん、お腹空いてるなら、これからみんなで美味しいもの食べに行こうよ!!ごはんを食べれば、元気が湧いてくるよ!!」
「は?そんなの……」
断ろうとした瞬間、あまねが割り込んでくる。
「いや、ゆいの言う通りだ!!私のために怪我をしたんだ……病院代まで払わせたとなれば今日の昼食は私がご馳走させてもらう!!」
「……おいおい、勝手に決めるなよ」
普段なら絶対に突っぱねて立ち去るところだった。
しかし……今日の病院代で予定外の出費が出たのは事実。
ここで一食浮くとなれば、正直助かる。
「はぁ……わかったよ、奢りなら、食べてやってもいいぞ」
「決まりだな、では行こう!!」
こうして俺はあまねに昼食を奢ってもらうことになったのだった。