『赫き日輪と紫電の如く〜最強無双の天然軍師、並行世界を征く〜』 作:夜幻
はじめまして。
この作品『赫き日輪と紫電の如く〜最強無双の天然軍師、並行世界を征く〜』をご覧いただき、ありがとうございます。
本作は『鬼滅の刃』を原作とした二次創作作品です。
原作の世界観・キャラクター・設定をお借りしながら、オリジナル主人公である「竜牙魁陣(りゅうが かいじん)」こと「竜牙十兵衛」を中心に、原作とは異なるもう一つの物語を描いていきます。
本作最大のテーマは――「救済」です。
原作では失われてしまった多くの命。
もし、そこに「未来を予測する天才軍師」と「圧倒的な武力を持つ異世界の剣士」が存在していたら。
もし、鬼殺隊が持つ情報や戦力を、より効率的に運用できていたら。
もし、戦場で「勝つこと」だけではなく、「誰一人として死なせないこと」を目的とした軍師がいたら。
そんな「もしも」を出発点として、本作では原作の運命を大きく改変していきます。
そのため、本作には原作から大きく展開が変化する「原作改変」「原作キャラクター救済」が多数含まれます。
原作と同じ展開を楽しみたい方には、少し違った作品に感じられるかもしれません。
しかし、「もしあのキャラクターが生きていたら」「もしあの戦いで誰も死ななかったら」というIF展開がお好きな方には、楽しんでいただける作品を目指しています。
そして、本作の主人公。
竜牙魁陣。
通称――竜牙十兵衛。
彼は、ただの最強主人公ではありません。
異世界の武術。
古流武術。
格闘術。
暗殺術。
剣術。
そして軍略や近代戦術、心理学。
ありとあらゆる知識と技術を修めた「天才軍師」です。
戦場において、十兵衛は極めて冷静です。
敵の配置。
地形。
天候。
味方の戦力。
敵の心理。
逃走経路。
罠の可能性。
敵が次に取る行動。
さらに、その先の行動。
それらを瞬時に分析し、数手先まで読み切ったうえで、最も被害の少ない勝利への道筋を導き出します。
鬼殺隊の隊士たちから見れば、まさに「戦場を支配する軍師」。
柱たちでさえ、その戦術眼には驚かされることになります。
しかし――。
そんな十兵衛にも、とんでもない弱点があります。
超がつくほどの天然です。
戦場では鬼の行動を完璧に予測するのに。
日常生活では方向音痴。
鬼の罠には一瞬で気づくのに。
女性からの好意にはまったく気づかない。
しのぶがどれほど分かりやすく好意を示しても。
蜜璃が顔を真っ赤にして褒めても。
カナヲが自分の意思で「隣にいたい」と伝えても。
禰豆子が羽織の裾を掴んで離れなくても。
十兵衛は、
「みんな親切だな」
くらいにしか思っていません。
戦場では完璧。
日常ではポンコツ。
そんなギャップも、本作の大きな見どころの一つです。
そして、十兵衛にとって最も大切な存在となっていくのが、胡蝶しのぶです。
姉・胡蝶カナエを失うはずだった少女。
鬼への復讐心を胸に抱きながら、笑顔の仮面を被って生きる少女。
そんな彼女の前に現れるのが、異世界からやってきた一人の青年。
十兵衛は、しのぶの過去を否定しません。
復讐をやめろとも言いません。
ただ、
「君が死ぬ必要はない」
と告げます。
それは、十兵衛自身の戦い方にも通じる考えです。
「死ぬ必要のない人間を死なせない」
それが、彼の軍師としての信条。
勝利するために誰かを犠牲にするのではなく。
誰も失わずに勝つ方法を探す。
そのために必要なら、何百手先まで考える。
その信念によって、鬼殺隊の戦い方そのものが少しずつ変わっていきます。
そして、本来ならば失われるはずだった命も――。
変わっていきます。
錆兎。
真菰。
胡蝶カナエ。
冨岡蔦子。
そして、その他の多くの人々。
一人。
また一人。
十兵衛が未来を変えていくことで、原作とは異なる道を歩み始めます。
もちろん、すべてが簡単に救われるわけではありません。
鬼は依然として存在します。
鬼舞辻無惨も存在します。
上弦の鬼たちもまた、十兵衛という未知の存在を警戒し、対策を始めます。
むしろ、十兵衛が強すぎるからこそ、敵側もこれまでとは違う動きを見せることになります。
「敵が強いなら、こちらも戦い方を変える」
十兵衛の存在によって、鬼と鬼殺隊の戦いは、単純な剣士同士の戦闘から「情報」「戦術」「心理」「連携」を含めた総力戦へと変化していきます。
そして、十兵衛自身もまた成長していきます。
どれほど強くても、一人ですべてを守ることはできない。
だからこそ、仲間を信じる。
柱たちと連携する。
隊士たちを育てる。
そして、愛する人たちを守る。
最強の男が「一人で勝つ」のではなく、「みんなで生き残る」ために戦う。
そこも本作で描いていきたい部分です。
また、本作では「雷の呼吸」と「日の呼吸」が重要な要素となります。
十兵衛は両方の呼吸を操る特殊な剣士です。
雷の呼吸によって神速の間合い詰めを行い。
日の呼吸によって鬼を確実に斬る。
この二つを組み合わせることで、
「雷の如く敵へ迫り、日の如く鬼を滅する」
という独自の戦闘スタイルを確立しています。
日の呼吸については、本作では十二の型を正式な既存技として扱い、十二の型を繰り返し繋げることで「十三番目の型」へ至るという構造を採用しています。
一方、雷の呼吸については、原作で描かれている型に加えて、本作独自の設定として新たな型を追加しています。
壱ノ型「霹靂一閃」。
弐ノ型「稲魂」。
参ノ型「聚蚊成雷」。
肆ノ型「遠雷」。
伍ノ型「熱界雷」。
陸ノ型「電轟雷轟」。
そして十兵衛独自の技として、
漆ノ型「雷龍虎双閃」。
捌ノ型「鳴神月夜」。
玖ノ型「迅雷風烈」。
拾ノ型「天雷落」。
拾壱ノ型「紫電一閃」。
拾弐ノ型「八雷神大御神」。
これらの技を駆使し、十兵衛は鬼たちと戦います。
特に「紫電一閃」は、十兵衛の神速を象徴する技。
そして「八雷神大御神」は、彼の雷の呼吸における最高峰の技として設定しています。
さらに、日の呼吸と雷の呼吸を組み合わせた戦闘も、本作ならではの見どころとなります。
ただし、十兵衛は「強いから勝つ」だけの主人公ではありません。
彼が最も大切にするのは、勝利の先にあるものです。
戦いが終わったあと。
誰が生きているのか。
誰が笑っているのか。
誰が大切な人の隣にいられるのか。
それを何よりも重視します。
だからこそ、彼は戦場で冷徹になれる。
敵を倒すことを躊躇しない。
必要な時には非情な決断も下す。
それは人を殺したいからではありません。
「味方を死なせないため」。
その一点において、十兵衛は一切の妥協をしないからです。
そして、そんな彼の姿を最も近くで見続けるのが、胡蝶しのぶです。
最初は「不思議な人」。
次第に「頼れる相棒」。
そして――。
「絶対に失いたくない人」へ。
しのぶの心が少しずつ変わっていく過程も、本作では大切に描いていく予定です。
もちろん、しのぶだけではありません。
胡蝶カナエ。
栗花落カナヲ。
竈門禰豆子。
甘露寺蜜璃。
真菰。
冨岡蔦子。
そして、その他の少女たちも、それぞれ十兵衛との出会いによって異なる感情を抱くようになります。
ただし、本人だけは気づきません。
「十兵衛さん、それは恋ですよ」
「そうなのか?」
「……はい」
「なるほど」
「分かりましたか?」
「みんな仲間を大切にしているんだな」
「…………」
――分かっていません。
そんな天然ぶりも含めて、十兵衛という主人公を楽しんでいただければと思います。
また、本作には原作キャラクター同士の関係性や、原作では描かれなかった「もしもの日常」も多く登場します。
戦闘だけではなく、蝶屋敷での食事。
団子を食べる十兵衛。
柱たちとの交流。
産屋敷家での軍略講義。
しのぶとの任務。
カナヲとの会話。
蜜璃との食事。
真菰との道案内。
禰豆子との触れ合い。
そうした穏やかな日常を積み重ねるからこそ、後に待ち受ける戦いの重みも増していくと考えています。
「戦いだけの物語」ではなく。
「戦いのない未来を作るための物語」。
それが、本作です。
なお、本作はあくまで二次創作です。
原作とは異なる設定、展開、キャラクターの生死、戦闘力、関係性などが多数存在します。
原作準拠ではなく、IF・原作改変・救済を中心とした作品としてお楽しみください。
また、鬼との戦闘に伴う流血・負傷・死亡などの残酷な描写が含まれる場合があります。
苦手な方はご注意ください。
本作では、原作の魅力を大切にしながらも、
「もし竜牙十兵衛が鬼殺隊にいたら?」
という一点から、物語を大きく広げていきます。
そして最終的に目指すのは――。
誰もが笑っていられる未来。
本来なら失われたはずの命が生きている世界。
。
――その日、世界が裂けた。
轟音が響いたわけではない。
大地が崩れたわけでもない。
ただ、空間そのものが一瞬だけ歪み、世界と世界の境界に亀裂が走った。
その裂け目から、一人の青年が落ちてきた。
「……っ」
ドサッ。
青年は森の地面へ着地すると、すぐさま周囲を見渡した。
燃えるような赤髪。
端正すぎるほど整った顔立ち。
長身で引き締まった身体。
腰には一振りの刀。
その立ち姿だけを見れば、どこかの剣豪と見間違えても不思議ではない。
青年の名は――竜牙魁陣。
そして、後に「竜牙十兵衛」と呼ばれる男である。
「…………」
魁陣は静かに周囲を観察した。
森。
見渡す限りの木々。
舗装された道路はない。
電線もない。
建築物も見当たらない。
聞こえてくるのは、風に揺れる木々の葉擦れと、遠くで鳴く鳥の声だけ。
「なるほど」
魁陣は頷いた。
「異世界……あるいは並行世界か」
驚いている様子はない。
混乱している様子もない。
ただ冷静に現状を分析している。
それが竜牙魁陣という青年だった。
異世界の武術。
古流武術。
剣術。
体術。
暗殺術。
そして軍略、近代戦術、心理学。
あらゆる戦闘技術を修めた天才。
戦場に立てば、敵味方の配置を見るだけで勝敗を予測し、数手先どころか数十手先まで戦況を読み切る。
だが――。
「…………」
魁陣は森を見渡した。
「さて」
右を見る。
木。
左を見る。
木。
後ろを見る。
木。
前を見る。
やはり木。
「…………」
少し考える。
「道が分からないな」
――天才軍師、竜牙魁陣。
致命的なほどの方向音痴である。
「まあ、歩けば何とかなるだろう」
本人はいたって真面目だった。
その時。
「――助けてくれぇぇぇぇ!」
遠くから悲鳴が響いた。
魁陣の表情が変わる。
「……人間か」
声の方向を正確に特定する。
そして。
「急ぐか」
地面を蹴った。
――ドンッ!
魁陣の身体が、一瞬で視界から消える。
「雷の呼吸――」
風が爆ぜる。
「壱ノ型――霹靂一閃」
――バァンッ!
紫電が森を駆け抜けた。
木々の間を一筋の閃光が走り、魁陣の姿が消える。
次の瞬間。
「ぐあっ!」
一人の男が地面へ転がった。
その目の前には――異形の怪物。
人間に似た姿。
だが、人間ではない。
血走った眼。
鋭い牙。
異常に発達した爪。
そして、全身から漂う濃密な血臭。
「鬼……」
魁陣は呟いた。
「なんだ、テメェは?」
鬼が魁陣を見る。
「邪魔すんなら、お前も食ってやるぞ!」
鬼が飛びかかった。
速い。
人間ならば反応できない。
だが――。
「遅い」
魁陣は刀を抜いた。
ギィンッ!
鬼の爪と刀が激突する。
「なっ……!」
鬼の顔が歪む。
魁陣は微動だにしない。
「身体能力は高い」
鍔元で鬼の爪を受け止めながら、冷静に分析する。
「速度も人間の比ではない」
鬼がさらに力を込める。
「だったらどうだ!」
「だが」
魁陣の目が細くなる。
「動きが単調だ」
刃が閃いた。
ザシュッ!
「ぐあああっ!」
鬼の腕が宙を舞った。
「な……!」
地面へ落ちた腕が蠢く。
肉が盛り上がる。
骨が伸びる。
血管が繋がる。
そして、瞬く間に元の腕へ戻っていく。
「再生能力……」
魁陣は興味深そうに眺めた。
「面白い」
「面白いだとォ!?」
鬼が吠える。
「俺たち鬼は不死身なんだよ!」
「不死身?」
「ああ!」
鬼は笑った。
「どれだけ斬られようが、すぐに再生する! お前程度じゃ俺を殺せねぇ!」
「なるほど」
魁陣は頷く。
「それなら、死ぬまで斬ればいい」
「は?」
魁陣の姿が消えた。
「――雷の呼吸」
鬼が振り返る。
「弐ノ型――稲魂」
雷鳴。
横薙ぎの斬撃が鬼の身体を切り裂く。
「ぐあっ!」
さらに一閃。
「参ノ型――聚蚊成雷」
複数の斬撃が連続して叩き込まれる。
「な、なんだこの速さは!」
鬼は必死に反撃する。
しかし。
当たらない。
右へ逃げれば先回りされる。
左へ逃げても先回りされる。
上へ跳べば、空中で斬られる。
地面へ潜ろうとすれば、その場所へ刀を突き立てられる。
「お前……!」
鬼が叫ぶ。
「俺の動きを読んでいるのか!?」
「ああ」
「なぜだ!」
「分かりやすいからだ」
「ふざけるなァァァ!」
鬼が血鬼術を発動した。
無数の攻撃が周囲から魁陣へ殺到する。
「なるほど」
魁陣は一歩退く。
「広範囲攻撃か」
冷静に観察する。
「だが、発動前に右肩が僅かに動く。視線も三度、左へ流れた。つまり本命は――」
魁陣は左へ跳ぶ。
攻撃が空を切った。
「そこだ」
「なっ……!」
鬼の背後。
「日の呼吸――」
魁陣の刀が赫く輝いた。
「壱ノ型――円舞」
――ズバァッ!
鬼の首が宙を舞った。
「が……!」
しかし。
鬼はまだ生きていた。
「無駄だ!」
地面に落ちた頭部が笑う。
「俺は死なねぇ!」
「そうか」
魁陣は刀を構え直した。
「ならば」
刀身から、再び赫い気配が立ち上る。
「別の方法を試す」
「……?」
「日の呼吸・弐ノ型――碧羅の天」
上段から振り下ろされた一撃が、鬼の身体を大きく切り裂く。
さらに。
「参ノ型――烈日紅鏡」
左右へ広がる斬撃。
「伍ノ型――火車」
頭上を飛び越えながら背後を斬る。
「陸ノ型――灼骨炎陽」
炎の渦を思わせる回転斬り。
鬼は何度も再生する。
だが。
再生するたびに、その身体が僅かずつ焼けていく。
「な……なんだ……この刀……!」
「日の呼吸だ」
「日……だと……?」
鬼の顔から血の気が引いた。
「まさか……!」
魁陣は答えない。
ただ刀を構える。
「夜明けまで拘束する」
「やめろ!」
「お前は人を殺した」
「許してくれ!」
「断る」
「俺はもう人を食わない!」
「それも信用しない」
「なら――!」
鬼が逃走を試みる。
しかし。
「雷の呼吸・拾壱ノ型――紫電一閃」
紫色の電光が走った。
一瞬。
鬼の両足が斬り飛ばされた。
「ぎゃああああ!」
「逃がさない」
魁陣は淡々と告げる。
「死ぬ必要のない人間を死なせない」
その言葉に、鬼の動きが止まった。
「……お前」
鬼が震える。
「何者なんだ……?」
「竜牙魁陣」
「それだけか……?」
「ああ」
魁陣は刀を納めた。
「ただの旅人だ」
――ただの旅人。
その言葉を聞いた男は、思わず目を見開いた。
自分を助けてくれた青年。
その青年が、鬼をまるで子供のように圧倒している。
しかも本人は、それを特別なことだと思っていない。
やがて。
東の空が白み始めた。
「……朝だ」
魁陣が呟く。
「嫌だ……」
鬼が震える。
「やめろ……!」
朝日が昇る。
光が森を照らした。
「ぎゃああああああ!」
鬼の身体から煙が上がる。
肉体が崩れる。
灰へ変わる。
「死にたくない……!」
最後の叫びと共に。
鬼は消滅した。
静寂。
森に朝が訪れる。
魁陣は空を見上げた。
「……太陽」
その光を眺める。
「なるほど」
彼は一人で納得した。
「この世界では、鬼は太陽に弱いのか」
あまりにも冷静な感想だった。
助けられた男は、そんな魁陣を呆然と見ていた。
「……あの」
「なんだ?」
「あなたは……怖くないんですか?」
「何が?」
「鬼が……」
魁陣は少し考えた。
「怖いかどうかは重要じゃない」
「え?」
「人が襲われていた」
魁陣は男を見る。
「だから助けた。それだけだ」
男は言葉を失った。
その後、魁陣は男からこの世界について話を聞いた。
鬼。
鬼殺隊。
鬼舞辻無惨。
そして。
鬼と戦い続ける剣士たち。
「鬼殺隊……」
魁陣は興味を示した。
「その組織に入るには?」
「最終選別を受ける必要があります」
「どこで?」
「藤襲山です」
「分かった」
「え?」
「行ってみる」
男は驚いた。
「危険ですよ!?」
「問題ない」
「ですが……」
「俺は強い」
あまりにもあっさりと言う。
「それに」
魁陣は森の向こうを見つめた。
「この世界に鬼がいるなら、放っておく理由もない」
その言葉から数日後。
魁陣は鬼殺隊の最終選別へ向かうことになる。
そしてそこで。
後に彼の運命を大きく変える二人の少年少女と出会うことになる。
錆兎。
真菰。
本来ならば失われるはずだった命。
だが。
この世界にはもう、竜牙魁陣がいる。
そして――。
◇
最終選別。
藤襲山。
藤の花が咲き誇る山の中で、多くの少年少女が緊張した面持ちで立っていた。
「ここにいる鬼を七日間、生き延びながら倒してください」
説明を聞きながら、魁陣は周囲を観察していた。
「……なるほど」
地形。
鬼の数。
参加者の力量。
逃走経路。
すべてを一瞬で把握する。
「効率が悪いな」
「……?」
近くにいた少年が振り返った。
「何がです?」
「この配置だ」
魁陣は地面に枝で簡単な地図を描いた。
「鬼の活動範囲が重なりすぎている。参加者同士が遭遇する可能性も高い。これでは実力の低い者から狙われる」
「そんなことまで分かるんですか?」
「ああ」
少年は驚いた。
「あなた、誰ですか?」
「竜牙魁陣」
「俺は錆兎です」
少年が名乗る。
「そして、こちらは真菰」
「よろしくお願いします」
少女が微笑んだ。
魁陣は二人を見る。
「君たちは強いな」
「そうですか?」
「ああ」
そして。
「だが」
魁陣は静かに告げた。
「死ぬなよ」
錆兎と真菰は目を見合わせる。
「もちろんです」
「はい」
その言葉を聞いて、魁陣は僅かに笑った。
――そして。
最終選別が始まった。
鬼が襲ってくる。
参加者が悲鳴を上げる。
だが。
「雷の呼吸――」
紫電が走る。
「壱ノ型・霹靂一閃」
一瞬。
鬼の首が飛んだ。
「え……?」
周囲の参加者たちが固まる。
「次」
魁陣が進む。
鬼が来る。
「日の呼吸・円舞」
一閃。
鬼が消える。
また鬼が来る。
「雷の呼吸・雷龍虎双閃」
二条の斬撃が交差する。
さらに別の鬼。
「日の呼吸・炎舞」
二連撃。
鬼が倒れる。
次。
次。
次。
魁陣は歩き続ける。
走る必要すらない。
鬼が来る。
斬る。
鬼が来る。
斬る。
その繰り返し。
やがて。
鬼たちの間で奇妙な噂が広まり始めた。
「赤髪の男には近づくな」
「雷みたいな速度で来る」
「日のような刀で斬られる」
「逃げても先回りされる」
「そもそも、あいつに勝てるのか?」
そして七日後。
最終選別を生き残った者たちは。
わずか数名。
その中に。
竜牙魁陣。
錆兎。
真菰。
三人の姿があった。
魁陣は空を見上げる。
「終わったな」
真菰が笑う。
「はい」
錆兎も頷く。
「これで俺たちも鬼殺隊ですね」
「ああ」
その瞬間。
魁陣は思った。
――この世界を変えられるかもしれない。
自分一人の力だけではない。
仲間と共に戦えば。
死ぬ必要のない人間を。
救えるかもしれない。
そして。
その未来の先で。
一人の少女と出会う。
紫の瞳。
蝶の髪飾り。
笑顔の奥に、深い憎しみを隠した少女。
胡蝶しのぶ。
魁陣はまだ知らない。
彼女との出会いが。
この世界で最も大きな「救済」の始まりになることを。
そして、しのぶもまだ知らない。
自分の前に現れたこの青年が。
やがて自分の姉を救い。
仲間たちを救い。
鬼殺隊そのものの運命を変え。
最後には――。
自分自身の心まで救ってくれることを。
これは。
赫き日輪と紫電の如く駆け抜ける、一人の青年の物語。
最強無双の天才軍師。
竜牙魁陣。
またの名を――。
竜牙十兵衛。
彼が降り立ったその瞬間から。
この世界の運命は。
もう、原作とは同じ道を歩まない。
――紫電、異世界に降り立つ。
ここから。
すべてが始まる。
後書き
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
『赫き日輪と紫電の如く〜最強無双の天然軍師、並行世界を征く〜』のプロローグ、いかがでしたでしょうか。
本作は『鬼滅の刃』の世界に、オリジナル主人公・竜牙魁陣――通称「竜牙十兵衛」が降り立ったところから始まる、原作改変・救済系の二次創作です。
本作の十兵衛は、とにかく「強い」です。
異世界で培ったあらゆる武術。
刀を使った剣術。
刀を失っても鬼と戦える体術。
そして、雷の呼吸と日の呼吸。
さらに、それらを最大限に活用する天才的な軍略。
単純な剣士としての強さだけではなく、「どう戦えば味方を死なせずに勝てるのか」を考える軍師としての能力を持っています。
そのため、本作では原作の戦闘を単純に再現するのではなく、十兵衛が戦場そのものを分析し、鬼殺隊の戦術を変えていく展開を描いていく予定です。
鬼の能力を分析し。
地形を利用し。
敵の心理を読み。
味方の能力を最大限に活用する。
そして最終的には、「誰一人として死なせない」ことを目指す。
それが十兵衛の戦い方です。
もちろん、彼にも完璧ではない部分があります。
むしろ、日常生活ではかなり残念です。
戦場では鬼の行動を数手先まで予測できるのに、道を覚えるのは苦手。
敵の罠には一瞬で気づくのに、女性から向けられる好意にはまったく気づかない。
しのぶがどれだけ分かりやすく接しても、
「親切な人だな」
くらいに考えてしまう。
蜜璃が顔を真っ赤にして褒めても、
「ありがとう」
で終わる。
カナヲが勇気を出して想いを伝えても、
「そうか。仲間として大切に思ってくれているんだな」
などと、斜め上の解釈をする。
そんな天然ぶりも、本作では大切な要素です。
「最強なのに、恋愛だけは最弱」
それが竜牙十兵衛という男です。
そして、そんな十兵衛の物語において、特に重要な存在となるのが胡蝶しのぶです。
原作のしのぶは、姉・カナエを失ったことで鬼への憎しみを抱えながらも、姉から受け継いだ笑顔を守り続けています。
本作では、そんな彼女の前に十兵衛が現れます。
十兵衛は、しのぶに「復讐するな」とは言いません。
彼女の憎しみを否定することもしません。
ただ、彼女が命を投げ出すような未来だけは認めない。
「君が死ぬ必要はない」
その一点だけは、何があっても譲らない。
そんな十兵衛と出会ったことで、しのぶの運命が少しずつ変わっていきます。
そして、その変化はしのぶだけに留まりません。
本作では「救済」を大きなテーマとしているため、原作で失われた命や、悲劇的な運命を辿った人物たちにも大きくスポットを当てていきます。
胡蝶カナエ。
錆兎。
真菰。
冨岡蔦子。
そして、産屋敷一族。
彼らが生きていることで、原作とはまったく違う人間関係が生まれていきます。
特に真菰については、十兵衛との出会いが彼女の人生そのものを変えることになります。
本来ならば最終選別で失われていたはずの命。
その命を救うことができるのか。
そして、その救済によって錆兎や義勇の関係はどう変わるのか。
そうした部分も、今後の物語で描いていきたいと思っています。
また、本作では「雷の呼吸」と「日の呼吸」の二つを十兵衛が扱います。
雷の呼吸は、神速の移動と瞬間的な攻撃。
日の呼吸は、鬼を滅するための圧倒的な斬撃。
この二つを組み合わせることで、
「雷の如く敵へ迫り、日の如く鬼を滅する」
という十兵衛独自の戦闘スタイルが完成します。
日の呼吸は、本作では十二の型を正式な型として扱います。
壱ノ型「円舞」。
弐ノ型「碧羅の天」。
参ノ型「烈日紅鏡」。
肆ノ型「幻日虹」。
伍ノ型「火車」。
陸ノ型「灼骨炎陽」。
漆ノ型「陽華突」。
捌ノ型「飛輪陽炎」。
玖ノ型「斜陽転身」。
拾ノ型「輝輝恩光」。
拾壱ノ型「日暈の龍 頭舞い」。
拾弐ノ型「炎舞」。
そして、この十二の型を繋ぎ続けることで、十三番目の型へと至る。
これが本作における日の呼吸の基本設定です。
一方、雷の呼吸は、
壱ノ型「霹靂一閃」。
弐ノ型「稲魂」。
参ノ型「聚蚊成雷」。
肆ノ型「遠雷」。
伍ノ型「熱界雷」。
陸ノ型「電轟雷轟」。
漆ノ型「雷龍虎双閃」。
捌ノ型「鳴神月夜」。
玖ノ型「迅雷風烈」。
拾ノ型「天雷落」。
拾壱ノ型「紫電一閃」。
拾弐ノ型「八雷神大御神」。
という体系を採用します。
特に後半の型は十兵衛独自の戦闘技術として、物語の中で重要な役割を担うことになります。
「紫電一閃」は、一瞬で敵の懐へ入り込む神速の一撃。
「八雷神大御神」は、八方向から雷のような連撃を叩き込む、雷の呼吸の最高峰。
これらを日の呼吸と組み合わせた時、十兵衛の戦闘力はさらに異次元の領域へ到達します。
ただし、本作で描きたいのは「主人公が無双して終わり」というだけの物語ではありません。
もちろん、十兵衛は強いです。
かなり強いです。
上弦の鬼ですら苦戦するでしょう。
しかし、本当に描きたいのは、その強さによって「何を守るのか」です。
力を持つ者だからこそ、誰かを守る責任がある。
強いからこそ、自分一人で戦うのではなく仲間を生かす。
そして。
戦いの先にある「平和」を手に入れる。
それが本作の目指すところです。
また、シリアスな展開ばかりにはしません。
むしろ、十兵衛の天然ぶりによって、かなりコミカルな場面も入れていく予定です。
たとえば。
鬼の潜伏場所を一瞬で見抜いた直後に蝶屋敷で迷子になる。
上弦の鬼を圧倒した直後に、しのぶから「お昼ご飯ですよ」と言われて素直についていく。
蜜璃から「素敵です!」と熱烈に褒められても、
「ありがとう。蜜璃は褒めるのが上手だな」
と普通に返す。
カナヲが勇気を振り絞って隣に座っても、
「今日はここに座りたい気分なのか?」
と本気で考える。
そんな男です。
そして、しのぶが最も苦労するのも、おそらくそこです。
「十兵衛さん」
「なんだ?」
「私が貴方のことをどう思っているか、分かりますか?」
「信頼できる仲間だと思ってくれている」
「……」
「違うのか?」
「……もういいです」
そんな会話が繰り広げられるかもしれません。
しかし、いざ戦場になれば。
「しのぶには指一本触れさせない」
と、誰よりも早く彼女の前に立つ。
本人はそれが特別な感情から来ていることに気づいていない。
そんな天然主人公だからこそ、周囲の女性陣との関係がどう変化していくのかも、本作の楽しみの一つになればと思っています。
さて。
ここから物語は本格的に動き始めます。
鬼殺隊への加入。
最終選別。
錆兎と真菰との出会い。
しのぶとの最初の任務。
カナエとの邂逅。
柱たちとの交流。
そして、原作では起こらなかった「救済」が少しずつ始まっていきます。
十兵衛が強いからといって、すべての問題が簡単に解決するわけではありません。
人間の心。
鬼の執念。
無惨の狡猾さ。
長い年月をかけて積み重なった因縁。
そうしたものは、剣一本で斬れるものではありません。
だからこそ。
十兵衛の「軍師」としての力が重要になります。
鬼を斬るのは剣士。
戦場を動かすのは軍師。
そして、人の心を動かすのは――。
仲間との絆。
その三つが揃った時、この物語は原作とは違う未来へ進んでいきます。
最後に。
この作品を読んでくださる皆様にとって、「もしも」を楽しめる物語になっていれば嬉しく思います。
「もし、カナエが生きていたら」
「もし、真菰が生きていたら」
「もし、錆兎が義勇と共に戦い続けていたら」
「もし、しのぶが復讐以外の未来を選べたら」
「もし、鬼殺隊がもっと効率的に戦えていたら」
そして。
「もし、そこに竜牙十兵衛がいたら」
そんな一つ一つの「もしも」を、物語として描いていきます。
原作とは違う展開になる部分も多々あります。
それでも。
最後には、笑顔で終われる物語を目指します。
鬼に奪われた命を取り戻すことはできない。
そう思われていた運命さえも。
十兵衛は諦めません。
「死ぬ必要のない人間を死なせない」
その信念を胸に。
雷のような速さで戦場を駆け抜け。
日のような刃で鬼を斬り。
天才軍師として未来を切り開く。
そして。
戦いが終わった時には。
大切な人たちと共に、穏やかな朝を迎える。
それが、この物語の終着点です。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
それでは次回から。
竜牙十兵衛の本格的な鬼殺隊での物語をお楽しみください。
――赫き日輪と紫電の如く。
最強無双の天然軍師が、並行世界の運命を変えていきます。