『赫き日輪と紫電の如く〜最強無双の天然軍師、並行世界を征く〜』   作:夜幻

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第114話「新しい朝」

――朝。

 

東の空から、ゆっくりと太陽が昇っていく。

 

鳥の声。

 

風に揺れる木々。

 

遠くから聞こえる人々の声。

 

かつてなら、この時間は「夜を生き延びた」という意味しか持たなかった。

 

鬼殺隊にとって朝とは。

 

任務の終わり。

 

傷ついた仲間の確認。

 

そして――次の戦いへの準備。

 

けれど。

 

今日からは違う。

 

「……朝だ」

 

竜牙十兵衛は、縁側から空を見上げた。

 

その隣には、胡蝶しのぶ。

 

「はい」

 

しのぶも静かに頷く。

 

「新しい朝ですね」

 

「新しい朝……か」

 

十兵衛はその言葉を噛みしめるように呟いた。

 

鬼舞辻無惨はもういない。

 

上弦もいない。

 

鬼そのものが、消えた。

 

千年以上続いた戦いが終わった。

 

それでも。

 

朝日は、昨日までと何も変わらない。

 

ただ昇っている。

 

それなのに。

 

世界は、まったく違って見えた。

 

 

「おはようございます!」

 

庭から元気な声が響く。

 

振り返ると、甘露寺蜜璃が両手いっぱいに荷物を抱えていた。

 

「十兵衛さん、しのぶちゃん、おはようございます!」

 

「おはよう、蜜璃」

 

「おはようございます」

 

蜜璃は笑顔で駆け寄る。

 

「今日は朝ご飯を作るんです!」

 

「朝から?」

 

「はい!」

 

その後ろからカナエが現れる。

 

「蜜璃ちゃん、一人で全部持つと大変よ」

 

「大丈夫です!」

 

さらに真菰。

 

錆兎。

 

義勇。

 

蔦子。

 

煉獄。

 

カナヲ。

 

禰豆子。

 

次々と庭へ集まってくる。

 

「なんだか賑やかだな」

 

十兵衛が呟く。

 

「いいじゃないですか」

 

しのぶが微笑む。

 

「これまでなら、こんな朝はなかったでしょう?」

 

「……そうだな」

 

 

朝食。

 

食卓には、たくさんの料理が並んでいた。

 

「いただきます!」

 

蜜璃が嬉しそうに手を合わせる。

 

「いただきます」

 

全員が続く。

 

十兵衛も箸を取る。

 

一口。

 

「……美味い」

 

「本当ですか!?」

 

蜜璃の目が輝く。

 

「ああ」

 

「嬉しいです!」

 

蜜璃が顔を赤くする。

 

その様子を見ていたしのぶが、少しだけ目を細める。

 

「十兵衛さん」

 

「なんだ?」

 

「今日は随分と素直に褒めますね」

 

「美味いものは美味いだろう」

 

「そうですか」

 

しのぶは微笑む。

 

「……まあ、いいでしょう」

 

一方。

 

カナヲが静かに十兵衛の隣へ座っている。

 

禰豆子も反対側。

 

真菰も向かい側。

 

「……」

 

十兵衛は周囲を見渡す。

 

「みんな、今日は任務がないのか?」

 

「ないですよ」

 

しのぶが答える。

 

「もう、任務そのものがありませんから」

 

「ああ、そうだったな」

 

十兵衛は少し驚いた顔をする。

 

「まだ慣れないな」

 

その言葉に、義勇が頷いた。

 

「俺もだ」

 

錆兎も笑う。

 

「俺たちは長い間、戦うことしか考えていなかったからな」

 

「そうですね」

 

真菰が続ける。

 

「これからは、自分たちで未来を決められるんです」

 

「未来を……」

 

カナヲが呟く。

 

その言葉を聞いた十兵衛は。

 

「なら、まずは目標を決めよう」

 

「目標?」

 

蜜璃が首を傾げる。

 

「ああ」

 

十兵衛は指を一本立てた。

 

「第一に、鬼に襲われた人々の保護」

 

二本目。

 

「第二に、孤児や身寄りのない子供たちの生活支援」

 

三本目。

 

「第三に、医療体制の整備」

 

四本目。

 

「第四に、教育制度の確立」

 

五本目。

 

「第五に――」

 

十兵衛は一瞬考える。

 

「みんなが安心して暮らせる環境を作る」

 

食卓が静かになる。

 

「……」

 

蜜璃が目を輝かせた。

 

「十兵衛さん」

 

「なんだ?」

 

「それって……」

 

「戦争の後始末だ」

 

「……」

 

「鬼殺隊がなくなったからといって、人間社会の問題まで消えるわけじゃない」

 

十兵衛は真剣な顔で話す。

 

「むしろ、これからが重要だ」

 

カナエが微笑む。

 

「ふふっ」

 

「何か?」

 

「いえ」

 

カナエは優しく笑った。

 

「やっぱり十兵衛さんですね」

 

「?」

 

「戦いが終わった瞬間に、もう次の戦略を考えているんですもの」

 

「それは軍師だからな」

 

「でも」

 

カナエは言う。

 

「今度の戦場には、鬼はいませんよ」

 

「……」

 

十兵衛は少し考える。

 

「そうだな」

 

「だから」

 

カナエは笑顔で続ける。

 

「今度は、誰かを救うための戦いですね」

 

十兵衛は静かに頷いた。

 

「ああ」

 

 

昼。

 

十兵衛は産屋敷邸へ向かった。

 

そこでは、産屋敷耀哉と産屋敷四姉妹が待っていた。

 

「ようこそ」

 

耀哉が微笑む。

 

「今日から始まる未来について、少し話をしましょう」

 

「はい」

 

十兵衛は座る。

 

耀哉の前には、すでに大量の資料が並べられていた。

 

「鬼殺隊は解散する予定です」

 

「承知しています」

 

「ですが」

 

耀哉は一枚の紙を差し出す。

 

「これまで鬼殺隊が保有していた医療、通信、情報収集などの仕組みを、民間へ移行できないかと考えています」

 

十兵衛が資料を見る。

 

「これは良い」

 

「本当ですか?」

 

ひなたが尋ねる。

 

「ああ」

 

十兵衛は即座に分析を始める。

 

「隠の医療技術を一般医療へ応用できる」

 

「なるほど」

 

「藤の花の研究も続けるべきだ」

 

「はい」

 

「刀鍛冶たちの技術も、農具や工具の製造に転用できる」

 

「……」

 

「鬼殺隊の情報網は、街道や災害情報の伝達に使える」

 

耀哉が微笑む。

 

「戦うために作られたものを、今度は人を守るために使う」

 

「そういうことです」

 

十兵衛は頷く。

 

「それなら、鬼殺隊が存在した意味も残る」

 

「……ありがとうございます」

 

耀哉が深く頭を下げた。

 

「こちらこそ」

 

「え?」

 

「あなたがこの世界に来てくれたことに」

 

十兵衛は黙る。

 

耀哉は続ける。

 

「あなたは多くの命を救いました」

 

「……」

 

「本来なら失われていた命を」

 

十兵衛は首を横に振る。

 

「俺一人の力ではありません」

 

「ですが」

 

耀哉は優しく笑う。

 

「あなたが始めたのです」

 

 

夕方。

 

十兵衛は屋敷へ戻る。

 

門の前。

 

そこには、しのぶが待っていた。

 

「お帰りなさい」

 

「ああ」

 

「どうでした?」

 

「やることが増えた」

 

「ふふっ」

 

しのぶは笑う。

 

「戦いが終わったのに?」

 

「ああ」

 

「大変ですね」

 

「むしろ楽しい」

 

「楽しい?」

 

「戦争とは違う」

 

十兵衛は空を見る。

 

「誰かを倒す必要がない」

 

「…………」

 

「誰かを守るために、未来を作る」

 

「……素敵ですね」

 

しのぶは静かに微笑んだ。

 

「私も手伝います」

 

「助かる」

 

「もちろん」

 

二人は並んで歩き始める。

 

「十兵衛さん」

 

「なんだ?」

 

「これから、どんな未来になると思いますか?」

 

十兵衛は少し考える。

 

「分からない」

 

「え?」

 

「未来は予測できても、確定はできない」

 

しのぶは少し驚く。

 

「あなたでも?」

 

「ああ」

 

「……意外です」

 

「だから面白い」

 

十兵衛は笑った。

 

「俺たちが作っていけばいい」

 

しのぶも笑う。

 

「はい」

 

 

夜。

 

屋敷の縁側。

 

みんなが集まっている。

 

錆兎と真菰が話している。

 

義勇と蔦子が並んでいる。

 

煉獄は大声で笑っている。

 

蜜璃は料理を作っている。

 

カナヲは花を眺めている。

 

禰豆子は相変わらず十兵衛の羽織を掴んでいる。

 

そして。

 

しのぶは、その光景を見つめていた。

 

「……」

 

昔。

 

姉が死ぬと思っていた。

 

自分も死ぬと思っていた。

 

この笑顔を見ることも。

 

こんな穏やかな夜を過ごすことも。

 

全部、叶わないと思っていた。

 

でも。

 

今は。

 

「しのぶ」

 

「はい?」

 

「何を考えている?」

 

「……昔のことです」

 

「そうか」

 

「昔は、こんな未来が来るなんて思いませんでした」

 

「俺もだ」

 

「でも」

 

しのぶは笑う。

 

「来ましたね」

 

「ああ」

 

「新しい朝が」

 

十兵衛は空を見上げる。

 

「……ああ」

 

月が輝いている。

 

そして。

 

遠くの空が、少しずつ白み始めていた。

 

「明日も朝が来る」

 

十兵衛が言う。

 

「はい」

 

「明後日も」

 

「はい」

 

「その次の日も」

 

「……はい」

 

しのぶは微笑んだ。

 

「もう、夜明けを待って戦う必要はないんですね」

 

「そうだ」

 

「ただ、朝を迎えればいい」

 

「そういうことだ」

 

二人は静かに笑った。

 

やがて。

 

東の空から、太陽が昇る。

 

誰もがその光を見つめた。

 

かつては鬼を滅ぼすための光だった。

 

今は違う。

 

ただ。

 

人々の一日を照らす光。

 

「……綺麗」

 

蜜璃が呟く。

 

真菰も笑う。

 

「うん」

 

カナヲは静かに目を細める。

 

禰豆子は嬉しそうに両手を広げる。

 

錆兎が笑う。

 

義勇も。

 

蔦子も。

 

煉獄も。

 

カナエも。

 

しのぶも。

 

そして十兵衛も。

 

誰もが同じ朝日を見ていた。

 

――新しい朝。

 

それは、単なる一日の始まりではない。

 

戦うための朝ではない。

 

誰かを失うかもしれない朝でもない。

 

生きるための朝。

 

笑うための朝。

 

未来を作るための朝。

 

そして。

 

大切な人たちと共に迎える朝。

 

十兵衛は静かに呟いた。

 

「……いい朝だ」

 

しのぶが隣で笑う。

 

「ええ」

 

「新しい朝だな」

 

「はい」

 

――鬼のいない世界で。

 

新しい人生が、始まった。

 

 

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