『赫き日輪と紫電の如く〜最強無双の天然軍師、並行世界を征く〜』   作:夜幻

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第10話 手を取り合う二人

 ――藤襲山、最終選別六日目。

 

 夜が明けた。

 

 最終選別は、残り一日。

 

 薄暗い森の中を、竜牙十兵衛と真菰は並んで歩いていた。

 

 十兵衛はいつも通り、全集中・常中を維持している。

 

 すう――。

 

 はあ――。

 

 静かな呼吸。

 

 真菰もまた、十兵衛の歩幅に合わせて進んでいた。

 

「……十兵衛」

 

「なんだ?」

 

「少し休まない?」

 

「疲れたか?」

 

「ううん」

 

 真菰は首を横に振る。

 

「ただ、十兵衛が全然休まないから」

 

「俺は疲れていない」

 

「そういうところだよ」

 

「?」

 

 真菰は苦笑する。

 

「自分が疲れていないからって、他の人も同じだと思わないでね」

 

「……なるほど」

 

 十兵衛は素直に頷いた。

 

「覚えておく」

 

「うん」

 

 二人は近くの岩に腰を下ろした。

 

 静かな時間。

 

 風が木々を揺らしている。

 

「ねえ」

 

 真菰が口を開いた。

 

「十兵衛は、どうして私を助けてくれたの?」

 

「昨日のことか?」

 

「うん」

 

「危険だったから」

 

「それだけ?」

 

「ああ」

 

 真菰は少しだけ寂しそうに笑う。

 

「そっか」

 

「?」

 

「なんでもないよ」

 

 十兵衛は首を傾げた。

 

「変な質問だったか?」

 

「ううん」

 

 真菰は微笑む。

 

「十兵衛らしい答えだと思っただけ」

 

 ◇

 

 しばらくして。

 

 森の奥から物音が聞こえた。

 

「……」

 

 十兵衛が立ち上がる。

 

「鬼だ」

 

「何体?」

 

「二体」

 

「行こう」

 

「ああ」

 

 二人は走り出した。

 

 森を抜けた先。

 

 一人の参加者が、二体の鬼に追い詰められていた。

 

「来るな!」

 

 少年が叫ぶ。

 

「喰わせろ!」

 

 二体の鬼が同時に襲いかかる。

 

「真菰!」

 

「はい!」

 

 真菰が左へ。

 

 十兵衛が右へ。

 

 二人は同時に鬼との間合いへ入る。

 

「水の呼吸――」

 

 真菰の刀が弧を描く。

 

「壱ノ型!」

 

 ――ズバッ!

 

 鬼の腕を斬り落とす。

 

 その隙に。

 

「雷の呼吸――壱ノ型」

 

 十兵衛が消える。

 

「霹靂一閃」

 

 ――バァンッ!

 

 もう一体の首が飛ぶ。

 

 だが。

 

「まだ!」

 

 腕を斬られた鬼が再生する。

 

「真菰!」

 

「分かってる!」

 

 真菰が踏み込む。

 

 鬼が爪を振る。

 

「――っ!」

 

 真菰の足元が崩れた。

 

「真菰!」

 

 十兵衛が手を伸ばす。

 

 真菰も手を伸ばす。

 

「――!」

 

 その手が。

 

 しっかりと重なった。

 

 十兵衛が真菰の腕を引く。

 

「こっちだ!」

 

「うん!」

 

 真菰は十兵衛の勢いを利用して身体を回転させる。

 

「今!」

 

 十兵衛が刀を振る。

 

 真菰も同時に斬る。

 

 ――ズバァッ!

 

 二人の刃が交差した。

 

 鬼の首が落ちる。

 

「……」

 

 鬼が灰となって消えていく。

 

 真菰は十兵衛の手を握ったままだった。

 

「……」

 

「……」

 

 二人とも気づく。

 

 十兵衛の手。

 

 真菰の手。

 

 しっかりと握られている。

 

「……あ」

 

 真菰が顔を赤くする。

 

「すまない」

 

 十兵衛が手を離す。

 

「……」

 

 真菰は少しだけ残念そうな顔をした。

 

 しかし。

 

 十兵衛は気づかない。

 

「怪我は?」

 

「ないよ」

 

「本当に?」

 

「うん」

 

 十兵衛は真菰の腕を見る。

 

「擦り傷がある」

 

「これくらい平気」

 

「駄目だ」

 

「え?」

 

「治療する」

 

 十兵衛は懐から布を取り出した。

 

「腕を」

 

「……はい」

 

 真菰は素直に腕を差し出す。

 

 十兵衛は傷口を丁寧に包帯で巻いていく。

 

「痛い?」

 

「少し」

 

「我慢してくれ」

 

「うん」

 

 十兵衛の手は驚くほど優しい。

 

 真菰はその横顔を見つめる。

 

「……十兵衛」

 

「なんだ?」

 

「さっき」

 

「?」

 

「手を握ってくれた時」

 

「うん」

 

「……嬉しかった」

 

「そうか」

 

「……」

 

 やはり。

 

 気づかない。

 

 真菰は苦笑する。

 

「もう少しだけ、女の子の気持ちを考えてくれると嬉しいんだけどな」

 

「女の子?」

 

「ううん。なんでもない」

 

「そうか」

 

 ◇

 

 少し離れた場所。

 

 錆兎がその光景を見ていた。

 

「……」

 

 そして。

 

「またか」

 

 呆れたように呟く。

 

「何が?」

 

 後ろから別の参加者が尋ねる。

 

「いや……」

 

 錆兎は二人を見る。

 

 十兵衛は真菰の傷を手当てしている。

 

 真菰は嬉しそうに笑っている。

 

「……あいつ、本当に気づいてないんだな」

 

「何に?」

 

「何でもない」

 

 錆兎はため息をついた。

 

 ◇

 

 昼。

 

 三人は川辺で食事をしていた。

 

 十兵衛が握ったおにぎり。

 

「いただきます」

 

 真菰が食べる。

 

「美味しい」

 

「そうか」

 

「十兵衛は料理もできるんだね」

 

「必要だからな」

 

「何でもできるね」

 

「そうでもない」

 

「例えば?」

 

 真菰が尋ねる。

 

 十兵衛は少し考える。

 

「地図を読めない時がある」

 

「それは方向音痴ってことじゃ……」

 

「違う」

 

「違わないと思うよ」

 

 真菰が笑う。

 

「それと」

 

「?」

 

「人の気持ちを読むのも苦手」

 

「……」

 

 十兵衛が止まる。

 

「それは……軍略とは別だからな」

 

「そうだね」

 

 真菰は笑った。

 

「だから、私が教えてあげる」

 

「何を?」

 

「人の気持ち」

 

「頼む」

 

 あまりにも真面目な返事。

 

 真菰は吹き出した。

 

「あははっ!」

 

「?」

 

「本当に十兵衛って面白いね」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

 ◇

 

 午後。

 

 突然。

 

「――ッ!」

 

 十兵衛が立ち上がった。

 

「どうした?」

 

 錆兎が聞く。

 

「東」

 

「鬼か?」

 

「ああ」

 

 十兵衛は耳を澄ます。

 

「それと、人間が一人」

 

「なら助けに行こう」

 

 真菰が立ち上がる。

 

「ああ」

 

 だが。

 

 十兵衛が真菰を見る。

 

「真菰」

 

「なに?」

 

「君はここにいてくれ」

 

「嫌」

 

「……」

 

 即答だった。

 

「私も行く」

 

「危険だ」

 

「分かってる」

 

「今回は強い鬼かもしれない」

 

「それでも」

 

 真菰は十兵衛を見る。

 

「私は、十兵衛と一緒に行きたい」

 

「……」

 

 十兵衛は黙る。

 

 そして。

 

「分かった」

 

 真菰が笑う。

 

「ありがとう」

 

「ただし」

 

「うん」

 

「絶対に俺から離れるな」

 

「……!」

 

 真菰の頬が赤くなる。

 

「分かった」

 

 ◇

 

 二人は走った。

 

 木々の間を抜ける。

 

 やがて。

 

「――誰か!」

 

 少女の悲鳴が聞こえた。

 

 十兵衛が加速する。

 

「雷の呼吸――」

 

「十兵衛!」

 

「大丈夫だ」

 

 紫電。

 

 ――霹靂一閃。

 

 一瞬で距離を詰める。

 

 鬼の腕を斬る。

 

「えっ……?」

 

 襲われていた少女が目を見開く。

 

 真菰も続く。

 

「ここは私たちに任せて!」

 

「でも……!」

 

「逃げて!」

 

「はい!」

 

 少女が逃げる。

 

 鬼が怒り狂う。

 

「邪魔をするなぁ!」

 

 十兵衛が構える。

 

「真菰」

 

「うん」

 

「二人でやる」

 

「分かった!」

 

 十兵衛が踏み込む。

 

 雷。

 

 真菰が続く。

 

 水。

 

 雷と水。

 

 二つの呼吸が一つの流れになる。

 

 十兵衛が敵の動きを止め。

 

 真菰が死角から斬り込む。

 

「今!」

 

「はい!」

 

 ――ズバッ!

 

 鬼の首が落ちた。

 

 ◇

 

 戦いが終わる。

 

 真菰が息を整える。

 

「……やったね」

 

「ああ」

 

「十兵衛」

 

「なんだ?」

 

「私たち」

 

「うん」

 

「息が合ってきたね」

 

「そうだな」

 

 十兵衛は頷く。

 

「良い連携だった」

 

「……」

 

 真菰は嬉しそうに笑った。

 

「うん」

 

 そして。

 

 再び歩き出す。

 

 今度は。

 

 自然と。

 

 二人の手が触れ合った。

 

 十兵衛は気にしていない。

 

 真菰も離さない。

 

 やがて。

 

 十兵衛が気づく。

 

「真菰」

 

「なに?」

 

「手」

 

「……」

 

 真菰は少しだけ握る力を強めた。

 

「このままでいい?」

 

「……ああ」

 

 十兵衛は頷いた。

 

「歩きやすいなら」

 

「ふふっ」

 

 真菰は笑った。

 

「うん。歩きやすいよ」

 

 その言葉の本当の意味を。

 

 十兵衛はまだ知らない。

 

 けれど。

 

 真菰にとっては。

 

 その手の温もりこそが。

 

 何よりも嬉しかった。

 

 ◇

 

 夕暮れ。

 

 三人は再び合流した。

 

 錆兎は二人を見る。

 

「……」

 

 そして。

 

「お前ら、手を繋いでるのか?」

 

「そうだ」

 

 十兵衛が答える。

 

「真菰が歩きやすいと言うから」

 

「……」

 

 錆兎は真菰を見る。

 

 真菰は頬を赤くしながら。

 

「……うん」

 

「そうか」

 

 錆兎は何も言わなかった。

 

 ただ。

 

 小さく笑った。

 

 ――手を取り合う二人。

 

 それは単なる戦闘での連携ではなかった。

 

 互いの命を預け。

 

 互いの背中を守り。

 

 そして。

 

 互いの運命を支え合うための、小さな始まり。

 

 本来ならば。

 

 真菰はこの山で命を落とす。

 

 錆兎もまた。

 

 その運命から逃れることはできない。

 

 だが。

 

 竜牙十兵衛は知っている。

 

 未来は変えられる。

 

 ならば――。

 

「明日も生き残ろう」

 

 十兵衛が言った。

 

 真菰は頷く。

 

「うん」

 

 錆兎も笑う。

 

「ああ」

 

 三人の手が重なる。

 

 最終選別。

 

 最後の夜が近づいていた。

 

 そして。

 

 運命を変える戦いは。

 

 いよいよ最終局面へと突入する。

 

 

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