『赫き日輪と紫電の如く〜最強無双の天然軍師、並行世界を征く〜』   作:夜幻

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第118話「少女たちの想い」

――鬼のいない世界になってから。

 

蝶屋敷には、以前とは違う時間が流れていた。

 

戦いはない。

 

任務もない。

 

傷つく者もいない。

 

それでも――。

 

少女たちの胸の中には、まだ一つだけ解決していないものがあった。

 

それは。

 

竜牙十兵衛への想い。

 

 

「……」

 

縁側。

 

しのぶは一人、月を眺めていた。

 

隣にはカナエ。

 

「しのぶ」

 

「はい?」

 

「最近、少し嬉しそうですね」

 

「……そうですか?」

 

「ええ」

 

カナエは微笑む。

 

「十兵衛さんが近くにいる時、とても楽しそうです」

 

「……」

 

しのぶは黙る。

 

「姉さん」

 

「なに?」

 

「私は……」

 

言葉が出てこない。

 

しばらくして。

 

「……あの人のことが好きなのかもしれません」

 

カナエは驚かない。

 

ただ優しく笑った。

 

「やっぱり」

 

「気づいていました?」

 

「もちろん」

 

「……」

 

「だって、しのぶは分かりやすいもの」

 

「そんなことありません」

 

「ありますよ」

 

カナエはくすりと笑う。

 

「十兵衛さんの話になると、すぐ表情が変わりますから」

 

「……」

 

しのぶは頬を少し赤くする。

 

「でも……」

 

「うん」

 

「まだ、本人には言えません」

 

「どうして?」

 

「……怖いんです」

 

「怖い?」

 

「はい」

 

しのぶは月を見る。

 

「もし、この気持ちを伝えて……今の関係が変わってしまったら」

 

「……」

 

「相棒として隣にいられなくなるのが、一番怖い」

 

カナエは妹の手を握った。

 

「大丈夫ですよ」

 

「姉さん?」

 

「十兵衛さんは、そんな人ではありません」

 

「……」

 

「きっと、どんな気持ちでも受け止めてくれます」

 

しのぶは小さく笑った。

 

「そうだといいですね」

 

 

その頃。

 

庭。

 

蜜璃は花壇の前でしゃがんでいた。

 

「……」

 

隣には真菰。

 

「蜜璃ちゃん」

 

「はい?」

 

「何を考えてるの?」

 

「えっ!?」

 

蜜璃の顔が一気に赤くなる。

 

「な、何も!」

 

「十兵衛さん?」

 

「……!」

 

真菰が笑う。

 

「やっぱり」

 

「うぅ……」

 

蜜璃は両手で頬を押さえる。

 

「だって……」

 

「うん」

 

「十兵衛さんって、本当に素敵なんです!」

 

「知ってるよ」

 

「強くて!」

 

「うん」

 

「優しくて!」

 

「うん」

 

「みんなを守ってくれて!」

 

「うん」

 

「でも!」

 

蜜璃は少し困った顔をする。

 

「私がどれだけ頑張っても……」

 

「?」

 

「全然、気づいてくれないんです!」

 

真菰が笑った。

 

「それは……十兵衛さんだからね」

 

「そうなんですよ!」

 

蜜璃はため息をつく。

 

「この前だって『大好きです!』って言ったのに」

 

「うん」

 

「『ありがとう』って!」

 

「……」

 

「普通、そこは何かありますよね!?」

 

真菰は苦笑した。

 

「十兵衛さんは、そういう人だから」

 

「……ですよね」

 

蜜璃は笑う。

 

「でも」

 

「うん?」

 

「好きなんです」

 

その笑顔には、迷いがなかった。

 

 

一方。

 

廊下。

 

カナヲは一人で歩いていた。

 

手には一輪の花。

 

庭で摘んだものだった。

 

「……」

 

十兵衛の姿を見つける。

 

「十兵衛さん」

 

「カナヲか」

 

「はい」

 

「どうした?」

 

カナヲは花を差し出す。

 

「これ……」

 

「俺に?」

 

「はい」

 

十兵衛は受け取る。

 

「綺麗だな」

 

「……」

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

カナヲはそれだけ言って、その場を離れようとする。

 

「カナヲ」

 

「はい?」

 

「どうして花をくれたんだ?」

 

「……」

 

カナヲは少し考える。

 

そして。

 

「好きだからです」

 

「花が?」

 

「……」

 

「?」

 

カナヲは小さく笑う。

 

「……そういうところです」

 

「?」

 

カナヲはそのまま歩いていった。

 

十兵衛は花を見つめる。

 

「……?」

 

 

縁側。

 

禰豆子は十兵衛の隣に座っていた。

 

「ん」

 

「どうした?」

 

禰豆子が十兵衛の袖を掴む。

 

「……」

 

離さない。

 

「禰豆子?」

 

「んー……」

 

「眠いのか?」

 

「……」

 

首を横に振る。

 

「じゃあ、どうした?」

 

禰豆子は少し考える。

 

そして。

 

十兵衛の肩に頭を預けた。

 

「……」

 

十兵衛は驚く。

 

「今日は甘えたい気分なのか?」

 

「ん」

 

「そうか」

 

十兵衛は何も言わず、そのままにする。

 

少し離れた場所。

 

しのぶがその光景を見ていた。

 

「……」

 

蜜璃も見ている。

 

真菰も。

 

カナヲも。

 

少女たちの視線が集まる。

 

しかし。

 

当の本人だけは。

 

「平和になってよかったな」

 

などと呑気に呟いていた。

 

 

その夜。

 

少女たちは、偶然一つの部屋に集まった。

 

しのぶ。

 

カナエ。

 

蜜璃。

 

真菰。

 

カナヲ。

 

禰豆子。

 

そして――産屋敷四姉妹もいた。

 

「……」

 

静かな沈黙。

 

蜜璃が口を開く。

 

「みなさん」

 

「はい?」

 

カナエが振り返る。

 

「十兵衛さんのこと……」

 

「……」

 

全員が黙る。

 

「好きですよね?」

 

「……」

 

否定する者はいなかった。

 

しのぶが苦笑する。

 

「蜜璃さん」

 

「はい」

 

「あなた、随分と大胆ですね」

 

「だって隠しても仕方ないですから!」

 

真菰が笑う。

 

「確かに」

 

カナヲも小さく頷く。

 

「……はい」

 

禰豆子は。

 

「ん」

 

と頷いた。

 

産屋敷四姉妹も顔を見合わせる。

 

「私たちも……」

 

「うん」

 

「十兵衛様は……」

 

「大切な人」

 

その言葉に、しのぶは少し驚いた。

 

けれど。

 

嫌な気持ちにはならなかった。

 

なぜなら。

 

みんなの想いは同じだったから。

 

――十兵衛に幸せになってほしい。

 

それだけだった。

 

 

「でも」

 

真菰が言う。

 

「一番の問題は……」

 

「十兵衛さんですね」

 

カナエが続ける。

 

「そうです」

 

しのぶがため息をつく。

 

「本人が全く気づいていません」

 

蜜璃が頭を抱える。

 

「どうしましょう……」

 

カナヲが真顔で答える。

 

「直接言うしかないと思います」

 

「……」

 

全員が黙る。

 

「……それが一番難しいんです」

 

しのぶが呟く。

 

真菰が笑う。

 

「じゃあ、みんなで頑張ろう」

 

「はい!」

 

蜜璃が元気よく答える。

 

「私も!」

 

カナヲも頷く。

 

「……はい」

 

禰豆子も。

 

「ん!」

 

産屋敷四姉妹も笑う。

 

カナエはそんな少女たちを見て微笑んだ。

 

「ふふっ」

 

そして。

 

「恋って、不思議ですね」

 

しのぶが頷く。

 

「ええ」

 

「敵もいない」

 

「はい」

 

「戦う必要もない」

 

「はい」

 

「なのに」

 

カナエは楽しそうに笑った。

 

「一番難しい戦いが始まりそうですね」

 

 

翌朝。

 

十兵衛は庭で一人、刀の手入れをしていた。

 

そこへ少女たちが次々と現れる。

 

「十兵衛さん!」

 

「おはようございます!」

 

「今日は一緒に朝食を――」

 

「花を見に行きませんか?」

 

「団子もあります!」

 

「……?」

 

十兵衛は少女たちを見る。

 

「今日はみんな、随分と積極的だな」

 

「……」

 

少女たちが顔を見合わせる。

 

そして。

 

全員が思った。

 

――今度こそ。

 

――少しでも、この鈍感な軍師に気持ちを伝える。

 

だが。

 

「みんな仲が良くていいな」

 

「…………」

 

「?」

 

十兵衛は満足そうに笑っていた。

 

少女たちは一斉に頭を抱える。

 

「「「……鈍感すぎる!」」」

 

蝶屋敷に。

 

今日も平和な笑い声が響いた。

 

そして。

 

戦いが終わった今。

 

少女たちにとっての「新しい戦い」が。

 

静かに始まろうとしていた。

 

 

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