『赫き日輪と紫電の如く〜最強無双の天然軍師、並行世界を征く〜』   作:夜幻

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第11話 日輪、夜を裂く

 ――藤襲山、最終選別六日目。

 

 夜。

 

 深い闇が山全体を包み込んでいた。

 

 木々の隙間から見える月は薄く、森の奥からは鬼たちの呻き声が響いている。

 

 最終選別が始まってから、六日。

 

 参加者たちは疲弊していた。

 

 傷を負い。

 

 食料を失い。

 

 眠ることさえできず。

 

 それでも生き延びるために刀を握っている。

 

 だが――。

 

 その夜。

 

 藤襲山の鬼たちは、これまでとは違う恐怖を感じていた。

 

「……来る」

 

 一体の鬼が震える。

 

「何がだ?」

 

「……あいつだ」

 

「誰だ?」

 

「赤い髪の……男」

 

 鬼の顔が歪む。

 

「雷みたいに現れて……俺たちの仲間を次々に殺していく……」

 

「たった一人の人間だろう?」

 

「違う……!」

 

 鬼は首を横に振った。

 

「あれは……人間なんかじゃない」

 

 ――その直後。

 

 紫電が森を駆け抜けた。

 

 バァンッ!

 

「ぎゃあああああっ!」

 

 鬼の首が宙を舞う。

 

 竜牙十兵衛。

 

 刀を振り抜いた姿勢のまま、静かに立っていた。

 

「一体」

 

 刀を納める。

 

「残り――」

 

 十兵衛は目を閉じる。

 

 全集中・常中。

 

 耳を澄ます。

 

 遠く。

 

 微かな悲鳴。

 

 さらに。

 

 その奥から鬼の気配が三つ。

 

「……北西」

 

 十兵衛が歩き出す。

 

「行くぞ」

 

「うん!」

 

 後ろから真菰が追いつく。

 

 さらに錆兎も続く。

 

「またか?」

 

「ああ」

 

「お前、本当に休まないな」

 

「まだ助けられる人がいる」

 

「……そう言うと思った」

 

 錆兎は苦笑した。

 

 ◇

 

 北西の森。

 

「逃げろ!」

 

 一人の少年が叫んでいた。

 

 その前には。

 

 三体の鬼。

 

「もう逃げられないぞ!」

 

「喰わせろ!」

 

「その血……美味そうだ!」

 

 少年は刀を構える。

 

 しかし腕は震えている。

 

 体力は限界。

 

「くそ……!」

 

 鬼が飛びかかる。

 

 ――その瞬間。

 

「水の呼吸――!」

 

 真菰が割って入った。

 

「弐ノ型――水車!」

 

 身体を回転させながら斬撃を放つ。

 

 鬼の腕が切断される。

 

「今だよ!」

 

 少年が走る。

 

「ありがとう!」

 

「東へ!」

 

 真菰が叫ぶ。

 

「藤の花が見える場所まで逃げて!」

 

「はい!」

 

 少年が駆け去る。

 

「邪魔をするなぁ!」

 

 鬼が真菰へ迫る。

 

 しかし。

 

「――遅い」

 

 十兵衛が鬼の横を通り過ぎた。

 

 紫電。

 

「雷の呼吸――拾壱ノ型」

 

 刀が閃く。

 

「紫電一閃」

 

 ――ズバッ!

 

 鬼の首が落ちる。

 

「なっ――!」

 

 残った二体が怯える。

 

 十兵衛は振り返る。

 

「どうした?」

 

「来るな!」

 

「……」

 

「化け物め!」

 

 十兵衛は少し首を傾げた。

 

「俺は人間だ」

 

 その言葉と同時に。

 

 真菰が残った鬼の懐へ入る。

 

「十兵衛!」

 

「ああ」

 

 呼吸が重なる。

 

 雷。

 

 水。

 

 そして。

 

 十兵衛の日輪刀が赫く染まった。

 

「日の呼吸――」

 

 真菰が鬼の動きを止める。

 

「円舞!」

 

 ――ズバァッ!

 

 最後の二体が灰になる。

 

 静寂。

 

「……」

 

 真菰が息を整える。

 

「終わったね」

 

「ああ」

 

 十兵衛は頷いた。

 

 だが。

 

「まだだ」

 

「え?」

 

「西から五体」

 

 錆兎が目を見開く。

 

「五体!?」

 

「ああ」

 

「分かるのか?」

 

「足音と匂いだ」

 

「……」

 

 錆兎は苦笑する。

 

「本当に化け物だな」

 

「褒め言葉か?」

 

「半分は」

 

 ◇

 

 それから。

 

 十兵衛たちは夜通し戦った。

 

 鬼を倒す。

 

 負傷者を救う。

 

 安全な場所へ送る。

 

 再び鬼を探す。

 

 その繰り返し。

 

 そして。

 

 夜が最も深くなった頃。

 

 十兵衛は突然立ち止まった。

 

「……」

 

 空気が変わった。

 

 真菰が尋ねる。

 

「どうしたの?」

 

「強い鬼がいる」

 

 錆兎の表情が引き締まる。

 

「どれくらい?」

 

「これまでとは比べ物にならない」

 

「……」

 

「かなり危険だ」

 

 真菰が刀を握る。

 

「行く?」

 

「ああ」

 

 十兵衛は前を向く。

 

「だが」

 

「うん?」

 

「今回は俺が先に行く」

 

 ◇

 

 森の奥。

 

 そこに。

 

 巨大な鬼がいた。

 

 異様な身体。

 

 幾つもの腕。

 

 そして。

 

 無数の顔。

 

「……」

 

 鬼が笑う。

 

「人間……?」

 

 十兵衛は止まる。

 

「鬼だな」

 

「そうだ」

 

 鬼は笑った。

 

「私は強いぞ」

 

「そうか」

 

「この山で何人も殺した」

 

「……」

 

「お前も殺してやろう」

 

 鬼が腕を振り上げる。

 

「まずは――」

 

 その腕が。

 

 突然吹き飛んだ。

 

「……?」

 

 鬼が呆然とする。

 

 十兵衛の刀が。

 

 すでに抜かれていた。

 

「何をした?」

 

「斬った」

 

「いつ――」

 

「今だ」

 

 鬼の顔が引きつる。

 

「貴様……!」

 

 腕が再生する。

 

 さらに。

 

 十兵衛の背後から。

 

「十兵衛!」

 

 真菰の声。

 

 巨大な腕が迫る。

 

 十兵衛は振り返らない。

 

「真菰」

 

「はい!」

 

「俺の背後を頼む」

 

「分かった!」

 

 真菰が鬼の攻撃を受け止める。

 

 錆兎も加勢。

 

「俺もいる!」

 

 十兵衛は前を見る。

 

「なら――」

 

 刀を構える。

 

「終わらせる」

 

 鬼が咆哮。

 

「人間ごときがぁぁぁ!」

 

 巨大な腕が雨のように降り注ぐ。

 

 十兵衛は走る。

 

 雷の呼吸。

 

 壱ノ型。

 

「霹靂一閃!」

 

 紫電。

 

 一つ。

 

 二つ。

 

 三つ。

 

 無数の腕をすり抜ける。

 

 だが。

 

「そこだ!」

 

 鬼が十兵衛を捉える。

 

 巨大な腕が振り下ろされる。

 

「――!」

 

 十兵衛が跳ぶ。

 

 空中で身体を捻る。

 

「日の呼吸――玖ノ型」

 

「斜陽転身」

 

 横一文字。

 

 腕が斬れる。

 

 着地。

 

 同時に。

 

「雷の呼吸――拾弐ノ型」

 

 刀身が紫電を纏う。

 

「八雷神大御神」

 

 ――ドドドドドッ!

 

 八方向。

 

 同時に放たれる神速の斬撃。

 

 鬼の身体が切り刻まれる。

 

「な……!」

 

 しかし。

 

 再生。

 

「私を殺せると思うな!」

 

 十兵衛は静かに刀を構え直した。

 

「なら」

 

 呼吸が変わる。

 

 雷の速度。

 

 日の熱。

 

「もう一段階、上げる」

 

 ◇

 

 真菰と錆兎は、離れた場所から見ていた。

 

「……」

 

 真菰が呟く。

 

「十兵衛……」

 

「凄いな」

 

 錆兎も息を呑む。

 

「でも」

 

 真菰は気づいていた。

 

 十兵衛の呼吸が。

 

 ほんの少しだけ変化している。

 

「十兵衛……無理してる?」

 

「……!」

 

 錆兎も気づく。

 

「ああ」

 

 十兵衛は強い。

 

 だが。

 

 決して無限ではない。

 

「俺たちも行くぞ!」

 

「うん!」

 

 二人が駆け出す。

 

 その瞬間。

 

「来るな!」

 

 十兵衛の声が響いた。

 

「でも!」

 

「俺が隙を作る!」

 

 鬼が十兵衛へ集中する。

 

「貴様ぁぁぁ!」

 

 十兵衛は真正面から迎え撃つ。

 

「――日の呼吸」

 

 刀が赫く輝く。

 

「拾弐ノ型――炎舞!」

 

 二連撃。

 

 さらに。

 

「雷の呼吸――拾壱ノ型」

 

 紫電。

 

「紫電一閃!」

 

 雷と日の斬撃が連続する。

 

 鬼の首へ。

 

 刃が入る。

 

「ぐ……!」

 

 あと少し。

 

 だが。

 

 鬼の再生速度が上回る。

 

「……!」

 

 十兵衛は目を細める。

 

 そして。

 

「そういうことか」

 

 弱点を見抜く。

 

「お前は――首だけを狙えばいいわけじゃない」

 

 鬼の身体。

 

 再生。

 

 腕。

 

 血鬼術。

 

 その全てを分析する。

 

「再生の起点は……」

 

 十兵衛の瞳が鋭くなる。

 

「そこだ」

 

 鬼の胸元。

 

 刃が突き刺さる。

 

「ぐあああああっ!」

 

 動きが止まる。

 

「錆兎!」

 

「ああ!」

 

「真菰!」

 

「任せて!」

 

 二人が同時に駆ける。

 

「水の呼吸!」

 

「水車!」

 

「十兵衛!」

 

「――今だ」

 

 十兵衛が踏み込む。

 

 雷。

 

 日の呼吸。

 

 二つを完全に重ねる。

 

「雷・日の呼吸――」

 

 紫電が走る。

 

 赫き刃が夜を裂く。

 

「――日輪・紫電」

 

 ――ズバァァァンッ!

 

 鬼の首が。

 

 完全に断ち切られた。

 

「……」

 

 鬼の身体が崩れる。

 

「馬鹿な……」

 

「私が……」

 

「こんな……」

 

 灰となって消えていく。

 

 ◇

 

 戦いが終わった。

 

 森には静寂が戻る。

 

 真菰が十兵衛へ駆け寄る。

 

「十兵衛!」

 

「ああ」

 

「大丈夫?」

 

「問題ない」

 

「本当に?」

 

「本当だ」

 

 真菰は十兵衛の顔を見る。

 

「……嘘」

 

「?」

 

「少し疲れてる」

 

「……」

 

「隠さないで」

 

 十兵衛は黙る。

 

 錆兎も近づいてくる。

 

「真菰の言う通りだ」

 

「……」

 

「お前は一人で全部やろうとしすぎる」

 

 十兵衛は二人を見る。

 

 そして。

 

「……すまない」

 

「謝る必要はない」

 

 錆兎が笑う。

 

「ただ、頼ってくれ」

 

「俺たちにも」

 

 真菰が続ける。

 

「うん」

 

 十兵衛は静かに頷いた。

 

「分かった」

 

 ◇

 

 そして。

 

 東の空が。

 

 ほんの僅かに白み始めた。

 

「……朝だ」

 

 真菰が呟く。

 

 十兵衛は空を見る。

 

 暗闇の向こう。

 

 新しい光が生まれている。

 

「日が昇る」

 

 錆兎が笑う。

 

「ああ」

 

 十兵衛は刀を納めた。

 

「夜が終わる」

 

 その言葉と同時に。

 

 山の向こうから。

 

 一筋の光が差し込んだ。

 

 それは。

 

 闇を切り裂く日輪。

 

 そして。

 

 十兵衛の赫き刀身に反射して。

 

 まるで紫電のように輝いた。

 

 ――日輪、夜を裂く。

 

 それは。

 

 最終選別の終わりを告げる光ではない。

 

 新しい運命の始まりを告げる光だった。

 

 真菰が十兵衛の隣に立つ。

 

 錆兎も並ぶ。

 

 三人は。

 

 昇りゆく太陽を見つめていた。

 

「十兵衛」

 

「なんだ?」

 

「これからも一緒にいようね」

 

「ああ」

 

 十兵衛は頷く。

 

「もちろんだ」

 

 その言葉を。

 

 真菰は大切に胸へ刻んだ。

 

 ――本来ならば。

 

 この朝を迎えることのできなかった二人。

 

 錆兎。

 

 真菰。

 

 しかし。

 

 竜牙十兵衛が選んだ「救済」という道によって。

 

 二人は生きている。

 

 そして。

 

 この瞬間。

 

 鬼殺隊の未来そのものが。

 

 大きく変わり始めた。

 

 

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