『赫き日輪と紫電の如く〜最強無双の天然軍師、並行世界を征く〜』   作:夜幻

14 / 22
第12話 選別、完全制圧

――藤襲山、最終選別七日目。

 

 朝日が昇った。

 

 山を覆っていた闇が、ゆっくりと消えていく。

 

 木々の間から差し込む陽光。

 

 それを見た瞬間。

 

 十兵衛は静かに息を吐いた。

 

「……朝か」

 

 隣では、真菰が目を細めている。

 

「綺麗だね」

 

「ああ」

 

 錆兎も空を見上げる。

 

「やっと終わったな」

 

「いや」

 

 十兵衛が答える。

 

「まだ終わっていない」

 

「え?」

 

 錆兎が振り向く。

 

「最終選別の終了条件は?」

 

「七日間の生存だろ?」

 

「そうだ」

 

 十兵衛は頷く。

 

「ならば、日没までに鬼を残さない」

 

「……何?」

 

 錆兎が目を見開いた。

 

「鬼を?」

 

「ああ」

 

「この山にいる鬼を全部?」

 

「そうだ」

 

 真菰も驚く。

 

「十兵衛……」

 

「どうした?」

 

「最終選別って、本当にそこまでするものなの?」

 

「必要だからな」

 

「必要?」

 

「鬼を残せば、次の参加者が殺される」

 

 十兵衛は山を見渡す。

 

「なら、俺が処理する」

 

 あまりにも自然な口調。

 

 錆兎は苦笑した。

 

「……やっぱりお前は普通じゃない」

 

「そうか?」

 

「そうだよ」

 

 ◇

 

 十兵衛は懐から地図を取り出した。

 

 藤襲山の地形。

 

 鬼の出現位置。

 

 参加者の位置。

 

 全てが記録されている。

 

「現在確認できる鬼は、残り十一体」

 

「十一体……」

 

 真菰が呟く。

 

「昨夜までに三十体以上倒したはずだよね」

 

「ああ」

 

「どうしてそんなに正確に分かるの?」

 

「足跡、血の匂い、木々の破損、鳴き声」

 

「……」

 

「それと」

 

 十兵衛は耳を澄ます。

 

「呼吸音」

 

「呼吸音?」

 

「鬼にも癖がある」

 

 錆兎が感心したように呟く。

 

「そこまで分かるのか……」

 

「分かる」

 

 十兵衛は地図に印をつける。

 

「西に二体」

 

「北に三体」

 

「南東に四体」

 

「そして――」

 

 指が一点で止まる。

 

「東に二体」

 

 真菰が尋ねる。

 

「じゃあ、どうする?」

 

「簡単だ」

 

 十兵衛は地図を畳んだ。

 

「全員、東へ追い込む」

 

 錆兎が目を丸くする。

 

「十一体を一か所に?」

 

「そうだ」

 

「危険すぎる!」

 

「俺たち三人なら問題ない」

 

「そういう話じゃ――」

 

「いや」

 

 十兵衛は真剣な目で錆兎を見る。

 

「俺たちだけで戦うわけじゃない」

 

 ◇

 

 十兵衛は残っている参加者たちを集めた。

 

「……以上だ」

 

 十数名の剣士たちが、緊張した面持ちで話を聞いている。

 

「この山に残る鬼を、東側へ誘導する」

 

「鬼を集めるってことか?」

 

「そうだ」

 

「俺たちに何をしろと?」

 

「倒す必要はない」

 

 全員が驚く。

 

「え?」

 

「鬼を見つけたら、一定距離を保って東へ誘導しろ」

 

「それだけ?」

 

「ああ」

 

 十兵衛は地図を広げる。

 

「絶対に単独で戦うな」

 

「……」

 

「負傷したら即座に撤退」

 

「……」

 

「無理をする必要はない」

 

 一人の青年が尋ねた。

 

「あなたは……何者なんですか?」

 

 十兵衛は少し考えた。

 

「竜牙十兵衛」

 

「それは知っています」

 

「なら問題ない」

 

「いや、そうじゃなくて……!」

 

 周囲から苦笑が漏れる。

 

 真菰が小さく笑った。

 

「十兵衛は本当にこういうところが天然だね」

 

「?」

 

 ◇

 

 作戦開始。

 

 鬼を見つけた参加者が叫ぶ。

 

「いたぞ!」

 

「東へ!」

 

 鬼が追いかける。

 

「逃げるな!」

 

「こっちだ!」

 

 別の場所でも。

 

「鬼だ!」

 

「東へ誘導する!」

 

 さらに。

 

「二体来た!」

 

「走れ!」

 

 鬼たちが次々と移動していく。

 

 十兵衛は森の中心から状況を把握していた。

 

「……予定通り」

 

 錆兎が尋ねる。

 

「本当に集まるのか?」

 

「集まる」

 

「なぜ?」

 

「鬼は人間を追う」

 

「それだけ?」

 

「それだけで十分だ」

 

 ◇

 

 やがて。

 

 東側の広場。

 

 十一体の鬼が集結した。

 

「人間め!」

 

「どこへ行った!」

 

「喰わせろ!」

 

「……」

 

 その前に。

 

 一人の男が立っていた。

 

 竜牙十兵衛。

 

「全員揃ったな」

 

「……!」

 

 鬼たちが一斉に振り向く。

 

「貴様!」

 

「またお前か!」

 

「この六日間……!」

 

 十兵衛は刀を抜いた。

 

 陽光を受けて。

 

 刃が赫く輝く。

 

「ここで終わりだ」

 

「殺せぇぇぇ!」

 

 十一体の鬼が一斉に襲いかかった。

 

 ――だが。

 

「遅い」

 

 紫電。

 

 十兵衛の姿が消える。

 

「雷の呼吸――壱ノ型」

 

 霹靂一閃。

 

 一体。

 

 二体。

 

 三体。

 

 首が飛ぶ。

 

「な――!」

 

「速すぎる!」

 

 残りが距離を取る。

 

 十兵衛は止まらない。

 

「日の呼吸――参ノ型」

 

「烈日紅鏡」

 

 左右から赫い斬撃。

 

 二体同時に首が落ちる。

 

「五体」

 

 十兵衛が呟く。

 

 鬼たちが恐怖する。

 

「来るな!」

 

「化け物!」

 

「逃げろ!」

 

「逃がさない」

 

 雷鳴。

 

「雷の呼吸――拾壱ノ型」

 

「紫電一閃」

 

 紫の閃光が走る。

 

 六体目。

 

 七体目。

 

 八体目。

 

 ほぼ同時に崩れ落ちる。

 

 残り三体。

 

 そのうち一体が背後から襲いかかる。

 

「十兵衛!」

 

 真菰が叫ぶ。

 

 だが。

 

「問題ない」

 

 十兵衛は振り返らない。

 

 身体を沈める。

 

 鬼の爪が頭上を通過。

 

 その瞬間。

 

「日の呼吸――伍ノ型」

 

「火車」

 

 鬼の頭上を飛び越える。

 

 背後から一閃。

 

 九体目。

 

 残り二体。

 

「ふざけるなぁぁぁ!」

 

 二体が左右から同時に襲いかかる。

 

「錆兎!」

 

「ああ!」

 

 錆兎が片方を受け止める。

 

「真菰!」

 

「任せて!」

 

 真菰がもう一体の動きを止める。

 

「十兵衛!」

 

「――今だ」

 

 十兵衛が踏み込む。

 

「日の呼吸――拾弐ノ型」

 

「炎舞」

 

 二連撃。

 

 十体目。

 

 そして。

 

 最後の一体。

 

 十兵衛の前に立つ。

 

「……」

 

 鬼が震える。

 

「お前……」

 

「なんだ?」

 

「本当に……人間なのか?」

 

 十兵衛は少し考えた。

 

「そうだ」

 

「嘘だ……!」

 

 鬼が絶叫する。

 

「そんな人間がいるものか!」

 

 十兵衛は刀を構える。

 

「なら」

 

 呼吸を整える。

 

「確かめろ」

 

 紫電。

 

 赫き日輪。

 

 雷と日の呼吸が一つになる。

 

「雷・日の呼吸――」

 

 一歩。

 

 踏み込み。

 

「日輪・紫電」

 

 ――ズバァァァンッ!

 

 最後の鬼の首が落ちた。

 

 灰が風に舞う。

 

 完全な静寂。

 

 ◇

 

「……終わった?」

 

 誰かが呟いた。

 

 十兵衛は目を閉じる。

 

 山全体の気配を探る。

 

 北。

 

 南。

 

 西。

 

 東。

 

「……」

 

 しばらくして。

 

「終わった」

 

 その一言。

 

 参加者たちから。

 

「おおおおおっ!」

 

 歓声が上がった。

 

「生き残った!」

 

「俺たち……生きてる!」

 

「鬼がいない!」

 

 泣き出す者もいた。

 

 錆兎はそんな光景を見ながら、十兵衛に尋ねる。

 

「これで本当に終わりか?」

 

「ああ」

 

「……お前が来なかったら、何人死んでいたんだろうな」

 

 十兵衛は答えない。

 

「考える必要はない」

 

「え?」

 

「死ななかった」

 

「……」

 

「それだけで十分だ」

 

 真菰が微笑む。

 

「うん」

 

 ◇

 

 そして。

 

 藤襲山の麓。

 

 最終選別の案内役を務める白髪の少女たちが、参加者たちを見ていた。

 

「……生存者が多すぎます」

 

「こんな人数が残るなんて……」

 

 その数。

 

 例年とは比べものにならない。

 

 鬼の数は決して少なくなかった。

 

 それなのに。

 

 大量の生存者。

 

 そして。

 

 その中心にいる一人の青年。

 

「竜牙……十兵衛」

 

 一人が名前を呟いた。

 

 ◇

 

 参加者たちの前に、案内役が立つ。

 

「最終選別は終了しました」

 

「皆様、お疲れ様でした」

 

「これより鬼殺隊士として必要なものを選んでいただきます」

 

 だが。

 

 一人の参加者が手を挙げた。

 

「あの!」

 

「はい?」

 

「俺たちが生き残れたのは、竜牙さんのおかげです!」

 

「……!」

 

 別の者も声を上げる。

 

「俺も!」

 

「私も助けてもらいました!」

 

「何度も鬼から救ってもらった!」

 

「竜牙さんがいなかったら死んでました!」

 

 次々と声が上がる。

 

 十兵衛は困った顔をする。

 

「……そこまで言わなくても」

 

 真菰が隣で笑う。

 

「みんな、本当に感謝してるんだよ」

 

「そうか」

 

 錆兎が肩を叩く。

 

「素直に受け取れ」

 

「分かった」

 

 ◇

 

 そして。

 

 最後に。

 

 十兵衛。

 

 真菰。

 

 錆兎。

 

 三人が並んだ。

 

「……」

 

 真菰が十兵衛の隣を見る。

 

 錆兎もいる。

 

 三人とも生きている。

 

 本来なら。

 

 ここに二人の姿はない。

 

 だが。

 

 今。

 

 三人は立っている。

 

「十兵衛」

 

「なんだ?」

 

「ありがとう」

 

「何が?」

 

「……全部」

 

 真菰は笑った。

 

「私を救ってくれて」

 

「当然だ」

 

「……うん」

 

 真菰は嬉しそうに頷いた。

 

 錆兎も言う。

 

「俺からも礼を言う」

 

「必要ない」

 

「いや、必要だ」

 

 錆兎は笑う。

 

「お前のおかげで、俺はここにいる」

 

 十兵衛は二人を見る。

 

「なら」

 

 静かに答えた。

 

「これからも生きろ」

 

「ああ」

 

「うん」

 

 三人は頷いた。

 

 ◇

 

 その日の昼。

 

 藤襲山から見える空は、雲一つない青空だった。

 

 最終選別。

 

 本来ならば多くの命が失われる場所。

 

 しかし。

 

 この世界では違った。

 

 竜牙十兵衛が。

 

 最終選別そのものを完全に制圧した。

 

 鬼は全滅。

 

 参加者の生存率は異例の高さ。

 

 そして。

 

 真菰と錆兎。

 

 二人の未来は。

 

 完全に原作とは異なる道へ進み始めた。

 

 十兵衛は空を見上げる。

 

「……良い天気だ」

 

 真菰が隣で笑う。

 

「そうだね」

 

 錆兎も笑う。

 

「これからが本番だな」

 

「ああ」

 

 十兵衛は頷く。

 

「鬼殺隊に入る」

 

 その瞳に。

 

 迷いはない。

 

「そして」

 

 赫き日輪を見つめる。

 

「この世界から、鬼の脅威を消す」

 

 その言葉は。

 

 まだ誰も知らない。

 

 遠い未来。

 

 鬼舞辻無惨と対峙するその時まで。

 

 竜牙十兵衛が。

 

 鬼殺隊そのものを変革していくことを。

 

 そして――。

 

 救われた真菰と錆兎が。

 

 やがて鬼殺隊の歴史を大きく変える存在になることを。

 

 最終選別。

 

 完全制圧。

 

 それは終わりではない。

 

 ――本当の戦いの始まりだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。