『赫き日輪と紫電の如く〜最強無双の天然軍師、並行世界を征く〜』   作:夜幻

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第13話 出口はどこだ?

 ――藤襲山。

 

 最終選別、終了。

 

 鬼は全滅。

 

 参加者たちは次々と山を下り始めていた。

 

「……」

 

 竜牙十兵衛は、一本の道を見つめていた。

 

「……」

 

 右を見る。

 

 森。

 

 左を見る。

 

 森。

 

 正面を見る。

 

 やっぱり森。

 

「……」

 

 十兵衛は地図を取り出した。

 

 しばらく眺める。

 

「……おかしい」

 

 錆兎が振り返る。

 

「どうした?」

 

「出口がない」

 

「……は?」

 

 真菰も近づいてくる。

 

「出口がないって……?」

 

「ない」

 

 十兵衛は真剣な顔で答えた。

 

「この山の構造が、地図と一致しない」

 

「いや……」

 

 錆兎が周囲を見る。

 

「普通に道を下ればいいんじゃないか?」

 

「それは危険だ」

 

「危険?」

 

「鬼がいなくても遭難する可能性がある」

 

「……」

 

 真菰が笑いを堪える。

 

「十兵衛」

 

「なんだ?」

 

「もしかして……」

 

 一拍。

 

「迷子?」

 

「違う」

 

「……」

 

「これは戦略的なルート探索だ」

 

「迷子だね」

 

 真菰が笑った。

 

「違う」

 

 十兵衛は真剣だった。

 

「俺は方向音痴ではない」

 

「じゃあ、出口はどっち?」

 

「……」

 

 十兵衛は地図を見る。

 

「……東」

 

「ここは?」

 

「……北」

 

「出口は?」

 

「……東」

 

「じゃあ、なんで北に歩いてきたの?」

 

「……」

 

 十兵衛は黙った。

 

 錆兎が頭を抱える。

 

「お前……」

 

「なんだ?」

 

「戦場ではあれだけ先読みするのに……」

 

「?」

 

「道だけは本当に駄目なんだな」

 

「……否定はできない」

 

 ◇

 

 三十分後。

 

「こっちじゃない?」

 

 真菰が指差す。

 

「いや」

 

 十兵衛が首を横に振る。

 

「そちらは西だ」

 

「でも出口は東なんでしょう?」

 

「ああ」

 

「なら反対だよね?」

 

「……」

 

 十兵衛は考える。

 

「確かに」

 

「ふふっ」

 

「何がおかしい?」

 

「ううん」

 

 真菰は笑いながら歩く。

 

「十兵衛って、可愛いところもあるんだなって」

 

「可愛い?」

 

「なんでもない」

 

 ◇

 

 さらに十分。

 

「ここ、さっき通らなかった?」

 

 錆兎が尋ねる。

 

「通っていない」

 

「いや、あの木」

 

「……」

 

「さっき見たぞ」

 

 真菰も木を見る。

 

「本当だ」

 

「……」

 

 十兵衛は木の幹を見る。

 

 そこには。

 

 小さな傷がついていた。

 

「……」

 

「十兵衛?」

 

「俺がつけた傷だ」

 

「……」

 

「……」

 

 三人の間に沈黙が落ちる。

 

「つまり?」

 

 錆兎が聞く。

 

「同じ場所を一周した」

 

「やっぱり迷子じゃん!」

 

 真菰がとうとう笑い出した。

 

「あはははっ!」

 

「……」

 

 十兵衛は腕を組む。

 

「おかしい」

 

「何が?」

 

「俺は戦場で敵軍を数千単位で動かせる」

 

「うん」

 

「なのに、なぜ自分一人の位置を把握できない?」

 

「それが方向音痴だからじゃない?」

 

「……」

 

 十兵衛は深刻な顔で考え込む。

 

「改善が必要だな」

 

「そこまで真面目に考えることなの?」

 

 真菰がまた笑った。

 

 ◇

 

 しばらく歩いたところで。

 

 前方から声がした。

 

「十兵衛ー!」

 

「……?」

 

 聞き覚えのある声。

 

 錆兎が振り返る。

 

「誰だ?」

 

 森の向こうから。

 

 一人の少年が走ってくる。

 

「探したぞ!」

 

 最終選別で十兵衛が助けた参加者だった。

 

「あなたたち、まだここにいたんですか?」

 

「出口を探している」

 

「出口?」

 

 少年は首を傾げる。

 

「もうすぐですよ」

 

「……」

 

 十兵衛が固まる。

 

「どこだ?」

 

「こっちです」

 

 少年が指を差す。

 

 十兵衛は地図を見る。

 

「……」

 

「十兵衛?」

 

「……地図では反対だ」

 

「地図より現地の人に聞いた方がいいと思うよ」

 

 真菰が笑う。

 

「うむ」

 

 十兵衛は頷いた。

 

「合理的な判断だ」

 

「今さら?」

 

 ◇

 

 少年について歩くこと数分。

 

 木々が途切れた。

 

 その先に。

 

 藤の花が咲き誇っている。

 

「……」

 

 十兵衛が立ち止まる。

 

「出口だ」

 

「やっとだね」

 

 真菰が微笑む。

 

 錆兎は大きく息を吐いた。

 

「長かった……」

 

「?」

 

 十兵衛が振り返る。

 

「どうした?」

 

「お前が迷わなければ、もっと早かった」

 

「……」

 

 十兵衛は少し考える。

 

「そうか」

 

「そこで認めるんだな……」

 

 ◇

 

 藤の花の下。

 

 最終選別の案内役たちが待っていた。

 

「皆様、お疲れ様でした」

 

「……」

 

 十兵衛はその場に立つ。

 

 そして。

 

「質問がある」

 

「はい?」

 

「出口までの道順は、事前に説明されていたか?」

 

「……?」

 

 案内役が困惑する。

 

「最終選別の開始時にご説明しております」

 

「そうか」

 

「……」

 

「覚えているか?」

 

 真菰が小声で尋ねる。

 

「覚えている」

 

「本当に?」

 

「……半分」

 

「ふふっ」

 

 真菰は笑う。

 

 案内役も、何となく察したようだった。

 

 ◇

 

 そして。

 

 最終選別を終えた三人は、藤襲山を下ることになった。

 

 だが。

 

 ここで新たな問題が発生した。

 

「十兵衛」

 

「なんだ?」

 

「屋敷へ戻る道は分かる?」

 

「……」

 

 十兵衛は沈黙する。

 

「分からない?」

 

「……分からない」

 

「やっぱり!」

 

 真菰が笑う。

 

 錆兎は空を見上げる。

 

「鬼より厄介な敵がいたな……」

 

「敵?」

 

「方向音痴だよ」

 

「……」

 

 十兵衛は少し考える。

 

「では」

 

「うん?」

 

「二人についていく」

 

「最初からそうしてよ!」

 

 真菰が笑った。

 

 ◇

 

 帰り道。

 

 三人は並んで歩く。

 

 今度は。

 

 十兵衛が真ん中。

 

 右に真菰。

 

 左に錆兎。

 

「これなら迷わないね」

 

 真菰が言う。

 

「ああ」

 

 十兵衛が頷く。

 

「合理的だ」

 

「……」

 

 錆兎が苦笑する。

 

「お前、本当に天然だな」

 

「そうか?」

 

「そうだ」

 

「なら覚えておく」

 

 少し歩いて。

 

 真菰がそっと十兵衛の袖を掴んだ。

 

「……」

 

「真菰?」

 

「迷子にならないように」

 

「?」

 

「こうしておけば安心でしょ?」

 

「……確かに」

 

 十兵衛は素直に頷く。

 

「ありがとう」

 

 真菰は顔を赤くする。

 

「う、うん」

 

 錆兎はその光景を横目で見る。

 

「……」

 

 そして小さく笑った。

 

 ◇

 

 その日の夕方。

 

 三人は山道を下っていく。

 

 最終選別は終わった。

 

 鬼は全滅。

 

 参加者たちは生き残った。

 

 そして。

 

 真菰も。

 

 錆兎も。

 

 生きている。

 

 十兵衛は歩きながら空を見る。

 

「……」

 

 夕焼け。

 

 赤い空。

 

 それは彼の髪の色にも似ていた。

 

「十兵衛」

 

「なんだ?」

 

「これから鬼殺隊に入ったら」

 

 真菰が尋ねる。

 

「私たち、また一緒に戦えるかな?」

 

「当然だ」

 

 十兵衛は即答した。

 

「三人で戦った方が効率がいい」

 

「……効率」

 

 真菰は苦笑する。

 

「そういうところだよ」

 

「?」

 

「なんでもない」

 

 錆兎が笑う。

 

「でも、俺も賛成だ」

 

「なら決まりだな」

 

 三人は歩き続ける。

 

 その背中を。

 

 夕日が照らしていた。

 

 ◇

 

 ――この日。

 

 竜牙十兵衛は一つの弱点を自覚した。

 

 鬼ではない。

 

 敵でもない。

 

 軍略でもない。

 

 方向音痴。

 

 そして。

 

 もう一つ。

 

 彼はまだ知らない。

 

 この先。

 

 鬼殺隊へ入隊した彼を待っているのが。

 

 さらなる戦いだけではないことを。

 

 胡蝶しのぶ。

 

 胡蝶カナエ。

 

 栗花落カナヲ。

 

 甘露寺蜜璃。

 

 そして、多くの少女たち。

 

 彼女たちはやがて。

 

 竜牙十兵衛という男に惹かれていく。

 

 しかし。

 

 当の本人は。

 

 その好意に。

 

 最後まで気づかない。

 

「……ところで」

 

 十兵衛が突然立ち止まった。

 

「どうした?」

 

 錆兎が聞く。

 

「この道はどこへ続いている?」

 

「……」

 

「……」

 

 真菰と錆兎は顔を見合わせる。

 

「十兵衛」

 

「なんだ?」

 

「私たちがいるから大丈夫だよ」

 

「……そうか」

 

 十兵衛は安心したように頷いた。

 

 そして。

 

 三人は再び歩き出した。

 

 ――出口はどこだ?

 

 答えは。

 

 最初から。

 

 仲間と共に歩いていけばいい。

 

 そんな単純なものだった。

 

 

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