『赫き日輪と紫電の如く〜最強無双の天然軍師、並行世界を征く〜』   作:夜幻

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第14話 天然軍師、誕生

 ――藤襲山・最終選別終了後。

 

 夕暮れの山道を、三人の少年少女が歩いていた。

 

 竜牙十兵衛。

 

 錆兎。

 

 真菰。

 

 最終選別を生き抜いた三人である。

 

 もっとも。

 

「……十兵衛」

 

「なんだ?」

 

「さっきから同じ場所を三回通ってるよ」

 

「……」

 

 十兵衛は黙って周囲を見回した。

 

 右には大きな岩。

 

 左には折れた木。

 

 そして正面には――先ほども見た藤の花。

 

「……確かに」

 

「やっぱり迷ってたんだね」

 

 真菰が笑う。

 

「これは戦略的な迂回だ」

 

「絶対違うよ」

 

 錆兎が呆れた。

 

「戦場では鬼を一瞬で追い詰めるのに、山道では迷子か」

 

「……」

 

 十兵衛は真剣に考える。

 

「地形把握能力には改善の余地がある」

 

「そこは認めるんだな」

 

 錆兎が苦笑した。

 

 だが。

 

 この時。

 

 二人はまだ知らなかった。

 

 この天然な青年が。

 

 後に鬼殺隊の戦術そのものを変える「軍師」になることを。

 

 ◇

 

 その日の夜。

 

 三人は山中の小さな休憩所で休んでいた。

 

 囲炉裏の火がぱちぱちと音を立てる。

 

 最終選別を終えたばかりの三人にとって、初めて訪れた安息だった。

 

「……」

 

 十兵衛は火を見つめていた。

 

「十兵衛?」

 

「少し考え事をしている」

 

「何を?」

 

 真菰が尋ねる。

 

「鬼殺隊についてだ」

 

「鬼殺隊?」

 

「ああ」

 

 十兵衛は薪を一本、火へ入れる。

 

「俺たちは今日、鬼を倒した」

 

「うん」

 

「だが」

 

 その目が鋭くなる。

 

「鬼を倒すだけでは、鬼による被害は減らない」

 

 錆兎が黙って聞く。

 

「どういう意味だ?」

 

「鬼が人間を襲う場所を予測できれば、被害そのものを減らせる」

 

「……!」

 

「鬼は無差別に現れるわけではない」

 

 十兵衛は地面に指で簡単な図を描いた。

 

「人口密度」

 

「街道」

 

「夜間の人の移動」

 

「地形」

 

「月齢」

 

「天候」

 

「そして鬼自身の行動範囲」

 

 次々と条件を書いていく。

 

「これらを分析すれば、ある程度の予測はできる」

 

 錆兎は目を見開く。

 

「鬼の出現を……予測する?」

 

「ああ」

 

「そんなことが可能なのか?」

 

「可能性は高い」

 

 十兵衛は即答した。

 

「完全ではない。だが、被害を減らすには十分だ」

 

 真菰が感心する。

 

「それなら、鬼殺隊の人たちにも教えればいいんじゃない?」

 

「……」

 

 十兵衛が止まる。

 

「どうしたの?」

 

「それだ」

 

「え?」

 

「それが必要だ」

 

 十兵衛は立ち上がった。

 

「個人の強さだけでは限界がある」

 

「……」

 

「ならば、組織全体を強くする」

 

 ◇

 

 十兵衛はさらに地面へ図を描いた。

 

「例えば、鬼殺隊士を一人ずつ配置する」

 

 円を描く。

 

「これは非効率だ」

 

 次に複数の円。

 

「複数人を一組として運用する」

 

 さらに矢印。

 

「索敵担当」

 

「接敵担当」

 

「護衛担当」

 

「斬首担当」

 

「救護担当」

 

「役割を分担すればいい」

 

 錆兎が息を呑む。

 

「……隊士一人一人の能力を考えて配置するのか」

 

「ああ」

 

「鬼と戦うだけじゃなく、人を守るための配置まで?」

 

「ああ」

 

 真菰が微笑む。

 

「十兵衛らしいね」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

 ◇

 

 翌日。

 

 鬼殺隊の本部。

 

 最終選別を終えた者たちが呼び集められていた。

 

 そこには、最終選別の監督を務めた者たちもいる。

 

「今回の最終選別について、一つ報告があります」

 

 案内役の少女が話し始める。

 

「例年と比較して、生存者数が異常に多いことが確認されました」

 

「原因は?」

 

「……竜牙十兵衛です」

 

「……」

 

 周囲がざわめく。

 

「彼が最終選別中、他の参加者を組織的に救助していたようです」

 

「組織的に?」

 

「はい」

 

「それだけではありません」

 

 少女は一枚の紙を取り出した。

 

「鬼の位置を予測し、参加者を安全な区域へ誘導」

 

「複数の参加者を役割ごとに分け、鬼を特定区域へ追い込み」

 

「最後には残存鬼を一か所へ集め、一掃しています」

 

「……」

 

 大人たちは言葉を失った。

 

「最終選別を……作戦として攻略したということか?」

 

「はい」

 

 その報告を聞いていた人物の一人が呟いた。

 

「剣士というより……軍師だな」

 

 ◇

 

 その頃。

 

 本人は。

 

「……」

 

 廊下を歩いていた。

 

「十兵衛」

 

 錆兎が呼ぶ。

 

「なんだ?」

 

「お前、さっき呼ばれてただろ」

 

「ああ」

 

「何の話だった?」

 

「分からない」

 

「……」

 

「何か説明されたが、途中で眠くなった」

 

「お前な……」

 

 真菰が笑う。

 

「軍師としては天才なのに、自分の評価には無頓着なんだね」

 

「評価?」

 

「うん」

 

「興味ない」

 

「どうして?」

 

「鬼を倒せれば十分だから」

 

「……」

 

 錆兎と真菰は顔を見合わせた。

 

 この男。

 

 本当に自分が何をしているのか分かっていない。

 

 ◇

 

 数日後。

 

 十兵衛たちは正式な隊服を受け取った。

 

「これが鬼殺隊の隊服か」

 

 十兵衛は袖を通す。

 

 真菰が目を輝かせる。

 

「似合ってるよ」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

 錆兎も頷く。

 

「かなり様になってる」

 

「そうか」

 

 十兵衛は鏡を見る。

 

 そこには。

 

 美麗な顔立ち。

 

 赤い髪。

 

 鋭い瞳。

 

 そして鬼殺隊の隊服。

 

 だが本人は。

 

「動きやすいな」

 

 感想はそれだけだった。

 

「顔については?」

 

 真菰が聞く。

 

「顔?」

 

「……なんでもない」

 

 ◇

 

 そして。

 

 十兵衛の初任務が決まった。

 

「鬼の出現地域?」

 

「はい」

 

 隊士が説明する。

 

「最近、この街道付近で旅人が何人も行方不明になっています」

 

 十兵衛は地図を見る。

 

「……」

 

 数秒。

 

「この鬼は街道そのものを狙っていない」

 

「え?」

 

「宿場町だ」

 

「宿場町?」

 

「はい」

 

「次の月齢」

 

 十兵衛が指で日付を示す。

 

「この日、月明かりが最も弱くなる」

 

「……」

 

「鬼はそこを狙う」

 

 隊士は驚く。

 

「なぜ分かるんです?」

 

「条件が揃っているからだ」

 

 十兵衛は立ち上がった。

 

「先回りする」

 

 ◇

 

 数時間後。

 

 予測地点。

 

 鬼が現れた。

 

「なぜ……!」

 

 鬼が驚く。

 

「なぜ俺がここにいると分かった!」

 

 十兵衛は刀を抜く。

 

「お前の行動パターンを読んだ」

 

「そんなことが……!」

 

「できる」

 

 雷。

 

「雷の呼吸――」

 

 紫電。

 

「霹靂一閃」

 

 ――ズバッ!

 

 鬼の首が落ちる。

 

 任務終了。

 

 ◇

 

 帰還後。

 

 隊士たちの間で噂になった。

 

「竜牙十兵衛は凄い」

 

「鬼の居場所を予測する」

 

「仲間の配置まで決める」

 

「しかも本人が一番強い」

 

「軍師みたいだ」

 

 その言葉が。

 

 少しずつ広がっていった。

 

 ――天才軍師。

 

 それが。

 

 竜牙十兵衛の新しい異名となる。

 

 しかし。

 

 本人は。

 

「軍師?」

 

 首を傾げる。

 

「俺は剣士だろ?」

 

 真菰が笑う。

 

「十兵衛は十兵衛だよ」

 

 錆兎も笑う。

 

「でも、軍師って呼ばれるのも悪くないんじゃないか?」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

「なら任せる」

 

「……何を?」

 

「軍師の仕事」

 

「いや、それはお前自身だろ!」

 

 ◇

 

 夜。

 

 三人は並んで歩いていた。

 

 真菰が十兵衛の隣。

 

 錆兎が反対側。

 

 最終選別の時と同じ。

 

 だが。

 

 もう三人は。

 

 鬼殺隊士だった。

 

「十兵衛」

 

「なんだ?」

 

「これから、どんな鬼を倒すのかな?」

 

「強い鬼もいるだろう」

 

「怖くない?」

 

「怖い?」

 

「うん」

 

「……」

 

 十兵衛は少し考えた。

 

「俺一人なら問題ない」

 

「そうじゃなくて」

 

「?」

 

「仲間が傷つくのが怖くない?」

 

 十兵衛は黙った。

 

 そして。

 

「……それは嫌だ」

 

 静かな声だった。

 

「だから」

 

 十兵衛は二人を見る。

 

「俺が守る」

 

「……」

 

「二人だけじゃない」

 

「鬼殺隊の仲間全員を」

 

 真菰は微笑む。

 

「やっぱり、十兵衛だね」

 

 錆兎も頷く。

 

「ああ」

 

 その瞬間。

 

 竜牙十兵衛という男に。

 

 一つの道が生まれた。

 

 最強の剣士。

 

 異世界の武術を極めた戦闘者。

 

 そして。

 

 仲間を生かすために戦局を支配する天才軍師。

 

 後に鬼殺隊の戦術体系を根底から変える男。

 

 その名は――。

 

 竜牙十兵衛。

 

 ――天然軍師。

 

 ここに誕生。

 

 ◇

 

 ただし。

 

「……ところで」

 

 十兵衛が立ち止まる。

 

「どうした?」

 

 錆兎が聞く。

 

「本部はどっちだ?」

 

「……」

 

 真菰が笑う。

 

「十兵衛」

 

「なんだ?」

 

「軍師になる前に、まず道を覚えようね」

 

「……努力する」

 

 こうして。

 

 史上最強とも呼ばれる天才軍師の。

 

 意外にも頼りない日常が始まった。

 

 

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