『赫き日輪と紫電の如く〜最強無双の天然軍師、並行世界を征く〜』   作:夜幻

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第17話 任務の相棒

 ――蝶屋敷。

 

 朝。

 

 庭先では、鳥の声が響いていた。

 

 竜牙十兵衛は縁側に座り、一枚の地図を広げている。

 

「……」

 

 地図を見つめること数分。

 

「……」

 

 さらに数分。

 

「……分からない」

 

「何がですか?」

 

 背後から声がした。

 

 振り返る。

 

 胡蝶しのぶが立っていた。

 

「この地図だけでは、任務地までの最短経路が分からない」

 

「地図を見るだけで、どうしてそんな結論になるんですか?」

 

「道が多すぎる」

 

「……」

 

 しのぶはため息をつく。

 

「十兵衛さん」

 

「なんだ?」

 

「任務地は山の向こうです」

 

「ああ」

 

「そして、ここから一本道です」

 

「……」

 

「迷う要素はありません」

 

「そうか」

 

 十兵衛は真剣に地図を見る。

 

「では問題ないな」

 

「……本当に大丈夫でしょうか」

 

「大丈夫だ」

 

 そこへ。

 

「しのぶ、十兵衛くん」

 

 胡蝶カナエがやって来た。

 

「二人とも、任務の準備はできた?」

 

「ああ」

 

「はい」

 

 カナエは二人を見る。

 

「今回の任務は、二人一組で行ってもらうそうよ」

 

「二人一組?」

 

 十兵衛が尋ねる。

 

「ええ」

 

 カナエが微笑む。

 

「十兵衛くんと、しのぶ」

 

「……!」

 

 しのぶが僅かに目を見開く。

 

「私と……十兵衛さんが?」

 

「うん」

 

 十兵衛は何でもないように頷いた。

 

「合理的だ」

 

「……」

 

 しのぶの頬が少し赤くなる。

 

「そ、そうですね」

 

 カナエは二人を見て、楽しそうに笑った。

 

「ふふっ。良い相棒になれそうね」

 

「相棒……」

 

 しのぶが小さく呟く。

 

 十兵衛は首を傾げた。

 

「何か問題があるか?」

 

「いえ」

 

 しのぶは微笑む。

 

「ありませんよ」

 

 ◇

 

 任務地。

 

 山間にある小さな村。

 

 ここ数日。

 

 夜になると住民が行方不明になっているという。

 

「最後に目撃されたのは?」

 

 十兵衛が村人に尋ねる。

 

「三日前です」

 

「時間は?」

 

「夜半……だったと思います」

 

「天候は?」

 

「雨でした」

 

「月は?」

 

「……そこまでは」

 

 十兵衛は周囲を見る。

 

 家々。

 

 街道。

 

 山道。

 

 そして。

 

 村の外れにある古い井戸。

 

「……」

 

 十兵衛の目が止まった。

 

「井戸」

 

「え?」

 

 しのぶも見る。

 

「何か気になるんですか?」

 

「ああ」

 

 十兵衛が近づく。

 

 井戸の周囲には、僅かな傷跡。

 

「これは人間のものじゃない」

 

 しのぶがしゃがむ。

 

「爪痕……?」

 

「鬼だ」

 

「でも、どうして井戸に?」

 

「水場だからだ」

 

「……」

 

 十兵衛は周囲を見渡す。

 

「この村で消えた人間は、全員この井戸の近くを通っている」

 

「分かるんですか?」

 

「足跡が残っている」

 

「私には見えません」

 

「だから、俺が見る」

 

「……」

 

 しのぶは微笑んだ。

 

「頼もしいですね」

 

「そうか?」

 

「ええ」

 

 ◇

 

 夜。

 

 二人は井戸の近くで待機していた。

 

「……静かですね」

 

「ああ」

 

「鬼、本当に現れるでしょうか?」

 

「来る」

 

「どうして?」

 

「風向きが変わった」

 

「風?」

 

「匂いがする」

 

 しのぶは目を細める。

 

「鬼の匂いですか?」

 

「ああ」

 

 十兵衛は刀へ手を置く。

 

「来るぞ」

 

 その瞬間。

 

 井戸の中から。

 

 ――ガリッ。

 

 何かが這い上がる音。

 

「……!」

 

 しのぶが構える。

 

 井戸から。

 

 白い腕が伸びた。

 

 続いて。

 

 鬼が姿を現す。

 

「人間……」

 

 鬼が笑う。

 

「また餌が来たか」

 

 十兵衛は冷静に見る。

 

「一体」

 

「はい」

 

「だが、周囲にも気配がある」

 

「……!」

 

 しのぶが周囲を見る。

 

「別の鬼?」

 

「違う」

 

 十兵衛は即答する。

 

「分身だ」

 

 次の瞬間。

 

 村の家々から。

 

 複数の鬼が姿を現した。

 

「囲まれましたね」

 

「ああ」

 

 しのぶが刀を構える。

 

「どうします?」

 

「作戦を変更する」

 

「はい」

 

 十兵衛は周囲を見る。

 

「しのぶ」

 

「はい」

 

「君は正面を頼む」

 

「正面?」

 

「ああ」

 

「十兵衛さんは?」

 

「裏へ回る」

 

「……」

 

 しのぶが笑う。

 

「なるほど」

 

「何か?」

 

「ちゃんと私を頼ってくれるんですね」

 

「当然だ」

 

 十兵衛は答えた。

 

「君は俺の相棒だからな」

 

「……!」

 

 一瞬。

 

 しのぶの思考が止まった。

 

「……相棒」

 

「そうだ」

 

「……」

 

「どうした?」

 

「いえ」

 

 しのぶは顔を逸らす。

 

「なんでもありません」

 

 その耳は。

 

 少し赤かった。

 

 ◇

 

「来い!」

 

 しのぶが鬼を引きつける。

 

「鬼さん、こちらですよ」

 

 毒を仕込んだ刀が閃く。

 

「蟲の呼吸――蝶ノ舞・戯れ」

 

 高速の突き。

 

「ぐあっ!」

 

 鬼がよろめく。

 

「毒か!」

 

「ええ」

 

 しのぶは微笑む。

 

「私には、あなたの首を斬る必要はありませんから」

 

 一方。

 

 十兵衛は裏手へ回っていた。

 

 複数の鬼。

 

「……」

 

 呼吸を整える。

 

「雷の呼吸――」

 

 紫電。

 

「壱ノ型――霹靂一閃」

 

 瞬間。

 

 鬼の首が飛ぶ。

 

 一体。

 

 二体。

 

 三体。

 

「……残り二体」

 

 その時。

 

「十兵衛さん!」

 

 しのぶの声。

 

「右です!」

 

 十兵衛は振り返る。

 

 巨大な鬼が迫っていた。

 

「……」

 

「死ねぇ!」

 

 鬼の爪。

 

 十兵衛は一歩下がる。

 

 だが。

 

「させません!」

 

 しのぶが間に入る。

 

 刀が閃く。

 

「蝶ノ舞・戯れ!」

 

 鬼の腕へ毒を叩き込む。

 

「ぐおおお!」

 

「十兵衛さん!」

 

「任せろ」

 

 十兵衛が踏み込む。

 

「日の呼吸――伍ノ型」

 

「火車」

 

 鬼の頭上を飛び越える。

 

 背後から。

 

 ――一閃。

 

 首が落ちる。

 

「……終わった」

 

 しのぶが息を吐く。

 

「はい」

 

 十兵衛が頷く。

 

「怪我は?」

 

「ありません」

 

「本当に?」

 

「はい」

 

「……」

 

 十兵衛はしのぶの手を見る。

 

「手が震えている」

 

「え?」

 

 しのぶは自分の手を見る。

 

 僅かに震えていた。

 

「これは……」

 

「疲労だ」

 

「……」

 

「少し休もう」

 

「はい」

 

 ◇

 

 二人は村外れの岩に腰を下ろした。

 

 夜空には月。

 

 静かな風。

 

「十兵衛さん」

 

「なんだ?」

 

「さっき」

 

「うん」

 

「私のことを相棒と言いましたよね?」

 

「ああ」

 

「……」

 

 しのぶは少し迷ってから。

 

「嬉しかったです」

 

「そうか」

 

「はい」

 

 十兵衛は何でもないように頷く。

 

「なら良かった」

 

「……」

 

 しのぶは苦笑する。

 

「本当に、分かっていないんですね」

 

「何が?」

 

「……なんでもありません」

 

 しのぶは月を見る。

 

「でも」

 

 小さく。

 

「私も、あなたの相棒でいたいです」

 

「分かった」

 

 十兵衛は頷く。

 

「これからも頼む」

 

「はい」

 

 しのぶは笑った。

 

 ◇

 

 帰り道。

 

「十兵衛さん」

 

「なんだ?」

 

「帰り道は覚えていますか?」

 

「当然だ」

 

「……本当ですか?」

 

「ああ」

 

「では、先頭をお願いします」

 

「分かった」

 

 十兵衛が歩き出す。

 

 十分後。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 しのぶが静かに尋ねる。

 

「十兵衛さん」

 

「なんだ?」

 

「ここ、来たことがありますよね?」

 

「……」

 

「同じ道を戻っていますよね?」

 

「……」

 

 十兵衛は立ち止まった。

 

「……地形が似ている」

 

「ふふっ」

 

 しのぶは笑う。

 

「やっぱり迷子じゃないですか」

 

「……」

 

「私が案内します」

 

「頼む」

 

「はい」

 

 しのぶが先を歩く。

 

 十兵衛はその後ろについていく。

 

 そして。

 

 ふと。

 

 しのぶが振り返った。

 

「十兵衛さん」

 

「なんだ?」

 

「今日は、とても楽しかったです」

 

「任務が?」

 

「……それもあります」

 

「それ以外は?」

 

「秘密です」

 

「そうか」

 

 十兵衛は深く考えずに頷いた。

 

 しのぶは笑う。

 

「ふふっ……本当に鈍感なんですから」

 

 ◇

 

 蝶屋敷へ戻る。

 

 門の前にはカナエが待っていた。

 

「お帰りなさい」

 

「ただいま戻りました」

 

 しのぶが答える。

 

「二人とも無事で良かったわ」

 

 カナエは二人を見る。

 

「どうだった?」

 

「問題ない」

 

 十兵衛が答える。

 

「しのぶが正面を抑えてくれたから、楽に倒せた」

 

「まあ」

 

 カナエが嬉しそうに妹を見る。

 

「さすがしのぶね」

 

「いえ……」

 

 しのぶは照れる。

 

「十兵衛さんがいたからです」

 

「いや」

 

 十兵衛は首を振る。

 

「しのぶがいたから勝てた」

 

「……」

 

 しのぶが黙る。

 

 カナエは二人を見て。

 

 ふふっと笑った。

 

「二人とも」

 

「はい?」

 

「とても良い相棒ね」

 

「……」

 

「……」

 

 十兵衛は普通に頷く。

 

「ああ」

 

 しのぶは。

 

 少しだけ頬を赤くして。

 

「……はい」

 

 答えた。

 

 その日。

 

 竜牙十兵衛と胡蝶しのぶ。

 

 二人の間に。

 

 確かな絆が生まれた。

 

 それはまだ恋と呼ぶには早い。

 

 けれど。

 

 しのぶにとっては。

 

 確実に。

 

 特別な一歩だった。

 

 ――最強無双の天然軍師。

 

 ――そして、毒を操る美しき蟲柱候補。

 

 二人の「相棒」としての物語が。

 

 ここから始まる。

 

 

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