『赫き日輪と紫電の如く〜最強無双の天然軍師、並行世界を征く〜』   作:夜幻

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第20話 軍師の初陣

 ――蝶屋敷。

 

 その朝。

 

 鎹鴉のけたたましい鳴き声が、屋敷中に響き渡った。

 

「カァーッ! 任務! 緊急任務!」

 

 縁側で朝食を取っていた竜牙十兵衛が、静かに顔を上げる。

 

「……緊急任務か」

 

「はい」

 

 隣にいた胡蝶しのぶも立ち上がる。

 

「どこですか?」

 

「西方! 山間部! 複数の隊士が消息を絶った!」

 

 十兵衛の目が変わる。

 

「複数?」

 

「カァーッ! 三名! さらに村人にも被害あり!」

 

「……」

 

 十兵衛は湯呑みを置いた。

 

 先ほどまでおにぎりを頬張っていた男とは思えないほど、その表情が鋭くなる。

 

「しのぶ」

 

「はい」

 

「準備を」

 

「分かりました」

 

 その様子を見ていた胡蝶カナエが微笑む。

 

「気をつけてね」

 

「ああ」

 

「十兵衛くん」

 

「なんだ?」

 

「今回も、みんなを連れて帰ってきてね」

 

 十兵衛は一瞬だけ黙った。

 

 そして。

 

「任せてくれ」

 

 力強く答えた。

 

 ◇

 

 任務地へ向かう山道。

 

 しのぶが十兵衛の隣を歩いている。

 

「今回、少し様子が変ですね」

 

「ああ」

 

「何がですか?」

 

「被害の出方だ」

 

 十兵衛は周囲を見ながら答える。

 

「隊士三名が消息不明。その後、村人に被害」

 

「鬼が強いということでしょうか?」

 

「それだけではない」

 

「……?」

 

「もし単純に強い鬼なら、最初から村を襲えばいい」

 

 十兵衛は地面を見る。

 

「だが、最初に狙われたのは鬼殺隊士だ」

 

「つまり?」

 

「俺たちの存在を知っている」

 

 しのぶの表情が変わる。

 

「……待ち伏せ?」

 

「可能性が高い」

 

「では、今回の鬼は知能が高い?」

 

「そう考えるべきだ」

 

 十兵衛は足を止める。

 

「しのぶ」

 

「はい」

 

「ここからは警戒を上げる」

 

「分かりました」

 

 ◇

 

 山間の村。

 

 到着すると。

 

 妙な静けさが漂っていた。

 

「誰もいませんね」

 

「ああ」

 

 十兵衛は村を見渡す。

 

 家屋。

 

 井戸。

 

 倉庫。

 

 街道。

 

 そして山。

 

「……」

 

 しのぶが尋ねる。

 

「何か見つかりましたか?」

 

「村人が全員消えたわけじゃない」

 

「え?」

 

「あそこ」

 

 十兵衛が指差す。

 

 屋根の上。

 

 小さな人影。

 

「子供?」

 

「保護する」

 

 二人が近づく。

 

 だが。

 

「来ないで!」

 

 子供が叫んだ。

 

「鬼がいる!」

 

「どこに?」

 

 十兵衛が聞く。

 

「村の中じゃない!」

 

 子供は震えながら答える。

 

「山の中!」

 

 十兵衛の目が鋭くなる。

 

「山か」

 

「うん……」

 

「何人いる?」

 

「分からない」

 

「見たか?」

 

「……いっぱい」

 

 しのぶが心配そうに子供を見る。

 

「大丈夫ですよ」

 

 優しく声をかける。

 

「もう鬼はあなたを傷つけません」

 

 その時。

 

 ――ヒュン。

 

 風を切る音。

 

「伏せろ!」

 

 十兵衛が叫ぶ。

 

 しのぶと子供を抱えて地面へ伏せる。

 

 次の瞬間。

 

 屋根に巨大な爪痕が走った。

 

「……!」

 

 しのぶが息を呑む。

 

「今のは……」

 

「鬼だ」

 

 十兵衛は刀を抜いた。

 

 だが。

 

 敵の姿がない。

 

「……」

 

 十兵衛は周囲を見る。

 

 屋根。

 

 木。

 

 地面。

 

 山。

 

 そして。

 

「なるほど」

 

 呟いた。

 

「どうしました?」

 

「こいつは正面から戦う気がない」

 

 十兵衛は子供をしのぶへ預ける。

 

「村全体が罠だ」

 

 ◇

 

 突然。

 

 地面が崩れた。

 

「きゃっ!」

 

「しのぶ!」

 

 十兵衛が手を伸ばす。

 

 だが。

 

 しのぶの足元が沈む。

 

「これは……!」

 

 地中から無数の腕が伸びてくる。

 

「鬼の血鬼術!」

 

 しのぶが刀を抜く。

 

 十兵衛は即座に判断する。

 

「しのぶ、動くな!」

 

「え?」

 

「そのままだ!」

 

 十兵衛が地面を蹴る。

 

「雷の呼吸――」

 

 紫電。

 

「霹靂一閃!」

 

 ――轟ッ!

 

 地面を覆っていた腕が一瞬で切り裂かれる。

 

 しのぶを抱き上げ。

 

 安全な場所へ着地。

 

「……ありがとうございます」

 

「無事か?」

 

「はい」

 

「ならいい」

 

 しかし。

 

 十兵衛はすぐに周囲を見る。

 

「……」

 

 敵の姿はない。

 

「どうして攻撃してこないんでしょう?」

 

「俺たちを誘導している」

 

「……!」

 

「この村そのものが戦場だ」

 

 十兵衛は地面に指を置く。

 

「敵は地中を移動している」

 

「では、私たちの位置を常に把握している?」

 

「ああ」

 

「どうします?」

 

 十兵衛は答えない。

 

 代わりに。

 

 村全体を見る。

 

 そして。

 

「……三つ」

 

「え?」

 

「敵の攻撃地点」

 

 十兵衛は指を立てる。

 

「第一、ここ」

 

 次に。

 

「第二、あの倉庫」

 

 そして。

 

「第三、村の北側」

 

「なぜ分かるんです?」

 

「敵の攻撃間隔」

 

「……」

 

「地中を移動するなら、速度には限界がある」

 

「つまり?」

 

「俺たちを追い込んでいる」

 

 十兵衛の目が鋭くなる。

 

「なら」

 

 一歩踏み出す。

 

「こちらから追い込む」

 

 ◇

 

「しのぶ」

 

「はい」

 

「村人を集める」

 

「分かりました」

 

「子供を中心に、安全な場所へ」

 

「はい」

 

「俺は鬼を誘導する」

 

「……一人で?」

 

「ああ」

 

 しのぶが心配そうに見る。

 

「危険では?」

 

「問題ない」

 

「でも――」

 

「しのぶ」

 

 十兵衛はしのぶを見る。

 

「君を信頼している」

 

「……」

 

「だから任せる」

 

 しのぶは少しだけ目を見開いた。

 

 そして。

 

「分かりました」

 

 笑った。

 

「任せてください」

 

 ◇

 

 十兵衛が村の中央へ出る。

 

「来い」

 

 静かな声。

 

「俺を狙っているんだろう?」

 

 返事はない。

 

「なら来い」

 

 ――ドン!

 

 地面が爆発した。

 

 鬼の腕。

 

 十兵衛は跳ぶ。

 

「雷の呼吸――」

 

 空中。

 

「弐ノ型――稲魂!」

 

 雷のような連撃。

 

 腕を次々に切断する。

 

「そこだ」

 

 しかし。

 

 鬼は地中へ逃げる。

 

「逃がすか」

 

 十兵衛は追わない。

 

 むしろ。

 

「……」

 

 村の中央へ戻る。

 

「来る」

 

 次の瞬間。

 

 北側。

 

 轟音。

 

「予想通り」

 

 十兵衛が走る。

 

 敵は。

 

 自分から十兵衛の想定地点へ出てきた。

 

「なぜだ……!」

 

 鬼が叫ぶ。

 

「なぜ俺の位置が分かる!」

 

「分かるわけじゃない」

 

 十兵衛は刀を構える。

 

「お前が来る場所を限定した」

 

「……!」

 

「戦場では」

 

 十兵衛の瞳が冷たくなる。

 

「敵を倒すより」

 

 一歩。

 

「敵の選択肢を減らす方が簡単だ」

 

「ぐ……!」

 

 鬼が逃げようとする。

 

 だが。

 

 そこにはしのぶが立っていた。

 

「逃げ道はこちらですよ」

 

「女……!」

 

「蟲の呼吸――蝶ノ舞・戯れ」

 

 毒。

 

「ぐあああ!」

 

 鬼の動きが鈍る。

 

「十兵衛さん!」

 

「ああ!」

 

 十兵衛が踏み込む。

 

「日の呼吸――円舞!」

 

 一閃。

 

 鬼の首が飛ぶ。

 

 ――戦闘終了。

 

 ◇

 

 村人の救出。

 

 負傷した隊士の発見。

 

 そして。

 

 鬼の討伐。

 

 全てが終わった。

 

 村人たちは無事。

 

 消息不明だった隊士三名も、重傷ではあったが生存していた。

 

「……」

 

 しのぶが十兵衛を見る。

 

「全員、生きています」

 

「ああ」

 

「十兵衛さん」

 

「なんだ?」

 

「今回の作戦」

 

「うん」

 

「最初から全部読んでいたんですか?」

 

「全部ではない」

 

「では?」

 

「可能性を一つずつ潰しただけだ」

 

 しのぶは微笑む。

 

「それを普通は『軍略』と言うんですよ」

 

「そうなのか?」

 

「はい」

 

 ◇

 

 帰り道。

 

 夕焼けが山を赤く染めていた。

 

「十兵衛さん」

 

「なんだ?」

 

「今日が、軍師としての初陣だったんじゃありませんか?」

 

「……」

 

 十兵衛は考える。

 

「そうかもしれない」

 

「感想は?」

 

「仲間が全員生きていて良かった」

 

「……」

 

 しのぶは微笑む。

 

「それが、あなたらしいですね」

 

「そうか?」

 

「はい」

 

 十兵衛は夕焼けを見る。

 

「戦術も、武術も」

 

「……」

 

「全部、誰かを生かすために使う」

 

「……」

 

「それが俺の戦い方だ」

 

 しのぶは黙って隣を歩く。

 

 そして。

 

「だったら」

 

「?」

 

「私は、あなたの隣で戦います」

 

 十兵衛が見る。

 

「相棒だからか?」

 

「はい」

 

 しのぶは笑った。

 

「あなたが敵を追い詰める軍師なら」

 

 刀に手を添える。

 

「私は、その作戦を完成させる蝶になります」

 

「……」

 

 十兵衛は頷く。

 

「ああ」

 

 二人は並んで歩く。

 

 雷と蝶。

 

 剣と毒。

 

 そして。

 

 戦況を読み切る軍師と、敵を翻弄する剣士。

 

 この日。

 

 竜牙十兵衛は初めて。

 

 自分の「軍師」としての力を、鬼殺隊のために完全に使った。

 

 それはまだ、小さな一歩。

 

 しかし。

 

 この初陣を境に。

 

 鬼殺隊内部で、ある噂が広がり始める。

 

 ――竜牙十兵衛。

 

 ――彼の指揮する戦場では、死者が出ない。

 

 そして。

 

 その噂こそが。

 

 後に鬼殺隊の運命を大きく変えることになる。

 

 

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