『赫き日輪と紫電の如く〜最強無双の天然軍師、並行世界を征く〜』   作:夜幻

3 / 32
第一章 最終選別編 第1話 竜牙十兵衛、鬼殺隊へ

 ――藤襲山。

 

 鬼殺隊士になるための最終選別が行われる場所。

 

 山を取り囲むように咲き誇る藤の花は、夜の闇の中でも淡い紫色を漂わせていた。

 

 その美しい光景とは裏腹に。

 

 この山には、人を喰らう鬼が閉じ込められている。

 

 七日間。

 

 この山の中で生き残ること。

 

 そして、鬼を倒すこと。

 

 それが最終選別だった。

 

「…………」

 

 山門の前。

 

 一人の青年が静かに立っていた。

 

 燃えるような赤髪。

 

 整いすぎていると言っても過言ではない美貌。

 

 すらりとした長身。

 

 腰には一振りの刀。

 

 その姿だけなら、どこかの名家の若君にも見える。

 

 しかし、その瞳には一切の浮ついたものがなかった。

 

「……藤襲山」

 

 青年――竜牙魁陣は、静かに山を見上げた。

 

 異世界からこの世界へ流れ着いてから、まだそれほど時間は経っていない。

 

 しかし、彼はすでにこの世界の情報をかなり集めていた。

 

 鬼。

 

 鬼殺隊。

 

 鬼舞辻無惨。

 

 そして、鬼を殺すために鍛えられた剣士たち。

 

「なるほど」

 

 魁陣は頷く。

 

「敵は夜間に活動する不死の捕食者」

 

 指を一本立てる。

 

「弱点は日光」

 

 二本目。

 

「通常の刀では再生を許す」

 

 三本目。

 

「頸を斬ることが基本」

 

 そして四本目。

 

「敵には特殊能力――血鬼術がある」

 

 ここまで独り言のように呟くと。

 

「……悪くない」

 

 口元を僅かに上げた。

 

「戦術を組み立てやすい」

 

 普通の人間ならば。

 

 これから始まる命懸けの選別を前に、緊張して当然だ。

 

 だが魁陣は違う。

 

 彼にとって戦場とは。

 

 恐怖する場所ではなく――分析する場所だった。

 

「……君」

 

 背後から声がした。

 

 振り返る。

 

 そこには、面をつけた少年が立っていた。

 

 白い狐面。

 

 腰には刀。

 

 少年は魁陣をじっと見つめている。

 

「随分と落ち着いているな」

 

「そうか?」

 

「ああ」

 

「緊張する必要がないからな」

 

「……強いのか?」

 

 魁陣は少し考えた。

 

「どうだろう」

 

「?」

 

「戦ってみれば分かる」

 

 少年は一瞬黙った。

 

 そして。

 

「俺は錆兎だ」

 

「竜牙魁陣」

 

「竜牙……」

 

 錆兎は魁陣の顔を見た。

 

「その髪、珍しいな」

 

「そうか?」

 

「目立つ」

 

「そうらしい」

 

 魁陣本人には、外見に対する関心がほとんどない。

 

 そのため、自分がどれほど目立っているのかも理解していなかった。

 

「……あなた」

 

 今度は少女の声。

 

 振り返る。

 

 狐面をつけた少女が立っていた。

 

「真菰です」

 

「よろしく」

 

「よろしくお願いします」

 

 真菰は魁陣を見つめる。

 

「……なんだか、不思議な感じがします」

 

「何が?」

 

「あなたのこと」

 

「そうか」

 

「はい」

 

 真菰は小さく笑った。

 

 すると。

 

「それでは、最終選別を始めます」

 

 藤の花の下。

 

 二人の少女が説明を始める。

 

 七日間。

 

 山の中で生き残ること。

 

 鬼を倒すこと。

 

 そして――。

 

「どうか、ご武運を」

 

 参加者たちが山へ入っていく。

 

 魁陣も歩き出した。

 

 その隣には錆兎。

 

 少し後ろには真菰。

 

「竜牙さん」

 

「なんだ?」

 

「どう戦うつもりですか?」

 

 真菰が尋ねる。

 

「まずは敵情視察だ」

 

「敵情視察?」

 

「ああ」

 

 魁陣は山を見渡す。

 

「鬼は人間を狙う。ならば、夜間に活動する際には一定の行動パターンがあるはずだ」

 

「…………」

 

「さらに、藤の花によって鬼の行動範囲が限定されている」

 

 魁陣は地面を見る。

 

「つまり、この山は完全な自然環境ではない。鬼の配置もある程度予測できる」

 

「そこまで……」

 

「だから」

 

 魁陣は足を止めた。

 

「最初の三十分で、この山の地形と鬼の活動範囲を把握する」

 

「三十分で?」

 

「ああ」

 

 錆兎が苦笑する。

 

「無茶を言うな」

 

「そうか?」

 

「普通はそんなことできない」

 

「普通ならな」

 

 魁陣は淡々と答えた。

 

「俺は普通ではないらしい」

 

「自分で言うのか……」

 

 錆兎が呆れる。

 

 真菰はクスクスと笑った。

 

「面白い人ですね」

 

「そうか?」

 

「はい」

 

 その時。

 

 ――ガサッ。

 

 三人の会話が止まる。

 

 森の奥から。

 

 何かが近づいてくる。

 

「……来るぞ」

 

 錆兎が刀に手をかける。

 

「うん」

 

 真菰も構える。

 

 魁陣だけは。

 

 刀に手をかけたまま、冷静に森を見ていた。

 

「一体」

 

「え?」

 

「いや」

 

 魁陣は首を横に振る。

 

「三体だ」

 

「三体!?」

 

 次の瞬間。

 

 木々の間から三匹の鬼が飛び出した。

 

「人間だぁぁぁ!」

 

「喰わせろ!」

 

「血の匂いがするぞ!」

 

 錆兎が踏み込む。

 

「俺が正面を!」

 

「待て」

 

 魁陣が制止した。

 

「右の一体は君」

 

「え?」

 

「真菰は左」

 

「私は?」

 

「中央は俺が取る」

 

 錆兎が笑う。

 

「簡単に言ってくれるな!」

 

「簡単だ」

 

 魁陣は刀を抜いた。

 

 ――シュン。

 

 風が揺れる。

 

「来る」

 

 鬼が飛びかかった。

 

 その瞬間。

 

「雷の呼吸――」

 

 魁陣の身体が沈む。

 

「壱ノ型――」

 

 紫電が走る。

 

「霹靂一閃」

 

 ――ズバァッ!

 

 鬼の首が宙を舞った。

 

「な――」

 

 残る二体が硬直する。

 

「次」

 

 魁陣の姿が消える。

 

 鬼の背後。

 

「弐ノ型――稲魂」

 

 横薙ぎ。

 

 鬼の腕が落ちる。

 

「ぎゃああ!」

 

「再生速度は?」

 

 魁陣は冷静に観察する。

 

「約三秒」

 

 再生を確認。

 

「なるほど」

 

 その瞬間。

 

「竜牙さん!」

 

 真菰の声。

 

 もう一体の鬼が彼女へ襲いかかっていた。

 

 しかし。

 

「大丈夫です」

 

 真菰が身を翻す。

 

 刀が舞う。

 

「――!」

 

 鬼の腕を斬り落とす。

 

 そして。

 

「錆兎!」

 

「任せろ!」

 

 錆兎が鬼の頸を斬った。

 

 鬼が崩れ落ちる。

 

「……やるな」

 

 魁陣が言った。

 

「当然だ」

 

 錆兎が刀を納める。

 

「俺たちは鬼殺隊になるために来たんだからな」

 

 真菰も頷く。

 

「一緒に生き残りましょう」

 

「ああ」

 

 魁陣は二人を見る。

 

「三人ともな」

 

 その言葉に。

 

 錆兎と真菰は笑った。

 

 ――この時。

 

 三人はまだ知らなかった。

 

 この出会いが。

 

 本来なら失われるはずだった二人の運命を変えることを。

 

 ◇

 

 夜。

 

 森の奥。

 

「……妙だ」

 

 魁陣は木の枝に腰掛けていた。

 

 下では錆兎と真菰が休んでいる。

 

「鬼の数が多い」

 

 魁陣は地図を作っていた。

 

「参加者を狙うだけなら、この配置は不自然だ」

 

 鬼が多すぎる。

 

 しかも。

 

 強い鬼がいる。

 

「……誰かが意図的に」

 

 その瞬間。

 

 森の奥から。

 

 ――ドン。

 

 大地が揺れた。

 

「来たか」

 

 魁陣が立ち上がる。

 

「錆兎」

 

「起きてる」

 

「真菰」

 

「はい」

 

 二人も起き上がる。

 

「強い鬼がいる」

 

 魁陣が言った。

 

「かなり強い」

 

 錆兎が刀を握る。

 

「どれくらいだ?」

 

「君たち二人だけなら危険だ」

 

「……!」

 

「だが」

 

 魁陣は刀を抜く。

 

「三人なら問題ない」

 

 森の奥。

 

 巨大な鬼が姿を現した。

 

「人間……!」

 

 その身体は異様に大きい。

 

「喰わせろォォォ!」

 

 錆兎が構える。

 

「行くぞ!」

 

 真菰も続く。

 

 魁陣は二人の前に手を出した。

 

「待て」

 

「?」

 

「この鬼は」

 

 魁陣の瞳が鋭くなる。

 

「俺が倒す」

 

「一人で?」

 

「ああ」

 

「無茶だ!」

 

「いや」

 

 魁陣は笑った。

 

「最適解だ」

 

 鬼が咆哮する。

 

 大地が震える。

 

 そして。

 

 魁陣が一歩踏み出した。

 

「雷の呼吸――」

 

 紫電が刀身を走る。

 

「拾壱ノ型――紫電一閃」

 

 世界が白く染まった。

 

 次の瞬間。

 

 魁陣は鬼の背後に立っていた。

 

「……え?」

 

 錆兎が目を見開く。

 

 鬼の頸に。

 

 一筋の赤い線。

 

「ぐ……」

 

 鬼が膝をつく。

 

「ば、馬鹿な……」

 

 魁陣は刀を振る。

 

 血を払う。

 

「戦場では」

 

 静かに言った。

 

「勝てる相手と正面から戦う必要はない」

 

 鬼が崩れ落ちる。

 

「勝つために必要なのは」

 

 魁陣が二人を見る。

 

「敵より強くなることではない」

 

「…………」

 

「敵が最も弱くなる瞬間を作ることだ」

 

 錆兎は黙って魁陣を見る。

 

「……軍師」

 

「ん?」

 

「お前、本当に剣士なのか?」

 

「剣士でもある」

 

「でも?」

 

「軍師でもある」

 

 真菰が微笑む。

 

「どちらも似合っていますよ」

 

「そうか」

 

 魁陣は頷いた。

 

 そして。

 

 夜空を見上げる。

 

 月が輝いている。

 

「……この世界」

 

 魁陣は呟いた。

 

「変えられそうだな」

 

 その言葉は。

 

 やがて現実になる。

 

 錆兎と真菰の未来。

 

 胡蝶カナエの運命。

 

 胡蝶しのぶの復讐。

 

 鬼殺隊の戦術。

 

 そして。

 

 鬼舞辻無惨の支配。

 

 すべてが。

 

 一人の男によって変わっていく。

 

 竜牙魁陣。

 

 通称――竜牙十兵衛。

 

 最強の武を持ち。

 

 誰よりも冷静に戦場を読み。

 

 それでいて日常では驚くほど天然な天才軍師。

 

 彼が鬼殺隊に入った瞬間。

 

 歴史は。

 

 静かに。

 

 しかし確実に。

 

 書き換わり始めた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。