『赫き日輪と紫電の如く〜最強無双の天然軍師、並行世界を征く〜』   作:夜幻

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第4話 山に響く雷鳴

 ――藤襲山、最終選別三日目。

 

 夜は、さらに深くなっていた。

 

 雲が月を覆い隠し、森の中にはほとんど光がない。

 

 風が吹く。

 

 木々が揺れる。

 

 そして――。

 

 ドォン……。

 

 遠くで、雷鳴が響いた。

 

「……雷?」

 

 錆兎が空を見上げる。

 

「いや」

 

 真菰が首を傾げた。

 

「雲はあるけど、雨は降りそうにないよ」

 

「そうだな」

 

 十兵衛は静かに答えた。

 

「今のは空の雷じゃない」

 

「え?」

 

「鬼の血鬼術だ」

 

 直後。

 

 ――ドゴォォォンッ!!

 

 山全体が震えた。

 

 鳥たちが一斉に飛び立つ。

 

 木々が大きく揺れる。

 

 地面まで振動するほどの轟音。

 

 錆兎が刀を抜いた。

 

「……何だ、今のは」

 

「北西」

 

 十兵衛は即答した。

 

「距離、約一・五里」

 

「そんな遠くまで分かるのか?」

 

「音が大きいからな」

 

 十兵衛は目を細める。

 

「それより問題は――」

 

 もう一度。

 

 ――ドォンッ!!

 

 雷鳴が轟く。

 

 しかし。

 

 今度は先ほどより近い。

 

「移動している」

 

 十兵衛は周囲を見る。

 

「こちらへ向かっている」

 

「鬼が?」

 

「ああ」

 

 真菰が刀を握る。

 

「強い鬼なの?」

 

「恐らく」

 

「どのくらい?」

 

「……少なくとも、今まで遭遇した鬼とは比較にならない」

 

 錆兎の表情が険しくなる。

 

「なら、俺たちも行く」

 

「駄目だ」

 

「なぜ!」

 

「相手の情報が少なすぎる」

 

「だからこそ――」

 

「だからこそ、俺が先に見る」

 

 十兵衛は即座に答えた。

 

「戦場では、敵の能力を知らずに突撃するのが一番危険だ」

 

「……」

 

「君たちはここで待機」

 

「しかし!」

 

「錆兎」

 

 十兵衛が真っ直ぐに見る。

 

「これは命令だ」

 

 その声には。

 

 普段の穏やかさとは違う、軍師としての威圧感があった。

 

「……分かった」

 

 錆兎は渋々頷いた。

 

「真菰も頼む」

 

「うん」

 

「もし俺が戻らなかったら――」

 

「戻ってくるよ」

 

 真菰が遮った。

 

「十兵衛は、絶対に戻ってくる」

 

「……そうか」

 

 十兵衛は少しだけ笑った。

 

「なら、戻ろう」

 

 そして。

 

 大地を蹴る。

 

 ――紫電。

 

 一瞬で、その姿が闇の中へ消えた。

 

 ◇

 

 十兵衛は森を駆け抜ける。

 

 枝を避け。

 

 木の根を飛び越え。

 

 音を立てずに進む。

 

「……妙だ」

 

 途中で足を止める。

 

 木の幹に残された傷。

 

 深い。

 

 爪によるものではない。

 

「打撃痕」

 

 指で触れる。

 

「拳か」

 

 さらに進む。

 

 地面には巨大な足跡。

 

「体重も相当ある」

 

 十兵衛は周囲を見渡す。

 

「血の臭い」

 

 人間のもの。

 

 そして――鬼の臭い。

 

「戦闘があった」

 

 木の向こうから。

 

「う……」

 

 小さな呻き声。

 

 十兵衛は即座に駆け寄った。

 

「大丈夫か?」

 

 倒れていたのは、最終選別の参加者だった。

 

 腕に深い傷。

 

「お、俺は……」

 

「動くな」

 

 十兵衛は傷を見る。

 

「骨には達していない」

 

「鬼が……」

 

「どこへ行った?」

 

「あ、あっち……」

 

 参加者が震える手で指を差す。

 

「雷みたいな音を……」

 

「分かった」

 

 十兵衛は懐から布を取り出す。

 

 傷口を圧迫する。

 

「ここで待て」

 

「でも……」

 

「鬼はもう戻ってこない」

 

「え?」

 

「俺が倒す」

 

 それだけ言って。

 

 十兵衛は立ち上がった。

 

 その瞬間。

 

 ――ドゴォォォンッ!!

 

 至近距離で雷鳴が轟いた。

 

 木々が震える。

 

 十兵衛の髪が風圧で揺れた。

 

「……来たか」

 

 森の奥から。

 

 巨大な影が現れる。

 

「ほう」

 

 低い声。

 

「お前が竜牙十兵衛か」

 

 十兵衛は刀を抜く。

 

「そうだ」

 

「噂は聞いているぞ」

 

 鬼が笑う。

 

「雷のように速い剣士」

 

「そして」

 

 鬼の目が細くなる。

 

「日の呼吸を使う剣士」

 

「……」

 

「珍しいなぁ」

 

 鬼が拳を握る。

 

「喰えば、どれほど力が増すだろうな!」

 

 ――ドンッ!

 

 地面が爆発した。

 

 鬼が突進する。

 

 十兵衛は横へ跳ぶ。

 

 拳が木を直撃する。

 

 ――バキィィン!!

 

 巨木がへし折れた。

 

「威力は高い」

 

 十兵衛は距離を取る。

 

「速度もある」

 

 鬼が振り返る。

 

「だが!」

 

 再び突進。

 

「単純だ」

 

 十兵衛は紙一重でかわす。

 

 拳。

 

 蹴り。

 

 裏拳。

 

 すべてを見切る。

 

「なぜ当たらん!」

 

「攻撃の起点が分かりやすい」

 

「ふざけるな!」

 

 鬼が吠える。

 

 両腕を大きく振り回した。

 

 ――ドゴッ!

 

 木が折れる。

 

 ――バキッ!

 

 地面が砕ける。

 

 だが。

 

 十兵衛には当たらない。

 

「……なるほど」

 

 十兵衛は相手を観察する。

 

「右腕の攻撃後、必ず左足が半歩前に出る」

 

「……!」

 

「左の拳を使った後は、右肩が下がる」

 

「なぜ……!」

 

「癖だ」

 

 十兵衛は淡々と答えた。

 

「戦場では、癖は死因になる」

 

「黙れぇぇぇ!」

 

 鬼が血鬼術を発動する。

 

 ――ゴロゴロゴロ……。

 

 空気が震えた。

 

 鬼の周囲に赤黒い雷が集まり始める。

 

「血鬼術――雷轟!」

 

 ――ドガァァァン!!

 

 雷撃が地面を走る。

 

 十兵衛が跳躍する。

 

 しかし。

 

 雷撃は木々を伝い、追尾するように迫ってくる。

 

「追尾型か」

 

 空中で身体を捻る。

 

「日の呼吸――」

 

 刀が赫く染まる。

 

「肆ノ型――幻日虹」

 

 高速回転。

 

 残像が生まれる。

 

 雷撃が残像を貫く。

 

「そこだ!」

 

 鬼が拳を振り抜く。

 

 ――しかし。

 

「残念」

 

 十兵衛はすでに背後にいた。

 

「幻日虹は、攻撃だけの技じゃない」

 

 鬼が振り返る。

 

「回避にも使える」

 

「な……!」

 

「そして」

 

 十兵衛の構えが変わる。

 

 刀身に紫電が集まる。

 

「雷の呼吸――」

 

 空気が震える。

 

「拾壱ノ型――紫電一閃」

 

 ――バァンッ!!

 

 一筋の紫電。

 

 鬼の懐へ潜り込む。

 

「ぐっ……!」

 

 しかし。

 

 首は斬れなかった。

 

 鬼の首が異常な硬さを持っている。

 

「……!」

 

 十兵衛が目を細める。

 

「硬化能力か」

 

 鬼が笑う。

 

「どうだ!」

 

「なるほど」

 

「俺の首は簡単には斬れんぞ!」

 

「なら」

 

 十兵衛は刀を構え直した。

 

「別の方法を使う」

 

「何?」

 

 十兵衛は一歩下がる。

 

「敵を倒すために、必ずしも首を斬る必要はない」

 

「……何をするつもりだ?」

 

「君の能力を逆手に取る」

 

 十兵衛は地面を見る。

 

 次に。

 

 周囲の木々。

 

 そして。

 

 鬼の足元。

 

「……なるほど」

 

 戦場を一瞬で把握する。

 

 その瞳が。

 

 軍師のものへ変わった。

 

「勝った」

 

「何?」

 

「もうお前の勝ち筋はない」

 

「ふざけるなァァァ!」

 

 鬼が突進する。

 

 十兵衛は逃げる。

 

「逃げるな!」

 

 森の中を駆ける。

 

 鬼が追う。

 

「そこだ!」

 

 十兵衛が急停止。

 

 鬼が拳を振る。

 

 ――ドゴォン!

 

 木が折れる。

 

 その瞬間。

 

 十兵衛は木の根元を蹴った。

 

 倒木が鬼の足へ絡む。

 

「なっ!」

 

「君は力が強すぎる」

 

 十兵衛が跳躍。

 

「だから――」

 

 鬼の腕を利用する。

 

「自分の力で、自分の体勢を崩す」

 

「ぐおおおっ!」

 

 鬼が倒れる。

 

 十兵衛はその背中へ着地した。

 

「終わりだ」

 

「まだだ!」

 

 鬼が起き上がろうとする。

 

「日の呼吸――」

 

 刀身が赫く輝く。

 

「拾壱ノ型――日暈の龍 頭舞い」

 

 龍が舞うように。

 

 連続する斬撃が鬼の身体を切り裂く。

 

「ぐあああああ!」

 

 再生する。

 

 しかし。

 

「……そうだ」

 

 十兵衛が呟く。

 

「それでいい」

 

「何……?」

 

「再生を繰り返せ」

 

 刀を構える。

 

「再生には体力を使う」

 

「……!」

 

「お前が再生するほど、消耗する」

 

「まさか……!」

 

「持久戦に持ち込んだ」

 

 鬼の表情が凍る。

 

「軍師というのはな」

 

 十兵衛の瞳が冷たく輝く。

 

「敵が自分から敗北へ進むよう、道を作るものだ」

 

 そして。

 

 最後の一歩。

 

「雷の呼吸――」

 

 紫電が弾ける。

 

「拾弐ノ型――八雷神大御神」

 

 八方向。

 

 同時に放たれる神速の斬撃。

 

 逃げ場はない。

 

 鬼の身体が切り裂かれる。

 

「ぐ……!」

 

 そして最後に。

 

 十兵衛の刀が首を捉えた。

 

「――終わりだ」

 

 ――ズバァッ!!

 

 首が落ちる。

 

 鬼の身体が崩壊していく。

 

「ば……かな……」

 

「戦術の差だ」

 

 鬼の身体が灰になる。

 

「強さだけでは、戦争には勝てない」

 

 ◇

 

 戦いが終わった。

 

 森には静寂が戻る。

 

 十兵衛は刀を納めた。

 

 そして。

 

「……ん?」

 

 何かに気づく。

 

 足元。

 

「これは……」

 

 鬼が持っていた小さな袋。

 

 中には。

 

 数枚の紙。

 

「……参加者の位置?」

 

 十兵衛の目が鋭くなる。

 

 そこには。

 

 藤襲山の簡易地図。

 

 そして。

 

 いくつもの印。

 

「……誰かが鬼を誘導している?」

 

 この最終選別。

 

 偶然ではない。

 

 何かがおかしい。

 

「調べる必要があるな」

 

 その時。

 

「十兵衛!」

 

 森の向こうから錆兎の声。

 

「無事か!」

 

「ああ」

 

 錆兎と真菰が駆けてくる。

 

「今の雷鳴……」

 

「鬼を一体倒した」

 

「一体って……」

 

 錆兎が周囲を見る。

 

 巨大な木々が折れ。

 

 地面が抉れている。

 

「……一体?」

 

「ああ」

 

「一体でこれか……」

 

 真菰が苦笑する。

 

「十兵衛、本当に凄いね」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

 真菰が頷く。

 

「山全体に聞こえるくらい、大きな音だったもの」

 

 十兵衛は少し考えた。

 

「……目立ったか?」

 

「ものすごく」

 

「そうか」

 

 十兵衛は空を見上げる。

 

「次からは気をつけよう」

 

 錆兎が呆れた。

 

「いや、そこなのか?」

 

「重要だろう」

 

「重要だけど……」

 

 真菰が笑う。

 

「十兵衛らしいね」

 

 その笑顔を見て。

 

 十兵衛も僅かに笑った。

 

 だが。

 

 彼はまだ知らない。

 

 今夜、藤襲山に響き渡った雷鳴が。

 

 最終選別に参加している剣士たちの間で。

 

 ある一つの名前を広めることになるとは。

 

「竜牙十兵衛がいる」

 

「雷のような剣士だ」

 

「紫色の雷が走った」

 

「鬼が、一瞬で消えた」

 

 ――紫電、一閃。

 

 その名は。

 

 夜明けと共に。

 

 鬼殺隊へ伝わっていくことになる。

 

 

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