「君をこのパーティーから追放する」
その日はパーティーリーダーの勇者の一声から始まった。
彼の問いかけに振り返かえった。
バニー服の左肩にベルトで固定された、ショットガンが私の振り返る動作と同時に、カチャリと揺れる。
いつものやつだと感じ、私は反論した。
「後方から射撃してモンスターを射殺してるじゃないですか!こんなの酷いです!」
「君はいつもそうやって、下品な格好をしているじゃ無いか。君のバニー服のせいで冒険者ギルドから注意が来るんだよ?」
淡々と追放宣言をする勇者の銅色の瞳と私の藍色の瞳が交差し、胸がドックンと鳴るがここで解き放ってはいけない。
窓から差し込む朝焼けで、銀髪を照らしながら勇者は踵を返し、寝室の扉のドアノブをがちゃりと回して、廊下に出ていった。
私も置いてかれないように彼の後を追う。
これが私たちの日常だった。
2階から階段で降り、1階に着く。そこは、この宿に併設された酒場だった。
厨房と繋がるカウンター席に、もう一人のパーティーメンバーの聖女が座っていた。
年は十代前半で、ウルフカットの金髪に翡翠色の瞳を持つ。背中に六芒星が装飾が施された白いシスター服を羽織る彼女は、地面に届いていない素足をぶらぶらと遊ばせていた。
勇者が聖女の隣に座り、私が勇者の隣に座った。
聖女が「…ぽ」と、私たちに言った。
私には理解出来ない聖女の問いかけに、勇者はおはようと、言いながらベールの中に手を入れ、優しく頭を撫でた。
私もおはようございますと、勇者越しに挨拶を返す。
聖女は聖協会のマッドサイエンティスト達に色々いじられていて、言語能力の乏しいクズの癖に、私の勇者に好意を抱いているのを知っていた。
既に聖女が注文を済ませて、私たちの前に、固いパンと野菜と肉のコンソメスープが運ばれてきた。他の席の喧騒を聴きながら、私たちは朝食を手短に済ませ、席を立つ。宿から出る際、勇者が宿泊代と朝食代を虚空から取り出して支払った。
王都を出歩く時、私たちは勇者の意向でしきたり通りに一列になって、無言で彼について行く。
「そろそろ依頼が有りそうだし。今日は冒険者ギルドに行こう」
勇者は振り返りもせずに、私たちに道を示した。
そうして街を移動し、冒険者ギルドに辿り着き中に入った。
冒険者達は、私たちから目を逸らす者、興味本意でチラチラ見てくる者、何も気にせずに依頼書が貼られた掲示板を確認する者など、相変わらずここは色んな人が居るなと、思考を巡らせながら進む。
依頼受理カウンターの一番右奥、勇者専用カウンターで私たちは依頼を受けるのだ。
勇者が受付嬢に短く言う。
「勇者パーティー10番、パーティー名アステル」
受付嬢がチラリと後ろの私を見て、言葉を紡いだ。
「バニー服は着せないで下さいって、言いましたよね?」
「一応、毎回注意はしてるよ。それでも本人的にね?」
受付嬢はため息をつく。
その後、依頼書を席の戸棚から漁り勇者に見せた。
「エルドギア山脈から麓までドラゴンが降りてきているので、討伐をしてください」
ドラゴン。
その言葉を聞いて私は、なんとも言えない気分になる。
鱗が硬く、ショットガンが貫通してもすぐに再生する為、二人のサポートしか出来ない。
さらに勇者達の会話は続いていく。
「緊急性はどのくらいかな?」
「それなりに」
「それなりかぁ。ポートは使って良いんだよね?」
勇者が困った様に、笑った。
「使うなら地下の訓練場で使って下さい」
受付嬢は言いながら親指の拇印を押し、勇者に依頼書を手渡した。
そういう事になったので、私たちは地下に向かう事にした。
「勇者ちゃん、うちの子の性能どうかしら?」
地上から23メートル。地下にある訓練場の入り口に差し掛かった時、待ち構えていた聖協会の役員が話しかけてきた。
「まあまあみたいなそんな感じだと思う」
驚く事も無く勇者は答えた。
「ぽ」
聖女が聖協会の役員に何かを言いたげに鳴いた。
「他の子と交換しないわよ。安心しなさい」
そう言って彼女は聖女の頭をベール越しに撫でながら笑う。
「ネフィリムⅢ型の製造に着手しているわ。もし必要なら来なさいな」
聖協会の役員は、聖女の頭から離した手をひらひらさせ、私たちの横を通り過ぎ、エレベーターがある方向に進んで見えなくなる。
勇者に先導され、入り口を進んだ私たちの目に飛び込んだのは一面真っ白だった。
四方100メートル。
白の床と壁に囲まれ、天井から低い音が響くそこは、私たち以外のパーティーは居なかった。
勇者が身をひるがえして言う。
「戦闘準備をしようか」
その言葉を聞き、私たちは戦闘準備を始めた。
聖女はその場でトン、トトンと軽快な足踏みを響かせる。私はその音を聴きながら、肩からショットガンを降ろし、手のひらに生成した魔道印で、2.75インチのスラッグ弾「エレメントタイプΔ」を薬室へ一発、弾倉に七発を直接、詰め込んだ。
「勇者。準備が出来ました」
私が言うと、ぽ!と、聖女も同調した。
勇者は頷いて、手を何も無い空間にかざす。
「ディメンション・ポート」
勇者の前に、黒い波打つ板が出現した。
「それじゃあ、行こう」
後に残ったのは天井の排気口から、プロペラの音がする真っ白な空間だけだった。