鬱百合アニメの推しキャラ皆に幸せになってほしいTS転生百合厨魔法少女 作:丹羽にわか
ガコン、と音を立てて缶コーヒーが落ちてくる。
取り出し口に手を突っ込み、スチール缶の冷たさを感じながら引き抜いて適当な席に腰掛け、プルタブを開けて口をつける。
――ん!? 微糖だこれ! 確かに無糖のボタン押したのに……補充担当間違えたな? まあいいけどさ。
「ナギサ先輩」
「ん?」
後ろから声をかけられ振り返る。
私と同じ支部に所属する魔法少女の一人が、休憩室に入ってくる所だった。その手にはタブレット端末がある。支部の魔法少女で共用しているやつだ。
「第二一支部から、先輩宛ですよ」
「ん、ありがとう。……でもなんで、わざわざ」
どうせこの休憩終われば事務室戻るのに。
そう思いながら尋ねると、端末をこちらに差し出してきたので受け取——れない。おーい、手を放してくれないですかねー?
「――先輩、随分とご執心じゃないですか」
彼女はむっつりとして眉間にシワを寄せながら言う。かわいい。
そしてそれはリリカ達の事だろうか。って……うぇ!? 百合豚バレしてる!?
「……」
いや、どうなんだ、これ? その沈黙はなんでしょうか。
内心ビクビクしながら様子をうかがっていると、彼女は「はぁ……」とため息をついて手を放してくれた。
「また、行くんですか?」
「行くって……何処に?」
「第二一支部ですよ」
「ん。魔力制御訓練がある、ね」
まあ予定ではそうだけど、今日出現した暴霊をキッカケにリリカが魔法少女になることを決めて、その後は魔法少女名決めたりなんだとイベント入ってゴタゴタする筈だからどうだろう。
すると、先に休憩室でお菓子を食べていた別の魔法少女も話に入ってくる。
「宇多パイセン〜、ちゃんと休んでるんすか?」
「問題無い、よ。メディカルチェックもしてる」
「そーいうことじゃなくて〜、あっちに行く時って休暇の時じゃないすか。なのに訓練だとか、緊急の応援出動だって」
んー、でもまあそれが目的だしなあ。
ワーカホリック気味なカナデ先輩の負担を減らすのにはあの人が戦わなくていい状況にするのが一番だし。それに、彼女の場合は私の介入で多少経験値が減っても問題無いくらいには完成された魔法少女だから。そんな子が精神摩耗して現場を離れる原作が如何にヤバいのかが分かるね。
それに。
「疲れない、から」
魔法少女達の百合百合を間近で摂取できてるんだ。疲労なんてそりゃもうブッ飛ぶよ。
「コソコソ――パイセン本当に平気これ?」
「コソコソ――健康状態に問題ないのは間違いないけど」
「コソコソ――いやでも……」
「コソコソ――だから……」
この二人も仲いいなあ。最初は微妙な感じだったけど、よきかなよきかな。
さて、とりあえずあっちからの連絡を確認しないと。
コーヒーを飲みながら顔認証で端末のロックを解除する。パスワードはこのタブレットの納品日だけど。
差出元は……第二一支部の戦務調整担当。
件名は、第二一支部管内で発生した暴霊災害についての簡易報告。
被害状況やらなにやらがずらっと並んでいる。目的の情報はなさそうだ。添付された別シートを開く。
――天音リリカ。
見つけた。
覚醒者用の魔力制御デバイスの稼働ログ――はいいか。警報発令後、避難中に変身し、市民の避難を支援。暴霊を避難経路から誘導。負響の使用は確認されず。その後、第二一支部所属の魔法少女部隊と合流。負傷するも軽微、異常無し。
そして。
『当人より、正式にシスターフッド所属の魔法少女として、登録を希望する旨の申し出有り』
……原作通り、かな。
予定されていた魔力制御訓練とかは日程を見直すらしい。今回この報告書が送られてきたのはその件の関係者だからだろう。まあそれはいい。
ようやくだ。
魔法少女リリカルリリィ誕生……は後日だけど、これでリリカはミオらと同じ戦場へと立つことになる。
原作では疎遠になっていた期間が長かったからか、最終決戦を乗り越えても尚詰め切れない一線があって戦友止まりだったけど、二人の仲が良好な現状、うまく進めばより濃厚に百合百合したリリミオが拝めるかもしれない。
ふぉぉぉぉぉぉ! 高まる! 最っ高にハイって奴だぁぁぁぁ!!
――ふぅ。
さて、続きを読もう。
画面を下へスクロールしていく。
リリカの項目に続いて、今回出動した第二一支部所属の魔法少女たちの簡潔な記録が並んでいた。
シャドウヴェイル、シュネーホワイト、ハニーポップ、この三人に異常は無い。けれど。
『セレスティア:戦闘後、軽度の反応遅延及び情動の鈍化を確認。本人も自覚あり。以降、戦闘から離脱。帰還後、医療部門による再評価を実施。一時的な出動停止措置。再度検査予定』
「……」
思わず、タブレットを握る手に力がこもる。良かった、現場向けの超頑丈なモデルで。
理解はしていた。予測もしていた。カナデ先輩の負担は原作より多少減らせているけれど、所属の違う私にできる介入には限度がある。彼女が魔法少女として活躍してきた6年という期間で積み重ねた負響による影響は大きいだろう。
原作において魔法少女セレスティア——如月カナデは第二一支部の魔法少女たちの実質的指揮官として短期間で出撃を繰り返し、負響の使用を重ね、その精神をすり減らしていった。彼女のパフォーマンスの低下や戦線離脱が、原作におけるさまざまな鬱展開のきっかけの1つだったという推測は簡単にできる。
現状はどうだろう。
出動停止は原作と明確に違う点だ。確か、原作だとしばらく様子を見てから休養を取らせていた。シスターフッドの組織体制自体は原作と変わりないが、対応が迅速な気がする。まあ理由はどうあれいいことだ。
カナデ先輩の状態や言動も原作とは違う。原作では精神摩耗を自覚しながらも、支部の戦力低下を理由に頑なに前線から退こうとしなかった。
この報告書を読む限り、シュネーホワイト——冬代ユキナの進言を受けてではあるものの、彼女はちゃんと撤退している。
原作よりは、良いだろう。
それは間違いない。
でも、無くなったわけじゃない。
カナデの歌は原作と同じく『
彼女の根源にある無力感、そのきっかけまでは、私は変えられなかった。
いや、変えようとしなかった、が正しいだろう。
カナデのオリジンを変えるなんていう、原作を大きく崩すようなことをすれば、その先で何が起こるか分からなかったから。
すべてはリリミオのために。
缶コーヒーを一口飲む。
冷たくて、少しだけ苦く感じる。微糖のはずなのに。
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「では、天音さん。先日お渡しした申請用紙はお持ちですか?」
「はいっ! 書いてきました!」
数日が経ち、東都第二一支部。
リリカが魔法少女としての正式な登録手続きを行うという場に何故か私もいた。
いや、未登録覚醒者向けの制御訓練から正規登録後の基礎教育へ移行するから、そのプランとかについて話し合う必要があって、元々訓練のために今日一日フリーだったから、この日この支部に私が足を運ぶのはおかしなことじゃない。
だけど。
受付で手続きをした時に「皆さんお待ちですよ。行ってあげてください」って言われて案内された部屋にはリリカ達がいた。
なんで?????
いや良い子すぎるやろこの子達。部外者な私を態々待っててくれるだなんて。
目の前の机にはリリカが座り、対面にはシスターフッドの女性職員が座る。リリカの背後の壁沿いに置かれたスツールにはミオ、ヒナ、ユキナが腰掛けている。
カナデ先輩は追加の検査とかで不在だ。原作だと検査でこの場に居なかったのは同じだけど、その後の負響訓練には同席していた。叶うことなら彼女にはこのまま暫くゆっくり休んでほしい所だけど、そうなるとこの支部の戦力はかなり低下するからどうだろう。どこかから魔法少女を応援に呼ぶ……カナデ先輩の抜けた穴を埋められるような魔法少女はそうそういないからなあ。
そんな事を考えていると、リリカがスクールバッグから取り出し差し出した申請用紙を確認した職員が笑顔で頷く。
「登録名は……こちらで宜しいですか?」
「はいっ! 《リリカルリリィ》で!」
――うっ! ……ふぅ。
危ない危ない。心臓とまるかと思った。
リリミオは抜きにしてもリリマジファン冥利に尽きる。魔法少女リリカルリリィ。その誕生の瞬間に立ち会えるだなんて。
ああ、走馬灯のように前世の記憶が流れていく。
最初はSNSで流れてきた1ページ漫画だった。リリカがミオに背伸びをして口付けをし、はにかむシーン。ミオはキョトンとした後に顔を真っ赤にして、抱き着いてきたリリカに勢い余って押し倒されベッドへ――。
その作者のほかのイラストとかを漁る日々だった。リリマジという作品を知らなかったから、結構な期間、その人のオリジナル作品だと思ってたっけ。
リリマジという作品だというのを知った後も、原作アニメを観るまではwikiとかを見ないというポリシーのまま生きてきた。そして配信されたアニメを観て、死んだ。
ようやく。ようやくだ。
「リリカルリリィ……うん! いい名前!」
ヒナが立ち上がるとリリカの傍にとてとてと駆け寄る。
「それ、由来とかあるの?」
「勿論!」
リリカは自信満々に胸を張る。
「わたし、昔から魔法少女が好きでね? だからもし自分が魔法少女になったらどんな名前にするかとか、使う必殺技とか色々考えてたの」
「あ! それってこないだ使ってたビーム?」
「そう! リリカルシャインブラスター! かっこいいでしょ!」
「うん!」
「だから、それとわたしのリリカを合わせて《リリカルリリィ》なんだ!」
「わぁ〜いいね!」
「そういえばヒナちゃんは?」
「ヒナの?」
「《ハニーポップ》だっけ? どうやって決めたの?」
「ポップコーンが好きなんだー。ハチミツ味の!」
「……え、それだけ?」
「それだけ! でも、ハニーポップコーンでお願いしたのにコーンは取られちゃった……」
「すみません。こちらとしても登録名はなるべくそのまま受理したいのですが、ハニーポップコーンだと少々呼びにくく……」
「あっ、へーきへーき! 《ハニーポップ》も可愛くて好きだし! 言いやすいし!」
なんかあの空間だけ雰囲気がニチアサだなぁ。でも可愛いから良し。
この場合はリリヒナ……いやヒナリリだな。無知で無垢なヒナが芽生えたばかりの感情に振り回されながら息を荒げてリリカを貪るあの作品は良かった。
「リリカルリリィ……彼女らしい可愛いしくて素敵な名前ですね」
「そうだね」
優しげな視線を2人に向けながらユキナは言う。
「マキナさん……いえ、ナギサさんとお呼びしても?」
「ん、いいよ」
なんだろ。
ユキナって、大体ヒナのお世話をしてるからかママ味があるんだよね。カナデが近所のお姉さんならユキナは若奥様って感じ。歳はカナデのほうがいくつか上なんだけど。
「改めて、ありがとうございます」
「……なにが?」
「色々です。度重なる応援出動に、訓練への協力……。カナデ先輩も感謝していました。私も同じ気持ちです」
「……別に、いい。私の勝手だから」
リリミオの為、原作の鬱展開を防ぐ為。そんな自分勝手な理由でやってる事だからね。感謝なんてされる資格無いよ、私なんて。
「それでも、です。私達は、貴女に助けられてますから」
うーん、いい子。こんな子が最後は歩けなくなるとかやっぱり原作は許せないよなあ。
「――では、天音さん。こちらがシスターフッドの登録証になります。名前や顔写真が入っているので取り扱いにはご注意ください。それと、こちらがセキュリティ用の認証カードですね。こちらはストラップで首から下げるなどして使ってください」
「わ、わかりました! うわぁ、なんだか大人っぽい!」
「お願いだから失くしたりしないでよ、リリカ」
「大丈夫だよ! たぶん!」
「……そ。なら、いいけど」
うんうん。リリミオもいい感じだ。寿命伸びる気がする。
原作だとミオは壁に寄りかかって我関せずって感じだったからなあ。まあ、それでも同席はしていたあたり、ミオからリリカへの思いってのは変わらず有ったことが窺えてとても尊いんだけど。
「あ、宇多さん。今後の日程などについて支部長からお話があるそうなので、一緒に来ていただいても宜しいですか?」
あー、仕事の時間だー。もっと百合を眺めてたいけど、その百合のためだから仕方ないにゃあ……いいよ。
「ん、了解」
部屋を出ていく職員の後についていく。
すると、とたとたとリリカが駆け寄ってきた。
「マ——ナギサさん!」
ん?
んん??
今、私の名前を呼んだ? 推しが? リリカが??
は?
死ぬのか???? 死ぬぞ????
「魔法少女リリカルリリィ、天音リリカです! これからよろしくおねがいします!」
「……ん、よろしく」
あー……。
もうなにも怖くない。
︙
︙
「宇多ナギサ、魔法少女サンレンスマキナ。あなたには、うちの如月が復帰するまでここ第二一支部で動いてもらいたい」
ファッ!!!!!!??????
明日も朝7時03分投稿です。
感想評価お気に入りしおりここすきなどなど宜しくニキー
Twitter(現X)で読了報告とかしてくれてもいいのよ
一応カクヨムで先行投稿してます。垢持ってる人はそっちも応援宜しくです。
https://kakuyomu.jp/works/2912051606795487729