鬱百合アニメの推しキャラ皆に幸せになってほしいTS転生百合厨魔法少女   作:丹羽にわか

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第11話 その痛みの理由(前編)

 

『リリカルリリィ、接敵まであと30秒』

「ひ、避難はどうなってますか!?」

『戦闘予想エリア一帯の避難は完了しています』

「終わってるんですね……! ……よ、よーし!」

『今回、攻撃範囲の大きい技は使用が制限されています。注意してくださいね』

「は、はいっ!」

 

 

 むんっ、とリリカは気合を入れる。

 場所は片側二車線の大通りだ。左右にはビルや街路樹、街灯などが立ち並んでいる。昼間だというのに人通りは無く閑散としていて、道路には乗り捨てられた車両が疎らに停まっていた。その奇妙な静寂に背筋が粟立つような感覚がする。

 

 

『接敵まで20秒』

 

 

 レゾナンスギアを握る手が震えている。武者震いとは言えない。恐怖に緊張。汗ばむ手のひら。柄を握り直す。

 訓練はしてきた。負響の扱いも、戦い方も教わった。あの時のような、ただ逃げるだけしか出来ないなんて事は無い。

 

 

『10秒』

 

 

 天音リリカ――魔法少女リリカルリリィは暴霊を倒せるのだと。今日、証明する。

 

 でも。

 

 

「――っ……はぁ……」

 

 

(怖い)

 

 暴霊は倒せる存在になった、筈だ。けれど、だからといってこの恐怖はアッサリと消えるものではない。

 

 

『接近中。正面です。5、4、3――』

 

 

 どん、どん、どん、と何かを叩くような音が連続して響き、それが近付いていくる。

 

 

(来る――)

 

『――コンタクト』

 

 

 交差点の向こう。放棄された大型トラックを弾き飛ばしながらそれは現れた。

 太く丸々とした胴体に短い四肢がアスファルトを踏みしめている。大きさは中型トラックくらい。イノシシのような、サイのような、そんなずんぐりとしたシルエットの黒い影。

 

 

「――っ!!」

 

 

 息を呑む。

 暴霊。推定カテゴリーはⅡ。一般的な魔法少女ならば問題なく倒せる相手。ナギサやカナデなどの強者ならば複数体が相手でも危なげなく単独で対処出来るだろう。

 

 なら、自分は?

 

 無線の向こう、オペレーターは攻撃範囲の大きな技は制限されると言っていた。となると必殺技であるリリカルシャインブラスターは使えない。危機的状況ならば話は変わるが、カテゴリーⅢであっても致命打になりうると評されたそれを初手ブッパして辺りを瓦礫の山にすると後で相当怒られるのは容易に想像できる。

 

 つまり、真正面からあの暴霊と戦わなければならない。

 

 

(恐い)

 

 

 初めては無我夢中だった。

 二度目は我武者羅だった。

 

 今回は違う。

 

 魔法少女として暴霊と戦うのだと覚悟し、準備した上でここに立っている。筈だった。

 

 暴霊は自分よりも遥かに大きい。それにあの姿。突進を食らえばひとたまりもないだろう。

 

 足が竦む。喉が渇く。

 怖くてたまらない。

 

 

(――だけど)

 

 

 リリカはレゾナンスギアの柄を強く握り、構える。

 

 

「ここで逃げる方が、もっと、ずっと、怖い!」

 

 

 歌う。

 明日への希望やまだ見ぬ未来への歌ではない。見て見ぬ振りをしたら。置いていってしまったら。間に合わなかったら。届かなかったら。

 誰かが傷つき、いなくなったら。

 

 リリカの根底にある感情が歌によって高まり、それは暴霊という存在への恐怖心を上回る。

 消えたわけではない。ただ、それ以上に目の前の暴霊を置いて逃げたとして、それで誰かが傷つく事のほうが遥かに怖いだけ。

 

 

「わたしは――」

 

 

 彼女が発する桃色の光が高まり、その中に黒い揺らぎが混じる。

 負響。魔法少女の負の感情に由来する魔力。

 暴霊はリリカめがけてまっすぐ突っ込んでくる。

 リリカはまっすぐに暴霊を見据え、叫ぶ。

 

 

「――魔法少女、リリカルリリィなんだ!!」

 

 

 リリカは地面を蹴った。

 前――ではない。上へ。

 軽々とビルの2階程度の高さまで跳び上がると、その下を暴霊は猛スピードで通過し無防備な後ろ姿を晒す。

 くるりと空中で身を翻しながらリリカはレゾナンスギアのマイクを模した先端を暴霊に向けた。そこに魔力が集中しバレーボール大の球体になる。

 

 

「当たって!」

 

 

 着地と同時に魔力球を連続で放つ。ビームより弾速は遅いが緩やかにホーミングするそれは振り向こうとした暴霊とその周囲に次々着弾、爆発を起こし、砂煙に覆われる。

 

 

「――っ! はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

 無意識に呼吸を止めていたらしい。リリカは思い出したように肩を上下させ荒い息をする。

 暴霊の動きに反応出来た。身体は動いた。魔法も使えた。

 自分は、戦える。

 グッ、と片方の拳を握りしめ、頷く。 

 

 

「よっし! これなら……!」

『リリカルリリィ、敵性反応健在です』

「は、はいっ!」

 

 

 オペレーターの言う通り、暴霊は低い唸り声を上げながら土煙を振り払って現れた。けれど、その様子は最初とは異なっていた。

 リリカの攻撃は有効だったのだろう。その輪郭が僅かに崩れ、漏れ出た黒い靄が空気中に溶けるように消えていく。

 

 

「効いてる、んだよね……?」

『はい。ですが、多少の損傷は時間経過で回復します』

「そうだった!」

 

 

 リリカは杖を構え魔力弾を撃ち出すが、暴霊はそれに構わず突進してくる。

 

 

(さっきと――!)

 

 

 同じ動きだ。そう判断しリリカは先ほどと同様に跳び上がった。

 杖の先には魔力弾を生成し、いつでも発射できるように暴霊を見据え――。

 

 拳が迫っていた。

 

 

「――え?」

 

 

 腹部を衝撃が貫く。

 

 

「――がっ、はぁッ!?」

 

 

 スパイクされたバレーボールのようにリリカは弾き飛ばされ大通りを転がった。ろくな受け身を取ることもできず、アスファルトの上を何度かバウンドし停まっていた車に激突。半ばめり込むようにしてようやく止まる。

 

 衝撃で作動したらしい、車から喧しく響くアラームの音がどうにかリリカの意識を繋ぎ止めていた。

 

 

(なに、が……)

 

 

 視界が滲み、揺らいでいる。

 

 

(そ、うだ……暴霊……)

 

 

 攻撃を受けた。突進は回避したはずなのに。

 

 

(ちがう……立た、なきゃ)

 

 

 全身に痛みが走る。息ができない。力も入らない。

 

 

『リリカルリリィ、バイタル危険域。暴霊が接近しています』

 

 

 オペレーターは淡々と状況を伝えてくる。

 リリカはそれに何事か応えようとして。

 

 ずぶり。

 

 

「ぁ……」

 

 

 身体を何かが貫く。

 腕だ。暴霊の背中から生えた2本の腕。その片方が貫手の形でリリカの腹と車体を縫い付けている。

 

 

(――なに、それ)

 

 

 その思考を最後に、リリカの意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

『――リリカルリリィ、戦闘継続不能』

 

 

 無機質な声が響く。

 

 

『模擬戦闘プログラムを終了します。お疲れ様でした』

 

 

 暗闇に光が差した。

 目を開ける。

 暴霊も、街並みもそこにはなく、視界を埋め尽くすのは見慣れない白い天井だった。

 

 

「――っは!? …………え?」

 

 

 天音リリカ――魔法少女リリカルリリィ。

 

 都市部における対暴霊戦闘シミュレーション。

 

 行動判定――Dマイナス。

 

 想定損傷――全身挫傷及び腹部への外傷。出血性ショックにより行動不能。

 

 結果。

 

 敗北。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「……あ、あれ?」

 

 

 目覚めたリリカは身体を起こすと、まず薄手のトレーニングウェアの裾をめくって自分の腹部を確認した。白い肌をペタペタ触るとほんのり熱を感じ、指先で撫でると少しくすぐったい。

 貫手で空いた穴はもちろん、傷一つそこには無かった。

 

 

「お腹ある、よね……」

「――ウッ……コホン……天音、さん」

「わっひゃい!?」

 

 

 横からかけられた声にリリカの肩が跳ね、慌ててシャツの裾を戻す。

 上体をひねって声がした方向を向くと、タブレット端末を手にした宇多ナギサが、手元に視線を落とし何らかの操作をしながら口を開いた。

 

 

「……シミュレーションは終わった。気分はどう? 身体は? 痛みや吐き気、違和感とか、ある?」

「シミュ…………あっ!」

 

 

 リリカは思い出した。

 今まで自分が何をしていたのか。

 

 戦闘シミュレータ。

 見た目は病院にあるMRIのような装置だ。

 電子機器を使いVR空間で行うようなモノとは違う。古い時代からシスターフッドに伝わる魔法技術を利用し、人工的に作られた空間に使用者の精神体を投射し、まるで現実のような体験を可能にしている。

 現在はコンピュータ制御などを取り入れ、フィールドの種類や暴霊の形態にカテゴリ、使用者のコンディションなどを細かく設定し、様々なシチュエーションで訓練を行えるようになっているのだとか。

 

 そう、説明を受けた。

 

 

「……シミュレーション」

 

 

 服の上から腹に触れる。

 暴霊の腕に貫かれた感覚が残っている。

 焼けるような痛みも、溢れ出る熱も、不快な異物感も。何もかも。

 

 

「…………」

 

 

 思い出すと勝手に涙が滲んできた。

 

 

「アッエッ……ど、どうした、の? どこか、痛む……?」

「そりゃ痛かったですよぉ……お腹、ぶっすり刺されたんですから」

「そ、そう……? 痛覚フィードバック、新人向けに20パーセントだった、けど」

「にじゅぅっ!?」

 

 

 驚きに大きく目が見開かれる。

 

 

「あれで!? あれが!? にじゅう!?」

「ん」

「もしホントにお腹に穴が空いたらこの5倍!?」

「ううん。単純比較は難しい、かな」

「あ、やっぱり――」

「あくまでシミュレーション、魔法で再現してるだけ。現実より劣るのは仕方ない」

「そ、そうなんですね……って安心できる要素無いですよぉ」

 

 

 リリカは項垂れた。

 先程の恐怖も、痛みも、彼女にとっては本物だった。それこそ、目覚めてすぐは現実と混同してしまうほどに。

 それでも、本物の痛みと比べればずっと弱いのだという。

 

 

「大丈夫。そういうことにならない為の訓練。それに、天音さんは筋が良い、よ」

「……Dマイナスなのに?」

 

 

 少しいじけた風に言うと、ナギサは首を横に振る。

 

 

「それは死亡判定だったから。でも、要所要所の評価は高い方」

「そう、なんですか?」

「避難状況の確認。負響の使用。攻撃手段の選択。その辺りはちゃんと出来てた。初戦闘でこれはだいぶ優秀」

「そ、そうですか〜、えへへ」

「問題はその後」

「うっ」

「一度目の回避は良い。でも二度目、同じ選択をした。暴霊も学習する。空中での移動手段、まだ無い筈。それに、攻撃に意識が向いて、相手から注意がそれた。暴霊は普通の生物とは違う。姿を変えるのは、稀に良くある」

「うぅ……」

「……まあ、初回だから、そんなもの。気落ちせず、気軽に挑んで失敗して、強くなって。死にはしないから」

「き、気軽にはちょっと……でも、やってみます」

 

 

 リリカの答えにナギサは頷く。

 

 

「私は報告書とかまとめるから、休んでていい。この時間なら、黒瀬さん達は休憩室、かな」

「わ、わかりました! ありがとうございます!」

 

 

 ナギサは部屋を出ていった。ほかの職員達が慌ただしく動く中、リリカも荷物を持って扉をくぐる。

 

 

 

 

 そして、休憩室。

 

 

「ダメだったぁ〜〜〜」

 

 

 まだ硬さの残るシスターフッドの制服に着替えたリリカはテーブルに突っ伏し、手足をバタバタさせながら呻いた。

 

 

「あははコテンパンにされてたね〜」

「ヒナちゃん〜」

「でもあの暴霊、ヒナも最初に戦ったけど勝ったよ!」

「自慢!? このぉ〜」

「みゃー!?」

 

 

 ヒナのほっぺをもちもち引っ張るリリカ。そんな彼女の背後に近づくのは結露し水滴のついたお茶のペットボトルを手にしたミオ。

 

 

「サイレンスマキナから言われたと思うけど、二度目の回避が敗因ね」

「うひぃっ!?」

 

 

 うなじにペットボトルを当てられリリカは悲鳴を上げる。

 

 

「ちょっと! ミオちゃんっ!」

「それ飲んで落ち着きなさい。ヒナ。貴女もからかうのはほどほどに」

「はぁーい」

「なんか納得いかない……」

 

 

 リリカは頬を膨らませながらペットボトルを受け取った。

 

 

「納得いかないといえば、あの腕! あれ! いつ生えたの? 全然気付かなかったんだけど」

「貴女が跳んでる時よ。魔力弾にばかり意識が向いてたでしょ」

「ナギサさんもそう言ってたけど、ちゃんと見てたと思うんだけどなあ」

「気になるならログを確認しますか?」

「ログ?」

 

 

 ユキナの言葉にリリカが首をかしげる。

 

 

「シミュレータの戦闘記録が残っているはずです。あれは魔法による仮想空間内で構築されていますが、映像もありますよ」

「見れるんですか!?」

「はい。ここの共用端末からでも」

 

 

 ユキナがテーブルの端の充電スタンドからタブレット端末を引き抜く。

 

 

「ログは研究資料や教材としてサーバーに残してあるんです。非公開指定や閲覧制限がなければ、シスターフッドの所属なら閲覧可能ですよ」

「眺めてるとけっこう面白いんだー。暇なときとかよく見てるよ!」

「そんな動画サイトみたいな」

 

 

 そんなやり取りの間に、端末を操作していたユキナが「これですね」と言ってテーブルに端末を置いた。

 

 訓練者:リリカルリリィ

 行動判定:D−

 戦闘時間:2分14秒

 被弾:2回

 戦闘結果:訓練者の致命判定により戦闘終了。暴霊討伐出来ず。

 

 

「実際に数字にされると凹むなあ……ん……? これみんな見れるんだよね?」

「まあ、大体は」

「すっっっごく恥ずかしいんだけど! わたしボコボコにされてるんだけど!」

「――ほらリリカ。ここよ、ここ。貴女が跳んだ時点で腕が生え始めてる。見てはいても、意識が向いてないわね」

「無視しないでよぉ!」

「新人かつ無名の魔法少女の記録ですから、そんな注目はされないと思いますよ」

「それはそれで少し気になる……」

「あはは……」

 

 

 そこからリリカの映像記録を見ながらあーだこーだと話す4人だったが、ふとリリカが思い立つ。

 

 

「そうだ、ナギサさん! ナギサさんの記録って無いかな」

「サイレンスマキナ? こういうのもアレだけど、貴女と比べたら月とすっぽんよ」

「だって、あの人がどう戦うのか気になるし」

「……ヒナの事言えないじゃない」

「うっ……ミオちゃんはどうなの」

「資料として時々見てるわよ。戦い方は違うけれど、戦術の組み立てとか参考になるもの」

「えっ」

「かなりの量があるから全部は見れてないけれど。それに、このページってサムネイル無いし、UIも検索性も微妙なのよね」

 

 

 ミオはそう言いながら慣れた手つきで端末を操作する。

 

 行動判定:S、S、A+、A、A+、S――。

 

 

「うわぁいっぱいだぁ」

「良くわかんないけど凄そう」

「建築物や市民への被害は最小限かつ、迅速な討伐を行っているって事よ。このシチュエーションだと、避難する市民を護衛しながらの戦闘もしてるわね」

「わたし、自分の身も守れてない……」

「だから言ったでしょ」

 

 

 ずらっと並ぶログをスクロールしていくリリカ達。

 

 

 行動判定:D−

 

 

「……え?」

「リリカ?」

「待ってこれ、ナギサさん、負けてる」

「! ほんとうね……記録は、ついこの間みたい」

「へぇ~、どんな感じだろ」

「あっ、ヒナちゃん」

 

 

 ヒナが画面をタップすると、ログの詳細画面がひらいた。

 

 

 

 

 戦闘時間:15分6秒

 被弾:17回

 戦闘結果:訓練者の致命判定により戦闘終了。暴霊討伐出来ず。

 限定条件:右上肢使用不能 重傷状態 魔力残量低下 痛覚フィードバック許可上限

 

 

 

 

「……なに、これ」

 

 

 




明日も朝7時03分投稿です。
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