鬱百合アニメの推しキャラ皆に幸せになってほしいTS転生百合厨魔法少女 作:丹羽にわか
百合に挟まった罪は清算しなければならない。
適当な指をポキャっとするなり爪をベリッと行くのが手っ取り早いけども私は魔法少女。それでパフォーマンスに影響が出て、戦場で無様を晒し、他の魔法少女や市民が傷付き犠牲になるような事があっては本末転倒だ。
>>痛覚フィードバック許可上限
>>申請しますか? いいえ/はい
シミュレーターのコンソールを操作して『はい』を選ぶと、少しして内蔵スピーカーからブツッと音がした。
『——宇多さーん、またシミュレータですか?』
馴染みのある医療スタッフの声だ。
「ん。承認お願い」
『はいはい少しお待ちを。資格確認、有効期限問題無し。バイタル諸々も大丈夫。直近の戦闘データも……はい、オーケーです』
>>承認されました
『じゃ、お気を付けて〜』
「ありがとう」
さて、追加の限定条件は——これくらいでいいか。
限定条件
>>右上肢使用不能
>>重傷状態
>>魔力残量低下
確定ボタンを押して、シミュレータの寝台へと横になった。
「宇多さん、本当にこの条件で……?」
立ち会いの職員が端末を見ながら訊ねてくる。
新しく入ってきた新人の子だ。確か、元魔法少女で引退後に内勤スタッフとして再雇用された感じの。なのにいきなり夜勤かあ。大変ね(しみじみ)。
「万全じゃない状況だってあるかも、だから」
「でも痛覚だって」
「今回は、現実に近くないと意味が無い、よ」
まあ痛くないとペナルティにならないからなんだけど。シミュレータってのは後遺症とか無しに出来るからいいよね。
「……ダメそうなら中止、しますからね」
「ん。その時はお願いね」
職員ちゃんがベルトを私の身体に巻いてカチャカチャと金具で固定していく。シミュレータ終わった後に肉体がどんな反応するか分からないからね。
流石の私もこの条件でやるのは初めてだからなあ。大体は痛覚フィードバック最大で、シチュエーションを防衛戦にして攻撃を受けるくらいだったんだけど。
でも、リリカたちの間に挟まったりミオやカナデの出番奪ったりと、赦されざる行いが短期間で積み重なってしまったからね、仕方ない。
さあ、清算の時だ。
……流石にちょっとこわ――。
『模擬戦闘を開始します』
――あっ。
――――――――――――――――――――
半ば廃墟と化した市街地。交差点の中央に一人の魔法少女が立っていた。
『サイレンスマキナ、バイタル危険域です』
無機質な声が響く。
魔法少女サイレンスマキナ――ナギサはそれに答えず血で顔に貼り付いた銀髪を煩わしそうに左手で払った。普段は人形のように怜悧な美貌が今は煤と汗と血に汚れ、浅く呼吸する度に結んだ唇が微かに震えている。
「……避難、状況は」
『81パーセント。退避完了まで推定7分』
彼女の右腕は肩より先が力なく垂れ下がっていた。指輪型レゾナンスギアの嵌まる指先はぴくりとも動かない。軍装めいた魔法少女衣装もいくつかの掠めたような傷と、赤黒い染みが広がっている。
満身創痍といった様子の彼女の前に、それは現れた。
キチ、キチ、キチ。
瓦礫の向こう、そこかしこから硬質なものをこすり合わせるような耳障りな音が響いている。
崩れた民家の屋根の上。横転した大型トラックの影。アパートの外壁を這うように。
黒い甲殻に覆われた巨大な異形が複数、姿を表す。
それは甲虫に似ていた。
大きさは乗用車ほど。人間の胴体と太さに大差ない扁平な身体。ところどころ棘の生えた六本の脚は長く、先端は鉄板すら容易く食い込む鋭利な鉤爪が備わっている。頭部の大顎は小さな頭に対して不釣り合いなほどに巨大で、開閉するたびに軋むような音を鳴らしている。
カテゴリーⅢ。複数体で同時に発生し行動をともにする群体型の暴霊だ。
残りは三体。最初は一〇体以上いたのを、ナギサはここまで減らした。
そのうちの一体が地面を蹴——れなかった。
ぎちり。
ナギサが予め放っていた魔力糸にその銅や脚を絡め取られ拘束される。
ぐい、と左手を引いた。糸がより大きな音を立てて締め付けるが、硬い外殻を滑り微かな傷を残すだけ。
ならばと脚の細い関節を狙うも、表面の棘に阻まれうまく糸がかからない。
「——やっぱり厄介だ、ね。虫型は」
そう呟くナギサに焦りはない。
「なら、こう」
くい、と指が曲がる。糸が一斉に張り詰め、拘束されていた暴霊は猛スピードで振り回され別の暴霊に直撃する。
交通事故のような音がした。だが、砂煙の向こうで二体ともゆっくりと起き上がる。その甲殻には傷こそあれ消滅はしない。
「崩れた……糸が、足りない」
ナギサの糸は周辺の建築物などを支点にして敵を絡め取る代物だ。そして右手が使えない現状、彼女の操れる糸の数は半減する。
そうなると支点と成る電柱などへの負荷は大きくなる。結果として、振り回す途中で折れたり崩れたりして勢いが緩んでしまった。
それでも、精密操作で暴霊の首に糸をかけ切断したり、振り回して腹部から標識に突き刺しそこから負響を流し込んだりと着実に数を減らしてきた。
だが、避難区域である街の中心部を離れるほどに支点となるモノ自体が減り、疲労から糸の操作にも粗が目立つ。
『避難率85パーセント』
他の個体が迫ってくる。
瓦礫の中から絡め取った鉄筋の突き出たコンクリート片をぶん回して先頭にぶつける。運良く頭部の脆い部分に鉄筋が突き刺さったのか暴霊は「ギィィ!」と悲鳴のような音を出す。
後続がジャンプして呻く個体を飛び越え迫る。
その後ろ脚に糸をかけようとして、痛みで一瞬動きが止まる。
力の入りきらない足を動かしてステップを踏んで避けようとするが、その動きは精彩を欠いていた。
避けきれない。
大顎が右腕をかすめた。
「——ぁ゛っ゛……!」
右上腕が大きく抉れ、鮮血が溢れる。
痛みにナギサの視界が一瞬白く染まった。だが、意識は飛ばさない。
暴霊の後ろ脚に糸を絡みつけ、引いた。
勢いそのままにナギサを押しつぶそうとしていた暴霊は弾かれるように後ろに跳び、後続を巻き込みながらトラックに激突、爆発炎上する。
「――っ、はぁ、はぁ……」
ナギサはその場に片膝をつきながら荒く息をする。暴霊は仕留めきれていない。だが、重傷の彼女が力尽きるのを待っているのか遠巻きにしている。
『被弾十二、損傷拡大。避難率91パーセント』
「——まだだ」
立ち上がる。
膝が震え、視界も揺れている。
それでもなお、ナギサは左手を振るう。
路上に放置された自転車。折れた道路標識。コンクリートブロック。それらが加速し、暴霊にぶつかる。
どれも堅牢な甲殻に阻まれた。そもそも、負響を纏わせてないのだから有効打になることはない。
けれど、気を引くことは出来る。
一秒、また一秒。時間を稼げば、それだけ避難は進む。
ナギサが暴霊をひきつけ後退すれば、避難区域から引き離すことが出来る。
『避難率96パーセント』
暴霊の脚先が迫る。身をよじって躱そうとするが、遅れてついてきた右腕が引っかかる。
子供に振り回される人形のようにナギサは宙を舞う。
「ぁ——ッ!!」
ぶちり、と。鉤爪で更に切り裂かれ薄皮一枚繋がっているような有様だった右腕が遠心力で千切れ、ナギサは吹き飛ばされた。
アスファルトの上をバウンドし、太い街路樹の幹にぶつかって止まる。
「う、が……っ」
どうにか起き上がった彼女の右肩に大顎が食い込んだ。
「ぐぁ、ぅ……!」
ナギサはうめき声を上げながらも暴霊を引き剥がそうとはしなかった。逆に、暴霊を糸で拘束すると自分ごと魔力糸で固定した。
そこに別の個体が飛びかかってくる。左の脇腹に大顎が食い込んだ。そして、ナギサはそれも固定する。
「——お前も、来い」
最後の一体をナギサは手繰り寄せた。
暴霊の甲殻同士が激突し火花が散る。
『被弾十五。避難率98パーセント』
体中が痛い。
息が苦しい。
涙が滲む。
けれど、ナギサはその手を緩めない。
『避難率100パーセント。全住民の退避完了を確認』
その音声に、ナギサの目が細められる。
「……そう」
ナギサは呟くと、ありったけの負響を練り上げ糸に込める。
もう残しておく必要は、無い。
「これで……」
ぎちり、と糸が閉まると同時、これまで表面を滑るだけだった糸が甲殻にめり込んだ。
いや、押しつぶして割っていた。
糸そのもので切れない。支点となるものも無い。なら、暴霊や自分そのものを利用する。
当然、その中心にいるナギサにかかる負荷は凄まじい。
「——っぁ、ぁ……っ!」
声にならない悲鳴が漏れる。だが、手は緩めない。
「……死んで」
囁く。
次の瞬間、糸そのものが爆発した。
暴霊が内から一瞬膨らみ、その姿が黒い靄となって消える。
『被弾十六。——残存個体、1』
「——……っ」
最後に引き寄せた一体だ。ボロボロだが、仕留めきれていなかった。
魔力は尽きた。身体も動かない。
けれど、ナギサはその手を伸ばす。
最期まで。
黒い影が、視界を覆った。
『被弾十七。――致命判定』
『——サイレンスマキナ、戦闘継続不能』
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リリカの模擬戦諸々の後処理おーわり。さあ一休みしてからまた仕事……だ……?
え、何この空気。
連続投稿はこれでおしまいです。溜まったらまた放出します
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