鬱百合アニメの推しキャラ皆に幸せになってほしいTS転生百合厨魔法少女 作:丹羽にわか
シスターフッド東都第二一支部。
無骨な鉄筋コンクリート造の建物の応接室らしき一室にリリカはいた。気分が落ち着かないのは、一人がけソファの座面の柔らかさだけではない。今、見聞きした情報すべてが、天音リリカという少女のこれまでの人生で培ってきた魔法少女に対する認識を覆すものだったからだ。
ウィーン、とモーターが音を発して吊り下げ型のプロジェクタースクリーンを巻き取っていき、ぱっと天井の蛍光灯が点灯する。
部屋の中にいるのはリリカの他には幼馴染で親友の魔法少女、ミオ。それとアイボリーのジャケットとタイトスカートを着て首からIDカードを下げ、手にはタブレット端末を持った女性が一人。彼女はシスターフッドの職員らしい。金色の細いフレームの眼鏡が照明を受けてキラッと光る。
「——と、まあ、魔法少女と暴霊についてはこれくらいね。リリカ、質問はある?」
「……色々と聞きたいことはあるんだけど、まず、すっごくお役所! って感じの資料が出てきたのが意外だったかな……」
リリカにとって魔法少女といえば、お姫様のような衣装を纏って華々しく戦う存在だ。なら、その所属する組織もファンタジーな感じだろうと期待混じりの想像をしていたが、だいぶ違う。フリー素材のイラストを微妙な配置で入れたお硬いスライドショーをプロジェクター投影しながら説明を受ける、というのは何とも現実的で、夢がない。そのスライドショーを印刷してホチキスで留めた紙束も配られた、という点も含めて。
「気持ちは分かるわ。でも、見栄えを意識したものよりこれが一番わかりやすいのよ」
「……ミオちゃんってちょっと天然だよね」
「どういう意味よ」
「ひぃっ」
スライドが若干ダサ——情報を過不足無く正確に伝えることに特化しているのはそうだが気になるのはそこではない。ついうっかり口を滑らせたリリカをミオがキッと見てきて、小さく悲鳴を上げ手に持っていた紙束で防御するように翳したところで、クスクスと笑い声がした。
女性職員が口元をタブレットで隠しながら笑顔で二人のやり取りを見ている。
「お二人は本当に仲がいいんですね」
嫌味のない、まるで小動物同士のじゃれあいを見ているような生暖かい視線を向けてくる職員に、ミオは「あっ、す、すみません……」と頬をかすかに紅潮させて頭を下げ、リリカは「はいっ! 親友ですから!」と満面の笑みで答える。
「ふふっ。……では、リリカさん。資料の内容で確認しておきたい事などありますか?」
職員に問われ、リリカははっとして手元の紙束をめくりながら口を開く。
「あ、えっと、その……暴霊は人の嫌な気持ちから生まれる。そして、大砲や爆弾で身体を壊しても復活する。何度でも」
「はい」
「本当に倒すには、魔法少女の負の感情から生まれる魔力、《
「そうです」
「歌は、自分の気持ちをより強くして、魔力を増幅するためのもの」
「ええ」
「……それで、私があの時やったみたいに、希望とか勇気とか、そういう気持ちで歌った魔法は暴霊を」
カサリ……。
リリカはそこで資料を捲る手を止めた。きゅっと身体がこわばる。思い出すのは先程の光景。全力全霊の魔法で倒した筈の暴霊が、自分に向かって拳を振り上げる瞬間。その影はより大きく。その爪はより鋭く。その恐怖はより大きくなっていた。
「……暴霊を、強くしてしまうんですよね」
「はい」職員は真剣な面持ちで頷く。「私たちは《励起》と呼称している現象です。励起した暴霊はその能力を飛躍的に向上させます」
「……だから、魔法少女は負の感情で戦うの。恐怖、悲しみ、後悔、怒り……それらを歌い上げる。胸の痛みに耐えながら。……これが、現実なの」
ミオはリリカに歩み寄るとその手を取った。
「ごめんなさい」
「ミオちゃん……?」
「私は、その事を黙ってた。貴女は、魔法少女に憧れてたから。勇気や希望を歌う魔法少女に。だから、その夢を壊したくなくて」
俯き、弱々しく言葉を続ける。
「……それに、私が何を思って戦っているのか、どんな光景を見てきたのか、それを知ったらきっとリリカは心配する。気遣ってくれる。だから、知らないままでいて欲しかった。そのまま当たり前の毎日を、一緒に過ごしたかった」
帰るべき当たり前の日常。それがあるからこそ、ミオは魔法少女として、負の感情を想起しながら戦う事に耐える事が出来た。
「今日、サイレンスマキナがあの場にいたのはただの偶然。もし、あの人がいなかったら、リリカは……」
「……死んじゃってたかも、って?」
ビクッ、とミオの肩が跳ねた。握る手が小刻みに震えている。
「別に、怖い目にあった事はいいの。ミオちゃんが言いたくなかった理由もわかる。それに、そんな風に私のことを想ってくれてたのは嬉しい」
リリカはそっとミオの手に、もう片方の手を重ねる。
「だけど……少し寂しい、かな」
「リリカ……」
「天音さん、黒瀬さんに一般の方への詳細な説明義務はありません。我々も、積極的な周知、広報活動は行っていません。責任は私たちシスターフッドにもあります。……少なくとも、黒瀬さんだけが責任を感じる必要はありません」
「……」
「……」
互いに向かい合ってソファに座り顔を俯かせ黙り込んでしまった二人を前に、職員は内心頭を抱えながらも、社会人として己の職責を全うすべく意図的に声を張る。
「まず、魔法少女に覚醒したからといって、シスターフッドへの所属が強制されることはありません。勧誘はさせて頂きますが、断ったからと言って何ら不利益を与える事はありません。ただ、魔法少女として覚醒した以上、魔力の制御訓練や定期検査は可能な限り受けていただきたいですが」
「……断って、いいんですか?」
「もちろんです。職業選択の自由がありますし、何より……」
職員は首から下げたIDカードを握る。チャリ、と金属がこすれる音がした。
「戦場に誰かを送り出すなんて、誰だって嫌なんですよ」
その哀しげな微笑みを見て、リリカは息を呑む。
「……考えさせて、ください」
「はい、もちろんです。今日この場で決めて頂く必要はありません」
そう言って職員は、封筒に入れられた書類をリリカに差し出す。
「詳細な情報はこちらに。ご家族とも是非ご相談ください。希望されるのなら後日、改めて説明の場を設けることも出来ますので」
「は、はい……」
リリカは封筒を受け取ると手元の紙束に重ねて、ふと思った。
戦場に誰かを送り出したくない。
そう言う彼女は、何故この組織で働いているのか。ミオは何故、魔法少女として戦うことを選んだのか。
あの夕暮れの中の彼女は何故、戦い続けるのか。
「――マキナさんは」
「はい?」
「サイレンスマキナさんは、どうしてなんですか? どうして、ずっと戦ってるんですか? どうして、戦えるんですか?」
淡々と、まるで作業のように暴霊を解体した彼女。負の感情で戦っている筈なのに、苦しんだり哀しんだりする様子は微塵もなかった。
「……分かりません。それは、私たちにも」
「そう、ですか……」
「あの人はずっと戦ってます……本当に、あの時と変わらなくて……」
「えっと……?」
「あっ、失礼しました。でも、そうですね。一つだけはっきりしているのは」
「しているのは……?」
「あの人にも、守りたい何かがある。だから、戦ってるんです」
――――――――――――――――――――
リリミオが見たい〜〜〜〜〜〜!!!!
内心みっともなく地団駄を踏む。
現場の確認に立ち会って支部に戻ってメディカルチェック受けて報告書作って戦闘記録なんか確認して……そんな事をやっていたら外は真っ暗だ。時計の針も終業時間はとっくに過ぎている。
この組織、基本給はそれなりで残業代や通勤手当は勿論、住宅手当やら危険手当やら討伐報奨やらが出るからお金には困らないけど、私は使う事も無いんだよなあ。
まあ、仕方が無い。これも全てリリミオ、いやこの世全ての百合のため。暴霊如きに百合の花園を踏み荒らされて溜まるかっての。私は百合園の守護者だぞ!(深夜テンション)
はぁ……コーヒー飲も。
覚束ない足取りで休憩用のラウンジに移動する。
自販機前に立ち、アイスのブラックコーヒーのスイッチを押し、スマホを翳して電子マネーで支払う。前世と今世で技術レベルが大差ないのは地味だけど助かる点だ。
ソファに腰掛けコーヒーを啜る。ふと思い出すのはリリミオの二人。
今頃どうしてるだろうか。確か、今日はざっくり説明を受けるだけなんだよな。ミオは同席してなかった筈だけど、あの様子だと一緒にいそうだったな。あー、やっぱり同行しておけばなぁ。後悔はアフターカーニバル。
そう言えば、原作よりも大分仲が良かったよなあ。
……。
…………ハッ!
つまり、リリミオの供給が増えるってことだ。最高だ。これだけで白米が食べられる。
興奮から表情が緩みそうになるのを堪える。いけないいけない。前世、百合を眺めている時に「……キモッ」と言われた反省を活かさなければ。無表情無表情。死ね私の表情筋。
――ん? 足音?
チラリと視線を向ける。廊下から入ってきたのは一般職員用の制服を着た女性だ。歩き方とか見た感じ魔法少女だろう。私だって変身を解除した今はシスターフッドの職員用制服だ。何もおかしい事じゃない。
「お疲れ様です、お一人ですか?」
ん? あ、知ってる顔だった。いや、名前は知らないんだけど。時々この支部に来ているらしい人だ。昨今、情報リテラシーとかでIDカードとか職員の名札に名前や顔写真は入れないからね。それに、名前を知らないのはお互い様だし。
「……ええ、まあ」
「隣、いいです?」
「……どうぞ」
女性は自販機でカフェオレを購入すると私の隣に腰掛けた。こんな広々としてるのに態々隣に座るなんて、いつも思うけど魔性の女ってヤツだろうか。
「今日、新しく覚醒者が確認されたそうですね」
そう言ってカフェオレに口をつけながら横目でチラリとこちらを見る。うーん、可愛い。眼鏡美人ってのもいいね。細い金色のフレームとレンズっていう普通は無いオブジェクトが鮮烈なアクセントになってる。
にしても、情報回るのが早いなあ。まだ半日くらいだろうに。
「……ええ」
「推定カテゴリーⅡの暴霊を消滅させたとか……カテゴリーⅢでも致命打を与えられる程の威力だと推計されたそうですよ」
はー、流石原作主人公。凄いなあ。私なんてチマチマ糸で切るか自滅必至の物理攻撃位しか手札無いし、広範囲殲滅なんてまあ無理なんだよね。
「彼女を実際に見て、どうでしたか?」
実際に、か。
うーん、とりあえず可愛かった。あと立派だった、色々と。
でも、そうだなあ。何より。
「眩しかった」
「眩しい、ですか」
「怖くても前に踏み出す勇気。明日を想う希望。他人を想いやる愛。とっても綺麗で、輝いてた」
天音リリカ。彼女の人柄は同人誌やアニメで知っていたけど、それは知っているだけだったと今は思う。実際に見て理解できた。人間の強さや美しさ、素晴らしさがリリカにはある。
「ずいぶんと、気に入ったんですね」
ま、前世からの推しだからね。惚れ直した、って言っても良い。やっぱり、リリミオ、ひいては百合のために頑張らないとなあ。
「貴女は、何のために戦うんですか?」
何のため、か。それは勿論。
「あの子達の(百合色の)未来を守る為」
それしかないでしょ。
「……では、お先に失礼します」
「ん。お疲れ様」
「ありがとうございます、ナギサさん。では、また」
…………ん? 私の名前知ってたんだ。
ま、いっか。
――――――――――――――――――――
眼鏡をかけた女性職員は、ラウンジから立ち去るとそのまま地下駐車場に向かった。
入口を出ると目の前に黒塗りのセダンが止まる。自動で開いた扉に動じること無く乗り込むと、車は静かに走りだした。
暫く走ると、運転席でハンドルを握る黒スーツの女性が口を開く。
「ソフィア様、支部長が泣いてましたよ。「来るのはもう諦めたからせめて連絡してくれ」って」
「連絡した筈だけど」
「到着する三〇分前にされても何も心構えなんて出来ませんよ」
「はぁ……そんなに怖がらなくてもいいと思うのだけど」
「シスターフッドの最高位戦力であるトリニティの第二席、ソフィア・ヴァルナー。魔法少女ラピスアイズですよ。泣く子も黙ります」
「……給料カットしようかしら」
「職員の給与査定は総務の仕事ですよ」
「知ってます。前を見て運転しなさい」
「承知しました」
エンジンが回転数を上げる。高速道路に入ったようだ。窓の外の景色が流れていく。
(ほんと、変わらないのね、ナギサさんは)
――ソフィア! エレノア! クソッ! クソ!
――ヴィー、にげ……。
――ふざけるな! アタシはヴィクトリア・ローゼン! 魔法少女クリムゾ――ガハッ!?
――ヴィー? ヴィー!?
――お願い、誰か、助け。
――よく、頑張ったね。
――絶対に、守るから。
(なにも、変わらない。貴女は、あの時のまま)
(だから、私は……)
読了ありがと茄子!
感想も読ませて貰ってます!
なんか日間ランキング入っててとてもウレシイウレシイネ
感想評価お気に入りしおり宜しく茄子!