鬱百合アニメの推しキャラ皆に幸せになってほしいTS転生百合厨魔法少女 作:丹羽にわか
私が住んでいるのは東都
ちなみに、このマンションから魔法少女姿で10分くらい移動した所にリリカ達が所属する、シスターフッド東都第二一支部がある。原作知識を利用した訳じゃない。転生した時点で両親と暮らしていた自宅がここだっただけだ。
なのに、私の所属は片道電車で2時間以上かかる支部。出勤日はその支部の宿舎で寝泊まりしてるからまとまった休みの時にしかこっちには帰って来られないのは困り物だ。人手不足なのは仕方ないし、事情は分かっているから理解はする。でも納得はしていない。異動願倍プッシュで支部長の頭に十円ハゲを増やしてやろうか。
チーン、と甲高い音が鳴る。電子レンジの温めが終わったみたいだ。のそのそとパジャマの裾を引きずりながらキッチンに向かう。前世の感覚でパジャマをネット注文したらサイズを2つ間違えたのは失態だった。
「あつっ、っ!」
パジャマの袖を手袋がわりにしてレンジから取り出したのは大盛りの唐揚げ弁当だ。半額シール付きの。
自炊は久しくしていない。この家の冷凍庫には冷食のお弁当やお惣菜が詰まってるし、宿舎には食堂があるし。スーパーにコンビニも徒歩圏内。文明万歳。
ダイニングの四人がけテーブルに置いていつもの席に付く。向かいにはお母さんが、左隣にはお父さんが座っていた。20年も昔のことだけど。
右手に持った箸で塩麹唐揚げを口に運びながら、左手のスマホを操作する。開くのは電子書籍のアプリ。ずらっと並ぶ百合漫画や百合小説なんかの表紙たち。なんて素晴らしい眺めだろう。美少女同士のいちゃつきが画面から溢れそうだ。
前世の私は紙の書籍派だった。高さ180センチの本棚をいくつも部屋に置いて、それらを百合書籍で埋めていた。フィギュアやアクスタ、タペストリーだって集めた。でも、今世でそれは難しい。
興味が失せたとかそんな事はない。叶うことならば、この部屋を百合で埋め尽くしたい。
でも、今の私は三〇代独身女にして魔法少女。
知己の魔法少女を家に上げる、というか若者らしいフットワークの軽さで勝手に上がってくる事が稀によくある。そんな時に美少女同士が睦まじく絡み合い睦み合う品々が発掘されてみろ。どんな恐怖を与え、嫌悪を抱かれてしまうのか知れたもんじゃない。
レンタルスペースに収蔵しておく事も考えたけど、そうするとグッズ達は滅多に目に触れられず手にも取られないだろう。私の仕事量的に。それならもっと沢山愛してくれる同志達に迎えられて欲しい。そう思ってやめた。
そうなると、百合以外には無趣味と言っていい私の部屋は殺風景なものだ。特に欲しい物もないし不便さも感じないし、掃除も楽だから気に入ってるけど。
ヴヴヴ、とスマホが震えた。百合書籍達に被さるように通知が出ているのはシスターフッド職員用のメッセージアプリだ。つまり業務連絡。休日なのに。
無視して心穏やかに過ごす……のは性格的に難しい。しぶしぶアプリを開くと、送信元は『東都方面本部/戦務調整室』……面倒事の予感。
ここから来る連絡は体感九割が「あっち行って働けオラッ!」を丁寧に言い換えたものだ。
残り一割? 「追加人員は出せない」だ。
今度はどこに飛ばされるんだろ。日帰りなら嬉しいけど。
『東都第二一支部より、新規魔力覚醒者の初期魔力制御訓練について、協力要請が提出されています』
第二一支部! めっちゃ近いラッキー!
――ん? あれ……? そこって……。
『対象者:天音リリカ』
リリ――っ! んぐっ!? ぐほっ! がっ、ふぉっ、んっ! んんっ!? げほっ、うっ、ごほっ!
……はー……はー……唐揚げで死ぬかと思った。
見間違いかも知れない。もう一度見ておこう。
(つд⊂)ゴシゴシ
( ゚д゚ )クワッ!!
『天音リリカ』
( Д ) ゚ ゚
……………………まじか。
――――――――――――――――――――――
数日経って。
シスターフッド東都第二一支部の雰囲気は俄に浮き立っていた。
新たな覚醒者が現れたから、では無い。確かに、かの少女が初戦闘においてカテゴリーⅢの暴霊を一時的に消滅させるような魔法出力を記録したことは特筆に値するし、話題にも上がっていた。だが、数日も立てばその熱も収まりつつある。
ならば、何故か。
今日はその新たな覚醒者――天音リリカが行う初歩的な魔力制御訓練への協力者として、とある魔法少女が訪れるからだ。
《サイレンスマキナ》。
活動期間はおよそ二十年。現役の魔法少女の中では最年長かつ最古参。「自分が生まれた時から魔法少女で、引退する時も魔法少女やってた」なんてジョークがあるほど。
彼女は、シスターフッドの最高位戦力であるトリニティの三名ほどの圧倒的な力を有している訳では無い。派手な攻撃魔法は持ち合わせていないし、その討伐数が飛び抜けているわけでもない。
けれど、経験と努力に裏打ちされた魔法技術や判断力はかなりのもので、現場での貢献度・信頼度ともに高い。
――サイレンスマキナと共に出撃した場合の魔法少女の殉職率はゼロ%。
――各支部へ派遣された彼女から薫陶を受けた魔法少女は数知れず。
彼女がいなければ魔法少女達の悲劇はもっと増えていただろう。現場をよく知る者達ほどその実感は強く、感謝や畏敬の念は尽きない。
そして、彼女は《歌わない魔法少女》である。
歌というのは感情を増幅させ魔力を高める手段だ。魔法少女とは歌うもの、というのが常識だ。けれど、彼女はそれを用いずに二十年間、負響を扱い暴霊を倒し続けている。
静かに、淡々と。けれど苛烈なまでに。
まさに異端。
そして、そのミステリアスな容姿と立ち振る舞い、実績からシスターフッド内では水面下に強火のファンが数多くいる。
「今日なのよね?」
「予定はそう」
「色紙とペンあるけどいる?」
「用意してある」
「さっすがー」
第二一支部の正面玄関前のロビー。受付カウンターに並んで座る女性職員がコソコソやり取りしていると、その背後に彼女達の上司が立つ。
「なにバカなこと言ってるんだ。業務中にサインを求めるんじゃない」
「この後10分だけ腹痛で休みますね」
「腹痛を予約するな」
「再就職支援よろしく」
「サインの為に退職するな」
上司は「はぁ……」とため息をつく。魔法少女の中にはネットでの配信だったりテレビなどのメディア露出を行う、インフルエンサーやアイドルのような者もいるがサイレンスマキナはそうでは無い。
「こちらから打診はしてみる。ただ、断られても恨むなよ」
「はーい」
「了解」
場所は変わって訓練室。
「――って感じよ、サイレンスマキナは」
「……私、そんな凄い人にこれから教えて貰うの?」
「それだけ貴女は注目されてるの。あの人ほど魔力の扱いに長けた魔法少女もまずいないしね」
「う、うう……なんか緊張してきた」
「今更ね」
そこには私服姿のリリカ、ミオの他に三名の魔法少女がいた。
「すぅー、はぁー、サ、サイレンスマキナさんが……今日……あう……」
深呼吸している明るい茶色のロングヘアの女性は如月カナデ。魔法少女名は《セレスティア》。活動期間は六年と魔法少女の中ではベテランに位置する。年齢は二十歳だが、魔法少女の特性で外見年齢は高校生くらい。近所のおっとりお姉さんとして男子たちの初恋泥棒になっている罪深い者だ。
「だ、大丈夫ですか? カナデさん」
「えええだだだ大丈夫よ?」
「全然ダメそう!」
「カナちゃん先輩、昨日からずっとこんな感じなんだー」
にぱーっと笑いながらカナデの腰をつんつんとつついているのは朝倉ヒナ。彼女は最年少一三歳の魔法少女で《ハニーポップ》という名で活動している。まさに天真爛漫な性格で、この支部のムードメーカー的存在だった。
「普段は頼れるリーダーなのですが、サイレンスマキナ絡みになるとてんでダメなんです」
ヒナの隣で困ったように眉を下げる少女は冬代ユキナ。十七歳。魔法少女《シュネーホワイト》は、戦場では仲間たちへの支援を得意とし、落ち着いた立ち振る舞いでカナデの不在時などはその場の指揮をとることもある、縁の下の力持ちな存在だ。
「そ、そんなに怖い人なんですか……?」
「ち、違うの! こ、怖いんじゃなくて!」
カナデは強く否定する。
「なら、なんでそんなに緊張して……?」
「うっ……そ、それは……」
「へへー、カナちゃん先輩はねー? マキちゃんさんの大ファ――」
「わー!!」
「むぐぐっ」
カナデに口を塞がれモゴモゴと話すヒナ。そんな二人を見て額に手を当て嘆息するミオと苦笑するユキナ。
リリカはもっと分からなくなった。
ウィーン、というモーター音と共に、訓練室と廊下を隔てる自動ドアが開いた。
リリカを除いた四人がビシッと姿勢を正す。リリカもそれを見て一手遅れて続く。
入ってきたのは黒髪の女性だった。
身長はカナデやミオよりも少し高い。シスターフッドのアイボリーの制服からすらりとした手足が伸びている。見た目の年齢は大学生か高校生程度に見えるけれど、その佇まいは冬の夜の木立のようだった。
女性はその場に集う魔法少女達の顔を確認する。茫洋とした底知れぬ翠緑の瞳が向けられ、皆その身体を強張らせた。
(あれ? この目……)
リリカは気付いた。あの時のような煌めく銀髪も、端麗な魔法少女衣装も無いけれど、この女性は――。
「マキナさん?」
ぽつりと口から漏れた声。女性はそれに反応してか顔をリリカの方へ向けた。
「……」
じぃっと女性の瞳がリリカを見つめる。リリカは居心地の悪さを感じながらも「えっと……こんにちは?」とどうにか言葉を絞り出した。
「ん。……こんにちは」
少しの間をあけ、女性がそう応えて張り詰めた空気が和らぐ。
「初めまして、では無い、ね。天音リリカさん」
「は、はいっ」
一瞬、その黒髪がぱぁっと燐光を放つと、眩い銀にその色が変わる。
「私は宇多ナギサ。魔法少女名は、サイレンスマキナ。……今日は、よろしく」
「はいっ! 宜しくお願いします! ナギ、マキナさん!」
「お、お久しぶりです! しゃ、サイレンスマキナさん!」
「マキちゃんさんひさしぶりー!」
「マキナさん、お久しぶりです」
「先日はありがとうございました、サイレンスマキナ」
「…………ん。みんな、元気そうだ、ね」
――――――――――――――――――――
(いやほんと、皆元気そうで良かった)
私は安堵していた。
リリカが魔法少女に覚醒し、その力の制御訓練をするのは原作アニメ第2話でのこと。その時に、第二一支部の面々とリリカが顔合わせをし、カナデを教官役に訓練をする。そして、その中で後の鬱展開に繋がるフラグが1つあった。
支部の魔法少女達のリーダー的存在である如月カナデ――魔法少女セレスティアの感情摩耗、その兆候だ。
魔法少女は歌によって感情を増幅する。その増幅した感情に比例して魔力は高まる。けれど、暴霊に有効なのは負の感情に由来する負響のみ。この時、魔法少女は強い負の感情を抱くことになる。
年頃の女の子が、命のやり取りをする戦場で過去のトラウマなんかに起因する感情を歌い上げ高める。それの精神的負荷はとんでもない。
カナデ先輩はアニメ登場時から常に柔和な笑顔を浮かべたおっとりお姉さんにしか見えなかったけれど、笑ったり驚いたり、そういうリアクションが薄かったり、一手遅れたりという描写がされていた。ちょっとした会話の中で出撃が続いていると示唆され、疲労も滲んでいた。
何より、その笑顔は貼り付けられたようなものだった。
けれど――。
(カナデ先輩、あの様子なら原作より大分マシだな)
少なくとも、私の目にはその兆候は無いように見えた。
原作開始より前からカナデに対しては接触していた。それが功を奏したのかもしれない。その結果、彼女には怯えられてしまっているのだが。……まあ、仕方が無い。カナデのフラグ破壊と幸せの為だ。でも原作キャラを怯えさせるような
(精算方法は後で考えるとして……うん)
私は目の前の5人の中で一番小柄な魔法少女にこっそり視線を向ける。
(朝倉ヒナ……魔法少女ハニーポップ。アニメ第6話で死亡……か)
アニメ第1話の終盤の負響という設定からカナデ先輩のフラグもあり「何かある」と思いながら視聴していて、けれど負の感情に苦しみながらも前を向いて生きる彼女達が描かれ「トラウマとかに向き合いながら仲を深める百合アニメなのか」と思い始めたところでのヒナの死だ。第5話で平和な日常回をやった後だった。制作陣は性根が悪魔だとあの時確信した。
ただ、あれはカナデが精神摩耗により前線に出られなくなった戦力低下が理由としては大きい。彼女の体調に問題が無ければ防げるフラグのはずだ。保険は用意しておかないとだけども。
ヒナは、いざという時はその命をなげうつ事が出来てしまう子だから。
(そして……いや、今は目の前の事に集中しよう)
冬代ユキナ――魔法少女シュネーホワイトに向きかけた意識を引き戻す。今はリリカの制御訓練の教官として来ているのだから、ちゃんとしないと。
(仕事の時間だ)
「取り敢えず変身して……私に、全力で魔法を撃って」
「え?」
「さあ、来て」
「えぇぇぇぇぇぇ!!!???」
サブタイトル真面目につけようかな……
感想評価お気に入りしおりここすきなどなど宜しくニキー
Twitter(現X)で読了報告とかしてくれてもいいのよ
ナギサの容姿や話し方はブルアカのシロコと学マスの広のハイブリッドな黒髪美人でイメージしてクレメンス