鬱百合アニメの推しキャラ皆に幸せになってほしいTS転生百合厨魔法少女 作:丹羽にわか
「も、もうムリぃ〜」
ピンクとホワイトの魔法少女衣装に身を包んだリリカは、そう言いへなへなと力無く訓練室の床にへたり込んだ。全身を覆う疲労感にそのまま大の字で横になりたい衝動に駆られるが、年頃の乙女としての矜持でどうにか堪える。
「ん……お疲れ様」
ナギサはタブレットを操作する手を止め視線をリリカに向けて労いの言葉をかける。彼女も魔法少女サイレンスマキナの姿に変身しているが疲労した様子は見られない。うっすら汗が滲んでいるが息も切らしていない、その程度。
リリカの全力全開の魔法攻撃を受け止め、魔力制御の為のメニューを実例としてリリカに何回も見せていたと言うのにだ。
「何でマキナさんは平気そうなんですか……」
「力の使い方を、人より少し知ってるだけ。これくらいならセレスティア……如月さんも出来る、よ」
訓練室に隣接するモニタールームから「一緒にしないでください〜!」と声がした気がした。
ナギサは手元のタブレット端末に視線を戻し、訓練結果のデータを淡々と入力しながら口を開く。
「天音さんは、瞬間的に出力を高めて、それを放出するのは得意、だね」
「は、はい。たぶん、そうなんだと思います」
「一方で……出力を絞って、それを維持したり、完全に止めたりするのは……とても苦手」
「ひと思いに下手って言ってください」
「うん。正直、ド下手」
「ひぃん……」
リリカはしゅんと萎むが、「でも……」というナギサの言葉に顔を上げる。
「天音さんは出来る、よ」
「そう、でしょうか……」
「ん。少しの間の訓練だったけど結果は出てるし、私は……確信してる。だから、貴女自身を信じて欲しい」
「なら、マキナさんを信じるんじゃダメですか」
ナギサの手が止まる。
「――私? 私は……」
彼女の声音には微かな困惑が現れていた。
「……信じるのは、構わない……けど」
「けど?」
「魔力を使うのは、天音さん自身……だから。私がいなくても、自分で出来るように、ね?」
「はいっ」
「それと」
「?」
「黒瀬さん……達も、頼って」
「――はい!」
ところ変わってモニタールーム。
複数のシスターフッド職員が機器の前に座り画面を見ながらコンソールを操作する中、ミオ達魔法少女組は大きなメインモニターの前に陣取り訓練室の様子を見ていた。
「カナデ先輩。さっきはああ言っていたけれど、実際はどうなのかしら?」
ミオの疑問は先程のナギサの『カナデも同じ事が出来る』という旨の発言に対しての、カナデの「一緒にしないで」という言葉についてだ。
「……防ぐのは私も出来るし魔力消費も抑えられるけど、サイレンスマキナさんみたいな真似はとてもじゃないけど無理だよ……」
「まあ、そうよね」
二人の会話を聞いていたヒナが首を傾げる。
「んー……? カナちゃん先輩のバリアならマキちゃんさんみたいに防げるんじゃないの? こないだだって、暴霊のビームにびくともしなかったよ?」
最年少魔法少女の疑問に答えるのは、この支部ではカナデに次ぐ経歴のユキナだ。
「防ぐことは出来るんです。でも、マキナさんがやっている事はもっと高度で……」
そこで言葉を切ったユキナは近くの職員に声をかける。
「すみません。訓練室内壁の防壁稼働率のデータを出せますか」
「はい、お待ち下さい。……ええと、これでどうでしょうか」
「ありがとうございます」
メインモニターに映し出されたのは折れ線グラフだ。横軸は時間。縦軸はパーセンテージを示しているようだが、その動きは低い位置でほぼ横ばいだった。
「訓練室の内壁は特殊な力場による防壁によって守られています。これは、その防壁がどれだけ使われたかを表すグラフです」
「……全然動いてないよ?」
「はい。そこが重要なんです。マキナさんは、リリカさんの最大出力の魔法攻撃を防ぎ切りました。出力こそ大きいですが収束はまだ甘いので、これくらいなら防御に長けたカナデ先輩や、私でも防ぐこと自体は可能です。ですが、私たちではその余波までは抑えきれません」
「……ユキねえやカナちゃん先輩だと、あのグラフが動くってこと?」
「そうです。そして、マキナさんは、あの『糸』でリリカさんの魔法を散らし、刻み、無力化している。だから防壁は稼働しない。グラフはほぼ動いてないんです」
「それに……うん。この感じだと、糸が帯びた負響でリリカさんの
「つまり、周囲への被害を抑えるための戦い方って事かしら」
「たぶんそうだと思う。私も、例えば障壁の角度だったりを工夫して攻撃を逸らす方向を調整したりは出来るけど。ただ……」
スッ、とカナデの視線が躊躇いがちに伏せられる。
「負響をこの状況で高めて、的確に魔法に用いる。それは私には、いや、誰にだって難しい、かな。たぶん、あのトリニティの人たちにだって」
「ほえ〜……すっごいんだね〜。マキちゃんさんって」
ヒナの言葉を最後に沈黙が降りた。
カナデは曖昧な笑みを浮かべ、ミオはモニターのグラフを見つめ何事か考え込んでいる。ユキナはヒナの頭を撫でながらも、その瞳はグラフを向いている。
その時、訓練室とを隔てる分厚い扉が開いた。
「え、なにこの空気」
入ってきたリリカが目を丸くして言い、その後ろから続いて入室したナギサが首を傾げる。
「……何か、あったの?」
「な、なんでも、ありませんっ」
微妙に裏返った声でカナデが答え、空気は霧散した。ナギサはあまり興味がない様子でタブレットを手に職員の下へ向かう。
「記録、終わった、よ」
「ありがとうございますサイレンスマキナさん。端末はお預かりしますね。……うん……はい、記入漏れなども無さそうです。こちらで大丈夫です」
「なら良かった」
「丁寧に纏めて下さってますし助かりますよ。ああ。これ、あったかいものどうぞ」
「……ん。あったかいもの、どうも」
ナギサは職員から湯気の立つ紙コップを受け取るとふーふーと息を吹きかけながらちびちびと口をつけている。
そんな彼女を横目で見ながら、黒瀬ミオは先ほどまでモニターに映っていた訓練中の光景と、今表示されているグラフを脳裏に思い浮かべていた。
(
例えば、一部の暴霊が放つビーム。あれを構築するのは負響とほぼ同質のものだ。故に、それと対となる正響を用いた魔法で相殺・減衰する事が出来る。魔法少女が歌い上げ高めた負響とそれを用いた魔法は、暴霊そのものを破壊するためのラストアタック、俗に言う必殺技として用いるのが運用上は普通だ。
暴霊自体は負の感情による複雑な構造体であり、魔力そのものではない。正響では打ち消すどころか、肉体を一時的に消し飛ばせても《励起》を起こしより強化してしまう。
夢や希望では、暴霊を殺す事は出来ない。
(負響をあの出力で、魔法少女との訓練で使う事が出来るなんて……リリカに対して何か思う所がある? でも、そんな素振りは無いし)
負響は負の感情に由来する。怒り、恐怖、後悔、罪悪感……魔法少女各々によってその形は違う。だけど決して、何も感じないなんて事は無い。
ミオ自身、負響を歌った後の精神的疲労は相当なものだ。心が荒れる事だってある。それを強固な自制心と意志、そしてリリカらの存在があるからこそ己を保っていられた。
(サイレンスマキナ……貴女は、何を想っているの……?)
ナギサは職員と穏やかな雰囲気で話している。至って平然と。リリカのあの魔法を打ち消すような、強大な負の感情を抱いていたようにはとても見えなかった。
その胸に何を抱いていたのか。それが分からない。
現場を共にしたことは何度かある。自分の人生より長い時間を魔法少女として戦い抜いてきた先達として尊敬しているし、憧れもある。
だが。
(歌わない魔法少女……私は、彼女の事を何も知らないのね)
宇多ナギサ——サイレンスマキナの異質さに、少しだけ寒気がした。
明日は朝8時03分投稿です。
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