鬱百合アニメの推しキャラ皆に幸せになってほしいTS転生百合厨魔法少女 作:丹羽にわか
「なんだかわたし、逃げてばっかりな気がす――!」
叫ぶリリカを暴霊の攻撃が掠めた。彼女はひぃん、と情けない悲鳴を上げながら必死に足を動かす。
負響を扱えないリリカが選んだのは、暴霊を引き付け人々から引き離す囮になることだった。
正響での魔法は暴霊を励起させてしまうから当てないように、けれど気を引くように放ったり、魔力で強化された身体能力を活かして拾った瓦礫なんかを投擲したり。
そして兎に角、走っていた。
「自由に空を飛びたいぃぃ!」
実際に魔法少女になってから知った事だが、魔法で空は飛べない。正確には、不思議パワーで浮かぶ事は出来ない。テレビなどで空を飛んでいる魔法少女を見たことがあるが、あれは推進力を魔法で得てロケットのようにかっ飛んでいるのだという。重力のくびきから人類は未だ逃れられないらしい。
リリカの魔力制御は大雑把である。訓練を受けたのは一度きり。センスが無い事はナギサからのお墨付き。ぶっつけ本番で臨めば出力と方向をミスって建物に突っ込むか、ぶっ飛んでから着地を失敗して潰れたトマトになるかの2択であることは想像に難くない。
「うぅ〜〜〜! 鬼さんこーちら! ばーか!!」
半ばヤケクソになりながら勝手知ったる地元を軽やかに駆ける。街中の構造を駆使して全力で走れば暴霊を振り切る事は簡単に出来るが、囮がそれをしては意味が無い。リリカは背中からひしひしと伝わってくるプレッシャーに冷や汗を滲ませながら耐えるしかなかった。
そして道路の端、スーパーの前。ポールに繋がれたままの犬が――。
「ワン! ワンっ、ワンっ!」
「――えぇっ!?」
リリカは二度見した。犬――柴犬はワンワンと喧しく吠えながらその場をぐるぐる回っている。
そのスーパーの地下にはシェルターがある。買い物に来た飼い主が店内に居て、警報が鳴ってから犬を連れに戻ることが出来なかったのだろう。
リリカはちらりと背後を見た。暴霊は自分を追いかけて来ている。街灯やら街路樹やらを手当たり次第に薙ぎ倒しながら。そのまま進めばあの柴犬がどうなるか。
でも、足を止めれば追い付かれる。防御魔法の使い方は分からない、攻撃も出来ない、そんな未熟な自分が。
柴犬が吠える。暴霊の悍ましい気配を感じ取っているのか怯えた様子だ。
「——ッ! 〜〜〜〜〜もうっ!!」
リリカはズザーッとブレーキをかけ引き返した。駆け寄ると柴犬はグルルルと唸り威嚇してくる。
「だ、大丈夫! おーよしよし! 今外すからね、ね? ね?」
リリカは少し腰が引けながらポールに繋がるナスカンへ手を伸ばしカチャカチャと弄る。
「取れた! ――けどグルグルだよぉ!?」
金具こそ外れたが、柴犬がその場で回っていたからかリードがポールや電柱に複雑に絡まってしまっている。
ポールに絡みつくリードを解こうと手をかけるが、焦りからどうにもうまくいかない。
背後から、重々しく地面を踏みしめる音が近付いてくる。
「――っ……!」
振り返る。暴霊は少し先の交差点の信号機を薙ぎ倒し迫っている。
(どどどどうしよう!? このポール壊す? リード千切る? うぅダメだぁ、魔力制御失敗したらこの子が……)
レゾナンスギアを手にオロオロするリリカだったが、ふと、先程のミオとの会話を思い出す。
『三角錐を目の前に浮かべて、その先を尖らせていくイメージ、なんて言われて出来る?』
先ほどは軽く思い浮かただけで諦めたが、今度はしっかりと想像する。
「三角錐、三角錐……えっと、だから工事現場とかの赤いコーンだよね? それを尖らせる……」
三角コーンは円錐である。
リリカはレゾナンスギアをリードが絡みつくポールに向けて構え、すぅ……はぁ……と呼吸を整える。
「ワンッ! ワンッ!」
「待ってて、大丈夫、大丈夫だから」
「ワンッ! ワンッワンッ!」
「だから待っててって――――あ」
影が差した。
咄嗟に顔を上げると、すぐ間近に接近していた暴霊が、腕らしき部分を振りかぶっている。
避けないと。
反射的に身体が動きかけ、止まる。
「ワンッ!」
リリカはレゾナンスギアを横に向け構えた。そして両手で支え、足を開き地面をしっかりと踏みしめる。
(攻撃も回避も出来ない――なら、防ぐ!)
次の瞬間、轟音とともにリリカの腕から肩へ、痺れるような衝撃が突き抜けた。
「ぐぅっ!?」
耐えきれなかった肘が曲がり、柄の部分が額にガツンとぶつかり視界に一瞬火花が散る。靴底がすべり、片膝をついてしまう。
けれど、耐えた。
それ以上押しつぶされることはなく、犬の鳴き声は絶えず続いている。
つぅ——と、生暖かいものが顔を伝うのを感じた。アドレナリンが出ているからか痛みは感じないが、ぶつけた額の所が切れて出血したのだろう。
腕の筋肉が細かく震える。でも、力は拮抗していた。拙い身体強化だ。加減を間違えれば自分の肉体を破壊してしまうという諸刃の剣。
「——っ!! でも、歌う! でも、進む! でも、諦めない! 怖くても、苦しくても、絶対にぃ――――っ!!!!」
リリカは歌い、魔力を高めながら跳ね上がるように立ち上がり暴霊を押し返した。
そして次の攻撃を防ごうと意識を研ぎ澄ませ——。
「
——歌が、聴こえた。
その場の空気が一瞬で塗り替えられた。
喧噪も、警報も、すべてが遠ざかったように感じる。
「
気配を感じた。リリカが視線を上に向けると、光があった。
ステンドグラス越しに差し込む陽光のような、厳かで神聖な光芒。荘厳な大聖堂に放り込まれた錯覚すら覚える。
「
降って来た光が暴霊を包み込んだ。藻掻き苦しみ手足を振り乱して暴れるが、白金の光の檻はびくともしない。
「……この歌声って」
自分は知っている。
だって、数日前に会ったばかりだ。ナギサを前に少し挙動不審で、けれど優しくて、穏やかで、木漏れ日のような人だった。
でも、まるで違う。
荘厳で、静かで、冷たい。
「
靴音。背後からコツコツと連続して響くそれにリリカが振り返ると、そこには一人の魔法少女が立っていた。
天空を想起させる淡い色彩の装束。揺れる蜂蜜色の髪。眼前の暴霊を見据える碧眼は氷のように冷たい。
「カナデさん……?」
「うん」
カナデ——魔法少女セレスティアは視線を暴霊から外さないままに小さく頷く。
「よく頑張ったね。って、言いたいところだけど……リリカさん」
「——ひゃ、ひゃい!」
「後でお説教ね。ミオちゃんも、心配してたよ」
「……はい」
カナデから発されるオーラにリリカは身体を小さくしながら頷き、柴犬は鳴き声をひそめリリカの陰に隠れるように立つ。
「それじゃ、その子を連れて下がって」
「で、でも、リードが——」
絡まっていて、と続けようとしたが、カナデがついと指を振るとポールをすっぽりと四角い光の立方体が覆い、一瞬で消える。
「ひぇっ……」
リリカの喉から引き攣った悲鳴が漏れた。
そこには何もなかった。金属製のポールも、頑丈な繊維のリードも、空間ごとくりぬかれたように、不自然なほどに滑らかな断面が目に入る。
「これでいいかな」
「は、はいっ! ほら! いくよ!」
「クゥーン」
すっかり縮こまってしまった柴犬を抱えてリリカはカナデと暴霊から距離をとる。
「
カナデの歌が続く。
厳かな聖堂で響く讃美歌のような、どこまでも澄み渡り清らかな歌声。けれど。
「カナデさん……」
リリカはきゅっと胸元に手を当てる。
苦しい。自分が歌っているわけではない。ただ聴いているだけなのに、胸の奥が締め付けられるような感覚があった。
「
哀しさ。後悔。憎しみ。色々な負の感情が伝わってくる。
どうしようもならない現実に諦め、己の無力を自覚した。祈りは届かない。希望も見えない。
「
でも、だからこそ前に出るのだと。
手を伸ばし、掴もうとしている。
そんな歌。
カナデから溢れる光──魔力の質が変わった。
見た目に変化は無い。けれど、神聖さを滲ませていた光に、今は微かな悍ましさを感じる。
「これが……負響……」
間近に見て、リリカはそれが負響であると理解した。
カナデは両腕を左右に拡げる。
すると、暴霊を包んでいた光の檻が中身ごと宙に浮かんだ。それをさらに覆うように、6枚の光の壁が前後左右上下と形成される。
拡げた腕を閉じていくと、その動きにあわせて光壁も中央に向かって移動していく。
「閉じて──《
そして、カナデの手がパン、と小さな音を立てて閉じたのと同時に立方体が完成した。
それは、先ほどポールを消し飛ばした光の立方体が更に巨大になったものだ。
光の箱が消える。
何も、残っていなかった。
――――――――――――――――――――
それから少し経ち、同時に出現していた他の暴霊もシャドウヴェイルら魔法少女によって撃破された。
「……はふぅ」
リリカは息を吐いて歩道にへたり込む。
抱えていた柴犬は駆けつけたシスターフッドの職員に預けている。状況を伝えれば、飼い主を探してみるとの事だった。
それに、今回の顛末を聞いた。
けが人は出たが、それは避難時の転倒などのトラブルによるもので、重傷者や死者は居ないそう。リリカが助けた老爺も、無事にシェルターへ案内されたのだという。
暴霊の攻撃を防いだ時に額を切ったリリカの方が怪我が重いかも、とは怪我の処置をしてくれた医療スタッフの話だった。
「よかったぁ……」
話を聞いたリリカはそう言って涙をこぼした。
だいぶみっともなくしまらない形だったけれど、誰かを守れた。恐怖から逃げずに、立ち向かえた。
でも。
「リリカ」
(この恐怖からは逃げたいかなぁ!)
リリカは恐る恐る振り返った。
魔法少女姿のミオが立っている。
「ミ、ミオちゃん」
「…………」
「あの、ね……お、おじいちゃんがいて……それで暴霊が現れて……逃げてたらワンちゃんがいて……だから」
「……怪我、してるじゃない」
「あっ、うん。でも血は止まってるし、お医者さんも大丈夫だって――」
「馬鹿」
「ミオ、ちゃん」
「お馬鹿」
「……うん」
「私、言ったわよね。絶対来るなって」
「……言われた」
「……分かってるわよ。貴女がこういうことをする子だなんて。昔からそうだもの」
ミオはリリカの額に巻かれた包帯を撫でる。その指先は微かに震え、冷え切っていた。
「だからこそ、言ったのよ。来ないでって」
ミオにあるのは怒り――ではない。
(ミオちゃん……怖がってるんだ……)
リリカはミオの指に触れる。ぴくり、と動きを止めた彼女の手を取り両手で優しく包む。
「わたしもね、分かってた」
「……」
「ミオちゃんが心配する事も。ナギサさんが逃げろって言ってた事も」
「なら、どうして――」
「置いてけなかったんだ。だって暴霊よりずっと、そっちの方が怖いから」
そう。怖かった。
リリカの原動力は勇気や希望じゃない。見て見ぬ振りをして、置いていって、その後は……という恐怖心だった。
ミオの手に力が籠る。
「……そう」
「自分勝手、だよね……ごめん」
「謝ってほしいんじゃない」
「……」
「――ティア。――セレス――ア。セレスティア!」
少し離れた場所で魔法少女姿のユキナがカナデに話しかけていた。
何事かとリリカとミオは同時に振り返る。
カナデの出で立ちは変わらない。魔法少女としての、聖女を思わせる荘厳な衣装に身を包んだまま、怪我はおろか汚れの一つもない、神々しさすら感じる姿でそこにいる。
けれど。
「――え? あ、ユキ……シュネーホワイト」
「……」
「ん? どうしたの?」
言葉に詰まってしまったユキナにいつもの柔らかな笑顔を向けるカナデ。だが、その笑みはどこかぎこちない。
「今日はもう、負響を使わないで下さい」
「え?」
「反応の遅れ。情動の鈍化。カナデ先輩、自覚は、ありますね?」
「……そんなに分かりやすい?」
「はい」
「そっかぁ……」
カナデは困ったように笑い、レゾナンスギアである左手首の腕輪をそっと撫でる。
その指先は微かに震えていた。
「カナちゃん先輩、大丈夫……?」
二人の様子をそばで見ていたヒナが心配そうな顔をする。
「うん、大丈夫だよ。張り切ったらちょっと疲れちゃっただけ」
「それが『大丈夫』なのか、『ちょっと』なのかは医療室の方で判断してもらいましょうね」
「あはは……ユキナちゃん厳しいなあ」
「カナデさん」
「……うん。ごめんね。あとはお願い」
「はい」
カナデは少し寂しそうに笑うと、変身を解除して職員の方へ歩いて行く。
リリカはその背中を静かに見つめた。
負響。それが精神に負荷を与える事は知っている。
けれど、ミオ達は何ら変わりのないように見えた。普通に笑い、怒っていた。
(違うんだ。たぶん、そうしないと失くしちゃうから)
きゅっと、胸の前で拳を握りしめる。
これから進もうとしている道の先にあるものを目の当たりにして身体が強張る。
その様子をじっと見つめてからミオは口を開く。
「リリカ。私は、貴女が何を考えているのかも分かってる」
「流石だね」
「私がどう思うのかも、貴女なら分かるでしょ」
「うん」
「それでも?」
「……それでも」
リリカはミオの手を胸の前に持って来て、彼女の夜色の瞳をじっと見据える。
「わたし、魔法少女になる」
リリカの強い決意に呼応して魔力が溢れる。
「……そう、でしょうね」
ミオは繋いでいた手をするりと解いた。
「ミオちゃん」
「私は、反対よ」
「……だよね」
「貴女は日常に居て欲しい。私のひだまりであってほしい」
「……うん」
「これから先も、ずっと、そうあってほしい」
「うん」
「それでも?」
「それでも」
「……そう。わかったわ」
明日も朝7時03分投稿です。
感想評価お気に入りしおりここすきなどなど宜しくニキー
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一応カクヨムで先行投稿してます。垢持ってる人はそっちも応援宜しくです。
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