ようこそ一之瀬に愛される教室へ   作:クイヤ

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第1話

 

「綾小路くん!今日もお弁当作ってきたよ!」

 

問い、人は平等であるか否か

 

この問いを今オレのことを殺気が籠った視線で見つめてきているクラスの男子達にぶつけるとしたら、当たり前のようにNoという答えを出すだろう。

 

なぜこんなことになっているのか、それは入学初日にまで遡る……いや、遡っても分からない事ばかりなんだけどな。

 

 

─────────‪──────────────

 

 

クラスでの自己紹介を終え、自己紹介をちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ失敗をしてしまったことに対して落ち込んでいた。

 

周りで遊びの約束が飛び交う中、友達もできる気がしないので、今日は気になるコンビニでも寄って帰ろうかと考えていると、教室の入口の方で何やらざわざわしている様子が見て取れた。

何かあったのだろうか。

 

「何あの子、めっちゃ可愛くない?」

 

「スタイルも超いいし、モデルさんみたいだねー。このクラスに何しに来たのかな?」

 

クラスメイトの声を聞くと、どうやら可愛い子が教室の前に来ているらしい。

 

どれどれと見てみると、ドアの前には薄ピンクのロングヘアの女子が立っていた。

誰が見ても文句無しに美少女と言うであろう容貌で、この容姿レベルの高いクラスメイト達を見たオレであってもトップクラスに可愛いと言える。

……なんかオレ偉そうだな。

 

その女子はキョロキョロとDクラスの教室を見回すと、オレと目が合った。

 

一瞬だけパッと顔が明るくなった気がするが、その後少し顔が赤くなり、目を逸らされてしまった。

 

そんなに露骨に目を逸らされると少し傷つくな……

いや、目が合ったと考えるのも自意識過剰か?

 

その女子は置いといて、そろそろ帰ろうかと教室を出ると、声を掛けられた。

 

「ねえ、あ、綾小路くん」

 

なんと、さっきの女子に話しかけられてしまった。

しかも、この女子はオレの名前を知っているらしい。

 

「えーと、何の用ですか?」

 

「えっ、えっと……今から暇だよね?もし良かったら一緒に学校でも回らない?」

 

何故だ?なぜ見るからに一人で友達のいなさそうなオレに話しかけ、しかもあまつさえ学校を回るだと?

 

「その、なんでオレ?」

 

「え、ダメだったかな……?もしかして、他の女の子と予定があるとかじゃないよね?」

 

その女子は上目遣いでそう聞く。

 

「いや、全く予定はないから大丈夫ですけど……」

 

「良かった!えへへ、綾小路くんと回れるなんて嬉しいなあ。私の名前は一之瀬帆波!よろしくね。あ、それと同学年だから敬語はやめて欲しいな?」

 

一之瀬と言うらしい女子生徒は満面の笑みでそう答える。

 

「そうか、それなら遠慮なくそうさせてもらうぞ。それに、さっきから気になってたんだが、どうしてオレの名前を知っているんだ?」

 

「あっ……えっと……教室で、座席表を見たんだよね」

 

「そうなのか、一之瀬は記憶力が良いんだな」

 

普通全員の名前を覚えるのにはかなり時間を要するだろう。

 

「そうかなあ、でも、綾小路くんだから覚えられてたんだよ?」

 

「……そうなのか。さっきは答えてくれなかったが、どうしてオレを誘おうと思ったんだ?」

 

一人でいるから話しかけやすかったとかだろうか。

一之瀬なら簡単に友達の1人や2人作れそうなものだけどな。

まさか、一目惚れなんてことはないだろうが。

 

「その……一目惚れ、かな?」

 

そのまさかだったらしい。

嘘だろ、人生初めての告白ってこんな初日に起こるものなのか?

しかも、こんな美少女に告白されるとは。

もしかして、これは美人局と言うやつじゃないだろうか。

 

「お、おう。その、本気か?本気じゃなかったら訂正してくれ、勘違いしてしまう」

 

「私は本気だよ。あ、まだ返事とかは考えなくてもいいよ。今はまだ、ね」

 

その顔を見ていると、本気の意思が伝わってくる。

少なくとも美人局の類では無さそうだ。

 

最後の言葉が引っかかるが、返事をしなくていいのは助かるな。

 

「それは助かる。正直そんなことを言われたのは初めてで困っていたからな」

 

「嫌だった?」

 

「嫌ではない……と思う。から安心して欲しい」

 

一之瀬に好意を向けられて嫌な気分になる男性はこの世には存在しないだろう。

 

「ふふっ、そっか。じゃ、行こっか?」

 

そう言うと一之瀬はオレに腕を絡めてきた。

腕に柔らかな感触が当たる。

 

「え、この体勢でいくのか?」

 

「うん。そうだよ?」

 

一之瀬はまるでそれが決定事項であるかのように言う。

これ、周りの視線が気になるし、オレはあまり目立ちたくないんだが……

しかし、逆らえない雰囲気が出ているからしょうがない。

 

 

「綾小路くん、喉渇かない?何か飲み物いる?」

 

その体勢のまま校内を歩いていると、一之瀬が思い出したようにそう言った。

 

「ああ、そうだな。自販機で飲み物でも買うか」

 

ちょうど近くにあった自販機で一之瀬は緑茶を1本買った。

一之瀬はそのまま蓋を開け、飲む。

そしてそのペットボトルをオレに向けてきた。

 

「はいどうぞ、綾小路くん」

 

ちょうど緑茶が飲みたかったから嬉しいのは嬉しいのだが、これ間接キスってやつじゃ……

 

「いや、自分の分は自分で買おうと思ったんだが……それに、一之瀬はオレと同じペットボトルを共有してもいいのか?」

 

「全然いいよ!むしろ大歓迎って感じかな。綾小路くんは嫌だった?」

 

「決して嫌ではない。オレはそう言うのは気にしないんだ」

 

「ふーん。ちょっとは気にしてくれても良いんだけどね?」

 

やめてくれ、そんなことを言ったら意識してしまうだろ。

 

 

その後、オレたちは学校を一通り回った。

 

「次は図書館にでも行くか?」

 

「……うん、そうだね」

 

何故だかあまり感触が良くないな。

図書館に悪いイメージでもあるのだろうか。

 

「もしかして一之瀬はあまり本を読まないのか?」

 

「読書は人並みかな。綾小路くんは読書家っぽいよね?」

 

「まあ、そうだな。読書は趣味の一つでもある」

 

反応が良くないのは気のせいだったか?

とりあえず、気のせいだと思うことにして図書館へと向かう。

 

 

「おお、これは凄い蔵書量だな」

 

「そうだね。私の中学の何倍の本があるんだろう?」

 

一之瀬はそう言いながら辺りを見渡す。

何かを探しているのだろうか?

 

すると、一之瀬の眼光が鋭くなる。

 

気づくと、一之瀬の視線の先には銀髪の少女がいた。

 

「もしかして、あの人と知り合いなのか?」

 

「えっ……!ううん、違うよ。ただ、綺麗な人だなあって思ってただけ」

 

そう言うと、一之瀬はさらにくっついてくる。

 

「そうなのか。あと、急にくっついてきてどうしたんだ?」

 

「にゃはは……綾小路くんを取られないようにしないとね」

 

「いや、オレはまだ誰のものでもないんだが」

 

「ふふっ、今に私のものにしてあげるからね?」

 

いや、一之瀬さんちょっと怖いです。

 

 

オレたちは図書館を出る。

 

 

「綾小路くん、もし良かったらなんだけど、今日の夜私の部屋で一緒に夜ご飯食べない?私、料理は得意なんだ」

 

なん……だと?

初日に女子の部屋に行くとか、オレはどこのリア充なんだろうか。

 

「それは魅力的な提案だが、そこまでしてもらう筋合いはないぞ?」

 

「ううん、だって、私は綾小路くんが好きなんだもん。尽くしたいって思うのは当然でしょ?」

 

どうやら、オレは一之瀬に思ったよりも好意を抱かれているらしい。

一目惚れと言われたからには、話すことでオレがつまらない人間だと思い直して愛想を尽かされると思っていたのだが、オレのどこがそんなに良いのだろうか。

 

「そうか。ならありがたくその提案を受けさせてもらう。一之瀬の料理を楽しみにしてるな」

 

「うん!綾小路くんは今日何が食べたい?」

 

「まあ、なんでもいいな」

 

「もう!なんでもいいが1番困るって知らないの?」

 

「そうなのか、それは初耳だな」

 

「ま、綾小路くんだから良いけどね。それじゃあ、今日はカレーを作ろうかな」

 

「カレーか。それは楽しみだな」

 

「でしょ?じゃあ、19時になったら私の部屋に来てね。あと、連絡先交換しよ!」

 

「ああ、いいぞ」

 

初めての女子の連絡先……

告白やらなんやらで順番がおかしい気もするが、それでも嬉しいものだな。

 

 

─────────‪──────────────

 

 

「お邪魔します」

 

「入って入ってー」

 

部屋で待ち構えていたのは、制服から着替え、白ニットにデニムのショートパンツを着ていて、上からエプロンをした一之瀬だった。

 

制服姿しか見ていなかった一之瀬とは印象が違う。肩の力が抜けたような私服は、制服姿よりも親しみやすく見えた。

……正直、少し見惚れてしまった。

 

「適当に座っててね。もう少しでできるから」

 

とりあえずオレは床にあるクッションに座ることにした。

オレの部屋には無かったから、おそらく買ったものだろう。

オレのために今日買ってきたのだろうか。

 

「はい、出来たよ」

 

一之瀬はカレーの盛った皿を持ってオレの元へとやってきた。

 

「おお、これは美味しそうだな」

 

「ふふっ、そうでしょ。沢山食べてね?」

 

「ああ、遠慮なく食べさせてもらう」

 

食べてみると、オレ好みの辛口だ。

これは美味しいな。何杯でもいけそうだ。

 

「どう? 美味しい?」

 

向かい側に座った一之瀬が、少し身を乗り出して聞いてくる。

 

「ああ。これは美味しいな。辛さもちょうどいい」

 

「本当? 良かったぁ……」

 

一之瀬は胸を撫で下ろすように息を吐いた。

 

「綾小路くんのお口に合うか、結構心配だったんだ」

 

「そうなのか?」

 

「うん。甘口にするか中辛にするか、それとも辛口にするか……結構迷ったんだよ?」

 

「それで辛口を選んだのか。一之瀬は辛口が好きなのか?」

 

「うーん、私は甘口の方が好きかな」

 

笑みを浮かべる一之瀬。

 

しかし、オレは少しだけ引っかかった。

 

「……じゃあ、どうして辛口にしたんだ?」

 

「え?」

 

「オレ、一之瀬に辛い物が好きだなんて話した覚えはないんだが」

 

「あー……」

 

一之瀬の動きが止まった。

 

ほんの一瞬だったが、明らかに動揺しているように思えた。

 

「えっと……勘、かな?」

 

「勘?」

 

「そう、勘! なんとなく綾小路くんは辛口が好きそうだなーって」

 

「なるほど」

 

もしかすると一之瀬はエスパーなのかもしれない。

一之瀬は今日会ったばかりの人間だ。

それなのに、オレの好みをいくつか当てている。

偶然と言われれば、それまでだ。

しかし、偶然にしては少し出来すぎている気もする。

 

「……綾小路くん?」

 

「いや、なんでもない。美味しいから気にしないでくれ」

 

「本当?」

 

「ああ、本当だ」

 

一之瀬はしばらくオレの顔を見つめていた。

 

やがて安心したように笑う

 

「一之瀬は食べないのか?」

 

「もちろん食べるよ。いただきます」

 

一之瀬も自分のカレーを一口食べる。

甘口が好きだと言ったのは本当なようで、辛そうに食べている。

 

オレに合わせるためだけに辛口にしたのか……

 

「綾小路くん、もう1回美味しいって言って?」

 

「何故だ?……美味しいぞ」

 

「ふふっ。じゃあ毎日作ってあげようか?」

 

毎日……魅力的な提案ではあるが、美味しい話すぎて疑いを拭いきれない。

 

「毎日はさすがに一之瀬が大変じゃないか?」

 

「全然大丈夫!」

 

即答だった。

 

「私、料理するの好きだから。それに……」

 

一之瀬は少しだけ頬を赤くする。

 

「好きな人に食べてもらえるなら、毎日でも作りたいって思うよ」

 

「……そうか」

 

「うん!じゃあ決まりだね?明日も来てくれるよね?」

 

どうやら一之瀬の中ではもう決定事項のようだ。

 

「……ああ、よろしくな」

 

「あ!それとお弁当も作ってあげるね!私の卵焼き、美味しいよ?」

 

「……ああ、よろしく頼む」

 

どうやら断れる雰囲気ではないらしい。

いや、別に嬉しいのだが。

 

 

こうして、オレと一之瀬の関係は始まった。

 

この学校での生活は、もっと静かなものになると思っていたのだが、どうやらその予定は初日から大きく狂ってしまったらしい。




続くかは不明です
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