ようこそ一之瀬に愛される教室へ   作:ソーダ123

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第10話

「おお……!」

 

船から見える景色に、思わず感嘆の声が漏れる。

 

オレたちは今、豪華客船に乗って無人島へと向かっている所だ。

いかにも怪しいが、一応バカンスへと連れてってくれるらしい。

 

少し離れたところで池たちの喜びの叫び声が聞こえる。

オレも叫んだりしてみるかと考えてみたが、やめておくことにした。

喉が潰れたりしたらバカンスを楽しめなくなるからな。

本当は一人で叫ぶのが恥ずかしいだけなのだが。

 

一人で海を眺めているのも飽きてくるので、一之瀬を探すことにした。

せっかく普段とは違う場所に来ているのだから、誰かと一緒に楽しんだ方がいいだろう。

 

しばらくデッキの上で探していると、Aクラスの生徒に囲まれた一之瀬を見つけた。

オレはそこに向けて歩み寄る。

Aクラスの面々がいると気まずくないのかと思うかもしれないが、Aクラスの連中とは少なくとも同じクラスの奴らよりは話す機会が多い。

一之瀬と共にAクラスの人間と遊びに行ったこともあるしな。

 

「帆波ちゃん!綾小路くん来たよ!」

 

「え!本当!?」

 

「早く行ってきな!」

 

何やら一之瀬が慌てた様子で話している。

そうして、一之瀬はオレの元へ駆け寄ってきた。

 

「綾小路くん、凄い景色だね」

 

「ああ、そうだな。こんな景色は初めて見た」

 

「ふふっ。だよね、この景色を綾小路くんと一緒に見れてよかった」

 

大海と青空をバックにした一之瀬のいつもより輝いて見える笑顔に胸が嫌でも高鳴る。

 

「……そうだな。オレも一之瀬と見れてよかったと思うぞ」

 

「にゃはは、綾小路くんもそんな事言えるようになったんだね。嬉しいなあ」

 

「オレだってこれくらい言えるぞ」

 

オレは少しムッとして言い返す。

 

「ごめんごめん、そういう意味じゃなかったんだけど。嬉しかったのは本当」

 

「それなら良いんだけどな」

 

そんなことを話していると

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まりください。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義のある景色をご覧頂けるでしょう』

 

突然そんな奇妙なアナウンスが流された。

 

「綾小路くん、今のアナウンスどう思った?」

 

「どうもこうも、『非常に意義のある景色』だなんて少し変な言い回しだとは思ったが、それくらいだな」

 

「これは大事なアナウンスだと思う。このまま島が見えるまでここに居よっか」

 

「ああ、そのつもりだ」

 

そして数分後、その島は姿を現した。

生徒たちが歓声の声をあげる。

 

しばらくして船と島との距離が縮まると、船は島を一周し始めた。

どうやら島の全体を見せてくれるらしい。

 

ちらりと横の一之瀬を見ると、真剣に島の方を見ていた。

こうして見ると、本当に綺麗な顔立ちをしていると思う。

一之瀬の真剣な顔を眺めていると、船はいつのまにか島を一周してしまった。

もちろん、一之瀬の顔だけじゃなくて島の形も見ていたぞ。……ちょっとだけな。

 

『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定のカバンと荷物をしっかり確認した後、携帯を忘れず持ち、デッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また暫く早くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいてください』

 

そんなアナウンスが流れる。

どうやら、上陸が近いらしい。

 

船が島に着き、Aクラスの生徒たちから順番に船を降りていく。

 

一之瀬とはしばしの間お別れだ。

 

「じゃあ、綾小路くん、また島でね!」

 

「ああ、楽しみにしてる」

 

 

─────────‪──────────────

 

 

「ではこれより⎯⎯⎯本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

突如として発せられた一言に、ほぼ全てのクラスがざわつき始めた。

 

特別試験だと……

何かはあると思っていたが、まさかバカンスそのものがないとは……

 

そして、特別試験のルールと概要が説明される。

 

端的に言えば、最初に配られる300ポイントで物資を購入できたり、自クラスのリーダーを決めてスポットを占有し、他クラスのリーダーを当てたりする感じだ。

 

……簡単に説明しすぎたか?

 

それにしても、このクラスの連中と1週間共同生活か……気が遠くなりそうだ。

 

「ダンボールになんて!無理無理!絶対無理!」

 

「なんだよ、ちょっと我慢するだけじゃねえか」

 

オレがこれから始まる無人島生活を懸念していると、トイレ関係で女子と男子とが揉め始めてしまった。

 

仮設トイレを購入するべきと考える女子に対して、そんなものを買わずに節約すべきという男子だ。

クラスのリーダー的存在である平田は男子と女子の板挟みになっていて大変そうだ。

 

オレはその言い争いに参加する気は微塵も無かったので、傍らからその言い争いを眺めていた。

 

「やっほ〜」

 

争いを眺めていると、そんな気の抜けた声がオレの背後から聞こえてきた。

 

その声の主──星之宮先生は、オレの元へと近づいてくる。

どうやら、目的はオレらしい。

 

「や、綾小路くん、久しぶりー。って言うほどでもないか」

 

「何してるんですか、星之宮先生。職務怠慢ですか?」

 

「えー、冷たいなー綾小路くん。私たちの仲でしょ?」

 

「そこまで仲を深めた覚えは無いんですけど……」

 

茶柱先生からの脅迫に対して後ろ盾になってくれたのはとてもありがたく思っているが、仲が深まったという事実はない。

 

「そんなこと言ってー。夏は恋の季節。好きな子に告白するなら、こういう海の前が効果的かもよ〜?ま、綾小路くんの場合は好きな子は決まってると思うけどね?」

 

「まあ、はい……善処します」

 

「もー、煮え切らないなー綾小路くんは」

 

「おい、星之宮。これ以上うちの生徒に絡むなら問題行動として上に報告するぞ?」

 

「う、そんなに睨まなくても……。わかった、わかったわよぉ。じゃあね〜」

 

そう言って星之宮先生は去っていった。

 

それにしても、告白……か。

星之宮先生から言われた言葉に、嫌でも一之瀬の事を意識してしまう。

 

トイレの言い争いも一段落したようで、オレたちのクラスは森へ探索へ行くことになった。

 

森の中はかなり厳しい環境だった。

木々が密集しているせいで視界は悪く、足元には大小様々な石や木の根が転がっている。

加えて、夏の日差しは木々に遮られているとはいえ、湿気がかなり高い。

歩いているだけでもじわじわと汗が出てくる。

無人島という環境を楽しめる人間もいるのだろうが、少なくともオレは今のところ楽しめそうにない。

 

「綾小路くん、いくらあなたがこのクラスをAクラスに上げる気がないからって、この試験では協力してくれるわよね?」

 

森を歩いていると、隣を歩く堀北が話しかけてきた。

 

「まあ、自分にできる限りの事はするつもりだ」

 

正直、今回の試験でこのクラスに貢献するつもりはない。

が、ここでその事を言っても堀北が面倒なだけだ。

 

「そう、なら良いのだけど」

 

「オレにできることなんてほとんど何もないと思うけどな」

 

「あなた、期末試験まで実力を隠しておいてよく言うわね……」

 

「そうだったか?」

 

「白々しいわね」

 

堀北は呆れたようにため息を吐いた。

どうやら、期末試験以来、オレに対する評価が少し変わったらしい。

もっとも、今さらそれを訂正するつもりもない。

 

 

「ここなら日差しも遮るし、周囲に誰かいて話を聞かれる心配も無さそうだね」

 

程なくして平田たち一行は立ち止まり、話し合いの続きを始める。

 

話し合いの結果、仮設トイレは購入することになり、森へ探索に行くのは志願者を募ることになった。

 

オレは手を挙げて参加を表明することにした。

クラスに貢献するつもりは無いが、一つくらいは役割を持ってないと浮いてしまうからな。

 

12人が手を挙げたらしく、3人1組の4チームで探索をすることになった。

 

各々が好きな人とチームを組む中、当然のようにオレは余ってしまう。

 

その結果、余りものの佐倉と高円寺と組むことになった。

自由人と大人しい女子、この2人なら特に問題なく探索ができそうだ。

 

「よ、よろしくね。綾小路くん」

 

「ああ、よろしく」

 

3人で始まった探索だが、高円寺がどんどん先へ先へと進んでいく形となった。

 

「あれについて行くのは無謀だな」

 

「う、うん。そうだね。あれはちょっと無理かも」

 

オレたちは高円寺について行くのを諦め、スピードを落とす。

 

オレたちが森を歩いていると、佐倉がぽつりと言葉を発した。

 

「あのね、綾小路くんとは1回話してみたかったんだ……」

 

驚いた。佐倉とは関わりがなかったはずだが。

 

「そうなのか。それはどうしてだ?」

 

「私、一之瀬さんに助けてもらったから……。そんな一之瀬さんと仲が良い綾小路くんはどんな人なんだろうって思って」

 

そういえばそうだった。

前に、一之瀬が佐倉のトラブルの相談に乗ったという話を聞いたような気がする。

 

「別に、オレ自体はつまらない人間だぞ」

 

「そ、そんなことないよ。綾小路くん、多分高円寺くんにはもっとついていけたよね……。私に合わせてくれたんだよね、たぶん」

 

「いや、高円寺について行くのは無謀だと思うのは本気だったんだけどな。まあ、その意図がなかったといえば嘘になるが」

 

「それでも綾小路くんは優しいよ。一之瀬さんが頼りにしてるのも分かる気がする……」

 

「そこまで言われると照れるな」

 

「あ、ご、ごめん」

 

佐倉は慌てたように謝る。

 

「今のは全く謝る所じゃないと思うが。むしろ嬉しかったぞ?」

 

「そ、そう?なら良かった」

 

オレと佐倉でしばらく歩いていると、山の一部にぽっかりとした大穴が空いた洞窟の入口を見つけた。

 

「もしかしてアレ……スポット、なのかな?」

 

「さて、どうだろうな」

 

確かめるべく洞窟に近づこうとしたところで、穴の奥から2人の生徒が出てくるのが見えた。

 

オレと佐倉は物陰へと隠れる。

 

2人の生徒のうち髪のない男はカードのようなものを持っていた。

 

「葛城さん!良いスポットを押さえられましたね!運が良かったです。こんな早くになんて」

 

「運?お前は何を見ていた。この洞窟は船から見えていた。見つかるのは必然だったというわけだ。そして、言動には気をつけろ、どこで誰が聞き耳を立てているか分からないんだ。俺にはリーダーとしての監督責任があるんだからな」

 

葛城……確かBクラスの生徒だったか?

しかし、これはなんという幸運だ、リーダーを把握することができた。

カードを持っている葛城は十中八九フェイクだろう。

つまり、リーダーはもう一人の男子生徒だ。

名前が分からないのが問題だが……

それは後でどうにでもなるだろう。

顔さえ覚えておけば、名前を知る方法はいくらでもある。

 

 

オレは佐倉に平田には自分から報告しておくと言い、佐倉と共に元の地点へと帰ることにした。

 

 

─────────‪──────────────

 

 

平田たちの元へ戻ると、池たちがスポットらしきものを見つけたという事が報告されていた。

 

オレたちがそこへ向かうと、確かにスポットの機械があり、そこをベースキャンプとすることにした。

 

肝心のリーダーだが、櫛田の推薦により堀北に決まった。

堀北は少し体調が悪そうだったが大丈夫だろうか?

 

 

その後、オレは自分の仕事であるテント設営を終え、ベースキャンプでゆったりと過ごしていた。

 

それにしても、この試験は大変だな。

 

一之瀬は今頃何をしているだろうか……

一之瀬なら上手くクラスをまとめているんだろうな。

 

……オレ、今無意識的に一之瀬のことを考えていなかったか?

一之瀬と別れてからそこまで時間が経っていないはずなのに、ずっと会ってないような気分になっている。

 

そして、オレは周囲を見渡す。

当たり前だが、一之瀬はいない。

ここにいるのはDクラスの生徒だけなのだから、一之瀬がいるはずがない。

そのはずなのだが、何故か一之瀬を探してしまった。

 

……疲れているのだろうか。

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