ようこそ一之瀬に愛される教室へ 作:クイヤ
試験二日目。
早くに起床したオレは、平田と共に顔を洗おうと川に向かうと、思いがけない人物がいることに気づいた。
「神崎か。こんなところで何してるんだ?」
オレと神崎は一之瀬繋がりで少し関わりがある。
だから、初対面という訳では無い。
「1日経ってどうしたかと思ってな。少し様子を見に来てみた。良い場所を押さえたな」
「なるほど。偵察、という訳か。Aクラスのベースキャンプはどこにしたんだ?」
教えてくれるのかは分からないが、試しに聞いてみる。
すると神崎は嫌な顔一つせずに答えてくれた。
「ここから道なりに浜辺に戻る途中に、折れた大木があるだろう。そこから南西に森に入って進んだ先に、Aクラスが滞在するキャンプ地がある。大木から入れば迷うこともないだろう。必要なら来ても構わない」
「助かる。また向かわせてもらう」
「ああ、そうしてくれ。一之瀬も会いたがっていたからな」
そう言って神崎は去っていった。
「友達だったんだね。ちょっと驚いたよ」
平田がオレにそう言う。
まあ、オレのクラスでの交友関係を知っているなら、他クラスに知り合いがいることに驚くのも無理はないだろう。
朝の点呼を終えたオレたちは自由行動へと移った。
「なんだよお前ら!」
何やら騒がしいと思っていたら、Cクラスの2人の生徒がどうやらDクラスを挑発しに来たみたいだ。
……そうそう。Cクラスと言えば、昨日山内たちが伊吹という女子生徒を拾ってきた。
どうやらCクラスから追い出されたらしい。
どこで拾ってきたの!世話できないなら早く返してきなさい!……と、言いたいところだったのだが、オレには特に悪影響がある訳ではないので放っておいた。
それと、これは本当に関係ないのだが、昨日高円寺がリタイアしてしまった。
そのせいでうちのクラスの雰囲気はだいぶ悪いものとなっている。
「綾小路くん、Cクラスの偵察に行くわよ」
突然、堀北がそう話しかけてきた。
Cクラスの偵察か……
正直面倒だが、断る理由もない。
それに、数少ないオレの友人である椎名にも会えるかもしれないからな。
「分かった。で、場所はどこなんだ?」
「Cクラスのベースキャンプは浜辺にあるらしいわ」
「そうか。なら今から行こう」
と、いうことでオレたちはCクラスのベースキャンプに向かった。
堀北の言う通り、Cクラスのベースキャンプは浜辺にあった。
「嘘でしょ……。こんなことって、あり得る?」
そう堀北がつぶやくのも無理はないだろう。
Cクラスの光景は想像もしなかったもので、仮設トイレやシャワー室はもちろん。快適に過ごすためや遊ぶためのありとあらゆる用具が揃えられていた。
目に見える範囲をざっと計算してみただけでも150ポイント以上は吐き出していた。
そして、オレは椎名がいないか見渡すも、残念ながらすぐには見つからなかった。
その時、1人の男子生徒がオレたちの方に駆け寄ってきた。
「あの、龍園さんが呼んでます……」
その生徒は、何かに怯えたように声をかけてくる。
「行くわよ、綾小路くん」
「えぇ……。いかにも面倒そうなんだが」
「良いから、行くわよ」
「……はい」
オレたちは龍園という生徒の傍へと近づいた。
「よう。こそこそ嗅ぎ回ってると思ったらお前だったか。俺になんか用か?」
「随分と羽振りが良いわね。相当豪遊してそうだけど」
そう言って堀北と龍園は話し始める。
オレはそれを傍らから見ていた。
「おい、そこのお前、綾小路だろ?」
黙って堀北と龍園の話を聞いていると、オレに会話の矢印が飛んできた。
「そうだが、なんだ?」
「ハッ。一之瀬じゃない女のケツも追いかけてんのかよお前は。追いかけるのは一人だけにしとけよ?」
「いや、そんなつもりは微塵もないが」
「そうかよ。ま、お前も頭はキレるらしいからな。一之瀬と共に潰してやるよ。あいつは潰しがいがある女だ」
「それは怖いな。出来ればやめて欲しい」
「ククッ。とんだ腰抜けだぜ。首洗って待ってろよ」
「いいわ、戻りましょう綾小路くん。これ以上ここに居ても気分が悪くなるだけよ」
「ああ、そうだな」
椎名に会えなかったのは残念だが、またいつか会えるだろう。
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それからオレたちは持て余した時間を有効に使うべく、Aクラスのベースキャンプへ偵察に行くことにした。
神崎に教えられた通り、折れた大木の根元から森の中に入り進んでいく。
程なくして、オレたちはAクラスのベースキャンプ地へと辿り着いた。
「流石はAクラスと言ったところかしら……」
AクラスのベースキャンプはDクラスともCクラスとも違うもので、独特の雰囲気があった。
環境を上手く活用しており、総じてDクラスの上位互換であると言わざるを得なかった。
流石は一之瀬のクラスといったところか。
「あ、綾小路くん!……と、堀北さん」
オレたちが訪れたことに真っ先に気づいたのは、ハンモックを取り付けようと木に紐を結び付けていた一之瀬だった。
「このベースキャンプは凄いな。随分とクラスが上手く機能してるんだな。Dクラスとは大違いだ」
「にゃはは、クラスのみんなのおかげだよ。Dクラスの様子も神崎くんから聞いたよ。川のスポットを押さえたんだって?」
「ああ、だが問題は山積みだ。高円寺もリタイアしてしまったしな」
「そうなんだ……それは大変だね」
「ちょっとあなた、他クラスに情報をべらべら喋ってどういうつもり?」
自クラスの情報を話したオレに、堀北が突っ込んでくる。
「まあ良いだろ。このくらいすぐに出回る情報だ。それに、オレは一之瀬を信頼しているからな」
「私はそうではないのだけれど」
「まあそうだよね。私は堀北さんに信頼されようとは思ってないし」
「……」
「ごめんね、別に堀北さんの事は嫌いじゃないんだよ?」
「そう。Aクラスの情報も得られたし、私は帰らせてもらうわ。綾小路くん、行くわよ」
「いや、オレはもうちょっとここにいようと思う」
「あなたねえ……ここはAクラス、敵のベースキャンプよ?」
「別にいいだろう。知り合いならこっちの方が多いんだ」
「はあ、分かったわ……。むやみに情報は話さないでくれるわよね?」
「もちろんだ」
そして、堀北はAクラスのベースキャンプから去っていった。
「一之瀬、少し2人で話せるか?」
「2人で……うん、分かったよ」
オレたちは人気の無い木陰まで歩いていく。
不思議なものだ。
さっきまで堀北と2人で行動していた時には特に何も感じなかった。
だが、一之瀬と2人きりになった途端、妙に気持ちが落ち着く。
オレはまず情報共有を始めることにした。
「それで、まずはBクラスのリーダーだが……」
「ちょっと待って、もう分かったの?」
「ああ、これは幸運だった。それでリーダーだが、名前が分からないんだよな。葛城という生徒の腰巾着と言えば分かるか?」
「戸塚弥彦くんかな?」
「ああ、そういえばそういう名前だった気もする。恐らく、リーダーは戸塚弥彦だ」
「やっぱりそうなんだ……」
「やっぱり?一之瀬も見当が着いていたのか?」
「まあ、何となくはね。Bクラスでリーダーにするなら戸塚くんかなって思ってたんだ」
それは凄い。
Bクラスの事情をほとんど知らないオレには出来ない予測だ。
「流石は一之瀬だな。で、次はDクラスのリーダーだが……」
「え、教えて貰っても良いの?」
「もちろんだ。どうせオレはAクラスに移籍する身なんだからな」
「堀北さんにはむやみに情報を話さないって約束してたのに……悪い人だね、綾小路くん」
一之瀬はクスクスと笑いながらそう言う。
「ま、それくらい良いだろう。Dクラスのリーダーは堀北だ」
「堀北さん、か。なるほどね」
「もしかして、これも予想通りだったか?」
「いや、そこまでは私でも無理かな」
「そうか。ならこれは有益な情報だったな」
「うん、ありがとう綾小路くん。あ、そういえばなんだけど、DクラスにCクラスの生徒が追い出されて来なかった?」
「ああ、そういえば伊吹という女子生徒が来たな」
「そうなんだ。私のクラスにも金田っていう男の子を連れてきた子がいたんだけど、その子にはリタイアしてもらったよ」
「リタイア、か」
一之瀬のクラスの特色を考えれば保護するのかと思ったが……
「うん。スパイの可能性が高いし、リタイアさせない理由がないしね」
「確かにな。合理的な選択だと思う」
「だよね。……綾小路くん、お腹空かない?良かったらうちのクラスでご飯食べていかない?」
「良いのか?」
「うん、綾小路くんならクラスのみんなも歓迎してくれるよ」
「なら、ありがたく頂くことにしよう」
一之瀬に案内され、オレたちはベースキャンプの中央へと戻っていく。
Aクラスの生徒たちはそれぞれ自分の役割をこなしながら、穏やかに過ごしていた。
Dクラスと比べると、かなり統率が取れている。
一之瀬がクラスの中心にいることも大きいのだろう。
「綾小路くん、ここに座ってちょっと待っててね。すぐ準備するから」
「分かったが、手伝わなくてもいいのか?」
「大丈夫だよ。綾小路くんはお客さんなんだから」
一之瀬はそう言って、他の生徒たちと一緒に食事の準備を始める。
その様子を眺めていると、一之瀬が何人もの生徒から声をかけられていることに気づいた。
「一之瀬さん、これどこに置けば良い?」
「それはここに置いといて大丈夫だよ」
「一之瀬、薪が足りなくなりそうなんだけど」
「じゃあ、柴田くんたちに取りに行ってもらおうか。私、呼んでくるね」
誰かに頼られる度、一之瀬は的確な指示を出している。
これなら一之瀬が慕われるのも納得だ。
オレが座って待っていると、1人の女子生徒に話しかけられた。
「綾小路くん、隣座っていい?」
「白波か。もちろんいいぞ」
白波千尋、一之瀬と仲のいい生徒だ。
「最近、帆波ちゃんとの仲はどうなの……?」
「まあ、良い方だとは思うぞ」
「そうなんだ。喧嘩とかはしないの?」
喧嘩……思えば、一之瀬とは一度もそれに該当する行為をしたことがない。
今度、経験として一度してみるか?
……いや、やめておこう。
怒った一之瀬は怖いからな。
「全くないな」
「へぇ……そうなんだ。はあ……」
白波は何故だかため息をついた。
「どうした?何か悩みでもあるのか?」
「い、いや、なんにもないんだけどね」
「そうか。悩みがあるならいつでも一之瀬に相談するんだぞ」
「いや、そこは自分に相談してくれって言うところじゃない?」
「オレに相談されても解決できる自信が無いからな。その点、一之瀬なら大抵のことなら解決してくれるぞ。ソースはオレだ」
「そ、そうなんだ。……でも、帆波ちゃんには相談できないし」
「そうなのか。まあ、頑張れよ」
「適当だね!」
白波から突っ込みが返ってくるが、オレにはこれくらいしか言うことができない。
その時、後ろからただならぬ気配を感じた。
「綾小路くん?千尋ちゃんと随分楽しそうだね?」
後ろを振り返ると、にこやかな顔でご飯を持つ一之瀬がいた。
だが、目は笑っていない。
「あ、ああ。一之瀬、それ美味しそうだな」
何やらまずそうな雰囲気だったので、オレは話題をご飯に逸らすことにした。
「でしょ?このじゃがいも、クラスの男子たちが見つけてきてくれたんだ。こんなものも自生してるなんて、流石は管理されてる島だよね」
「だな。早速食べよう」
一之瀬はフォークでじゃがいもを刺す。
そしてそれを、オレの口元へと持ってきた。
「はい、綾小路くん。あーん」
いや、ここでするのか。
いつもしている事だが、ここだとAクラスの生徒の視線がさすがに気になるぞ……
白波に至っては何故か凄い目でこちらを見ているし。
一之瀬の手も疲れてくるだろう。
いつまでもこうしているわけにもいかない。
オレは素直に口を開けることにした。
……これは美味い。
塩味だが、シンプルで素材の味が際立っている。
「美味しい。かなりいけるな」
「本当?よかったぁ」
一之瀬は嬉しそうに笑った。
だが、その直後、周囲から妙な視線を感じる。
ふと周りを見渡すと、Aクラスの生徒たちがこちらを見ていた。
誰も何も言わないが、微笑ましいものを見るような、生暖かい視線だけが向けられている。
……これは恥ずかしい。
その後、オレは急いでご飯を食べ終え、Dクラスのベースキャンプへ逃げ帰った。
コンパスで刺されたり諸々のことを綾小路くんは一之瀬さんに言ってるので一之瀬さんから堀北さんへの好感度は低めです。
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