昨日投稿したやつを見た人はその内容は忘れてください(無理やり)
試験五日目。
今日は朝から、軽井沢の下着が盗まれたとのことでクラスは大騒ぎになっていた。
池のカバンに入っていたらしいのだが、平田が気を利かせたことで池が犯人だと言われることはなかった。
しかし、その影響でクラスの空気は最悪だ。
男子と女子の間には大きな溝ができている。
それにしても、思えば三日間も一之瀬と会っていない。
たった三日と言われればそれまでだが、入学してからほぼ毎日一之瀬と会っていたオレからすると、三日間会ってないというのはとても違和感がある。
Aクラスのベースキャンプに行けばいいのだが、そうしょっちゅう行っていてはクラスの連中に疑われてしまうかもしれない。
まあ、実際クラスを売る行為をしてはいるのだが。
それに、あくまで今は試験中だ。
クラスを率いる一之瀬の邪魔になってはいけないからな。
しかし、一之瀬に会いたいという気持ちはあった。
夜。
クラスの連中が寝静まった頃、オレは一人で浜辺を歩いていた。
寝付けなかったのもあるが、心のどこかでは別の目的があったような気もする。
そのときだった。
少し先の砂浜に人影が見えた。
こんな時間に誰かいるのかと、不思議に思いながら近づくとその人物がこちらに気づいて顔を上げた。
そこにあったのは、月明かりに照らされている見慣れた顔だった。
「……綾小路くん?」
「……一之瀬か?」
そう、そこに居たのは一之瀬だった。
「こんな所で会うなんて、すごい偶然だね。こんな時間にどうしたの?」
一之瀬は首を傾げる。
「少し寝付けなくてな」
「そっか。実は私もなんだ」
一之瀬はそう言って、隣の砂浜に視線を向けた。
「よかったら、少しお話ししない?」
「ああ、構わない」
断る理由は一つも無かった。
オレは一之瀬の隣に腰を下ろす。
寄せては返す波の音が、静かな夜の浜辺に響いていた。
この無人島は、夜になれば別世界のように感じられる。
月明かりが海面を照らし、遠くまで続く水平線をぼんやりと浮かび上がらせていた。
「こうして2人で話すの、結構久しぶりだね」
「そうだな」
「……私、ちょっと寂しかったな」
一之瀬は海を眺めながら、ぽつりと呟いた。
「ここ三日間、綾小路くんと会えてなかったでしょ?試験中だから仕方ないって分かってるんだけどね」
「……オレも一之瀬に会いたいと思っていた」
「え、本当に?」
「三日間も会っていなかったからな。当然だ」
「そっか……」
「まあな。そういえば、一之瀬のクラスは順調なのか?」
「うん。でも、クラスのみんなも疲れてきてるし、最初の頃みたいに元気いっぱいって訳じゃないけどね。Dクラスは?」
「一言で言うと、酷いな」
「そ、そうなんだ」
「こんなことがあってな……」
その後もオレたちはたわいもない話をし続けた。
それにしても、一之瀬と二人でいると本当に落ち着く。
……どうしてだろうか。
「……なあ、一之瀬」
「何かな?」
「明日もこの場所で会えないか?」
「うん、良いよ。……実は、私も同じこと言おうと思ってたんだ」
「そうなのか。それは良かった」
「じゃあ、今日はもう遅いし、戻ろうか」
「そうだな」
「じゃあね!綾小路くん。今日は会えてよかった!」
そう言って一之瀬は背を向けて帰ろうとする。
ああ、もう帰ってしまうのか。
「……待ってくれ」
思わず引き止めてしまった。
なぜだかは分からないが、まだ別れたくないと思ってしまった。
明日になればまた会えることは分かっているが、今この瞬間に一之瀬と離れたくないと思った。
「綾小路くん?どうしたの?」
思えば、無人島に来てから、無意識的に一之瀬のことを考えていた。
そして、一之瀬に会いたいと思っていた。
今、一之瀬と離れたくないと思っている。
……ああ、オレは一之瀬のことが好きなんだな、
そう自覚した途端、不思議なくらい気持ちがすっきりした。
なら、もう隠す必要もない。
「一之瀬、オレはお前のことが好きだ」
「え!あ、綾小路くん、今なんて……」
「もう一度言う。オレは一之瀬のことが好きだ」
「そうなんだ……私も……です」
一之瀬は顔を真っ赤にしながら、俯いてしまった。
告白というのは、相手がどんな返事をするのか分からず、心臓の鼓動が速くなるようなものだと思っていた。
だが、いざ自分の気持ちを伝えてみると、不思議なほど落ち着いていた。
まあ、一之瀬はずっとオレに気持ちを伝えてくれていたのだから当然か。
むしろ、オレが自分の気持ちに気づくのが遅すぎたのだろう。
思えば、ずっと前から一之瀬のことが好きだったような気もする。
「……一之瀬」
「は、はいっ!」
「顔を上げてくれないか?」
「……うん」
「一之瀬の気持ちにはずっと答えられなくて悪かったと思っている」
「ぜ、全然いいよ。今が幸せすぎて……」
一之瀬はうっすら涙を浮かべている。
月明かりに照らされて、一之瀬の涙がきらめく。
「そうか。オレも同じ気持ち……だと思う」
「ふふっ。相変わらず綾小路くんは曖昧だね」
「かもな」
一之瀬は息を整える。
「綾小路くん。改めて、私も好きです。私と付き合ってくれませんか?」
「ああ、もちろんだ」
「……よかったぁ」
一之瀬はそう呟くと、安堵したように息を吐いた。
そして、今まで堪えていたものが溢れ出したかのように、顔を綻ばせる。
「えへへ……夢みたい」
「夢じゃないぞ。頬でもつねってやろうか?」
「分かってるけど……だって、ずっと好きだったんだもん」
今までは一之瀬の好意は基本的に受け流してきたが、これからはそうはいかない。
なぜなら、オレたちの関係は変化したのだから。
「ありがとうな。ずっと諦めないでいてくれて」
「うん。不安だったんだよ?私だけばっかり綾小路くんのことが好きなんじゃないかって」
「……そうだったのか。それはすまない。これからはそんな思いはさせないと誓う」
「ふふっ。ありがとう」
一之瀬は満足そうに笑った。
……不思議なものだ。
一之瀬が笑っていると、オレも嬉しい気持ちになる。
一之瀬が不安そうにしていると、安心させてやりたくなる。
一之瀬が涙を浮かべていると、その涙を拭ってやりたくなる。
この気持ちが、好きになるということなのだろう。
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「ねえ、綾小路くん。私たち、恋人になったんだよね?」
「まあ、そういうことになるな」
「じゃあ、わがまま言っても良い?」
「ああ、いくらでも言っていいぞ。今まで一之瀬には何度も助けられたからな」
「じゃあまずは、ぎゅってして?」
「……ああ、分かった」
オレはぎゅっと一之瀬を抱きしめる。
背中に細い腕がそっと回された。
一之瀬の温かな体温が伝わり、幸福感に包まれる。
普段のシトラスのような香りではなく、自然の一之瀬の良い香りが鼻腔をくすぐる。
そういえばオレ、汗臭くないだろうか……
「えへへ……」
胸元から嬉しそうな声が聞こえてくる。
「どうだ?一之瀬」
「すごく幸せ……」
「ああ、オレもだ」
その言葉に嘘はない。
こんな感情はホワイトルームでは一度も味わうことができなかった。
オレにこんな感情を教えてくれるだなんて、一之瀬には感謝しかない。
「一之瀬……またいつか、話したいことがある。聞いてくれるか?」
オレは一之瀬を抱きしめながら問いかける。
「……うん。綾小路くんのことならなんでも聞くよ。それに、私も話さなきゃいけないことがいくつかあるしね」
「そうか。ありがとうな」
「感謝されるようなことじゃないけどね」
そして、それから何を話すでもなくオレたちはお互いの体温を確認し続けた。
「ねえ、綾小路くん。もう一つわがまま言ってもいい?」
「ああ、良いぞ」
「私のこと……名前で呼んで欲しいな」
「ああ、分かった。……帆波」
名前で呼ぶなんて簡単だと思っていたのだが、思ったより気恥しいものだ。
「ありがとう……清隆くん」
そう呼ばれた瞬間、胸の奥が妙にくすぐったくなる。
思わず一之瀬から目を逸らしてしまう。
しかし、呼び方を変えるだけでこうも違うものなのかと驚いた。
「清隆くん、もしかして照れてる?」
「いや、照れてないぞ」
「目、逸らしたし。絶対照れてるよね」
「照れてないぞ」
「嘘は良くないんじゃないかな?清隆くん」
「……すまない」
「ふふっ。やっぱりそうじゃん」
そんなやり取りがおかしくて、つい口角が上がってしまう。
「き、清隆くん、もしかして今笑った?」
「……そうかもな。そんなに珍しいか?」
「滅多に見ないからね。清隆くんが笑うの。嬉しいなあ、そんな顔が見れて」
「まあ、そんなに喜んでくれるならもっと笑うことにするか」
「にゃはは。何それ。じゃあ私も、清隆くんがもっと笑ってくれるように頑張るね」
「ああ、よろしく頼む」
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「……もうだいぶ遅くなってきたし、そろそろ戻るか?」
「うん、そうだね。戻ろっか」
「Aクラスのベースキャンプまで送るぞ」
「……うん。ありがとう」
オレは帆波の手を取った。
帆波は嬉しそうに微笑みながら、指を絡めてオレの手を握り返してくる。
ベースキャンプまではあっという間だった。
「清隆くん。また明日ね」
「ああ、おやすみ。帆波」
「……うん。おやすみ」
帆波は名残惜しそうに手を離す。
……それはオレも同じだが。
オレは一人で帰路に着いた。
まさか人生初の彼女ができるとはな。
これから先の生活が楽しみだ。
やっとくっつきました。