ようこそ一之瀬に愛される教室へ 作:クイヤ
入学2日目
昨日は一之瀬と色々あって初日から中々濃い1日だったな。
今日はどんな日になるだろうかと考えながらオレは身だしなみを整え、部屋を出ようとドアを開ける。
「おはよう!綾小路くん!」
ドアを開けると、そこには一之瀬がいた。
「……おはよう、一之瀬。朝から元気だな。で、なんでオレの部屋の前にいるんだ?」
「朝から綾小路くんの顔が見たくて……。あと、一緒に登校しようと思ってね」
「そうか。まあ、いいぞ。なんでオレの部屋の場所を知ってたんだ?」
「ふふっ。好きな人のことはなんでも知ってるんだよ」
「……そうなのか」
「うん、そうだよ?」
まあ、寮の管理人にでも聞いたのだろう。
そうじゃなかったら流石に怖い。
「じゃあ、行こっか」
一之瀬は腕を絡めてくる。
昨日学校を回るときもそうだったが、一之瀬と共に行動する時はこれが普通なのか?
昨日腕組みは既にしたとはいえ少しドギマギしながら登校する。
「綾小路くん、今日はお弁当作ってきたからね。今日お昼ご飯どこで食べる?」
「そうか。助かる。オレ的にはあまり目立ちたくないから人の少ない所が良いが……」
「え、私とお昼ご飯食べる所見られるの嫌なの……?」
一之瀬は不安げにそう言う。
「決して嫌ではない。が、一之瀬みたいな可愛い女子と食べている所を見つかったら噂になるかもしれないしな」
「にゃ!か、可愛い……もう!綾小路くん!不意打ちはやめてよ!」
一之瀬は顔を赤くしている。
どうやら見た目に反してあまり褒め言葉には慣れていないらしい。
「すまないな」
「まあ、綾小路くんなら目立ちたくないって言うと思ったよ。でも、もう手遅れかもよ?」
一之瀬は周りを見渡す。
オレも周りを見渡してみると、辺りには多くの登校中の生徒がおり、その多数はオレたちを見ている。
その目は男子からの嫉妬の目だったり、女子からの羨望の目だったりする。
確かに、腕を組んで登校しているところを見られる時点で完全に噂になるだろう。
これは盲点だった。
オレが天を仰いでいると、一之瀬が微笑む。
……まあ、別にいいか。
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「おい、綾小路いいいいいいいいい!」
「なんで!あんな美少女と腕を組んで登校してるんだよおおおお!」
教室に入るやいなや、池と山内から怒声のような声が飛んできた。
「おい、とりあえず落ち着け。一之瀬とはあれだ、ほら……うん、あれだあれ」
「あれってなんだよおおおお!付き合ってんのか?付き合ってんのかあ!?」
「いや、付き合っているという事実は無いぞ」
「じゃあなんなんだよ!付き合ってもないのに腕組んで登校したってんのかよ!羨ましいいいい!」
「綾小路!俺より早く彼女作ったら許さねえかんな!」
「お、おう……」
池と山内を振り切り、自分の席につく。
「入学早々元気ね。綾小路くん」
冷ややかな目で堀北が見てくる。
「いや、あれは池と山内が騒いでいただけだろう……」
「そうかしら?原因を作り出した貴方にこそ責任があるような気がするのだけど。入学早々他クラスの人間と色恋沙汰など、軽蔑の対象だわ」
「軽蔑って……流石にそれは酷くないか」
「そう?あなたには妥当よ」
「……そうか」
一之瀬と関わることの代償はここまで重かったのか……
「綾小路くん!お弁当持ってきたよ!」
昼の時間、一之瀬にオレは呼ばれる。
刺すような視線を浴びながらオレは教室から出る。
「それで、どこで食べるんだ?」
「うーん、みんなに紹介したいからBクラスの教室でも良いんだけど……」
「いや、それはちょっと気まずいから出来れば遠慮したいな」
「そっか。じゃあ、屋上で食べよっか!」
「屋上って、行けるのか?」
普通の学校では鍵がかかっているものではないだろうか。
「うん、確認したら空いてたから平気だよ」
「そうなのか。そこなら目立たなそうだしそこにするか」
「はい、あーん」
「あむ」
なんだこれ、周りに人が居ないから良いが、とても恥ずかしいぞ。
「うん、この卵焼きは美味しいな」
一之瀬の弁当は誰が見ても手が込んでいる。
一体朝からどれ程の時間をかけて作ったのだろうか。
「でしょ?朝から頑張って作ったんだ」
「そうなのか。今朝は何時くらいに起きたんだ?」
「うーん、5時くらいかな?」
「……早すぎじゃないか?お弁当を作るのにそこまで時間をかけなくても」
「えぇ、だって綾小路くんに喜んで貰いたかったから……」
「そうか。だが、手が込んだ料理を作ってくれるのはもちろん嬉しいが、オレは一之瀬とご飯を食べるだけでとても嬉しいぞ」
これは本心だ。
「にゃにゃ!そ、そうなんだ……ありがとう」
「感謝するのはオレの方だ。何せ、まだ友達が一之瀬しか居ないからな」
「にゃはは、私的には早く友達以上になりたいんだけどね」
「友達以上、か……」
一之瀬の言葉を反芻する。
昨日から何度も好意を伝えられているせいか、少しずつではあるが慣れてきたような気もする。
もっとも、慣れてしまっていいものなのかは分からないが。
「綾小路くんは、私のことどう思ってる?」
「どう、とは?」
「だから……その。女の子として」
一之瀬はさっきまでの明るい表情とは打って変わり、少し不安そうにこちらを見ている。
こういうとき、どう答えるのが正解なのだろうか。
正直に言えば、一之瀬は魅力的な女子だと思う。
容姿も整っているし、性格も明るい。料理も上手い。
それに、昨日から今日までの短い時間ではあるが、一緒にいて嫌な気分になったことは一度もない。
「魅力的な女子だと思っている」
とにかく、正直に答えることにした。
一之瀬の顔がみるみる赤くなる。
「そ、それって……」
「そのままの意味だ」
「じゃあ、私のこと好き?」
好きという言葉の意味を考える。
恋愛感情というものを、オレはまだよく理解していない。
一之瀬と一緒にいて楽しいのは確かだが、それを好きとは言えるのだろうか。
「まだ分からない」
「……そっか」
一之瀬は一瞬だけ寂しそうな顔をした。
しかし、すぐに笑顔へ戻る。
「でも、嫌いじゃないんだよね?」
「ああ。それは間違いない」
「じゃあ、十分だよ」
「それで十分なのか?」
「うん。だって、綾小路くんとは昨日会ったばっかりだもんね」
一之瀬は弁当箱の卵焼きを箸でつまみながら、穏やかに笑う。
「これから好きになってくれれば私はそれで良いんだよ」
「……随分と気が長いんだな」
「ううん。全然気が長くなんてないよ、私。むしろすっごく焦ってるんだからね?」
「そうなのか?そうは見えないが」
「本当だよ?綾小路くんをこうやって誘うのだって緊張したんだからね?」
「それは初耳だ。緊張しているのはオレだけかと思っていた」
「綾小路くんこそ、緊張することあるんだね」
「おい、それはどういう意味だ」
「にゃはは、いや、全く緊張しているように見えなかったから」
確かに、ホワイトルームでは緊張とは無縁だったな。
一之瀬はオレのことを見てニコニコしている。
「そういう全く緊張するように見えないクールなとこもかっこいいんだよね」
「……一之瀬は本当にオレのことが好きなんだな」
「うん!」
迷いのない返事だった。
「大好きだよ」
「……そうか」
「もうちょっと照れてくれてもいいんだけどなぁ」
「いや、照れてはいるぞ。それに、そう言われても、どう反応すればいいのか分からない」
「じゃあ、これから教えてあげる」
「何をだ?」
「女の子に好きって言われたときの、正しい反応」
「そんなものがあるのか?」
「うん、あるんだよ。綾小路くんは知らないかもだけどね」
一之瀬は少し考えてから、楽しそうに笑った。
「『俺も一之瀬のことが好きだ』って言うの」
「……それは今のオレには難しいな」
「えー、ちょっとだけでも。だめ?」
「言ってもいいが、気持ちが籠ってないと思うぞ?」
「うん、それでも良いよ」
「……オレも一之瀬の事が好きだ」
「え、えへへ。私も大好きだよ」
だいぶ棒読みだったと思うが、それでも一之瀬は満足したらしい。
しばらく二人で弁当を食べ進める。
屋上には心地よい風が吹いていて、校舎の喧騒もここまで来ればほとんど聞こえない。
この時間は、心が落ち着くな。
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昼休みが終わり、教室へ戻る。
さっきまで静かな屋上にいたせいか、教室の騒がしさが少しだけ耳についた。
「ねえ、綾小路くん」
席に着こうとすると、クラスのアイドル──櫛田に話しかけられた。
「えっと……櫛田だったか。なんだ?」
「一之瀬さんとご飯食べてたの?」
「そうだが、一之瀬を知っているのか?」
「もちろん!話したこともあるし、何より可愛くて有名人だもん。そんな一之瀬さんと昨日も一緒にいたし、今日も一緒ってことは……もしかして仲良いの?もしかして同じ中学だったり?」
「まあ、仲は良いと思うが、中学校は違うぞ」
「へぇ、そうなんだ。付き合ってるの?」
「いや、付き合ってはいない」
「じゃあ、綾小路くんは一之瀬さんのことどう思ってるの?」
「……魅力的な女子、だな」
一之瀬に伝えた言葉と同じ言葉を言うことにした。
「ふふっ。そうなんだね」
櫛田はそう言って笑う。
「じゃあ、綾小路くん」
櫛田はそこで言葉を切る。
「私からもう一つだけ聞いてもいい?」
「なんだ?」
「一之瀬さんって、綾小路くんのこと……かなり好きだよね?」
「……そうだな」
否定する理由もない。
昨日から今日までの一之瀬の言動を思い返せば、むしろ分からない方がおかしいだろう。
「やっぱりそうだよね!なんというか、意外だなぁ」
「意外か?」
「こう言ったら失礼だけど、綾小路くんってあんまり女の子と話すタイプじゃなさそうだし」
本当に失礼だな。
「そうだな。一之瀬が初めての女子の友達だ。いや……男子に友達もいなかったから単純に初めての友達だな」
「ど、どう返していいのか分かんないよ……」
櫛田にはどうやら呆れられてしまったようだ。
「じゃあ、私とも友達になろ?」
「オレと?」
「うん。だって同じクラスなんだし」
「それは構わないが……」
「やった!じゃあ今日から友達ね」
「随分と簡単に決まるんだな」
「友達なんてそんなものだよ?綾小路くんは知らないかもだけど」
櫛田はそう言って席に帰って行った。
櫛田と友達になった瞬間から背筋に冷たいものを感じるが、これは気のせいだろう。多分。